一般人が立ち入れない「米国の秘密の場所」写真ギャラリー

死体の腐乱状況を調べる実験場、放射性廃棄物処理場、死刑囚用の運動施設など、普通の人々が、その存在さえも知らない場所──写真家のTaryn Simon氏が4年がかりでその模様をとらえた。

TEXT BY JENNA WORTHAM
TRANSLATION BY TAKU SATO/GALILEO

WIRED(US)

  • SLIDE SHOW
  • 研究施設は、通称「死体農場(日本語版記事)」と呼ばれており、さまざまな腐敗段階にある死体を最大で75体収容できる。人間の遺体を分析することは、殺人事件を解決する手助けになる[第二の「死体農場」計画に関する過去記事(日本語版記事)はこちら]。Simon氏によれば、同氏はあらゆる場所に自由に立ち入り、好きなだけ写真を撮る許可を得たが、場所が場所ということもあり、やや当惑したという。「施設の人たちは私に手袋を渡し、施設内を歩き回り、望むことなら何でもできるように取りはからってくれた。だがわたしは、遺体があちこちにあるような場所にいて、奇妙な感覚に襲われていた。遺体に対し、われわれはどう対応し、解釈し、敬意を払えばいいのだろうかと考えていたのだ」とSimon氏は振り返った。
    PHOTOGRAPH COURTESY OF TARYAN SIMON/GAGOSIAN GALLERY">FULL SCREEN
  • ニューヨーク動物輸入センターは、輸入されたすべての鳥を係留する場所だ。これらの鳥は30日間の隔離が義務付けられており、その後、鳥インフルエンザなどの病気にかかっていないか、検査が行なわれる。「わたしがこの施設を撮影することに決めたのは、1人の市民として(鳥インフルエンザに)懸念を抱いており、わが国を守るためにどのような対策が取られているのか気になっていたからだ」とSimon氏は言う。同氏は、二次汚染を防ぐために、立ち入りが制限された他の研究施設への訪問の間に、この鳥類検疫所を訪れるよう取りはからった。
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  • ハンフォード核施設は、米国で最も汚染度の高い廃棄物処理場の1つと考えられている。「放射線は私が今まで撮影したことのない光源だったため、写真を撮る際に参考にできる資料がなく、できると信じてやるしかなかった」とSimon氏は振り返り、「ちょうど米国の形に似た配置のセクションを見つけ、そこを撮影した。これは大きな発見だった」と語った。この青い光は、チェレンコフ放射と呼ばれる現象によって発せられている。
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  • 米国立視覚身体障害者図書サービスは、米国議会図書館の一部門で、無料で利用できる点字資料の国立図書館を運営している。Playboy誌は、読者の関心が高かったために選ばれたもので、議会の資金援助によって点字版が無料で提供されている。「撮影へのアプローチは、被写体そのものから導き出される。わたしは、まず被写体の形式、芸術性、それに人を惹きつける性質を吟味し、次に被写体の内容を考慮してから、実際の撮影を行なう」(Simon氏)
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  • 冷凍保存センターでは現在、法的に死亡と判断された74名の人と、44体の死亡したペットが保存されている。保存にかかる費用は1976年の設立以来変わっておらず、2万8000ドル。保存には事前の予約が必要だ。[遺体を冷凍保存するビジネスに関する過去記事(日本語版記事)はこちら。どんな人が利用しているかに関する過去記事(日本語版記事)はこちら]
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  • ターペンタイン・クリーク野生生物保護財団で、希少動物のホワイト・タイガー、Kennyを撮影した。Kennyは知能に発育不全をきたしているほか、歩行と呼吸にも問題を抱えている。一般に米国にいるホワイト・タイガーは近親交配によって生まれたもので、白い毛と青い目を持つ。Kennyと同時に生まれたきょうだいのトラたちは、毛は黄色いほか、斜視やX脚になっている。「ホワイト・タイガーは、米国のエンターテインメントやビジネスの分野で大きな需要がある。遠くから見ているぶんには、通常のトラと変わらない。だが、Kennyをよくよく見てみると、何かがおかしいことがだんだんわかってくる。何かが変だということはわかるが、すぐに気づくわけではない」(Simon氏)
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  • 米国税関・国境警備局の密輸品保管室で撮影されてもので、写っている食料品は、国外から到着した乗客から没収されたものだ。写真に写っているものの中には、アフリカ産のヤムイモ、生肉、生卵、オクラ、それに潰瘍病にかかった南アジア産のライムなどがある。「この部屋は、私の最も好きな写真の1つだ。わたしはここで数時間を費やし、没収された食品を静物画に見えるように並べ替えた」と、Simon氏は語る。
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  • マンスフィールド更正施設では、死刑囚が1日1時間、屋外で運動することが許されている。隔離された檻の中には懸垂用の鉄棒が1つあるだけで、死刑囚がここに物を持ち込むことはできない。「これは、わたしが個人的に興味を持っていたテーマなのだが、この場を立ち去る時には、撮影対象についてさまざまな思いが去来した。心乱れる場所だった。こういった場所を見ると、苦悩が増すばかりだ」(Simon氏)
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  • place03

    1/11人間の遺体の腐敗状況を観察する「死体農場」
    テネシー州ノックスビルにある、人間の遺体の腐敗状況を研究する世界唯一の研究施設は、通称「死体農場(日本語版記事)」と呼ばれており、さまざまな腐敗段階にある死体を最大で75体収容できる。人間の遺体を分析することは、殺人事件を解決する手助けになる[第二の「死体農場」計画に関する過去記事(日本語版記事)はこちら]。Simon氏によれば、同氏はあらゆる場所に自由に立ち入り、好きなだけ写真を撮る許可を得たが、場所が場所ということもあり、やや当惑したという。「施設の人たちは私に手袋を渡し、施設内を歩き回り、望むことなら何でもできるように取りはからってくれた。だがわたしは、遺体があちこちにあるような場所にいて、奇妙な感覚に襲われていた。遺体に対し、われわれはどう対応し、解釈し、敬意を払えばいいのだろうかと考えていたのだ」とSimon氏は振り返った。
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  • place01

    2/11鳥インフルエンザを防ぐ最前線?
    ニューヨーク州ニューバーグにあるニューヨーク動物輸入センターは、輸入されたすべての鳥を係留する場所だ。これらの鳥は30日間の隔離が義務付けられており、その後、鳥インフルエンザなどの病気にかかっていないか、検査が行なわれる。「わたしがこの施設を撮影することに決めたのは、1人の市民として(鳥インフルエンザに)懸念を抱いており、わが国を守るためにどのような対策が取られているのか気になっていたからだ」とSimon氏は言う。同氏は、二次汚染を防ぐために、立ち入りが制限された他の研究施設への訪問の間に、この鳥類検疫所を訪れるよう取りはからった。
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  • place02

    3/11核廃棄物貯蔵施設のチェレンコフ放射光
    この光る物体はステンレス製の核廃棄物カプセルで、放射性物質が入っている。カプセルは水の入ったプールに沈められており、これら周囲の水が、放出される放射能を遮断する盾の役割を果たしている。およそ2000個のカプセルが保管されているワシントン州南東部にあるハンフォード核施設は、米国で最も汚染度の高い廃棄物処理場の1つと考えられている。「放射線は私が今まで撮影したことのない光源だったため、写真を撮る際に参考にできる資料がなく、できると信じてやるしかなかった」とSimon氏は振り返り、「ちょうど米国の形に似た配置のセクションを見つけ、そこを撮影した。これは大きな発見だった」と語った。この青い光は、チェレンコフ放射と呼ばれる現象によって発せられている。
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  • place05

    4/11点字版の『Playboy』誌
    米国立視覚身体障害者図書サービスは、米国議会図書館の一部門で、無料で利用できる点字資料の国立図書館を運営している。Playboy誌は、読者の関心が高かったために選ばれたもので、議会の資金援助によって点字版が無料で提供されている。「撮影へのアプローチは、被写体そのものから導き出される。わたしは、まず被写体の形式、芸術性、それに人を惹きつける性質を吟味し、次に被写体の内容を考慮してから、実際の撮影を行なう」(Simon氏)
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  • place06

    5/11人とペットを冷凍保存する施設
    ミシガン州クリントン・タウンシップにある冷凍保存センターでは現在、法的に死亡と判断された74名の人と、44体の死亡したペットが保存されている。保存にかかる費用は1976年の設立以来変わっておらず、2万8000ドル。保存には事前の予約が必要だ。[遺体を冷凍保存するビジネスに関する過去記事(日本語版記事)はこちら。どんな人が利用しているかに関する過去記事(日本語版記事)はこちら]
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  • place08

    6/11生きたエイズ・ウイルス
    この小瓶の中には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が生きたまま入っている。マサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学医学部で、抗体によりHIVを無害化するという研究に使われているものだ。「わたしはこの写真集でのすべての写真に関して、ホワイトノイズのような印象を心がけた。ここがどこかわからなくなるようでいて、一定の節度があるような。この世の終わりのような雰囲気がありながらも、どこかに希望が感じられる作品になったと思う」(Simon氏)
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  • place04

    7/11需要の高いホワイト・タイガー
    Simon氏は、アーカンソー州ユリーカスプリングズにあるターペンタイン・クリーク野生生物保護財団で、希少動物のホワイト・タイガー、Kennyを撮影した。Kennyは知能に発育不全をきたしているほか、歩行と呼吸にも問題を抱えている。一般に米国にいるホワイト・タイガーは近親交配によって生まれたもので、白い毛と青い目を持つ。Kennyと同時に生まれたきょうだいのトラたちは、毛は黄色いほか、斜視やX脚になっている。「ホワイト・タイガーは、米国のエンターテインメントやビジネスの分野で大きな需要がある。遠くから見ているぶんには、通常のトラと変わらない。だが、Kennyをよくよく見てみると、何かがおかしいことがだんだんわかってくる。何かが変だということはわかるが、すぐに気づくわけではない」(Simon氏)
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  • place07

    8/11国外から到着した乗客から没収
    この写真はニューヨーク市クイーンズ区にあるジョン・F・ケネディ国際空港の米国税関・国境警備局の密輸品保管室で撮影されてもので、写っている食料品は、国外から到着した乗客から没収されたものだ。写真に写っているものの中には、アフリカ産のヤムイモ、生肉、生卵、オクラ、それに潰瘍病にかかった南アジア産のライムなどがある。「この部屋は、私の最も好きな写真の1つだ。わたしはここで数時間を費やし、没収された食品を静物画に見えるように並べ替えた」と、Simon氏は語る。
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  • place09

    9/11死刑囚用の屋外運動施設
    オハイオ州にあるマンスフィールド更正施設では、死刑囚が1日1時間、屋外で運動することが許されている。隔離された檻の中には懸垂用の鉄棒が1つあるだけで、死刑囚がここに物を持ち込むことはできない。「これは、わたしが個人的に興味を持っていたテーマなのだが、この場を立ち去る時には、撮影対象についてさまざまな思いが去来した。心乱れる場所だった。こういった場所を見ると、苦悩が増すばかりだ」(Simon氏)
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  • place10

    10/11大西洋横断海底ケーブルの終着点
    数千キロメートルにわたって大西洋を横断してきた海底通信ケーブルは、ニュージャージー州エイボンにあるこの陸揚局にたどり着く。このケーブルは、最大で6000万通話を同時に伝送する能力を持つ。「このケーブルはとても重要なものなのに、非常に無防備で雑に扱われているように見える。そこに面白さがある」とSimon氏は言う。
    PHOTOGRAPH COURTESY OF TARYAN SIMON/GAGOSIAN GALLERY

  • place11

    11/11CIA本部の芸術作品
    中央情報局(CIA)とアートという、この意外な取り合わせは、バージニア州ラングレーにあるCIA本部に飾られている美術品をSimon氏が撮影したものだ。この美術コレクションの中には、George H.W. Bush元大統領[現大統領の父、1970年代にCIA長官を務めている]のブロンズ製の胸像や、第二次大戦後に活躍した画家Thomas Downing氏の2枚の絵(この写真に写っているもの)などがある。
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  • place03

人間の遺体の腐敗状況を観察する「死体農場」
テネシー州ノックスビルにある、人間の遺体の腐敗状況を研究する世界唯一の研究施設は、通称「死体農場(日本語版記事)」と呼ばれており、さまざまな腐敗段階にある死体を最大で75体収容できる。人間の遺体を分析することは、殺人事件を解決する手助けになる[第二の「死体農場」計画に関する過去記事(日本語版記事)はこちら]。Simon氏によれば、同氏はあらゆる場所に自由に立ち入り、好きなだけ写真を撮る許可を得たが、場所が場所ということもあり、やや当惑したという。「施設の人たちは私に手袋を渡し、施設内を歩き回り、望むことなら何でもできるように取りはからってくれた。だがわたしは、遺体があちこちにあるような場所にいて、奇妙な感覚に襲われていた。遺体に対し、われわれはどう対応し、解釈し、敬意を払えばいいのだろうかと考えていたのだ」とSimon氏は振り返った。
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鳥インフルエンザを防ぐ最前線?
ニューヨーク州ニューバーグにあるニューヨーク動物輸入センターは、輸入されたすべての鳥を係留する場所だ。これらの鳥は30日間の隔離が義務付けられており、その後、鳥インフルエンザなどの病気にかかっていないか、検査が行なわれる。「わたしがこの施設を撮影することに決めたのは、1人の市民として(鳥インフルエンザに)懸念を抱いており、わが国を守るためにどのような対策が取られているのか気になっていたからだ」とSimon氏は言う。同氏は、二次汚染を防ぐために、立ち入りが制限された他の研究施設への訪問の間に、この鳥類検疫所を訪れるよう取りはからった。
PHOTOGRAPH COURTESY OF TARYAN SIMON/GAGOSIAN GALLERY

  • place02

核廃棄物貯蔵施設のチェレンコフ放射光
この光る物体はステンレス製の核廃棄物カプセルで、放射性物質が入っている。カプセルは水の入ったプールに沈められており、これら周囲の水が、放出される放射能を遮断する盾の役割を果たしている。およそ2000個のカプセルが保管されているワシントン州南東部にあるハンフォード核施設は、米国で最も汚染度の高い廃棄物処理場の1つと考えられている。「放射線は私が今まで撮影したことのない光源だったため、写真を撮る際に参考にできる資料がなく、できると信じてやるしかなかった」とSimon氏は振り返り、「ちょうど米国の形に似た配置のセクションを見つけ、そこを撮影した。これは大きな発見だった」と語った。この青い光は、チェレンコフ放射と呼ばれる現象によって発せられている。
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  • place05

点字版の『Playboy』誌
米国立視覚身体障害者図書サービスは、米国議会図書館の一部門で、無料で利用できる点字資料の国立図書館を運営している。Playboy誌は、読者の関心が高かったために選ばれたもので、議会の資金援助によって点字版が無料で提供されている。「撮影へのアプローチは、被写体そのものから導き出される。わたしは、まず被写体の形式、芸術性、それに人を惹きつける性質を吟味し、次に被写体の内容を考慮してから、実際の撮影を行なう」(Simon氏)
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人とペットを冷凍保存する施設
ミシガン州クリントン・タウンシップにある冷凍保存センターでは現在、法的に死亡と判断された74名の人と、44体の死亡したペットが保存されている。保存にかかる費用は1976年の設立以来変わっておらず、2万8000ドル。保存には事前の予約が必要だ。[遺体を冷凍保存するビジネスに関する過去記事(日本語版記事)はこちら。どんな人が利用しているかに関する過去記事(日本語版記事)はこちら]
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  • place08

生きたエイズ・ウイルス
この小瓶の中には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が生きたまま入っている。マサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学医学部で、抗体によりHIVを無害化するという研究に使われているものだ。「わたしはこの写真集でのすべての写真に関して、ホワイトノイズのような印象を心がけた。ここがどこかわからなくなるようでいて、一定の節度があるような。この世の終わりのような雰囲気がありながらも、どこかに希望が感じられる作品になったと思う」(Simon氏)
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  • place04

需要の高いホワイト・タイガー
Simon氏は、アーカンソー州ユリーカスプリングズにあるターペンタイン・クリーク野生生物保護財団で、希少動物のホワイト・タイガー、Kennyを撮影した。Kennyは知能に発育不全をきたしているほか、歩行と呼吸にも問題を抱えている。一般に米国にいるホワイト・タイガーは近親交配によって生まれたもので、白い毛と青い目を持つ。Kennyと同時に生まれたきょうだいのトラたちは、毛は黄色いほか、斜視やX脚になっている。「ホワイト・タイガーは、米国のエンターテインメントやビジネスの分野で大きな需要がある。遠くから見ているぶんには、通常のトラと変わらない。だが、Kennyをよくよく見てみると、何かがおかしいことがだんだんわかってくる。何かが変だということはわかるが、すぐに気づくわけではない」(Simon氏)
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  • place07

国外から到着した乗客から没収
この写真はニューヨーク市クイーンズ区にあるジョン・F・ケネディ国際空港の米国税関・国境警備局の密輸品保管室で撮影されてもので、写っている食料品は、国外から到着した乗客から没収されたものだ。写真に写っているものの中には、アフリカ産のヤムイモ、生肉、生卵、オクラ、それに潰瘍病にかかった南アジア産のライムなどがある。「この部屋は、私の最も好きな写真の1つだ。わたしはここで数時間を費やし、没収された食品を静物画に見えるように並べ替えた」と、Simon氏は語る。
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死刑囚用の屋外運動施設
オハイオ州にあるマンスフィールド更正施設では、死刑囚が1日1時間、屋外で運動することが許されている。隔離された檻の中には懸垂用の鉄棒が1つあるだけで、死刑囚がここに物を持ち込むことはできない。「これは、わたしが個人的に興味を持っていたテーマなのだが、この場を立ち去る時には、撮影対象についてさまざまな思いが去来した。心乱れる場所だった。こういった場所を見ると、苦悩が増すばかりだ」(Simon氏)
PHOTOGRAPH COURTESY OF TARYAN SIMON/GAGOSIAN GALLERY

  • place10

大西洋横断海底ケーブルの終着点
数千キロメートルにわたって大西洋を横断してきた海底通信ケーブルは、ニュージャージー州エイボンにあるこの陸揚局にたどり着く。このケーブルは、最大で6000万通話を同時に伝送する能力を持つ。「このケーブルはとても重要なものなのに、非常に無防備で雑に扱われているように見える。そこに面白さがある」とSimon氏は言う。
PHOTOGRAPH COURTESY OF TARYAN SIMON/GAGOSIAN GALLERY

  • place11

CIA本部の芸術作品
中央情報局(CIA)とアートという、この意外な取り合わせは、バージニア州ラングレーにあるCIA本部に飾られている美術品をSimon氏が撮影したものだ。この美術コレクションの中には、George H.W. Bush元大統領[現大統領の父、1970年代にCIA長官を務めている]のブロンズ製の胸像や、第二次大戦後に活躍した画家Thomas Downing氏の2枚の絵(この写真に写っているもの)などがある。
PHOTOGRAPH COURTESY OF TARYAN SIMON/GAGOSIAN GALLERY

Taryn Simon氏は、世界中にある、立ち入りがきびしく制限された、トップシークレットの場所を撮影する写真家だ。

Simon氏の最新作『An American Index of the Hidden and Unfamiliar』は、一般の人は目にすることのない研究施設や政府庁舎への立ち入り許可を得たうえで、4年の歳月をかけて制作されたものだ。

「米国の新しい風景を見つけたような気持ちがした。道徳的な意味でも、政治的な意味でも、これは新たな地平と言える」と、同氏は語っている。

この写真集は、表面上は見えない、社会の隠された部分に潜入し、腐乱が進む死体や放射性廃棄物、致死性のウイルス、死刑囚用の屋外運動場などを撮影したものだ。結果として、米国でも最も厳重に隠されてきた秘密の数々が、白日のもとにさらされている。

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