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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2017/07/11


みんなの思い出

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オープニング

 『神界』から撃退士たちが凱旋を果たした日から、数日。
 久遠ヶ原学園の斡旋所で、潮崎 紘乃(jz0117)はいつも通りに仕事をこなしていた。

 斡旋所には、今日も今日とて種々の依頼が舞い込んでくる。仕事の数は以前とさほど変わっていないように、紘乃には感じられた。
 『神界』での戦いの顛末は、アウルを持たない紘乃が聞いてもそれこそ何かの物語のようで、率直に言ってしまえば現実感が持てないものだった。
(皆が成し遂げたことを否定するつもりは無いけれど)
 本のページをめくるようには、世界は簡単には変わらないのかも知れない。

 依頼書の束を手に受付をでた紘乃は、室内の掲示板に手早くそれらを張り付けていった。代わりに募集人数が埋まった依頼書を取り外し、空いたスペースは別の依頼書で調整する。
 作業を一段落させてふと入り口の方を見やると、頭の両サイドにリボンをつけた金髪の女の子が、そろりそろりといった具合にこちらをのぞき込んでいた。
「チカちゃん」
 紘乃は少女のことをそう、愛称で呼んだ。リュミエチカ(jz0358)はぴくっと肩をこぶるわせた後、ちょっとだけ体をのぞかせる範囲を広くした。
「いらっしゃい。‥‥そういえばしばらくぶりじゃない? 元気だったかしら」
 思い返せば、ここしばらくは彼女の姿を見ていなかったことに気づいて、紘乃はそう言った。
 ただ、リュミエチカが斡旋所に顔を出すのは基本的に何か相談事があるときなので、来ないということは問題なかったということだろう、と内心では思っていたのだが。

 リュミエチカは周りをきょろきょろ見回して、ようやく入り口から中に入ってきた。
「もう、忙しいの、終わった?」
「ん? ええまあ、特別忙しいということはないけれど‥‥」
 今日は普段と同程度の仕事量なので、今まで忙しかったわけでもない。質問の意図をはかりかねていると、リュミエチカはぽつぽつと続けた。
「最近、皆、忙しそうだったから」
 サングラスの中の瞳が、遠慮するように外に流れる気配があった。
「チカは、部屋で大人しくしてた。忙しいのが終わったなら、もう、いいかなって」
「あ──ああ! そういうことね」
 合点がいって、紘乃は思わず手をたたく。

 リュミエチカの言っていた『忙しい』は、神界や、そこへ辿り着くまでの大きな戦いのことだった。
 世界の未来を決める戦いである。確かに、教職員はもちろん、生徒たちの多くもまた、ばたばたしていたのは間違いない。
 リュミエチカもまた学園生ではあるが、彼女は戦うためにここにいるのではなく、むしろそこから逃れるためにやってきた経緯がある。彼女は一切の戦いに不参加だった。
 戦いには興味がない──だからせめて、邪魔はしないように。彼女なりの配慮で大人しくしていた、ということなのだろう。

「大丈夫よ、もう大きな戦いは終わったから。今はもう、いつも通りねっ」
 紘乃が笑顔で教えてやると、リュミエチカの口角もほんの少し上がった。
「そう。やっぱり」
「やっぱり?」
「‥‥なんだか、明るくなったから」
 陽気のことではないだろう。今日は曇り空だ。
 何が明るくなったのか──改めて確認することはしなかった。

 紘乃自身にも実感があったからだ。
 仕事の量はさほど変わらなくとも。依頼書一枚一枚に乗っている空気は、以前と異なるものがある。
 はっきりとはしていない。でも、リュミエチカの言葉を借りれば、『明るくなっている』。

 世界が変わるということは、あるいはそういうことなのかも知れない。ひどく漠然とではあったが、紘乃はそんな風に思うのだった。



「で、チカちゃん今日はどうしたの?」
「ええと」
 改めて聞くと、リュミエチカはそわそわと落ち着きのない様子になった。
「あの‥‥皆、忙しくないなら」
 顔を赤くして、もじもじしている。
「遊ぶの、とか」
 今度は、さっきよりもわかりやすい。可愛らしいのでじらしてあげてもおもしろそうだけど、と紘乃は思いつつ、大人げないので素直に先を読んであげることにする。
「ああ──皆を遊びに誘いたいのね?」
「別にちっ、チカが誘わなくてもいいんだけど──」
 リュミエチカは肩をそばだたせた。語尾が小さくなっていく。
「しばらく、あんまり人に会ってないから‥‥」
 つまり、一人でいて寂しかったということだ。
 それは彼女の変化の印。人の輪に溶け込みつつある証左だ。紘乃は嬉しくなって、束の間目を閉じた。
「いいじゃない。戦いの後だもの、きっと皆レジャーに飢えているわよ。誘ってあげたら喜ぶんじゃないかしら」
 リュミエチカは、俯き加減で呟く。
「‥‥そう、かな」
「海──は、まだちょっと早いかしら。あ、でも潮干狩りとかなら、ってこれはちょっと遅いかしらね」
 思案しながら受付の方に戻っていく紘乃の後を、リュミエチカはとことこついて行く。
「シオシガリ」
「しお『ひ』がり。‥‥ああ、まだ出来るところもあるみたいねっ。ほら、千葉の方とかはやっているわよ」
「ヒオシガリ」
「『し』お『ひ』がり。‥‥遠くなっちゃったわよ」
「シオシガリ」
「ひおしがり。‥‥違うわ」
 うつった。
「こほん。‥‥とにかく、興味があるならみんなを誘って、行ってきたらどうかしら。晩ご飯のおかずも調達できて一石二鳥よっ」
 リュミエチカはしばらく口の中で「シオシ‥‥ヒオシ?」と繰り返していたが、紘乃にそう言われると、「そうする」とひとつ頷いて斡旋所を出て行った。

「‥‥あの子、潮干狩りがなんなのかは分かってるのかしら」
 説明しなかったわよね、とあとあと紘乃は思ったが、(きっと誰か教えてあげるわよね)とごくごく楽観的に思うことにしたのだった。


プレイング

かっとびの一番槍・天険 突破(jb0947)
大学部4年6組 男 
よお、ひさしぶり。
元気そうで何よりだ。
おかげさまで俺も健在だよ。

砂浜にそのひらひらした服は大変だろ。
購買に学園指定ジャージがあったんじゃないか?
見立てはセンスいい奴に任せるよ。

水分補給には注意しろよ。
実のところ最大の敵は熱中症だぜ、スタジアムのアルバイトとかと違って、休憩のタイミングも全然わからないからな。

なあ、こういう所って、透過能力でざくざく捕獲できたりしないの?
って、冗談だよ、流儀に合わせてやるから楽しいし、あとで美味しくいただけるってモンだ。

海岸の潮風がなんとも気持ちいいな。

一番オーソドックスな食べ方は味噌汁だな。
この季節だったら汁物は暑いし、持って帰って炊き込みご飯がいいな。
大きいのはそのまま焼いたり、アルミホイルで包んで酒蒸しなんてできたら最高かもな。
と言っても料理も得意なやつにお任せ、手伝えることがあったら言ってくれ。

アドリブ・ツッコミ歓迎。

腕利き料理人・美森 あやか(jb1451)
大学部1年4組 女 
潮干狩りがあると聞きまして…そういえば、最近アサリのお味噌汁作ってないし…と参加
リュミエチカさんも参加すると聞いて
…多分、潮干狩りが何のことか判っていないのでは…転びそうだし…現地でシャワー使える所あるかしら?後着替えと…
樒さん(jb6970)と手分けして女の子の着替えで男性陣が買えない物準備
転んで真水が使えない場合を考慮して念の為ペットボトル(2リットル)に真水詰めた物も2本程度準備
備えあれば憂いなし、と言いますし
海風でも結構体べたつきますから、大きめのお絞りも人数分+α準備

「…その服は潮干狩りには適さないと思うんですが…今日は日差しも厳しいですし」
学校の授業でも普段の授業と体育では服違いますでしょう?時と場合で適する服は違うんです、と説得

最中は熱中症対策としてリュミエチカさんがこまめに水分補給するように配慮
保冷バッグに入れてきた甘酒やジュース等使用

学園で料理が出来ると聞いたので、潮干狩り後はそのまま参加
その他の材料は学園に向かう時スーパー等で購入
まず簡単に砂抜きをした後
汁物はアサリのお味噌汁とクラムチャウダー(早めに作って氷水に鍋ごと冷やして食べ易いように)
アサリの酒蒸しはお酒少なめ、口を開いた所でキャベツのざく切りもいれて野菜を取れるように
多分ご飯になりますから、野菜をとれるおかずメニューを作ります

持ち帰る場合夏は食べ物は痛み易いので早めに食べるか、有れば冷蔵庫に入れるよう念押し

扶桑の枝・樒 和紗(jb6970)
大学部2年7組 女 
こういった誘いを受けられるようになると、リュミエチカの言う『明るくなった』のだと思いますね
今日は思い切り楽しみましょう(微笑


▼服装
麦藁帽子にジャージ(小豆色の所謂『芋ジャージ』)
長靴は作業用
首にはタオルを巻いたガチ勢スタイル

保冷バッグには冷やしタオルも入れておく


▼行動
チカが確り潮干狩りの準備が出来ているか怪しかったので
帽子やジャージ等、皆で色々と準備し持参

軍手、ビニール手袋、塩用意

海浜公園に行く前にコンビニ(近辺に他に開いている店があれば其方でも)で買物
チカの潮干狩り用Tシャツ、濡れた時の替えの下着を購入
熱中症対策の飲み物も購入

「ワンピースは終わってからの着替え用にしましょう
濡れたり汚れたりで勿体無いですからね


熊手やスコップ、バケツ等は借りて潮干狩り開始
「効率よく採りたい時は波打ち際を狙うと良いですよ

軽く熊手で砂をかいて解し、波で砂より軽い浅利浮いたところを拾う
地道に採る場合は吸水管を出していた穴を探して掘る
バカ貝を狙うなら浅利より大きい穴を

「マテ貝は、こうやって穴に塩を入れると…
出てきたところを持って引き出して見せる

一通り説明したら黙々潮干狩り
飲み物や冷やしタオルで
自分もチカも熱中症には注意しつつ



終了後
学園に戻り料理
砂抜きした貝で↓を

浅利ご飯…残りはおにぎりにしてチカへ。潮崎への土産にでも
浅利の味噌汁
マテ貝の醤油バター
バカ貝と分葱の酢味噌和え


「今日は楽しかったです
また誘って下さいね?

添弦の歌・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
大学部3年6組 男 
しおひがり…しおしがり…ひおひがし…遠くなったな(
ともあれ考えてみたら潮干狩りに行った記憶がなくて、実は僕も初めてだったという
なので一緒に初めて頑張ろうね!

一応予習はして来た(サムズアップ


陽射し対策にサングラス
パーカーのフード被り帽子代り
足元は長靴
保冷バッグでタオルと購入した飲物を冷やす

「リュミエチカちゃんも熱射病にならによう、はい被ってねー
持参の麦藁帽子を被せる
「ん、似合う似合う♪


行きがけにコンビニ等で必要な品を購入
熱中症対策の飲物、塩飴
着替えは女性陣に任せた!


目的地についたら、チカちゃんと一緒に和紗のレクチャー受けよう
予習はして来たけど…和紗のガチ度はパネぇので(

楽しようと波打ち際で浮いた浅利を拾う方法で、まず
でも何か物足りなくて
浅利より大きなバカ貝を狙って大き目の穴を探して回る
「だが、暑い…!
水分補給はこまめにしよう

チカちゃんも蒸したら我慢せず
冷タオルで首回りとか額とか拭くように
屈むの疲れたら[創造]で腰掛作ってあげるね

マテ貝の採り方は面白いな
で〜てこいで〜てこい ふふ〜んふ〜ん♪(塩詰め詰め
楽しいと鼻歌出る(笑


撤収する時は荷物持ちしよう

学園に戻ったら料理…の監督を(まがお
あ、ダメ?
指示貰えれば簡単な作業は手伝うよ

「皆の腕は勿論、素材が新鮮だと余計に美味しいね


穏やかになるだろう世界
これからもこういう楽しい思い出を、たくさん作っていって欲しいな

そして日焼けのケアも忘れず
若さに甘えない(

月に群雲、花に風、されど・ファーフナー(jb7826)
大学部4年8組 男 
潮干狩りは初めてなので、事前に調べて準備を行う
自身もどちらかというと学ぶ方向で

衣服はパーカー、Tシャツ、チノショーツ
サングラス、パナマハット、クロックスサンダル
な感じで行こうかと思う

あとは熱中症対策として
クーラーボックス
スポーツドリンク
塩分補給タブレット
アイスノン
保冷剤
……あたりだろうか

他には
タオル
バスタオル
日焼け止め
レジャーシート

……等々、皆で分担して準備を


千葉までは電車で行くのだろうか
リュミエチカにはすべてが新しい体験になるのだろう

自主的に海のレジャーに参加するようになった自身の変化に軽く笑いつつ
リュミエチカの変化にも微笑を
彼女はまだ若い
たくさん吸収して、変わっていける

この先も、子供達が日常生活を普通に楽しむことができる日々が続くよう努めたいと思う

リュミエチカがはしゃぎ気味なので
体力消耗等の体調に留意する


学園に戻って、料理をするときは、サブ的に動くことにする
貝を使った料理か、楽しみだな

優しい眼差し・不知火藤忠(jc2194)
大学部2年3組 男 
チカを楽しませてやりたい
まず潮干狩りについて教えないとな

準備
妹分の昔のジャージ・長靴
潮干狩りに雨の日用のお洒落な赤い長靴を使って良いものか悩んだ
チカが赤い長靴が良いと言ったら妹分のは仕舞う
赤いジャージは渡す
「麦わら帽子、よく似合うな
コンビニでの調達は女性陣に任せる

自分もジャージと長靴、麦わら帽子と軍手着用
料理上手の和紗がいるからな
梅見の時の弁当、とても美味かった
男性陣が頑張って沢山獲らなければ

チカに軍手渡しタオルを首に掛けてやる
潮干狩りについて教える
「あさりを見つけるんだ
熊手で砂の中を引っ掻いてみせる
「一匹いたら近くに沢山いるぞ
砂遊びの感覚で良い
チカが疲れたら皆で飲み物を飲みつつ休憩

「チカはこれからやりたい事はあるか?
妹分は当主になる為の勉強を始める
俺は補佐出来るよう学ぶ
妹分の大学卒業後は頻繁に会えなくなるかもしれない
「お前は大事な妹分だ。何かあれば俺もあいつも駆けつけるからすぐ言えよ?
まぁまだ先の話だ
それまで沢山遊ぼう
「あと好きな奴が出来たら言うように
悪い虫だったら追い払ってやる←

獲ったあさりは真水で洗いクーラーボックスで持ち帰る
砂抜き用の海水も汲む

学園に戻ったら料理の手伝い、食器等の準備
チカに砂抜きと塩抜きについて教える
「暗い砂の中にいたからな。暗い場所の方が砂を吐きやすいんだ
皆に日本酒・烏龍茶提供
あさり料理に舌鼓
日本酒にもよく合うな
「チカ、今日は楽しかったか?
微笑み頭を撫でる



リプレイ本文

「よお、ひさしぶり。元気そうで何よりだ」
 天険 突破(jb0947)が声を掛けると、リュミエチカ(jz0358)は小走りで駆けてきた。
「トッパは、元気だった?」
「おかげさまで俺も健在だよ」
 にかっと笑って答える。リュミエチカの頬が小さく緩むのが感じられた。

「ところで、砂浜にそのひらひらした服は大変じゃないか?」
 リュミエチカは「そうなの?」と首を傾げた。
 案の定、潮干狩りとは何なのか、は全然考えていないらしい。
「波打ち際で屈んだりすることが多いですから‥‥せっかくの服が汚れてしまいますよ」
 美森 あやか(jb1451)がやんわりと教えてあげた。
「今日は日射しも厳しいですし」
「ワンピースは終わってからの着替え用にしましょう」
 と言ったのは樒 和紗(jb6970)である。リュミエチカは彼女の方に目を向け‥‥しばし、無言でサングラスの中の視線を上下させた。

「‥‥カズサ」
「なんですか?」
「‥‥なんでもない」

 今日の和紗の恰好は、小豆色のジャージに麦わら帽子。デザイン性皆無の黒い長靴を履き、首には汗を吸わせるタオルを巻いていた。
 普段の凛と美しい和紗の姿とはある種かけ離れた、完璧『ガチ勢』な出で立ちであった。

(‥‥もしかして今の、本人か確認したのかな?)
 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は思わず吹き出しそうになるのをこらえた。それくらいギャップがあるということである。

「そんなことだろうと思ってな」
 不知火藤忠(jc2194)が口を開いた。
「妹分のお古だが、ジャージを持ってきた。よかったら使ってくれ」
「あそこにコンビニがありますね」
 あやかは和紗に近づき、「樒さん、ええと‥‥」と何事か話した。
「‥‥そうですね、ではついでに買い出しもしていきましょうか」
「おっ、手伝おうか?」
 突破が気軽に声をかけたが。
「女性のものですから、俺たちで行ってきますよ」
 要するに替えの下着とか、そういうものである。これには突破も「任せた!」という他はなかった。

   *

「リュミエチカちゃんもはい、被ってねー」
 ジャージ姿となったリュミエチカの頭に、ジェンティアンはつばの大きな麦わら帽子を被せてやった。
「ん、似合う似合う♪」
「ああ、よく似合うな」
 ジェンティアンと藤忠が揃って頷いた。ちなみに、藤忠もジャージに麦わら帽と、お揃いの恰好である。
「足元は、それでいいのか?」
 藤忠は念を押すように聞いた。リュミエチカが履いているのは、やはり以前に選んでもらった赤いレインブーツだ。長靴と言えばそうなのだが。
「これは、これがいい」
「‥‥そうか」
 だがリュミエチカがきっぱりと言ったので、それ以上追求するのはやめにした。



 ジェンティアンとリュミエチカが並んで歩いている。

「しおひがり」「ひおしがり」
「しおしがり」「ひおひがり」
「ひおひがし」「ひおひがひ‥‥?」

「竜胆兄、どんどん遠くなってますよ」
「うん、僕もそう思ってた」
 正解を教えてあげるつもりが、何故か自分まで正しく発音できなくなるというマジック。
「『ヒオシ』とは、またいいところに目を付けたな」
 突破はいたずらっぽく笑って言った。
「あれだろ? え〜と『ヒじょうにオおきいシおまねき』的な。めちゃめちゃ強いらしいぜ」
「そうなの‥‥?」
「最強の敵かもしれないぜ、気合い入れて狩らないとな」
「こら、チカに嘘を教えるんじゃない」
 藤忠がすかさず割って入った。「へへっ、悪いな」と軽く謝られて、リュミエチカは面食らっている。
「潮干狩りとは、砂浜で砂中の貝を採る海のレジャー‥‥だそうだ」
 やや説明口調に正解を教えたのは、ファーフナー(jb7826)だ。
「一応調べてきたが、実際に参加するのは初めてだ」
「実は僕もなんだよね」
 ジェンティアンが乗っかった。
「考えてみたら行った記憶が無くてさ。なので一緒に初めて、頑張ろうね!」

   *

「潮干狩りに適しているのは、干潮の前後二時間ずつ。時間が限られていますから、効率よく採っていきましょう」
 レンタルした熊手とバケツを抱え、砂浜に仁王立ちする和紗。リュミエチカ、ジェンティアン、そしてファーフナーの初心者三人は砂浜に正座──はしていないが、大人しく彼女の言葉を聞いていた。
「波打ち際を狙うと良いですよ。こうやって‥‥」
 和紗は屈み込むと、手本とばかりに熊手で砂浜を軽くかいた。すぐに波がやってきて浮いた砂を流していく──すると、縞模様の貝殻が二つほど顔を覗かせた。まだ半分埋まっているそれを、和紗は指で取り上げる。
「はい、これがアサリです」
「アサリ」
「意外と簡単に見つかるんだな」
 ファーフナーが感心して言った。
「こっちの方が大きい」
 もう一つの見えていた貝をリュミエチカが拾い上げて見せた。
「ああ、それはバカ貝ですね」
「バカガイ」
「これも食べられます‥‥狙うなら、アサリより大きい穴を探してください」

「マテ貝はちょっと特殊な採り方をします。こうやって‥‥」
 スコップで掘り返した穴に食塩をさっと流し込む。すると‥‥。
「おっ、何か出てきたね!」
 ジェンティアンの言うとおり、穴がぴょこっと盛り上がる。和紗がすかさずそこへ指を伸ばし、がっちりと掴んだ。
「相手が諦めるまで放しては駄目ですよ」
 やがて、アサリなどとははっきりと形のことなる、細長い貝が引き上げられた。
「それでは、制限一杯持って帰れるように頑張りましょうか」

   *

「チカ、ほら、タオルと‥‥軍手もしていた方がいいぞ」
「ん」
 藤忠にタオルを掛けてもらうと、リュミエチカはその場に屈み込んだ。藤忠も一緒に屈んだ。
「穴を探すって言ってた」
「ああ‥‥だが最初は砂遊び感覚でも十分だぞ」
 真剣に砂面に目を凝らしているリュミエチカの隣で、藤忠が軽く砂をかいて見せる。
「‥‥ほら、いた。一匹いたら近くに沢山いるぞ」
 リュミエチカは屈んだままずりずりと藤忠の方へ近づいて、砂をかき始める。その様子に藤忠は微笑んだ。
「沢山とれたら、学園で料理して皆で食べよう。和紗がいるからな、きっと美味いものを作ってくれるぞ」
 梅見のときの弁当はとても美味かったからな、と言うと、リュミエチカは首を上下させ、「いっぱい採る」と答えるのだった。

   *

「ふんふん‥‥おっ、また見つけたぞ」
 ジェンティアンは、和紗に教わった最初の方法で、波打ち際のアサリを拾っていた。
「ふむ‥‥確かに楽して数がとれる‥‥だが、やや物足りない」
 どうせなら、もっと『狩り』っぽくいきたい。
「よし、大物狙いに切り替えよう」
 大きな穴を探して目を凝らす──しばらくそうしていると、強い日射しでパーカー越しの背中や首がじりじりと焼けるようになる。
「だが、暑い‥‥!」
 一度体を起こし、水分補給。
 少し離れた場所で相変わらず屈み込んでいるリュミエチカが目に入った。
「チカちゃんも蒸したら我慢しちゃ駄目だよー」
 声は返ってこなかったが、麦わら帽子が上下に揺れたのが見えた。
(ほかの皆も気にしてるみたいだし、大丈夫かな?)
 今はファーフナーがそばにいて、一緒に砂をかいていた。

「最近はどうしていたんだ?」
 見つけた貝を目で一回り確認してから、バケツに入れる。そうしながら、ファーフナーは聞いた。
「最近は、部屋にいた」
「そうか‥‥」
 戦いの邪魔にならないよう大人しくしていた、というのは彼女なりの配慮ではあるが、少々後ろ向きさが勝っているようにも思える。
「一人でも、楽しく過ごす方法はいろいろとある」
 だからファーフナーはそう言った。孤独の楽しみ方なら、彼女より先輩だろう──あまり自慢にはならないが。
「本を読んだり、音楽を聴いたり、DVDを見たり‥‥部屋の模様替えをしてみるのも、気分が変わっていいな」
「なんだか、雨の日の過ごし方と、似てる」
「‥‥そうだな。雨の日も、一人になることが多いから、だろうか」
 去年の梅雨に、彼女とそんなことを話したことがあった。赤い長靴はそのとき購入したものだ。
「一人も嫌いじゃないけど」
 リュミエチカは水辺で時折ぷく、ぷくと泡を立てる穴を見つめたまま、言った。
「いっぱいいた方が、楽しい‥‥ことが多い」
「そう、だな」
 ファーフナーは同意した。それは彼女の変化であり、彼の変化でもある。
 久遠ヶ原に来る前であったら、今日のように海のレジャーに自主的に参加するなど、あり得なかっただろう。
(変わったんだな──)
 年若い彼女と、年を経た自分が、同じように『初めて』を知り、変化していく。
 そう気づいたファーフナーは、微笑む。幼さ故に気づかない悪魔の少女は、また貝拾いに没頭していた。

   *

「で〜てこいで〜てこい ふふ〜んふ〜ん♪」
 ジェンティアンはマテ貝採りに標的を切り替えたらしく、即興の鼻歌混じりに穴に塩を詰めていた。
「♪ふ〜んふ‥‥と、そこだっ!」
 にょきっと頭を出した貝をすかさず掴んで引っ張り出す。
「うん、これは楽しいね‥‥いっぱい採ろう」
 そしてまた鼻歌が聞こえ始める。

「リュミエチカさん、はい‥‥飲んでください」
 あやかが近づいてきて、持参の保冷バッグから取り出したジュースを差し出した。
「ありがとう、アヤカ」
 リュミエチカは受け取ってから、不思議そうに首を傾げた。「でも、さっきも飲んだよ?」
「熱中症を防ぐコツは、喉が乾く前に水分補給、だ」
 隣で実際に飲み物に口を付けながら、突破が言った。
「スタジアムのバイトとかと違って、休憩のタイミングも全然わからないからな。早め早めに飲んでおいた方がいい」
「ふうん」
 あやかは彼女のバケツの方を見やった。
「結構、採れてるみたいですね」
 大きめのバケツは、半分ほど採った貝で埋まっていた。
「カズサの方が、いっぱい採ってる」
 少し離れたところで黙々と砂浜をかき続ける和紗のバケツは、既に貝が溢れかかっていた。
「すげーな」
 突破はリュミエチカに顔を寄せた。
「なあ、こういう所って、透過能力でザクザク捕獲できたりしないの?」
「んー‥‥?」
 リュミエチカは首を捻る。
「って、冗談だよ」
 突破はすぐにそう言って、からから笑った。
「流儀に合わせてやるから楽しいし、後で美味しくいただけるってモンだ」

「そろそろ終了時間だそうだ‥‥和紗に負けないように、もうひと頑張りしよう」
「よし、じゃあこのバケツを残り時間でいっぱいにするとするか」
 藤忠が言い、突破は腕まくりしてみせるのだった。

   *

「大漁ですね」
 全員の戦果をまとめて見て、和紗は満足そうに言った。
「ミソシル、作れる?」
「これなら、他にも沢山作れると思いますよ」
 あやかも微笑んだ。
「向こうに水道があったから、貝は一度よく洗っておこう」
 藤忠が示した方を、リュミエチカは向こうとして──。

「あっ」

 こけた。

「大丈夫か? ‥‥すこしはしゃぎ過ぎたな」
 ファーフナーが助け起こす。ずっと屈んだ姿勢でいたので足がもつれたらしい。
「着替えを用意して正解でしたね」
 和紗とあやかは顔を見合わせるのだった。



 学園に戻り、持ち帰った貝には砂抜きの処理をして、しばし。
「そろそろ下拵えを始めていきましょうか」
「そうですね」
 あやかと和紗が立ち上がった。
「貝を使った料理か‥‥楽しみだな。俺は何をしようか」
「味噌汁、酒蒸し‥‥炊き込みご飯なんかもいいな。手伝えることがあったら言ってくれ」
 ファーフナーと突破の後ろで、
「じゃあ僕は監督を──」
「竜胆兄にももちろん仕事がありますよ」
「あ、ダメ?」
 というこちらはお約束。
「チカも、手伝う?」
 リュミエチカはあやかに尋ねた。
「そうですね‥‥キャベツをざく切りにしてほしいのですけど、出来ますか?」
「よしチカ、一緒にやろう」
 藤忠が呼ぶ。




 ‥‥そうして、七人が出来る部分を担当した料理が完成した。

「皆の腕は勿論、素材が新鮮だと余計に美味しいね」
 アサリの味噌汁をすすって、ジェンティアンは晴れやかに言った。
「おっ、こっちは冷やしてあるんだな‥‥この季節だしこういうのもいいな」
 突破はクラムチャウダーを口に運んでいる。
 ファーフナーも一品一品味わいつつ、感心したように呟く。
「これが酒蒸しか‥‥キャベツを入れるんだな」
「ご飯のおかずになるように、野菜をとれるメニューにしてみました」
 と、あやか。
「美味しいですか、チカ」
「貝は、ぐにぐにしている」
 アサリの炊き込みご飯をぱくついている少女に和紗が聞くと、よくわからない返答がきた。だが箸を止めない辺りを見るに、気に入ったのだろう。
「マテ貝、僕が頑張っていっぱい採ったからどんどん食べてね!」
 ジェンティアン推薦の細長い貝は、和紗の手で醤油バター炒めに。リュミエチカが区別できずに結構採っていたバカ貝は分葱と酢味噌和えに変身していた。
「ああ、どれも美味いな‥‥日本酒にもよく合う」
「藤忠ちゃん、いいもの飲んでるね?」
「俺の地元の酒なんだ。よかったら飲んでみてくれ」
 『純米大吟醸 天光』と銘打たれたボトルを、藤忠は気前よく振る舞った。
「チカはこっちだ」
 もちろん未成年者には烏龍茶です。
 大人しくお茶を受け取るリュミエチカに、藤忠は問うた。
「チカはこれからやりたい事はあるか?」
「‥‥明日のこと?」
「いや‥‥もっと先のことだ」

 不知火の当主を補佐する立場である藤忠はいずれ、学園を離れることになるだろう。
 もちろん、それは当主本人を伴って、だ。
 そうなれば、今のように頻繁に会うことは出来なくなるかも知れない。

「まぁ、まだ先の話だ‥‥それまで沢山遊ぼう」
「ん‥‥? うん」
 藤忠は手の中の酒を飲み干す。
「お前は大事な妹分だ。何かあればすぐ言えよ? いつでも駆けつけるからな──俺も、あいつも」
 特に、好きな奴が出来たらすぐ言うように──そう言って、藤忠はリュミエチカの頭をぐりぐり撫でるのだった。



「今は食べ物は傷みやすいので、冷蔵庫に入れて早めに食べてくださいね」
 余った分をリュミエチカに渡しながら、あやかは念押しするように言った。
「いくらかは潮崎への土産にしてもいいかも知れませんね」
 と、和紗。

「これから世界は、穏やかなものになっていくと思うよ」
 ジェンティアンが言った。人と天魔の争いは山場を越えた。緩やかでも確実に、変わっていく世界の渦中に、いま全員が身をおいている。

(その変化を維持できるように‥‥子供たちが日常を普通に楽しむことが出来るように)
 そう努めることが、これからの撃退士のひとつのあり方であるように、ファーフナーは思った。

「これからも、今日みたいな楽しい思い出を、たくさん作っていって欲しいな」
「ええ‥‥ですから」
 ジェンティアンの言葉を受けて、和紗は微笑んだ。
「また、誘ってくださいね?」

「じゃ、またな!」

 突破が声を掛けて、今日はお開き。
 リュミエチカは、満腹感だけではないふわふわとした気持ちに包まれながら、寮へ戻っていったのだった。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:大成功面白かった!:5人
MVP一覧
 扶桑の枝・樒 和紗(jb6970)
重体一覧
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かっとびの一番槍・
天険 突破(jb0947)

大学部4年6組 男 アストラルヴァンガード
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部1年4組 女 アストラルヴァンガード
扶桑の枝・
樒 和紗(jb6970)

大学部2年7組 女 アストラルヴァンガード
添弦の歌・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

大学部3年6組 男 ナイトウォーカー
月に群雲、花に風、されど・
ファーフナー(jb7826)

大学部4年8組 男 阿修羅
優しい眼差し・
不知火藤忠(jc2194)

大学部2年3組 男 陰陽師


依頼相談掲示板

ヒオシガリ()に行こう
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)|大学部3年6組|男|ナイ
最終発言日時:2017年07月02日 16:25
質問卓
樒 和紗(jb6970)|大学部2年7組|女|阿修
最終発言日時:2017年07月01日 14:34
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2017年06月29日 07:18


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