週刊新潮(新潮社)17年7月13日号

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 "安倍官邸御用達"ジャーナリスト・山口敬之氏の「準強姦」と官邸によるもみ消し疑惑について、この問題を牽引してきた「週刊新潮」(新潮社)が、今週発売号で見逃せない新情報を伝えている。それは、"安倍官邸の謀略機関"こと内閣情報調査室(内調)が、被害者女性・詩織さんのバッシング情報を垂れ流していたという疑惑だ。

 念のため振り返っておくと、2015年4月、山口氏はアルコールで意識を失った詩織さんをホテルに連れ込み、避妊具さえつけずレイプに及んだ。詩織さんは警察に被害を訴え、その後、捜査を進めた所轄は逮捕状をとり、成田空港で山口氏を逮捕すべく待ち構えていた。ところが、突然そこに上層部から「山口逮捕取りやめ」の連絡が。「週刊新潮」の直撃に対しこの判断を出したのは警視庁の中村格氏(当時・刑事部長)であることを本人自ら認めている。

 中村氏は、菅義偉官房長官の片腕と言われるエリート警察官僚で、今度の人事で警察庁長官へのルートでもある警視庁総括審議官に出世するのではないかといわれている人物だが、それはともかく、このあまりに不自然な逮捕取りやめと不起訴処分には、官邸の関与が疑われていた。

 さらに「週刊新潮」の続報では、山口氏がこのレイプ報道の対応を内調のトップで"官邸のアインヒマン"との異名を持つ北村滋内閣情報官に相談していたことまで明らかになった。山口氏は「週刊新潮」の取材メールに対して誤って、こんな文書を送信しているのだ。

〈北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。
〇〇の件です。取り急ぎ転送します。
 山口敬之〉(〇〇は詩織さんの苗字が記されていた)

 そして、今週の「週刊新潮」の記事によると、この北村氏が率いる内調が、詩織さんの背後に、民進党人脈がいるとのバッシング情報を流していたというのだ。

 実は、詩織さんが検察審査会に不服申し立てをして、司法記者クラブで記者会見を行った直後から、ネット上では「詩織さんは民進党の回し者」なる風評が飛び交っていた。記者会見が行われたのは5月29日夕方だが、本サイトで確認できたところでは、まず21時40分には2ちゃんねるの「ニュース速報+板」に詩織さんと詩織さんの弁護士と民進党の山尾志桜里議員の関係をこじつけ、詩織さんを「民進党関係者」だとする情報が投下、22時23分には悪質まとめサイト「保守速報」にまとめられ、ツイッターなどにも拡散された。さらに半日もたたない30日午前3時25分には、2ちゃんねるの「ニュース速報板」に、その詩織さんを「民進党関係者」だとする情報をチャート化した図の画像がアップされていた。そして、このチャート図もすぐさまツイッターに伝播、複数ネトウヨ系まとめサイトが拡散に関与していた。

 チャート図では、次期衆院選に民進党から立候補する予定の人物が、民進党の山尾志桜里議員の夫の同級生であるとしたうえで、この人物が弁護士事務所の代表を務めており、その部下が詩織さんの弁護士の一人だとしている。

 一見してわかるとおり、完全なこじつけであり、だからなに?としか言いようがないシロモノだ。「週刊新潮」も書いているが、実際には、詩織さんはこの弁護人をたまたま紹介されただけにすぎないし、詩織さんから相談を受けていた清水潔記者が先日、ラジオで証言していたように、詩織さんは2年前の事件直後から山口氏を告発していた。

 ようは、このチャート図を作成した人物は、詩織さんと民進党の「関係」をこじつけて、あたかも裏で民進党が手を引いているよう印象操作をしようとしたのだろう。

 ところが「週刊新潮」によれば、実はこの低レベルな"謀略チャート図"は内調が流したものらしいのだ。記事では〈本誌が山口氏の問題を取り上げ、それから詩織さんが記者会見をする5月29日より少し前のこと。政治部のある記者は、知り合いの内調職員から右下の図を受け取った〉としてチャート図を紹介している。正確には、このチャート図自体は詩織さんの会見写真が入っているため、会見後に作成されたものと考えられるのだが、内調が"こじつけの関係"を記した類似のペーパーを政治部記者に渡していたのはたしかだ。

 というのも、本サイトのもとにも会見前と会見後に「内調が詩織さんに対するカウンター情報をふれまわっている」という情報が届いていたからだ。内調は事前に関係を解説した資料を配布し、会見後、さらにそれを写真入りのチャート図に更新して配布したのかもしれない。

 しかし、だとしたら、気になるのが、同種の情報が前述したように、詩織さんの会見のわずか数時間後、29日の21時台に2ちゃんねるに投稿されていたことだ。この早さを考えると、内調が直接、投下した可能性も考えられるのではないか。マスコミにリークするとともに、タイミングを計ってネトウヨがたむろする2ちゃんねるにも投稿した──。

 たしかに、内調が官邸の意を受け、新聞、週刊誌、テレビなどのマスコミにしばしば安倍政権の政敵のスキャンダルを仕掛けているのは有名な話だ。たとえば、不正献金問題で辞任した西川公也農水相(当時)の疑惑隠し、保育園対策の不備を追及した民進党・山尾志桜里議員の「ガソリン代計上問題」、翁長雄志沖縄県知事に対する「反日媚中バッシング」、SEALDsをはじめとする安保反対デモへの怪情報の数々、さらに蓮舫民進党代表のいわゆる「二重国籍問題」などなど、これらの大元はすべて、北村氏の指示で内調や公安に嗅ぎまわさせて、情報を御用メディアにリークしたことがわかっている。

 しかし、その内調にしても、ネットに直接、投下していたという情報はこれまで一度も出てきていない。たしかに、第二次安倍政権が発足してしばらくしてから、とりわけ、政権スキャンダルの直後には、かならずと言っていいほど民進党のスキャンダルと称す「情報」がネットで飛び交うようになっていた。しかし、こうした情報はデマであることがほとんど。そのデキの悪さから、安倍応援団のネトウヨやネトサポ(自民党ネットサポーターズクラブ)が自分でどこかから見つけて勝手に拡散していたものだと思われていた。

 もし、今回の2ちゃんねるへの投稿が内調の仕込みだったとすれば、内調はネットでも謀略を散々仕掛けていたということになる。国家や国民の安全を守るための情報収集・分析が任務の機関が安倍政権の謀略機関になっていることは当メディアでも散々批判していたが、まさかここまで下劣な謀略行為をしているとは......。

 いずれにしても、今回の「週刊新潮」報道は、山口氏によるレイプ事件もみ消しに官邸が関与している可能性をさらに濃厚にしたといえるだろう。山口氏が安倍首相の側近中の側近である北村情報官に事後対応を相談したことにくわえ、チャート図のようなカウンター情報を流したということは、まさに組織ぐるみで山口氏を擁護しようとしたとしか思えないからだ。

 山口氏は依然として雲隠れを続けているが、公の場で説明すべきは彼だけではない。逮捕のもみ消しだけでなく、内調が詩織さんのバッシングまで扇動した疑惑が浮上していることについて、官邸がダンマリでは国民が許さないだろう。国家権力の関与によって、逮捕されるべき人が逮捕されないという異常な自体が起こっているのならば、もはやこの国は法治国家ではなくなる。決して闇に葬らせてはいけない。
(田部祥太)