2017年7月14日05時00分
広告大手・電通の違法残業が公開の法廷で審理されることになった。会社が罪を認めて罰金を支払う略式手続きによって決着させるのは「不相当」だと、東京簡裁が判断した。
異例ではあるが、事件がもつ深刻さや社会への広がりを考えれば、適切な措置といえよう。この先、検察当局による正式な起訴を経て、簡裁の別の裁判官のもとで公判が開かれる。
労使で決めた時間外労働の上限を超えて、従業員4人に月最大19時間の残業をさせた――。それが直接の容疑で、法人としての電通が被告となる。だが摘発のきっかけになった一昨年12月の新入社員の自殺をはじめ、同社の労働実態をめぐっては多くの問題が指摘されてきた。
社会が直面している大きな課題である「働き方改革」のゆくえや、ほかの企業の労務管理、経営者の意識にも大きな影響が及ぶのが必至の裁判だ。だからこそ、簡裁は公の場での審理を選んだといえよう。
その認識に立ったうえで、提出する証拠の選定、冒頭陳述に盛りこむ内容、関係者から聞き取った調書の要旨の紹介や法廷での尋問のあり方などを、裁判所、検察、弁護それぞれの立場で検討してもらいたい。
電通では、91年にも入社2年目の若手社員が働きすぎが原因でみずから命を絶ち、会社側の責任を認める最高裁判決が言い渡されている。国が過労死や過労自殺対策を見直すきっかけになった悲劇だった。
当時の教訓はなぜ生かされなかったのか。企業風土の改革を阻んだものは何か。電通だけの問題に終わらせずに、各企業が足元を見つめ直す。そんな公判になることを期待したい。
今回の事件を機に、長年の懸案だった残業時間の規制について「原則として月45時間まで」「繁忙期など特別の場合の上限は月100時間未満」などとする政労使の案が、この春まとまった。秋の臨時国会に関連法の改正案が提出される見通しだ。
だが「100時間」は、労災認定の目安とされる「過労死ライン」ぎりぎりの数字だ。過労死で家族を失った人たちなどからは批判が出ている。
上限いっぱいまで働かせることにお墨付きを与える法律にしてはならず、残業をできる限り減らす努力が求められる。
それをどうやって担保するのか。国会は政労使合意を所与のものとせず、労働者の健康を第一に議論を深める必要がある。
長時間労働の是正、過労死・過労自殺の防止に向けた取り組みは、これからが正念場だ。
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