『薄暮』でいろんなファンから「作りたいように作ってください!」と応援いただき、それはもちろんありがたいのだが、ひとつ思い出したことがある。

20年前、師匠に弟子入りしたての頃である。師匠から、
「君はどんなアニメを作りたいの?」
と訊かれたので、僕は、
「特にありません」
と答えた。

さすがの師匠も、目を白黒させていた。僕はこう続けた。
「やりたい作品はないけれど、やるべき作品はあるはずです。それをその都度探していきます」
これでも師匠には通じなかったらしく、おいふざけんな、なめとんか!的な問答を繰り返し、結局人間ドラマ、みたいな、どうでもいいところに落ち着いたと記憶する。


あの頃に比べると、今の方が「やりたい」ことが増えたような気がする。可愛い女の子をエロく描きたい!とかね。
でもやっぱり、今も「やるべき」ことを優先させることに変わりはない。

「やるべき」こととは、「今の世に出す必要があるもの」ということだ。
だから僕は現実の社会、アニメ業界を注視し、ものを言うことを忘れないし、やめない。
そこから「やるべき」ことが見つかるのだ。

「東北三部作」などは、その最たる例だ。

現実の中に空想を見出す、それが 僕のやり方だ。
だから流行なんて知らん、現実逃避なんて知らん。
でも欲望と思いつきだけで好き勝手やってる訳ではない。「今必要なこと」を探し出せば、必ず世に響く。
そう思ってやっている。

ていうか、偉大な先輩達は皆そうして来たんだがなぁ。