原田隆之(筑波大教授)
「小児性犯罪を減らす、たった一つの方法」。千葉県松戸市の女児殺害事件を踏まえ、フェイスブックで発信されたこの提案が議論を呼んでいる。提案したのは、子育て支援などに取り組むNPO法人「フローレンス」代表理事で、全国小規模保育協議会理事長を務める駒崎弘樹氏だ。一つの方法とは「子どもに関わる教師や保育士の採用時、またPTA等のボランティア参加時において、性犯罪歴をチェックできる仕組み」をつくることだという。
これに対し、子供を持つある父親が駒崎氏の提案に懐疑的なコメントを寄せた。その理由として、教育関係者による性虐待は全体の1%もないこと(大半は父親によるものである)、教育関係者への不要な疑念を増大させるだけであること、現状でも禁錮刑以上に処せられた者は教職に就けないこと、などを挙げている。私もこの意見に概(おおむ)ね賛同している。
両者とも子供を残虐な犯罪から守りたいという熱意による意見であり、その目的では一致しているが、対策の有効性に関しては見解が分かれている。また、類似の事件が起きるたびに、怒りや不安からヒステリックで過剰な反応を求める声が起きることはこれまでも度々経験してきたことだ。
このように性犯罪をめぐっては、われわれはとかく感情的、過剰防衛的になりやすく、そのせいで多くの事実とは異なる見解がまかり通っているのも事実だ。その例として、「性犯罪者は再犯率が高い」「性犯罪が増加している」という指摘は、事件が起きるたびにメディアでも繰り返される論調で、これはどちらも事実に反している。
犯罪白書によれば、性犯罪者の同種事件の再犯率は約5%であり、これは窃盗や薬物事犯など他の罪種と比べると「相当に低い」と法務省は述べている。また、刑務所の統計を見ると、刑務所収容人口のなかで、性犯罪者が占める割合は何年もの間一貫して約3%であり、増加しているという事実はない。
もちろん、どれだけ数が少なく、再犯率が低くても被害者や社会に与える影響は計り知れないほど重大で、性犯罪対策は重要な社会的課題でることは間違いない。しかし、だからこそ過度に感情的になったり不安を煽(あお)ったりすることは慎むべきで、どのような対策を講じるべきか冷静に議論すべきであろう。