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【社説】

電通事件裁判へ 公開の法廷で真相を

 労働基準法違反罪に問われた法人の広告大手電通を公開の法廷で審理する−。東京簡裁の判断を支持する。自殺した新入社員高橋まつりさんの電通事件。違法残業の真相解明の法廷にしたい。

 高橋さん(当時二十四歳)が東京都内の社宅から飛び降り自殺したのは二〇一五年十二月だった。翌一六年九月に三田労働基準監督署から労災認定を受けた。うつ病を発症する一カ月前の残業時間は百五時間にものぼっていたと同監督署は認定している。

 検察当局は高橋さんの上司らについては、個人に責任を負わせるほどの悪質性はないとして起訴猶予とし、法人のみを略式起訴した。違法残業を防ぐ体制に不備があったとしたためだ。

 一般的に企業が略式起訴されると、簡裁が書面で審理し、罰金刑を科す。だが、簡裁は検察当局の処分を「不相当」と判断し、正式な裁判を開くことにした。

 理由は明らかにしていないが、電通事件は典型的なホワイトカラーの職場で、労働時間の把握や上司の指示、違法性の認識などの認定も難しいとされている。

 たとえば、検察が電通の略式起訴を発表した際、「上司が違法残業と知りつつ働かせたのは四人であり、時間が一カ月で最大十九時間あまりだった」としている。これは高橋さんの自殺前の違法残業であり、百五時間との数字の実態はあまりに隔たりがある。

 公開の法廷で審理される。この意味は大きい。書面だけの審理で済まされる場合と違って、裁判になれば、検察が処分を下した証拠が明らかにされる。被告人として電通の代表者も出廷せねばならず、被告人質問がなされる。被告が法人としての電通であるから、社長が出廷すると考えられる。

 そこで労務管理がどうなされていたかなどについても問われるであろう。高橋さんの違法残業の実態がどうであったか。それら一つ一つの追及が高橋さんの死の真相に迫るものになることを期待する。これこそ裁判の力であろう。

 検察の姿勢には疑問を覚える。労働問題を軽く見すぎている。これほど社会問題化した事件を略式起訴で済ましていいのか。今は「かとく」の時代だ。「過重労働撲滅特別対策班」の略称名で、東京と大阪の両労働局にある。

 違法残業では、電通事件以外に五件が事件化し、二件について簡裁が「略式不相当」だった。労働者の命を守る時代でありたい。

 

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