トップ > 一面 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

一面

志摩のペンギン「ウーちゃん」 飼育員と17年、最期も求愛

ウーちゃんをいとおしそうに見つめる飼育員の神村健一郎さん=4月15日、三重県志摩市の志摩マリンランドで

写真

 三重県志摩市の水族館「志摩マリンランド」で、飼育員への「いちずな恋」を貫いたフンボルトペンギンの雌、ウーちゃんが、十七歳で死んだ。イベント「ペンギンタッチ」で、八万人に体を触れさせた人気者。愛された飼育員の神村健一郎さん(47)は「信頼関係があったからこそ。たくさんの人にペンギンの魅力を伝えられた」と感謝する。

 二〇〇〇年四月に生まれたウーちゃんは、すぐに母親と死別。当初は別の飼育員が世話をしていたが、餌をやる手をくちばしでかみついた。だが、入社十三年目だった神村さんにだけは、なぜか懐いた。「声の質や雰囲気が好みだったのかなあ」と苦笑する。

 鵜のように首が長いから「ウーちゃん」。毎朝、神村さんを見つけると、よちよち歩きで駆け寄り、腹ばいになって足で地面をガリガリと引っかいたり、首を振ったりする求愛行動を取った。他の飼育員が近づくと、くちばしで突っついて威嚇した。

 神村さんがそばにいればおとなしくしていたウーちゃんは、ペンギンタッチで大活躍。入館者に近くで観察してもらい、神村さんが体の部位を解説したり、ふわふわの羽毛が生える背中をなでさせたりした。

 神村さんの声を聞き分けることもできた。「ウーちゃん、あいさつは」と耳元で声をかけると、必ず「フォン」と返事。他の人が言っても反応しない。息ぴったりのやりとりに、子どもたちからファンレターが届くこともあった。

 「ペンギンとして幸せになってほしい」と、何度も「お見合い」をさせた。同じ部屋に入れられた雄は、周囲をぐるぐる回って求愛したが、ウーちゃんが興味を示すことはなかった。

 異変が起きたのは五月下旬。無精卵を産んだ際、直腸も一緒に出てしまった。出血がひどく、すぐに手術を受けさせた。その二日後、「ウーちゃんが動かない」と連絡を受けた神村さんが駆け寄ると、腹ばいになっていた。声は出さなかったが、首を振るいつもの求愛行動。触れると体温が下がっていた。

 「大丈夫やで」。温めようとタオルで包み、抱き上げた瞬間、長い首からガクッと力が抜けた。「僕が来るのを待っていたんですよ。きっと」。人間なら七十代の高齢だった。

 ウーちゃんと「二人三脚」で歩んだ十七年。相方を失い、ふさぎそうになる気持ちを、新たな命が励ましている。三月に人工ふ化したケープペンギンの「プリン」。親代わりの神村さんの足元をよちよちと歩く姿が、かつてのウーちゃんと重なる。

 神村さんは出勤前、水族館近くの海辺にあるウーちゃんの墓に必ず立ち寄る。「君のことは忘れないよ。頑張るから見守ってね」

 (安永陽祐、写真も)

 <フンボルトペンギン> フンボルト海流が流れる南米ペルーやチリの太平洋沿岸に生息。餌の魚の乱獲や環境破壊などで生息数が減少しており、ワシントン条約で取引が制限されている。日本は気候が適し、飼育技術も確立されていることから、国内飼育数が最も多いペンギンとされる。体長約70センチ、体重約4キロ。水深50メートルまで潜ることもある。

 

この記事を印刷する

中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井 読者の方は中日新聞プラスで豊富な記事を読めます。

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索