.


マスター:シチミ大使
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
参加人数:7人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2017/07/05


みんなの思い出

1
1

オープニング

 何もかもから見捨てられた場所は存在する。
 人里離れた寒村。介入を拒む厳しい断崖。あるいは気象変動がもたらした人知の及ばぬ区域――。
 だがその場所は、望んで何者の関知でさえも拒んでいた。
 天魔からも廃棄され、忌避された廃棄区画。牙のように乱立する廃屋と電信柱。それそのものが巨大な城壁、牙城のようであった。
 無茶苦茶な軌道で突き刺さった踏み切りのランプが明滅し、赤い光が照り輝く先にいたのは、銀色の躯体である。
 執事であるモスキートはその仕事を果たした。あとはただ待つのみである。
 ソニックウェイヴはモスキートの最期の忠義にも何も感じていなかった。あれは当然の行いだ。むしろよくやったなど褒めてやるほうがその魂に泥をかけるようなもの。
「異なる者同士が争い、醜く食らい合うのがこの世の常。その道理を分からぬもの、それこそが不条理そのものだ。ヒトが争い合うようにできているように、天魔も然り」
 ソニックウェイヴは廃棄区画ゲートの中でただ玉座に佇んでその時を待ち望む。
 異種同士が戦い、この血を滾らせてくれる、争いの戦争音楽。血をもってでしか、この身体はヒトの存在許容という命題に突きつけられることはできないだろう。
 その身なりからしてみてもそうだ。
 銀色の身体。昆虫を想起させる複眼に、嫌悪の感情を抱かせる翅。
 纏っている衣と漆黒のマントが王者の風格を醸し出しているが、その実は虫の性質を持つ己――。
 レイピアのように尖った片腕を振るい、ソニックウェイヴは宣言する。
「戦場を。ただただ闇雲に殺し、殺され合う地獄絵図を。この世界が極楽浄土に変わると言うのならば、示してみよ。我を倒し、その証をもって」
 無数の円盤吸血鬼とエイリアンが羽音を軋らせる。戦いへの序幕は開かれていた。

「モスキートの体内にあった地図を解析した結果、敵の居城が見えました。これを」
 ゲートが廃棄区画の中央で佇んでいる。内部の構造解析まで可能だったのだろう。推測の三次元図には獅子の頭部を模したかのような地形が内部で広がっていると観測されていた。
「獅子の頭のようなものを構築するのは全て、廃棄されたもの……言うなればごみです。しかしながらこの特殊地形は相手に潜む好機を与えるようなもの。潜り込んだ時点で、既に相手の手の内だと考えていいでしょう。その口腔部の最奥に天魔、ソニックウェイヴは陣取っていると思われます。ディアボロを全戦力、投入してくるでしょう。殲滅戦の構えを取ります。危険因子である天魔、ソニックウェイヴの排除、及び廃棄区画第七号と呼称されるゲートを完全破壊します。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


前回のシナリオを見る


プレイング

最強種・雪室 チルル(ja0220)
高等部3年1組 女 
心情:
「ついに大ボス登場ってわけね!」

目的:
敵の撃破

準備:
・作戦
天魔対応・円盤対応・エイリアン対応に別れて行動。
天魔対応班が時間を稼いでいる間にそれぞれの班は敵を攻撃、
できるだけ早くそれぞれの敵を撃破し、
撃破完了後に天魔対応班と合流、そのまま包囲殲滅を図る。

・準備
戦闘終了後に備えて救急箱を用意。

行動:
・基本
前衛として行動。
真正面から敵と交戦して相手の注意を引くことで、
他の味方が側面などから攻撃しやすい環境を整える。

・初手
円盤対応として行動。
初手から封砲などの範囲攻撃を多用し、他の敵ごと円盤を攻撃することで行動を封じる。
行動自体は基本行動に沿う形を取る。
特に相手の攻撃を確実に対処してから狙うことで、
確実に攻撃を当てることを優先していく。
但し相手は遠距離攻撃を中心に攻撃を仕掛けてくることが想定されるため、
近接できそうになければ遠隔攻撃中心に攻撃を切り替えていく。

・円盤撃破後
天魔対応班達と合流して攻撃を開始する。
行動自体は基本行動に沿う形を取る。
こちらについてはまだエイリアン型が排除できていない場合、
視界共有からの死角狙いが想定されるため、
近接範囲攻撃を優先して使用することで複数方向からの接近に対処する。
また、相手が決定的な隙を晒したら奥義を使用してそのまま止めを刺す。
どちらの場合でも毒によるダメージが想定されるので、
基本的には散開しつつ包囲を行う。


剣豪・雫(ja1894)
中等部2年1組 女 
【心情】
「相手を倒す為とは言え、自ら敵の巣の中に入る事になるとは・・・」

【行動】
BS対策に戦闘前に自分や抵抗値が低い仲間に聖なる刻印を使用、銭湯に入ったらスレイプニールを召喚して瓦礫に身を隠させ闘気解放を使用する

最初にエイリアン型を狙って攻撃を行い、ソニックウェイヴを攻撃している仲間との連携を取れる様にする
注意をソニックウェイヴの方にも向けておき、自分が攻撃している個体とは別にソニックウェイヴの動きを止める為にスレイプニールに不意打ちを仕掛けさせる
不意打ちは攻撃を当てるのでは無く、額の目の視界を突然塞ぐ様にして視界を同期しているソニックウェイヴを驚かして動きを止めさせる
「見えずぎる目は時に不利になる事もなるんですよ」

エイリアン型を殲滅後はソニックウェイヴに攻撃を仕掛ける
仲間と共に連携を取って被害が出ない様に注意してボルケーノを使用
動きを鈍らせる為にクロスグラビティを使用、動きが鈍った所に乱れ雪月花の追い打ちを掛ける

※アドリブOK

崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
大学部4年2組 男 
何も今すぐ完全に分かり合えるなんて思っちゃいねぇよ
それでも、多少マシな世の中ぐらいは後世に残せるだろ

■行動
基本方針としては、前回と同じく敵を分断し、連携を妨害しつつの各個撃破。
現地で接敵したら各々の担当する敵と相対し、敵同士が連携できない様に足止めと妨害。
ディアボロから優先的に撃破する様にし、最後にソニックウェイブを仕留める。
特にエイリアン型は視界共有を潰すためにも優先したい。
また、前回のモスキート同様の範囲攻撃を警戒し、味方同士が密集しすぎない様に注意しよう。

俺個人の行動としては、ソニックウェイブの担当として行動。
遭遇次第多少の被弾は覚悟のうえで接近し、連携できない様に足止めと牽制を行う。
機敏に動き回るうちは無理して攻めずに牽制程度に留め、
エイリアン型からのダメージフィードバックの隙を狙い攻勢に出る。
味方と同時に責める場合は、毒のある敵の左手側から切り込み、同時多方向への処理を敵に強いる。
スタンエッジを使ったスタン付与、あるいはフレイムシュートによる弱点狙いで攻撃し、
終盤は畳み掛ける為に神輝掌で高レート差攻撃。
敵の攻撃はシールドで受け、味方に向かう攻撃には庇護の翼でカバーリング。
毒にはレジスト・ポイズンだ。

あわわペンギン・水無瀬 文歌(jb7507)
大学部1年8組 女 
心情】
「ソニックウェイヴさん…貴方は今の世界に疑問を持っている…自分がこの世界に馴染まないと感じている…そして私たちにそんな自分を倒してほしいと思っている!…私にはそう思えてなりません

目的】
ソニックウェイヴ補助するエイリアン型排除し
ソニックウェイヴの戦いを終わらせる

準備】
予め阻霊符使用

行動】
序盤はエイリアン型対応
PS使用し聖炎の護りの効果で毒等BS無効
仲間や私が被弾時はA鎧で防御

空飛べるピィちゃんや仲間と連携し因矢でエイリアン型達麻痺させ動き止める等して
エイリアン型孤立させ
破手の魔法攻撃(元々高命中+カオスレート差)で正確に眼だけを撃ち抜き潰して各個撃破
「この眼は,ソニックウェイヴさん,貴方に通じているようですね

エイリアン型倒したらソニックウェイヴさんへ
ダメージ蓄積されたら吸魂符で攻撃し与えたダメージを生命力に転換
「貴方の力を糧に勝ちますっ
弱ってきたら因矢で動き止め仲間の一斉攻撃アシスト
「貴方の望み通り,貴方を倒して私達の望む世界をこの手に掴みますっ

大切な思い出を紡ぐ・ジョン・ドゥ(jb9083)
大学部6年3組 男 
エイリアンを早急に排除し敵悪魔へ向う

弓で目玉を狙い、呪焔で焼くのが基本。敵悪魔の視界を狭めて
「悪いが…構っている暇は無い

ソニックウェイヴには
呪焔、流転隔絶でバッドステータスを付与
味方も状態以上を付与するようだったら『搾取』を使う
「蟲の長よ。多くを語るよりも行動した方が早いだろう。聴くのは命が残っていたら、だ

悪魔の対応の味方が3人以上になったら
安全な位置をとり
呪焔を破界、『搾取』を【矛天】、流転隔絶を略奪ノ籠手に交換して
翼で相手の上をとるように強襲

略奪ノ籠手で吸収
破界で畳みかけ
矛天で一気に止めと使い分ける

この世界は、人の仔の世界だ。天魔はあくまでも地球では異物なのだ。どこまでもいってもそれが事実。
だから一先ずは…この世界に住む人の仔が、選択するべきだ。我々が邪魔をすることなく。少し待とう。
そうすることにした。

天真爛漫!美少女レスラー・桜庭愛(jc1977)
高等部3年2組 女 

目的:円盤型すべての撃墜。

「・・・道理を分からぬもの、それこそが不条理そのものだ。」
ヒトが争い合うように、そう嗤う悪魔に嘲笑する様な態度をむけるのは黒髪の美少女レスラー。

「人が争うのは人の気質、だが、その争いの果てに他者を理解し共に生きるのが人間、
その道理がわからぬお前は所詮、井の中の蛙といったところだね?」


 「地獄?この程度が?・・・笑わせるよ、「蚊」の王さま♪」
蒼いハイレグ水着が《八極拳》外殻強化で頑なり、その背後の空間が歪み《闘神剣奉》闘刃武舞、

不動明王の「降魔ノ剣」が鋭利な千の刃を展開した

「・・・本当の戦争を見せてあげるよ。ただし、これはお前の望む否定ではなく、
お前に殺され搾取された人々の怒りの否定と知れ、」

【戦闘】すべての円盤型を射出した剣で切り刻み、撃墜させる。地対空砲火の如く。

すべての攻撃指揮は身振り、手振りで、
それが、桜庭愛の「プロレス」だというように。


戦場の紅鬼・鬼塚 刀夜(jc2355)
大学部1年1組 女 
さて、今回は一度も戦えなかったモッくんの代わりに
ソニック君の相手をさせてもらうよ

何時もの無幻を使用して正面から突撃
壁などを利用して縦横無尽に動き回って翻弄し
最初はレイピアを受け流しつつ無理には攻めず相手の動きを見極めるよ
両手や糸、エイリアンなどを使っての二つ以上の同時攻撃には二式で迎撃し
糸による結界は隙間を縫うように突きを放ったり斬鉄で切断を狙うよ
協力して対応からの直接的、エイリアンの単眼対処による間接的な味方からの援護による
一瞬の隙を逃さないように注意し
まずは面倒な左腕を斬鉄で確実に落とすよ
状況によって足狙いに切り替えて機動力を削ぐのを優先
動きが明らかに鈍る、糸の結界を形成直後
表皮の赤色化直後による防御への安堵の隙を突き
修羅刹で一気に決めるよ
仕留め損なったら反動による硬直を悟られないよう余裕の態度で挑発するね
相手に深読みさせて躊躇させ時間を稼ぐか
自分を狙わせる事で味方の攻撃に繋げる隙を作るか

毒は大きな隙に繋がらない限りは避けるけど受けても気にしないよ
全身に回る前に倒してしまえば良いだけだからね



リプレイ本文


 飛翔個体と円盤吸血鬼が埋め尽くすのは、冗談としか言いようのないほど、雑多な空域であった。
 乱立する廃棄居住区。牙のように聳え立つ尖塔。踏み切り台のランプの赤色光が明滅を繰り返し、この場所が既にヒトの領域ではないことを告げている。
「さぁ、撃退士。来るといい。戦場を奏でるのは貴様らの血と饗宴。遣い共は放った。あとは貴様らがどれほど悪足掻きするかどうかを観るだけよ」
 ゲート最奥に位置する天魔、ソニックウェイヴの複眼の先にはこの地を踏み締める撃退士たちが映り込んでいる。エイリアン型二体からの連絡映像でも確認済みの七人は逃げも隠れもしない。最早、事ここに至り、この戦場では敗走、遁走、何一つあり得ない。
 全てを決するのだ。
 そうと決めた眼差しを湛えた七人はそれぞれの得物を構えた。
「道理を分からぬもの。それこそが不条理そのものだ」
 断じた桜庭愛(jc1977)の声音には慈悲の欠片もない。視界に入る全てを蹂躙し、破壊し、その価値観を突きつける。
「まったくもって、その通りかもしれない。何も今すぐ完全に分かり合えるなんて思っちゃいねぇよ。それでも、多少マシな世の中くらいは後世に残せるだろ」
 星の意匠が施されたトンファーを構え、向坂 玲治(ja6214)が呼気を詰める。ソニックウェイヴの本丸へと辿り着くまでに、四体の円盤型に二体のエイリアン型……、視野に入れつつ紡がれた言葉に耳を向ける。
「ソニックウェイヴさん……貴方は今の世界に疑問を持っている。……自分がこの世界に馴染まないと感じている。……そして、そんな自分を倒して欲しいと願っている! 私にはそう思えてなりません!」
 水無瀬 文歌(jb7507)の語調にソニックウェイヴは僅かに関知を向ける。
「我が願い、宿願を語るか。撃退士、分かり合えぬヒトの子風情が……!」
「その論調には賛同もあるが、蟲の長よ。多くを語るよりも行動したほうが早いだろう。聴くのは命が残っていたら、だ」
 ジョン・ドゥ(jb9083)の放った殺気にソニックウェイヴは、ほうと感嘆する。
「分かっている者もいるのか。そうだとも。この戦場で多くを語ることを許されているのは、勝者のみ。敗者は這い蹲り、この廃棄区画第七号と同じく、ゴミとして消え行け」
「おべっかも、ましてや話し合いももういいよ。僕は行かせてもらう。ただ斬り合いの刹那のために」
 鬼羅を掲げた鬼塚 刀夜(jc2355)がソニックウェイヴへと敵を見る眼を向ける。
 蟲の悪魔はタクトの如く、レイピアを振るった。
 直後、廃棄区画を激震させる爆撃が拡張する。円盤吸血鬼の絶え間ない銃撃に景色が霞み、毒の霧が鋼鉄を蝕んだ。
「散るぞ! 各員、分かっているな?」
 玲治の号令に全員が毒の霧を引き裂き、廃棄区画を跳躍した。
「まったく……相手を倒すためとはいえ、自ら敵の巣の中に入ることになるとは……」
 眉根を寄せた雫(ja1894)は召喚陣を形作り、スレイプニールを放つ。廃棄区画は全てが全て敵の関知範囲ではない。その巨大さ、広がりから鑑みて死角は確実に存在した。
 尖塔の陰に身を隠し、雫はスレイプニールがエイリアン型の攻撃を抜けたのを確認してから照り輝く太陽剣を掲げた。
「その身体、両断します!」
 体重を剣の重量に預け、ほとんど追突の形で雫はエイリアン型の射程に入った。援護に入ろうとした円盤吸血鬼へと氷の砲撃が放たれる。
「ついに大ボス登場ってわけね! あたいが、ひねり潰してあげる!」
 雪室 チルル(ja0220)の放つ一撃そのものは大雑把であるものの、円盤吸血鬼は攻撃の機会を渋っていた。
 その好機へと潜り込んだのは明王の刃。千刃が閃き、影を引き裂いて顕現する。
 愛の背後の空間が歪み、巨大な明王が悪鬼の如き眼差しを伴って円盤吸血鬼を睥睨する。
 一睨みだけで円盤吸血鬼は攻撃の手を緩めた。その僅かな隙を見逃さず、玲治と刀夜が空間を跳ね上がる。
 廃棄区画の最奥、玉座にてこの戦場を奏でる元凶を討つために。
 エイリアン型が刀夜の行く手を遮ろうとした。その個体の額に浮かぶ眼球を正確無比な弓矢が射抜く。
 ジョンは静かな瞳のまま、指を鳴らした。
 矢から黒く濁った炎が滲み出てエイリアン型を焼き切っていく。その炎の照り返しを受け、愛の明王が吼えた。
 降魔の剣が円盤を引き裂き、その余波で廃棄区画を叩き潰していく。砂塵が舞い、エイリアン型の視野が削がれた。
「地獄? この程度が? 笑わせるよ、「蚊」の王さま♪ それとも虫だからかな? この程度の縮図、この程度の世界観。これで人の世を語るのなんて、なんて傲慢。顧みるまでもなく、この廃棄区画そのものがお前の世界の矮小さを示している。矮小な世界に溺れて、沈殿し、その末に本物の戦争を知れ」
 愛が軽く手を振るうだけで刃の暴風が放たれ、円盤吸血鬼を破砕していく。廃棄区そのものが激震し、ソニックウェイヴが静かに――嗤った。
「よく吼えるものだ。容易くヒトは感情に流される。怒り、嫉み、強欲……全て、ヒトの子が持つ醜き世界。なれば我はそれを否定する。感情程度に流され、世を荒らすのは果たしてどちらか」
 直上から落雷のように強烈な一撃が打ち込まれた。ソニックウェイヴがレイピアでそれを受け止める。突きつけた玲治が薄く笑う。
「あんまし口ばっかり達者だと、舌ぁ噛むぜ!」
「同感だよ。話し上手は戦い上手じゃない」
 降り立った刀夜が右手側から攻め立てる。玲治は左手側に回り込み、痺れる一撃を見舞った。ソニックウェイヴの銀色の躯体が振動し、直下の地面が抉れ、砂埃が舞う。
 鬼の血を覚醒させた刀夜がアウルの輝きを放ちつつ刃を振り翳した。打突からの薙ぎ払いの一閃。ソニックウェイヴのレイピアが駆動し、百の突きを見舞う。
 刀夜は突き技をいなしつつ、その懐へと潜り込んだ。レイピアの弱点は咄嗟の機転の利かない点だ。殊に、その射線は突き以外では大きく限られる。
 切り払おうとした刀夜の刃に応戦したのはもう一方の手が繰る糸である。へぇ、と彼女は口元を緩める。
「モッくんと同じ技を使うんだ。主だから当然かな? ソニック君、やるのなら太刀でやろうよ。……って言っても無駄か。だってもう、射線に入っている」
 刀夜がステップを踏んでよろめいた。その空間を射抜いたのはジョンの矢である。
 ソニックウェイヴが糸の結界陣を張り、玲治共々、その矢を弾いた。
「片腕でもいただけるかと思っていたんだが、浅かったか」
 翼で位置取るジョンが次の手を練ろうとする。左腕に浮かんだどす黒い瘴気にソニックウェイヴが習い性の結界陣を張り巡らせた。四方八方の瓦礫から糸が展開し、ジョンを遠ざける。
「照準を……!」
「その腕に宿る何か……相当な脅威と判断した。ゆえに、策は取らせてもらうぞ。侮っているわけではないからな」
「その脳内まで虫けらってわけじゃねぇってことか。ジョンさん、俺らで結界を解くように追い込む。ちょっと待ってくれ」
「まだ剣でやれるんだ。ちょっと楽しみかな」
「楽しみ……? 狂っているのか?」
「狂う? 馬鹿を言っちゃいけない。一度刀を取り、剣に生きると決めた以上、誰だって刃の死狂いだ。僕も君も、何も変わりはしない。たとえ虐殺の徒であっても、話にも上がらないほどの鬼畜生であったとしても、刃を交えるのならば僕からしてみれば等しく――均一だ」
「均一、か。この闘争とはほど遠い代物だな」
「――そうでしょうか」
 差し挟まれた声は文歌のものであった。鳳凰を召喚した彼女はエイリアン型の眼球を撃ち抜いた。
「この眼は、貴方に通じているのでしょう? ソニックウェイヴさん。私には貴方が言っているような拒絶の意思も、私たちを憎む根源も、全部同じに思えてなりません」
「同じ、だと?」
「ヒトの仔を蔑み、その果てに待つのが争いだと、闘争しか存在しないのだと、決め付けている。違うから争う。異なるから奪い合う。……それはある側面では真理だが、正しくはない」
 ジョンの言葉にソニックウェイヴが振り仰ぐ。その視界の中いっぱいに、刃が交錯し、円盤吸血鬼を撃墜する愛の姿が大写しになった。
「本当の戦争を見せてあげるよ。ただし、これはお前の望む否定ではなく、お前に殺され、搾取された人々の怒りの否定と知れ」
「……結局は合い争うのだろう。何も変わるまい!」
「いいえ。確かに異なるがゆえに争いが起きるのも事実です。でも、それが全てじゃない。違っていても相手を理解しようとする人はいます。この世は、貴方が思うほど地獄ではない」
 猪突してきたエイリアン型を大剣の前に一蹴し、雫が声を振り絞る。
「……そして、どんなに頑張ってもこの世を極楽浄土になんて出来やしない。私たちができるのは、少し辛いこの世を、互いが理解し合おうと努力して、少しでも住みやすい世界に変えることくらいです」
「ソニックウェイヴさんっ、貴方も心のどこかでは、変えたいと思っているんじゃないですか? こんな……代わり映えのしない灰色の世界から、外に出たいと思う、貴方なりの抵抗だったんじゃないですか?」
 ソニックウェイヴは自らの世界を仰ぐ。自分の全て、廃棄区画第七号――。
 そこから這い出るために、自分が闘争していただと?
「……認められん」
「認めなくてもいい。お前が否定するのならば、私たちはお前を、――肯定する」
 ソニックウェイヴが腕を払い愛へと糸による全力攻撃を放つ。全包囲から放たれた糸の「否定」の意思を愛は刃による「肯定」へと変えた。
 息を切らし、ソニックウェイヴが言葉を繰る。
「あり得ん……どうしたところで、その結末だけは……あり得てはならないのだ!」
「他が許せてもそれは許せねぇ、か。案外、底が見えたな、ソニックウェイヴさんよ。お前も結局のところ、自分の世界から抜け出したいだけの……ちっぽけな天魔だった、って話だよ」
 玲治の言葉振りにソニックウェイヴが糸の天蓋で反撃する。その否定を刀夜が身体をひねり、全身を駆使した刃で叩き割った。
「僕は認めているよ。刃を交わせば、自然に、ね。そんなに難しくもない」
 糸の結界陣が緩んだ。その隙を逃さず、ジョンの指先から放たれた赤い光条がソニックウェイヴをよろめかせる。
「……誰かに認められたいだけの、ただの小さな悪魔に過ぎない。殺し、殺されの否定に結論を置くのは簡単だ。拒絶すればいい。本当に難しいのは、その先を描くこと。お前にはそれが見えていたはずだ。見えていて、虐殺と否定で己を塗り潰そうとした。……俺には、目の前でもがくだけの、小さな存在にしか見えない。それがたとえ人の仔と天魔の紡ぐ結末の縮図であっても。俺は、それが、その選択を誤らずに待つことを愛おしいとさえ思う」
 己の内奥から滲み出た激痛にソニックウェイヴが戸惑い、膝を折りかける。
 刀夜が肉迫し、その左腕を根元から叩き切った。血飛沫の舞う中、降り立ったチルルが氷の砲撃を見舞う。
「お前も……否定するのか」
「分かんないわよ! 難しいことなんか! でも、大ボスだって言うんなら、最後まで立っていたらどう!」
 その言葉に鼓舞されたように、ソニックウェイヴは糸の結界をまるで筋繊維のように織り込み、自身と地面を縫い付けた。
 これで進むことも、ましてや退くこともできない。
「……その通りだな。それだけは確かだ。我は! 天魔、ソニックウェイヴ! 最後まで立とう!」
「……潔いのは嫌いじゃねぇぜっ!」
 レイピアの銀閃を掻い潜り、玲治の打撃がソニックウェイヴを殴り据える。蟲の天魔は体内の血液循環を転位させた。
 赤く、鉄錆のように照り輝く表皮を得たソニックウェイヴの装甲に、殴りつけていた玲治がうろたえる。
「堅ぇっ?」
「油断は、死を招くぞ!」
 レイピアが奔り、玲治を突き刺そうとするが、その刃は寸前で止まった。
 ジョンの左腕から闇の瘴気が浮かび上がり、連動した闇の腕がソニックウェイヴを掴む。
 生命力を直に奪う攻撃だ。赤い表皮の内側から筋肉が切り離されていく。
 ダメ押しに雫の重力の逆十字が突き立った。動きを鈍らせたソニックウェイヴへと、剣の鬼をその姿に想起させた勢いの刀夜が刃を軋らせる。
「これが、お前を肯定する――!」
「俺たちの、答えって奴だ!」
 縫い付けられた足場が崩され、ソニックウェイヴは玉座へと背筋をぶつける。己の中に巣食う否定の念。
 それらを全て、輝かしい未来の変革に「肯定」された。
「否定」や「怨念」による結末でないのが恨めしい。彼らは彼らの信じるもののために、戦い抜き、自分を認めてみせたのだ。
 争いという否定でしかない行為を、どこかの一点で希望に変わる肯定に。
「……だが、許容はできかねる。誰が裏切り、誰がこの世に地獄を見るとも限らないのだ」
「でも、貴方だって、見たいはずでしょう? 変わった世界を。今よりかは……多分少しだけでも前に進めるかもしれない、私たちを」
 文歌の言葉には明確なものはない。約束された未来でも、確約された明日でもない。
 ただ、今日よりかはマシな明日を願いたいという、ほんのささやかな願い。
 ささやか過ぎて、自分にはどうにも眩しい。
「痛みにも、出口にもならない答えだ。……だが、それが人の仔の描く明日だというのならば、善だと嘯くのならば、天魔は、我は、悪でいいとも」
 全身から放たれた糸が廃棄区画の天井を縫いつける。天蓋が揺さぶられ、砂塵と激震が空間を支配した。
「何を!」
「廃棄、とは、要らないから廃棄なのだ。その価値観を前に、我の持つ古い価値観は要らない、だろう」
「自滅する気か……!」
 忌々しげに放った玲治にソニックウェイヴは仰向けのまま哄笑を上げる。
「貴様らの描く明日に、我は必要ない。……心底、目に余る者たちだ。ヒトというのは」
「脱出するぞ! 総員、この廃棄区画を棄てる!」
 その号令に文歌が逡巡を浮かべた。
「でもっ、ソニックウェイヴさんは!」
「奴は……自分で望んだんだ。だから」
 天蓋がこの身を噛み砕かんと迫ってくる。撃退士たちが脱出したのを確認し、ソニックウェイヴは空を埋め尽くす灰色を、地に墜とした。
 自分の世界そのもの。狭く苦しい価値観の全てに抱かれ、ソニックウェイヴは絶命する。
 灰色の廃棄区画の合間から望んだ最期の景色は、眩しくて見ていられなかった。

 崩壊した廃棄区画第七号を目に焼きつけ、撃退士たちはそれぞれの思いを胸に仕舞う。
 ともすれば分かり合えたかもしれない。変革を、変わることをただ怖がっていただけの、小さな天魔。
「ソニックウェイヴさんっ。貴方のこと、これからも忘れません。地獄から、私たちの創る世界を見ていてください。そしていずれ、貴方のような人と一緒に……」
 生きられる未来を。ただそれだけを切に願う者たちは、この時はただ痛みと共に。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:普通面白かった!:4人
MVP一覧
 −
重体一覧
 −

最強種・
雪室 チルル(ja0220)

高等部3年1組 女 ルインズブレイド
剣豪・
雫(ja1894)

中等部2年1組 女 ディバインナイト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

大学部4年2組 男 ディバインナイト
あわわペンギン・
水無瀬 文歌(jb7507)

大学部1年8組 女 陰陽師
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

大学部6年3組 男 陰陽師
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

高等部3年2組 女 阿修羅
戦場の紅鬼・
鬼塚 刀夜(jc2355)

大学部1年1組 女 阿修羅


依頼相談掲示板

【相談卓】
水無瀬 文歌(jb7507)|大学部1年8組|女|イン
最終発言日時:2017年06月29日 08:30
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2017年06月27日 23:50


リプレイ投票

このリプレイが面白かったと感じた人は下のボタンを押してみましょう!
投票1回につき1ポイントを消費しますが、1回投票する毎に1,000久遠プレゼント!
あなたの投票がマスターの活力につながります。

現在のあなたのポイント:0







推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ