ネット小売り最大手の米アマゾン・ドット・コムが、「金融」の分野でも存在感を高めている。2011年に始めた中小事業者向けの融資総額がこのほど30億ドル(約3300億円)に達し、対象企業も2万社にまで膨らんでいる。金融危機以降、大手銀行が中小企業向け融資に慎重になるなか、アマゾンは小売事業を通じて集めた与信情報を武器にシェアを伸ばしている。
アマゾンは、返済期間が最大12カ月の短期融資事業を米国と英国、日本で始めている。貸出先はアマゾンが選んだ会社のみ。融資金額は1000ドルから75万ドルで設定している。
金利は明らかにしていないが、米経済テレビのCNBCは、米国では「年率6~14%」と指摘しており、クレジットカードローンよりも割安な設定だ。
アマゾンによると、融資総額30億ドルのうち10億ドルは過去1年間に実行したものだという。融資事業を担当するピーユシュ・ナハル副社長は「中小企業が成長の機会を逃さないよう、在庫を増やしたり、事業を拡大したりするための資金を提供している」と説明する。融資を通じて中小企業との関係を強めているもようだ。
アマゾンにとって中小企業の取り込みはネット小売事業の裾野の拡大に欠かせない。中小の事業者がアマゾンのサイトを通じて販売を伸ばせば、アマゾンに入る手数料も増える。中小企業の出店が増えれば、サイトの品ぞろえの充実につながり、消費者にとってのサイトの価値も高まる。
さらに、アマゾンは中小事業者の代わりに商品の保管や配送を手掛ける「フルフィルメント バイ アマゾン」と呼ぶ有料サービスも始めている。ネット小売りの必要なインフラを外部と共有することで、自社の「経済圏」を広げており、取引先を育てる融資事業もその一環といえそうだ。
同様の融資ビジネスはネットでの決済を手掛ける米ペイパルや米スクエアも始めている。
ペイパルの場合、13年から始めた法人向け融資総額が4月までに世界で30億ドルを超えた。11万5000社を超える企業に貸し出しており、成長スピードではアマゾンをしのぐ。
スクエアは14年の参入で後発だが、すでに15億ドルの融資を実行したもようだ。
ペイパル、スクエアとも自分たちのサービスを使っている中小企業を対象にしており、金利など融資で稼ぐ利ざやだけでなく、顧客と自社の決済が増えるなど相乗効果がもたらす利益の確保を狙っている。
アマゾンを含めたテクノロジー企業が、銀行でないにもかかわらず、融資事業に参入ができるのは、顧客との日々の取引を通じて決済データを把握しているからだ。
モノやお金をやりとりする場として、アマゾンやペイパルの重要性は高まってきており、与信情報の確度も高まる傾向にある。
■ネット事業で「目利き力」
経営基盤が不安定な中小企業向けの融資は大手の金融機関でも難しいとされる。米国では2008年の金融危機をきっかけに中小企業向け融資が大幅に減少。米国の景気は回復したが融資総額は伸び悩んでいる。日本でも傾向は同じだ。
そんな中でアマゾンは自社サイトに出品する企業とのビジネスを通じて「目利き力」を培ってきた。特に「フルフィルメント バイ アマゾン」を使う中小事業者は、アマゾンにとっては商品の納入業者に近い存在。モノの流れや決済、消費者の評価などから、企業の体力や成長性を把握しているとみられる。
米ペイパルや米スクエアを含めた3社とも、貸金業のための各国の法規制に従っており、既存の銀行の合間を縫った新しい金融ビジネスに取り組んでいるといえそうだ。特にアマゾンはネット小売りにとどまらず、企業向けのデータセンター事業などビジネスの領域を大きく拡大している。
高級スーパーの米ホールフーズ・マーケットの買収で、実店舗の世界にも本格進出するアマゾンだが、いずれは金融業界にとっても「ライバルがアマゾン」となる日が来るのかもしれない。
(シリコンバレー=中西豊紀)
[日経産業新聞 7月10日付]