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それが俺の英雄願望(ヒーロー・デザイア) 作者:

『円環蛇』

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入学 3

クラスメイトどころかその数倍の人数でも入れそうなだだっ広い食堂で昼食を終えた蓮太郎達は、レミアの指示通り午後一時、五分前になると校舎前のグラウンドに集合していた。

「しかし、グラウンドで何をするんだろうな」
「あれじゃないッスか?入学早々の行事って言えば“アレ”が妥当ッスね」

蓮太郎達“男子”にとってお気に入りの女子を観察できるあの行事だ。

(今時、体操服で女の子のおっぱいの大きさとか見分けようとする変態なんているの……って居たよ。目の前に居たよ……)
(おいこら、俺は真の老若男女平等主義だ。胸の大きさとかだけで優劣なんて決めるつもりは毛頭ない)
(その割にはひかりだっけ?歳上の女の子を見ながら鼻を伸ばしてたくせに)
(ちょっといい加減黙らんかい。動く“脂肪”に目がいっただけだ)

「いやいや、さすがに体操服に着替えてないから制服だぜ?俺らはまだ良いけど、女子はスカートだ。パンティー拝みまくるつもりか?」
「それが良いんじゃないっすか!!!!!」
「は、ははは……スケベだな」
「心外ッスよ!?て言うか、蓮太郎も絶対同じことを考えたからスカート発言したんじゃないんスか!?俺、一度もスカートなんて言ってないッスよ!?」
「てめぇ!ハメやがったな!」

蓮太郎の予想通り意気投合した賢吾と学生らしい会話をしつつ、レミアの到着を待つ。

「ところでさー、賢吾」
「ん?」
「俺としてはその喋り方が『なんッスか?』って感じなんだけど……なに?賢吾の地元ではそんな喋り方が流行ってたの?」

舎弟口調とでも言うべきか、妙な話し方をする。今時の学生はやらないような古臭い舎弟口調だったが。
賢吾は蓮太郎の質問に、困ったように笑う。

「いやー、幼稚園時代からッスからねぇ……親にもそういう風に常に敬語で話すようにしろって言われてるッスよ」
「……それ、間違っても敬語じゃないからな?時と場合によっては逆に不敬に当たるぞ」
「うぇっ!?マジッスか!?」

蓮太郎の突っ込みに、心底驚いたと言わんばかりに目を見開く賢吾。体育会系的には敬語なのだろうかと推測を立てるが、蓮太郎の記憶では日頃からそんな喋り方をしていた体育会系の知り合いがいないので、確信を持てない。まぁ、こんな話し方をする奴なんて早々いないので判別には便利だが。

「まぁ、時と場合を弁えてれば良いんじゃね?俺だって敬語はあまり慣れてないし」
「そうッスよねぇ……ぶっちゃけ今更この口調を変えるのも、面倒ッスから」
「本当にぶっちゃけやがったな……」

そう言って笑う賢吾に対して笑い返しつつ、蓮太郎はそれとなく周囲の様子を窺った。
蓮太郎達の周りでは、昼食の時間にそれぞれ気の合う友人を見つけたのか、蓮太郎も賢吾のように談笑に興じている者の姿がちらほらと見える。だが、そういう者とは反対に、栞里や萌美などは一人で立っているだけだった。
栞里は周囲との関わりを断つように、どこから取り出したのかイヤホンを耳につけて地面に座りながら目を瞑っている。その雰囲気は様になっており、数人の女子が気圧されて話しかけるのに失敗していた。
萌美は周囲の人間に話しかけようとしているが、やはりオドオドとしているのが原因なのか、上手くいっていない。
どうせその内に話すことになるだろうし折角だから話しかけてみようかと蓮太郎は思ったが、それよりも早く、レミアがグラウンドに姿を見せた。
レミアは集まっている蓮太郎達を見ると、僅かに表情を変える。

「総員整列!」

そして、次の瞬間には怒号に近い声が上がった。空気を震わせるようにグラウンド中に鳴り響く声を聞いた蓮太郎達は、喋っていた口を閉ざして慌てて2列横隊で整列する。レミアはそんな蓮太郎達の様子を見て満足そうに頷くと、左手首に付けている腕時計を見て時間が一時になっていることを確認すると口を開く。

「では、これから午後の“訓練”を行う。もっとも、訓練校と言っても新入生向けのオリエンテーションのようなものだ。入学したばかりでいきなり走り込みなどとは言わない。肩の力を抜いて気楽にしていろ」

ニヤリと笑うレミア。それを見た蓮太郎は、気楽にできる雰囲気ではないのだがと心中でボヤきながら嘆息する。

(僕の直感じゃこの後に蓮太郎に不幸が訪れるね)
(いや、それ後へのフラグにしかならないからな!?)

「まず、諸君らには『ボーダー』がどんな“生き物”なのかを理解するところから始めてもらう。一般人との違いはこれだけでも分かる筈だ。……そうだな、椿、ちょっと前に出ろ。異論は認めん」
「え?俺ですか?……って、インフィのフラグがもろに当たったじゃんか」

自分とインフィの脳内での会話が聞こえたのかと少しばかり驚く。そんな蓮太郎に、レミアは僅かに片眉を動かした。

「一回目だからとやかくうるさくは言わんが、そこは『はい、教官』か『イエスマム』だ。言っただろう?異論は認めん、とな。訓練校ならまだ尻が青いような子供と言う事で大目に見てやれるが、任務の際や卒業後に部隊に配属された時に同じことをすれば問答無用で“指導”が入るぞ?」
「はい、教官!」

“指導”とやらの内容がどんなものかわからないが、決して楽しいものではないだろう。もはや、昨日のレミアの表情など見る影もない。足先まで凍りつくようなレミアの“忠告”に蓮太郎は出来る限り大声で返事をすると、レミアは満足そうに頷く。

「元気があって大変よろしい。では……そうだな、そこでは少し場所が悪い。そこへ立て」
「???……はい、教官」

他の生徒から十m程度離れた場所を指差され、それを不思議に思いながらも、レミアに背を向ける形で駆け足で移動する。距離はレミアの位置から7~8mほどの距離だった。移動していた時には蓮太郎は気付かなかったがレミアの方を振り向くと……

「―――え?」

何故か、黒い銃口が蓮太郎の眉間に向けられていた。

(……君は僕に黙ってどんな悪事を働いたんだい?クラスメイトの前で公開処刑とか流石に僕でも笑えないよ?)
(え?モデルガン?つーか、なんで銃口がこっちを向いてるんだ!?撃つのか!?撃つんですか!?公開処刑で)

突然、パァン、という乾いた音で、蓮太郎の思考が遮られる。そして音が届くのとほぼ同時に、蓮太郎は額に衝撃を感じて真後ろへと倒れた。

「きゃああああああああああっ!?」

蓮太郎とレミアの2人を見守っていた生徒―――特に女子生徒からは悲鳴が上がる。普通に生きていけば一生見る事は無い武器が発砲されたのだ。それも、今日新しくクラスメイトになった男子生徒へ、である。
狙いは正確に、額の中心だ。片手で拳銃を発砲したにも関わらず、微塵のズレもなく蓮太郎の額を撃ち抜いた。

「いでぇぇぇぇぇ!!!!!」

額を撃たれた蓮太郎は、思わず両手で額を押さえながら、陸に打ち上げられた魚のような動きで地面を転げ回る。それを見て、賢吾が慌てたように駆け寄った。

「れ、蓮太郎!!!大丈夫ッスか!?」
「け、賢治か……俺の未来の嫁に伝えてくれ……『アイルビーバック』ってな」
「サラッと名前を改名しないでほしいッスよ!?蓮太郎の嫁って誰ッスか!?初見の人に伝えにいくとか、荷が重いッスよ!?てか何故にアイルビーバック?」
「で、ではさらばじゃ………」
「寸劇は良いから立ち上がって土を落とせ。入学初日から服を汚すつもりか?」

額を押さえて息絶えようとしていた蓮太郎に、レミアからそんな冷たい声がかけられる。

「あ、はい」

言われた通り立ち上がり、服についた土を手で払い―――そこで我に返った蓮太郎はレミアの胸元を掴みかかる。初日から、上官の胸倉を掴むのは気が引けるが流石にこれは後には引けない。

「なんでいきなり撃たれにゃいかんのですか!?あやうくチビるかと思いましたよ!……やっべ、マジでチビってないよな……インフィ大丈夫か?」
「リンクしてる時は膀胱を破裂させてでもチビらせないよ。僕の名誉毀損は重大だよ」
「………サラッと守護者が出てきたな。どんだけお前の守護者は自由主義(フリーダム)なんだ」

衝撃的過ぎて漏らしていないかと本気で心配した蓮太郎だが、蓮太郎の腹部から顔だけ出したインフィと2人で漏らしてないかチェックを始める。対してレミアは、撃たれたことよりもチビってないかの方が優先順位が高い蓮太郎達を見て驚いたような顔をする。

「椿は本当に元気が良いな。この突然の発砲イベントは新入生のレクリエーションの通例行事なんだが、撃たれた直後でそんなに元気の良い“宿主”と“守護者”は初めて見たぞ。二階堂も椿が撃たれたのに、よく動けたな。無意識の内だったとしても賞賛に値するレベルだ」
「謝罪は無いんですね。分かりましたよ、教官」
「うたた寝してたら蓮太郎を“通して”僕にまで衝撃が来て驚いたよ」
「褒めてくれてありがとうございますッスよ、教官」
「まぁ、元の位置に戻れ。あと、今は守護者は宿主の体内に入っておれ」
そう言いつつ、レミアは手に持っていたノートに何事かを書き込む。インフィは唇を尖らせながら蓮太郎の体内に戻ると、蓮太郎と賢吾は元の位置に戻る。

「さて、諸君らも見た通りだ。口で言うより見た方が早い。百聞は一見にしかずというやつだな。我々『ボーダー』はこの通り―――」

喋りながら、レミアは蓮太郎の額に命中した弾丸を拾い上げると先端がひしゃげたその弾丸を生徒たちへと見せる。

「拳銃の“通常弾”では皮膚に傷一つもつかん。多少の衝撃ぐらいはあるが、それも一週間も経って『ボーダー』の身体に慣れれば僅かだ。まあ、それはあくまで諸君らに限った話であって、熟練の『ボーダー』になると……」

レミアは自身のこめかみに銃口を当てて発砲した―――が、レミアは微動だにしない。

「このように、ある程度の熟練の『ボーダー』ならば衝撃すら感じない。守護者の潜在能力なども影響してくるが格の高い守護者ならば、そうだな……さすがに対戦車用のライフルなどを持ち出されると、当たった場所によっては多少の衝撃はあるが、至近距離で拳銃をこのように撃たれたとしても痛くない」

そこまで言うと、レミアは蓮太郎へと視線を向ける。

「どうだ椿。お前から見て撃たれた感想は?」
「ビックリしましたよ……でも、衝撃はあったけど痛くはなかったで すね。避けようとして背中を仰け反って倒れましたけど」
「そうか。私も昔はそんなもんだったから気にしなくていい。むしろ、避けようとするのには“常人”の証だ。大切にするべきだ」
「は、はぁ……」

蓮太郎の言葉を聞いて、レミアは何度も頷く。

「椿の言った通り、『ボーダー』ならば弾丸程度は問題ではない。諸君でも、衝撃は感じてももう守護者との“契約”を済ましたその身体なら痛みは感じないだろう。そして……折角だ、二階堂。前に出ろ」
「えっ!?こ、今度は俺ッスか!?」
「『はい、教官』だ。殴り飛ばすぞ」
「は、はい、教官!」
「……まあ、いい。とりあえず前に出ろ。そして全力で“踏み込める”くらい足を開いて直立しろ」

レミアにそう言われ、賢吾は前に出て足を肩幅より少し広めに開く。すると、次の瞬間にはどこからか取り出した巨大槌かレミアの手にあった。

「うぉっ!?」

賢吾はこの先に自分に降りかかるであろう不幸を察して顔を引きつらせる。

「あの、教官……なんか、その土木工事でコンクリートの壁を破壊する時かアニメの武器にしか使えなさそうな物騒なものが出てきたんッスけど……」
「蓮太郎にやった拳銃より、こちらの方が見た目のインパクトがあるだろう?大丈夫だ。当てる部分には“砂”を付けて直接は当てないようにする。だから、動くなよ」
「そんな問題じゃないッスよ!?てか、砂を付けるとかどんな嫌がらせッスか!?あ、やめ、ちょっ♂いや、そんな振りかぶらないで、アッーーーー♂♂♂!!!」

レミアの言いつけを守らずに、逃げ去ろうとレミアから背を向けた賢吾の臀部へ大槌が叩きつけられる。それを見た生徒達から再度先程とは別の意味で悲鳴が上がり―――蓮太郎はすぐさま賢吾へと駆け寄った。

「賢吾!大丈夫か!?」
「へ、へへ……やられちまったッス……でも、道半ばに閉ざされた俺の夢は蓮太郎……お前が継いでくれ……ッスよ」
「馬鹿野郎!それは漫画とかでも中盤か終盤ぐらいの盛り上がってる所で主人公達に悲劇が襲った時に悲しげに言うべき台詞だろうが!?間違っても尻を叩かれてキメ顔で言う台詞じゃねぇよ!?」
「ぬぅ……台詞のチョイスをミスったッスね……次は頑張るッス」

蓮太郎と賢吾がそんなやり取りを終えると、賢吾がゆっくりと立ち上がる。そして槌で殴られた臀部をさすり、不思議そうな表情で口を開いた。

「本当に衝撃しか感じないんスね……正直、尻が『ぐちゃっ☆』と仏さんになるかと思ったんッスけど……」

そうやって二人が列に戻ると、レミアが呆れたような視線を2人に向ける。

「お前ら、本当に元気が良いな。ちょっと常識(テンプレ)を飛ばして、自衛隊の軍事演習の的になってみるか?」
「や、それはちょっと……でも衝撃しか感じないんだったら……」
「まぁ、吹っ飛ぶだけッスもんね……」
「『ボーダー』になりたてのやつなら、軽く脳震盪や出血ぐらいはするかもしれんが」
「「やっぱり遠慮します!(するッスよ!)」」
「そうか……」

即座に断る2人に、若干残念そうなレミア。『右腕が吹き飛ぶのが関の山だな……』と呟いているところが、2人には余計に恐ろしく感じた。
レミアは一度咳払いをすると、生徒達を見回す。

「それでは、諸君らも二人のように実際に体験してもらう。まずは十人ずつに分かれろ」

そう言ってレミアは蓮太郎も賢吾を除き、生徒を均等に半分ずつに分けそれを見た蓮太郎は思わず挙手した。

「教官!俺と賢吾はもう良いですよね?てか、まだやるとなると撃たれ損って言うか殴られ損って言うか……」

実際に蓮太郎は撃たれ、賢吾は殴られたのだ。もう終わりですよねと尋ねると、レミアは鼠を追い詰める猫のように笑う。

「お前らは元気が良すぎるから、私が直々に拙いながらも精一杯丹精込めて“指導”をしてやろう。さあ、喜べ」

その死刑宣告に、蓮太郎達は顔を青ざめさせるのだった。
処女作です!
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総合評価1000pt超えれました!ありがとうございます!
そして、この作品がしっかりと軌道に乗り次第、後書きにミニコーナーを作る予定です!
案がある方はメッセージでも感想にでも書いてくれると嬉しいです!(うっかり、その中から抽選で1名様のユーザ名からキャラ名を作りたいと思います!)
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