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漁民「判決は紙くず」 南シナ海「敗訴」1年

中国国旗「五星紅旗」を掲げた漁船が並ぶ漁港=中国海南島瓊海市潭門鎮で2017年7月7日、林哲平撮影

地元政府から補助 着々と進む「実効支配」

 中国による南シナ海支配の根拠をことごとく退けた仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の判決から12日で1年となる。窮地に追い込まれた中国は判決の受け入れを拒否し、紛争相手のフィリピンとの2国間交渉に持ち込んで判決の有名無実化に成功した。国際法上の「法的拘束力」を無視するかのように、南シナ海の島で今、大国の「実効支配」が静かに積み重ねられている。【海南島(中国南部)で林哲平】

 南シナ海に面した中国・海南島の瓊海(けいかい)市潭門(たんもん)鎮。機械油と魚の生臭さの漂う港に近い飲食店には、漁の合間をぬってマージャン卓を囲む漁師たちが集まる。

 仲裁判決の影響はあるのかと記者が問いかけると、1人の男が挑発するように答えた。

 「日本には“紙くず”を気にして海に出ない漁師がいるのか? ここにはそんなやつはいないよ」

 男がこう話すと、周囲から笑い声が上がった。「南沙には高く売れる魚が多い。祖先から受け継いだ宝の海だ」

 漁師らによると、判決後には漁民組織を通じて、こんな指示が伝えられた。「いつも通りの仕事を続けるように。それが国民の務めだ」。約1000キロ離れた南沙(英語名スプラトリー)諸島まで出漁する船には、地元政府から15万元(約250万円)を超える燃料費補助が、仲裁判決の前と同じように支給されるというのだ。

 既成事実化の動きは漁業にとどまらない。

 中国有数の観光地、海南島三亜市から西沙(英語名パラセル)諸島に向かうクルーズ--。

 ある旅行社のプランをみる。「3泊4日で4780元(約8万円)~」。決して安くはないが、人気のツアーになっているという。その大きな理由が、島での国旗掲揚などの「愛国主義活動」なのだ。「中国人としての誇りを感じた」。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)には、旅行客の声が集まる。参加した広州市の会社員の女性(28)は「判決の影響を心配したが、まったくの杞憂(きゆう)だった」と声を弾ませた。

 海南省は南沙、西沙諸島のリゾート化を進める。中国紙によると、両諸島を含む三沙市の市長は、島の将来像をこう描いているという。「結婚式場やダイビング施設を整える。世界的に人気のインド洋の島国、モルディブに匹敵するリゾートを目指す」

 軍事手段に頼らない「実効支配」が着々と進む。

南シナ海を巡る仲裁判決

 南シナ海ほぼ全域に権益が及ぶと主張し、スカボロー礁などフィリピン近海で実効支配を拡大する中国に対し、フィリピンは2013年、国際法に違反するとして仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴した。仲裁裁判所は16年7月12日、中国の権益主張を否定する判決を出したが、中国は受け入れを拒否している。

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