安倍総理のエストニア訪問が突然キャンセルに…
きょう7月11日は、本来なら安倍晋三・日本国総理大臣がエストニアを初訪問する予定の日だったんですよねえ。しかし直前になって「九州豪雨の災害対応を優先するため」という理由で突然のキャンセルが発表されました。
これを受けて、安倍総理と首脳会談を行う予定であったエストニアのユリ・ラタス首相が九州豪雨の被災者へのお見舞いの言葉と、やむを得ず来訪中止となったことについての理解を表明しています。
My condolences for the loss of so many lives due to natural disaster on Kyushu Island. Estonians' thoughts are with all Japanese people. pic.twitter.com/nCLWxhvrit
— Jüri Ratas (@ratasjuri) 2017年7月10日
エストニアとフィランドの経済格差は縮まっていく
さて。昨日エストニアのメディアが次のような記事を掲載していました。記事のタイトルは
「エストニアは今後もフィンランドに追いつけない」です。なんか一見ネガティブなニュアンスの表題ですが、まあ内容をご覧になってみてくださいな。
リード文を引用すると、
Estonia could reach a level equivalent to 85 percent of the actual living standard of Finland in 15-20 years, Kaspar Oja, economist at the Bank of Estonia, said. How long this takes depends on the forecast method and source, though Oja holds that Estonia may never completely be on par with its northern neighbor.
エストニア銀行のエコノミストであるカスパル・オヤ氏が、10~15年後にエストニアの生活水準はフィンランドの85パーセントに相当するレベルに達する見込みであると述べた。実際にどれほどの時間がかかるかは予測方法や用いるソースによって変わってくるが、オヤ氏はエストニアが北の隣国と肩を並べるにまでは至らないだろうと言う。
(引用者訳)
引用:Economist: Estonia may never catch up with Finland | Business | ERR
当ブログでもたびたび述べていますが、ひとくちに北欧地域とはいってもノルディック諸国とエストニアとの間には大きな経済格差がありますし、社会制度にも顕著な違いがあります。
Wages in Estonia currently amount to approximately 40 percent of wages in Finland. At the same time, the level of prices in Estonia is also lower, 60 percent of those in Finland.
現在のエストニアの賃金はフィンランドの40パーセント程度しかない。ただしそれに伴い物価も安く、エストニアの物価はフィンランドの60パーセントほどである。
(引用者訳)
引用:Economist: Estonia may never catch up with Finland | Business | ERR
記事では触れられていませんが、高福祉・高負担のフィンランドに対して、エストニアは低福祉・低負担の「小さな政府」政策を掲げる急進的な新自由主義国家です。例えば、エストニアには「所得税の累進課税」という制度がありません。所得税は所得にかかわらず一律21パーセントとなっています(2017年7月現在)。北欧諸国どころか日本と比べてもびっくりな「お金持ちにひたすら有利な国」となっております。
話を元に戻します。ま、とにかくこのエストニア銀行の人は、
「フィンランドに比べて賃金が大幅に安いが、同時に物価もかなり安い」
「だから両国の生活水準は実はそこまで大きな違いはない」
「ただし、このまま両国の経済が成長していったとしても、15~20年後にエストニアがフィンランドの85パーセント程度に達するくらいなのでは」
と述べていますよ、というのはおわかりいただけましたでしょうか。
いくらフィンランドに追いつけないとしても、現在フィンランドの4割程度の賃金の国が「近い将来にはフィンランドの85パーセントくらいの生活水準に達するかもね」と予想されているわけですから、たとえいくぶん楽観的なものであったとしても結構楽しみじゃないですか。
急成長中の新興国に住むことの楽しさ
わたしはたびたびレフト/リベラルの立場から発言をしているので、「なんでフィンランドやスウェーデンではなくてわざわざ低福祉の新自由主義国に留学したのか」と疑問に思う方もいそうですが、やっぱり成長中の新興国の空気のなかで暮らしてみるのって、なんとなくワクワクするんですよね。ノルディック諸国のような福祉国家はひとつの理想ではありますが、10年後、20年後の将来を見据えて成長株を買ってみるというのも面白そうじゃないですか。
特にエストニアは IT 立国なので、この分野の新事業をどんどん受け入れていくのが面白いです。たとえば、他国が「既存の旅客輸送産業を破壊するのでは」と懸念している Uber なんかも「あ、じゃあうちに来てくれたらいいですわ! うちはEUで最も規制が少ない国ってことでやってますんで!」って見境なくホイホイ手をあげちゃうのがエストニアなんです。スピード感が段違いなんですよ。
こんな方針を取っている国なので、「規制が少なくて革新的分野での挑戦を応援してくれるところで仕事したいなー」という人がそこそこ集まってきているみたいですね。逆にエストニアの方もその手の野心的な起業家を歓迎しているようです。
まあこのエストニアの「兎にも角にも、リスクを気にせず新しい産業を呼び込もうとしちゃう見境ない調子」はちょっと危なっかしく見えることもあります。最近は「自動運転車? そっちも世界に先駆けてぜひうちで!!」みたいなことを言い出してます(笑) しかし、長いあいだひたすら経済が縮小し続けている「老いた国」からふらりとやって来たわたしには、とても新鮮に映るのでした。
IT国家としてのエストニアを知りたい方におすすめの本
エストニアに興味がある方には、「キュートな北欧の小国・エストニア」を愛でたい方の他に、「さまざまな奇策(?)を打ち出して世界一のIT先進国を目指す新興勢力・エストニア」 という方々が少なくない数いらっしゃると思います。
そういった方に読んでいただきたい本がこちら。
未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界 (NextPublishing)
エストニアが世界屈指の IT 先進国になるまでの過程は、この本を一読すればだいたいわかりますのでおすすめです。