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「Core i9 7900X」レビュー第1弾として、Intelの最新エンスー向けCPUであるSkyLake-X、特に10コア20スレッドの「Core i9 7900X」は消費電力が爆発的に大きく、前モデルのi7 6950Xや競合製品のRyzen 7 1800Xなどと比較してもワッパが悪いというレビューが巷に溢れかえっているので、その辺りの事情についてざっくりと検証してみました。
i9 7900Xの消費電力やワッパに関して予め問題点・要点を箇条書きしていくと、
・IntelはあくまでTDP140Wの製品としてi9 7900Xをリリースしている
・ターボブーストによるブーストクロックはTDP制御に依存する
・TDP制御は使用するマザーボードによる
・IntelはX299チップセットを出しているが、リファレンス的なM/Bをリリースしていない
・CPU&M/Bというプラットフォーム単位で見た時に実際の性能が不透明である
などといった具合だと感じました。具体的なお話は検証結果を見ながら説明していきます。
検証機材について
Core i9 7900Xのレビューのための検証を行う環境としては、ASRock Fatal1ty X299 Professional Gaming i9などで構成されているベンチ機を使用しました。テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i9 7900X 10コア20スレッド 全コア同時4.0GHz(TDP依存) |
CPUクーラー | CoolerMaster MasterLiquid Pro 120 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z RGB F4-3866C18Q-32GTZR DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) |
マザーボード |
ASRock Fatal1ty X299 Professional Gaming i9 (レビュー予定) |
ビデオカード | 【CPUベンチ・消費電力測定】 MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) 【ゲームベンチ】 ASUS ROG STRIX GeForce GTX 1080 Ti (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung 850 PRO 256GB |
OS | Windows10 64bit Home |
電源ユニット | Corsair RM650i (レビュー) |
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
製品仕様と予備知識
Intelのi9 7900Xの公式ページをチェックしてみると製品仕様は次のようになっています。注目すべきは「ベース周波数:3.3GHz」「ターボブースト:4.3GHz」「TDP:140W」の3つの数字です。TBM3.0との兼ね合いもありターボブーストの4.3GHzという数字が守られているのか厳密に検証するのが難しいのでその点はいったん横に置いておきますが、現状で少なくとも『i9 7900XはTDPの上限内であれば全コア4.0GHzのターボ―ブーストが可能』な仕様であると押さえておいてください。この数字は多くのマザーボードにおいてi9 7900XがCinebenchスコアで2180前後になることからも妥当な推測と判断できます。
今回は検証機材のマザーボードとしてASRock Fatal1ty X299 Professional Gaming i9を使用しましたが、X299マザーボードの多く(基本的にはほぼ全て)では名前に多少の違いがあると思いますが「短時間電力制限」というTDP制御を行う電力設定の項目が存在します。ASRock Fatal1ty X299 Professional Gaming i9の場合は単純にW単位なので140と入力すればTDP140W、180と入力すればTDP 180Wです。Autoの場合はマザーボードによって動作が異なると思いますが自動的にTDPの上限値が設定されます。
以上を踏まえて、i9 7900Xの消費電力やワッパについて事態をわかりにくくさせているのはIntelがX299のリファレンスマザーボードをリリースしていない点だと思います。
・CPUの仕様では少なくとも全コア同時4.0GHzまでブースト可能である
・TDPはマザーボードによって上限が定められている
以上の要件よって、多くのマザーボードでは全コアがフル負荷時であっても4.0GHzで動作するようにCPUの仕様に定められたTDP140Wという上限値を撤廃してしまいます。
リファレンスとなる環境が存在しないので全コア4.0GHz動作が定格として認識されているようですが(管理人も当初はそう思っていました)、おそらくこれは勝手にマザーボードがOC(TDPの変更)を行った結果であってIntelが言うところの定格とは異なるというのが実状ではないかと思います。
以上の予備知識を念頭にここからはいくつか検証グラフを見ていきます。
i9 7900XのTDP別の消費電力について
マザーボードの「短時間電力制限(TDP)」をAuto、120W、140W、160W、180WとしてCPUに動画のエンコードで負荷をかけた時の消費電力(平均電力)と瞬間最大負荷(最大電力)は次のようになっています。当然といえば当然ですが、TDPをBIOS上から制限することで綺麗に20Wずつ消費電力に差が出ていることがわかります。そして自動的に全コア4.0GHz動作するようにTDPが調整された結果、CPU単体の消費電力が200Wというしばしばi9 7900Xについて言及される数字が表れます。
ではTDP制御を個別に行った状態で動画のエンコード中のCPUコアクロックがどうなっているのか、というと次のようになりました。エンコード中のコアクロックの平均から簡単に1つのコアのについて抜粋しました。ほぼ同じ数字が10個並ぶだけですが全コアについてのグラフはこちら。
御覧のようにTDP140Wでも全コアが3.5GHz以上で動作しています。ここで思い出して欲しいのがi9 7900Xの仕様値の「ベース周波数:3.3GHz」で、TDP140Wの範囲内であればこの数字はおそらく守られているということもわかります。
加えて指摘をしておくとi9 7900Xの比較対象としてi7 6950Xが各所のレビューで使用されていますが、コアクロック・消費電力などの動作状況は次のように判別可能です。
Cinebenchスコア:1800前後→ TDP 140W制限、全コア同時3.4GHz
Cinebenchスコア:2000前後→ TDP制限なし(Auto)、全コア同時4.0GHz
TDP無視設定のi9 7900XとTDP140W制限のi7 6950Xが混在するレビューが少なくないことも管理人的には疑問を覚えるところです。
あとaviutl+x264の動画のエンコードを使用したCPU温度比較がこちら。今回検証機材のCPUクーラーには120サイズラジエーター簡易水冷CPUクーラー「CoolerMaster MasterLiquid Pro 120」(ファン回転数1200RPM固定)を使用していますが、TDP 140~160Wなら余裕、180Wならぎりぎり、Auto(実働200W程度)は無理、という結果です。240サイズ以上の簡易水冷やハイエンド空冷ならAuto(実働200W程度)でも問題なく運用できるはず。
またi9 7900Xの全コア同時4.0GHzの消費電力の大きさからX299マザーボードのVRM電源部分の温度問題も話題になりますが、これについてはマザーボード別で差があるもののせいぜい90度台に収まるようなので全コア同時4.0GHzであれば故障を心配するレベルではないと思います。実際に管理人含めて同じく10コアのi7 6950Xを4.2GHz前後で1年以上運用しているユーザーも少なくありませんし。
ただヒートパイプで複数のヒートシンクが接続されたモデルのほうがVRM電源温度が低くなるようなのでそういったマザーボードを選びたいところではあります。
i9 7900XのTDP別のマルチスレッド性能について
ではTDP別でCPU性能がどうなっているのかを見ていくと次のようになりました。TDP Autoに対してTDP140Wに制限されると1割程度性能が下がります。4.0GHz→3.5GHzで1割程度に収まる理由についてはマルチスレッド効率、シングルスレッド(もしくは2~4の少スレッド)に限定した場合のターボブーストなどだと思います。TDP Auto | TDP 180W | TDP 160W | TDP 140W | |
Cinebench | 2186 | 2180 | 2109 | 2004 |
エンコード(秒) | 3603 | 3792 | 3849 | 4017 |
TDP140Wにおいてi9 7900XのCinebenchスコアは上のように2000前後になりますが、同じくTDP140W制限下において前世代のi7 6950XのCinebenchスコアは1800程度となります。i7 6950Xの消費電力測定ができないので低く見積もってi9 7900XのTDPをさらに120Wまで下げてみても1900前後でした。Intelが定めるTDP140Wの下でi9 7900Xはi7 6950Xより高速です。
また動画のエンコード時間をTDP120Wのi9 7900XとTDP 140Wのi7 6950X(全コア同時3.4GHz)の2つで比較してみると7900Xは12分3秒、6950Xは12分21秒でした。
結論としてTDP140Wで制限して1割程度性能を落としてもi9 7900Xは定格のi7 6950Xよりも速いということです。
i9 7900XのTDP別のゲーム性能について
『でもTDP140Wに制限したらコアクロックが下がるからゲーム性能とかシングルスレッド重視の用途でだめになるのでは?』という疑問もあるかもしれませんが、結論から言ってそんな事態は基本的に発生しません。理由は単純でTDPの範囲内でターボブーストが効くからです。
今回はPCゲームに限定して説明しますが、動画のエンコードとことなりPCゲームにおけるCPU使用率は高くありません。要するにCPUの消費電力が小さいのでターボブーストが効いて全コア4.0GHzで稼働できます。CPUがフル稼働する動画のエンコードなどとは事情が大きく違います。
グラフィックボードをGTX 1080 Tiに変えてゲーム性能についても検証してみました。
一例としてFF14ベンチとGhost Recon Wildlandsで測定してみたコアクロックが次のようになっています。TDP AutoでもTDP 140WでもPCゲーム実行中のコアクロックに大した差がないことがわかりますね。
コアクロックがほぼ一致しているのですから当然の結果ですが、FF14ベンチとGhost Recon WildlandsのFPS推移を比較してみても差は出ません。
TDP制限をかけるとPCゲーム性能が下がるとかターボブーストの仕様を考えれば基本的にありえないことが明白だと思うのですが……。
ともあれ結論として、TDP 140Wの制限をかけてCPUフル使用のマルチスレッド性能が1割下がるからといって、ゲーム性能が同様に下がることもターボブーストの仕様から考えて基本的にありえません。
i9 7900Xは本当に爆熱のワッパ不良なのか?
i9 7900Xは本当に爆熱のワッパ不良なのか?という疑問については、「TDP Auto(実働200W)では消費電力が大きくワッパが悪い」ことは事実ですが、「TDP 140Wで見ると決して悪くない」という結論になります。i9 7900Xにしろ、i8 7820Xにしろ、Ryzen 7 1800Xにしろ、「多コアを低クロックで動作させた方がワッパが良くなる(見える)」というある程度実態に則した一方で数字遊び的な側面もありワッパについては評価が難しいところです。ただし少なくとも同じTDPで見た場合にi9 7900Xがi7 6950Xよりもワッパで劣るという可能性は極めて低いという点は押さえておいてもらいたいかなと。6950XもTDP140Wで全コア同時3.4GHzなので4.0GHzまでOCしたらおそらく7900Xと大差ない消費電力になるはずです。加えてターボブーストが6950Xの3.5Ghzから7900Xでは4.0GHz(仕様スペックでは4.3GHz)に上がっているのでPCゲームなど消費電力的に余裕がありシングルスレッドが生きる用途では6950Xよりも有利であることも疑いようのない事実です。
i9 7900X爆熱炎上問題に見る危惧
結局、i9 7900Xの消費電力やワッパに関する炎上の原因があるとすれば、「ターボブーストがTDP依存であること」「IntelがリファレンスM/B出さないこと」などいくつかの要因が合わさった結果、つまるところIntelのせいでもあり、M/Bベンダーのせいでもあり、というのが管理人の感想です。なにが悪いかといわれても複合的に色々悪いとしか言いようがなく……。
ターボブーストの上限が4.0GHzだった(CPUの仕様)
→CPUフル負荷でも全コア4.0GHzになるようにTDP無制限へ(マザーボードの仕様)
→消費電力は200Wへ
今回の検証結果から管理人が個人的に一番危惧しており、指摘したいポイントは『CPU&M/Bというプラットフォーム単位で見た時に実際に期待できる性能や対価(消費電力や温度)が不透明であるというユーザーにとって不利益な状況が発生している』ことです。
少なくとも上で検証したような結果をi9 7900Xのスペックシートから読み取ることは不可能です。できたとしてTDP140Wで最低でも3.3GHzで動作できることに留まります。
よくわからないものを売るからハチャメチャな検証結果が溢れかえるというIntelの自業自得という側面も否定はできません。本来スペックシートでわからない部分を埋めるためのES品レビューがスペックシートに則していないことが拍車をかけています。最低限、ES品のレビュー用にリファレンスのマザーボードを用意しろと……。
OCは自己責任というフレーズは至極当然なのですが、スペックシートを超えて勝手にマザーボードがOCするという、蓋を開けてのお楽しみな実態はK付きアンロックCPUをはじめとしてこれまでもあった話なので、潜在的に起こり得た問題がi9 7900Xを契機に表面化した形です。
TDP140Wが定格なのか、全コア同時4.0GHzが定格なのか。
程度の問題としてこれまでは許容されていましたが、TDP140Wを大幅に無視している以上、明確に自己責任な状態で大手メディアがレビューしてしまっているのははたして正常なのかと疑問が尽きないところです。
極端な話、TDPが無視される現状でi9 7900Xを運用してCPUかマザーボードが破損した場合、責任の所在がどうなるのか心配になる声があっても無理からぬことのように思います。
以上、Core i9 7900Xのレビュー第1弾「7900Xは本当に爆熱のワッパ不良なのか?」でした
X299シリーズのマザーボード販売ページ
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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