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「娘は生き返らず喜びなどない」 住田死刑囚刑執行で被害女性の父

住田死刑囚の刑執行を受け、心境を話す加藤裕司さん=13日、岡山市内

 「殺された子が生き返るわけもなく喜びなどない。加害者から守ってやれなかったことが悔やまれる」。2011年に岡山市で元同僚の加藤みささん=当時(27)=を殺害した住田紘一死刑囚(34)の刑が執行された13日、みささんの父裕司さん(64)=岡山市東区=は同市内で会見した。「1日たりとも最愛の娘を思い出さない日はありません」と、かみ締めるように心情を吐露した。

 報道関係者から死刑執行の一報を受けたのは、この日午前10時ごろだった。その後、自宅近くにあるみささんの墓前でそっと手を合わせ「やっと死刑になったよ。父さんは頑張ったよ」と語り掛けたという。

 岡山地裁で死刑判決が確定した13年3月から4年余り。日課にしている墓参りの最中に涙がとめどなく流れることがある。「今でもみさは自分が殺害されたことに気付いていないはず。娘の無念を思い知らせ、罪を償わせてやりたい」との気持ちはずっと消えなかった。

 住田死刑囚は死刑判決確定後、弁護人を通じて「みささんに対して思いをはせ、自分にできる供養をしていきたい」と遺族側に気持ちを伝えていたが、「花の一輪も線香の一本も届いたことはない。最後まで反省していなかったのだと思う」と裕司さん。手紙を送ったり、面会を求めたりもしたが、返事はなかった。

 被害者が1人で初犯の被告の死刑が確定したのは裁判員裁判では全国初のケース。弁明できない娘のために意見陳述するなど、一貫して極刑を望む姿勢を示してきた。「同様の事件で無期懲役の刑となることで、多くの家族が苦しめられている」。そうした思いにも報いることができたと考えている。

 事件の後、同じ境遇にある人たちを支えるため講演活動などに力を入れている。「彼(住田死刑囚)にエネルギーを費やすよりは、残された家族や他の犯罪被害者のために使いたい。娘は復讐(ふくしゅう)など望んでいないとも思うようになった。支援活動を続け、娘の分まで生きていく」と語った。

岡山地裁の裁判員裁判で初

 住田紘一死刑囚は一審判決で刑が確定しており、岡山地裁の裁判員裁判では初の死刑執行となった。

 「死刑が全てを解決するわけではないが、執行までに住田死刑囚の内省が深まったのであれば、裁判員として関わった意味があったと思う」

 2013年の住田死刑囚の裁判で裁判員を務めた40代男性は冷静に結果を受け止める。公判では当初、犯行を正当化していたが、途中から遺族に謝罪するなど発言や態度を変化させた。一審判決後の控訴を自ら取り下げたのも「法廷でのやりとりで反省の気持ちが生まれたのでは」と推測する。

 上級審の審判を経なかった今回のケースについて、岡山大法学部の原田和往教授(刑事訴訟法)は「裁判員を務める市民にとって、改めて死刑制度を考える契機になるのではないか」とする。

 日弁連の「死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部」の中村有作事務局長代行(岡山弁護士会)は「確定死刑囚の中から、なぜ住田死刑囚が選ばれたのか明らかになっていない。もっと情報が開示されなければ、死刑に関する議論は深まらない」と、執行の過程に疑問を呈した。
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