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【社会】

電通違法残業は法廷で審理 東京簡裁、略式起訴は「不相当」

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 広告大手電通(東京)の違法残業事件で、東京簡裁(池上邦久裁判官)は十二日、労働基準法違反罪で法人としての電通を略式起訴した検察当局の処分を「不相当」と判断し、正式な裁判を開くことを決めた。新入社員高橋まつりさん=当時(24)=の自殺、労災認定に端を発し、働き方改革の議論に大きな影響を与えた事件は、公開の法廷で審理されることになった。検察側はあらためて罰金刑を求刑するとみられる。 

 略式起訴された事件は、簡裁が罰金の支払いを命じる略式命令を出すのが通例だが、刑事訴訟法は略式の手続きが相当でないと認められるときは、裁判を開かなければならないと規定している。今回、簡裁は裁判を開く理由を明らかにしていないが、電通に対して何らかの処分を下すには、さらなる審理が求められると判断したとみられる。

 違法残業を巡って、東京、大阪両労働局にある過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)が事件化したのは電通以外に五件。いずれも法人のみが略式起訴され、うち二件については簡裁が略式不相当と判断、裁判が開かれ、罰金五十万円の判決が言い渡されている。

 起訴状によると、高橋さんの上司ら幹部三人が二〇一五年十〜十二月、従業員計四人に一カ月最大十九時間超の違法な残業をさせたとされる。

 東京区検などは五日に電通を略式起訴したが、高橋さんの上司ら三人と、中部(名古屋)、関西(大阪)、京都の三支社の幹部三人については、特定の個人に責任を負わせるほどの悪質性はないなどとして、起訴猶予としていた。

 高橋さんの母幸美さん(54)は「電通は、これまで繰り返し過労死を発生させているので、そのことを踏まえて、裁判所は適切な判断をしていただきたい」とのコメントを出した。電通広報部は「裁判所の判断に従い対応する」としている。

◆社会的関心 厳しい姿勢

 電通の略式起訴を「不相当」とした東京簡裁の判断は、長時間労働への社会的関心の高まりを背景に、検察の処分を覆し、違法残業事件により厳しい姿勢を示したものといえる。

 違法残業事件では、企業が略式起訴されると、簡裁が書面で審理し、罰金刑を科すのが通例。電通事件で、検察が認定した違法残業の時間数や被害者数は、過去の事例と比べて多いとは言えず、検察関係者も「当然、罰金刑の略式命令が出ると考えていた」と話す。

 だが、電通新入社員高橋まつりさんの過労自殺、労災認定をきっかけに、企業にまん延する長時間労働が社会的関心を集めた。そんな中、大阪簡裁は今年三月、従業員の違法残業を巡り、外食チェーンと小売チェーンの略式起訴を相次いで不相当と判断。いずれも裁判の判決で罰金刑が言い渡されている。今回の判断もこの流れに沿っている。

 電通事件は「ホワイトカラー」の職場を舞台とし、店舗販売などの業種の違法残業事件と比べ、労働時間の把握や上司の指示、違法性の認識を認定することが難しいという事情もある。

 裁判所としては、書面での審理ではなく、裁判での証拠調べや被告人質問などを通じ、誰が、いかに違法残業を指示し、どこまで違法性を認識していたか、事実解明する必要があると判断したとみられる。

 公判で明らかになる事実を踏まえ、違法残業による悲劇の再発を防ぐ努力が社会全体に求められる。 (岡本太)

<電通の違法残業事件> 2015年12月、新入社員高橋まつりさん=当時(24)=が東京都内の社宅から飛び降り自殺した。三田労働基準監督署は16年9月、うつ病を発症する1カ月前の残業時間が月105時間に達していたとして労災認定。電通は今年1月、再発防止策実施や解決金の支払いで遺族と合意した。検察当局は今月5日、本社と支社の幹部計6人を起訴猶予とし、法人としての電通を略式起訴した。

 

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