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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第四章:回復術士は魔王を超える

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第十二話:回復術士の純愛が届く

 目を開くと、白い霧の外に飛ばされていた。
 見覚えがある風景だ。おそらく、白い霧の中に入ったときと同じ場所。
 周囲を見回して、安堵の息を吐く。

「ケアルガ様、ここはどこでしょうか」
「頭がぐわんぐわんする。セツナたちは家の中にいたはずなのに、急に飛ばされた」
「ケアルガ兄様、ご無事で何よりです!」

 病の雪を避けるために建物の中で休ませていたフレイアたちがいた。
 神鳥は意外と気が利くやつのようだ。

「みんな、無事でよかった」

 もし、フレイアたちがいなければ、また霧の中に突入しないといけないところだった。
 フレイアたちはそれぞれ試練がどうなったのかを聞いてきたので、今回の主役のほうに視線を向ける。

「ケアルガ、ありがと。ケアルガのおかげで神鳥を手に入れたよ」

 今回の主役はイヴだ。イヴが神鳥を使役できるようになるために、ここに来たのだから。

 イヴの銀色に染まった髪が風になびいている。そして、紅くなった瞳は魔性の魅力を醸し出してた。
 銀色の髪も、紅い瞳も、イヴが生まれ持ったものじゃない。
 神鳥の力を授かった証だ。

 そして、俺も神鳥の力を左眼に得ていた。両目の翡翠眼のうち片方だけが、神鳥の眼を得て別の魔眼へと変化したのだ。
 その力は、翡翠眼にも引けをとらない。これからは二種の魔眼を運用できる。今から第二の魔眼を使うのが楽しみだ。

「感謝はいらない。俺はイヴを連れて行っただけだ。試練を乗り越えたのはイヴの力だよ」
「それでも、ありがと。たぶん、ケアルガが背中を押してくれなきゃ、きっとここにはこれなかったから。ケアルガには、恩を受けっぱなしだね。そろそろ、ちゃんとお礼をしないとダメかも」

 イヴが微笑む。
 吹っ切れたような顔だ。
 今まで、神鳥の試練を乗り越えたのは、イヴのご先祖様だけだった。
 そんな試練を達成したことが、イヴの自信につながっているのだろう。

「イヴが礼をしたいというなら、やぶさかじゃない、抱かせてもらおうか」

 いつものようにからかう。イヴの反応は面白いので、反射的にこんなことを言ってしまうのだ。
 怒らせてしまうとわかっていてもやめられない。

「……ケアルガなら。うん、いいよ」
「えっ?」

 予想外の答えだったので、一瞬素に戻ってしまった。
 俺の反応を見て、イヴがからかわれていると気づいて顔を真っ赤にする。

「ケアルガのばか! 冗談だったんだね! せっかく、決意したのに! ばか! これだから、ケアルガは、ケアルガは!」

 涙目になりながら、胸板を叩いてくる。
 そんな、イヴを抱きしめる。
 イヴが体重を預けてくれた。

「ごめん、まさか本当に受け入れてくれるとは思わなかったからさ。正直、とまどった。嬉しいんだ。すごく、今日はたっぷり可愛がってあげるよ」
「ううう、やっぱダメ。ケアルガみたいな人は、知らないよ」

 さっきの俺の反応ですねてしまったようだ。
 さて、こういうときは……。

「本当に好きなんだ。イヴを抱きたい。お願いだ」

 愚直に甘い言葉を重ねる。
 そうすると、押しの弱いイヴは押し切れるだろう。

「……ずるいよ。そんな言い方。でも、うん、いいよ。ケアルガに全部あげる」

 イヴが顔をあげて、うるんだ目で見つめてくる。
 唇を奪う。イヴは抵抗しなかった。
 舌を絡める大人のキスをした。

 イヴの味を堪能する。キスというのは面白い、女の子ごとに匂いも味も、感触も違う。
 たっぷりとキスを楽しんだあと、イヴと離れる。

「セツナ、今日の夜は悪いが」
「ん。今日はイヴだけを可愛がって。最初の夜はイヴだけを愛してあげて」
「そうさせてもらおう」

 普段は、夜はレベル上限解放が必須なセツナ、そしてもう一人でローテーションを回しているが、やっとイヴと結ばれるのだ。
 今日ぐらいはイヴだけを愛そう。

「よかった。初めての夜だもん。私だけを見てほしいよ」

 イヴは嬉しそうにはにかんでいる。
 この決断をしてよかった。
 フレイアとエレンは顔を赤くしてきゃあきゃあ言っている。嫉妬はしていないようで何よりだ。

「イヴ、それにしてもどうして急に許してくれる気になったんだ?」

 俺の予想ではもう少し時間がかかると思っていた。
 それに、体を許すにしても感情ではなく、快楽に負けて済し崩しになると思っていたし、そうなるように仕組んでいたのだ。

「……ケアルガは、ずっと優しかったから。それに、黒翼族の集落に来てから、素敵なところを見せてくれた。だから、好きになった。そりゃ、性格悪いし、浮気性どころか浮気を浮気とも思ってないし、エッチだし、変態だけど、それでも、好きになったから」

 イヴが微笑む、いろんな感情が混ざった、そんな微笑み。
 きれいだと思った。
 ……今日の夜は、全身全霊を込めて可愛がってやろう。
 ようやく、俺の純愛が実ってくれた。

「みんな、黒翼族の集落に戻ろうか。神鳥を手に入れたことを報告しないとな。ミルじいさんたちも心配してる。それから、帰り道に狩りをしておこう。また、みんなにごちそうを食わせてやらないとな」

 俺がそういうと、みんながうなづき、声をあげる。
 ラプトルを止めている場所に戻ろう。

 あいつらもきっと俺たちの帰りを待っているはずだ。
 そんなときだった。
 イヴが急に膝をついて、自分の体を抱きしめ、震え始める。
 黒い翼が極限まで大きく展開された。

「イヴ、何があった!? 神鳥の力の副作用か!?」

 あわてて、駆け寄る。
 イヴの眼には涙が伝っていた。
 明らかに異常なことが起ってる。

「みんな、みんなの、魂が、翼に、流れ込んできてる。一人、二人じゃない、何人も、何人も、ケアルガぁ、おかしいよ。なんで、なんで」

 イヴが泣きながら、俺の顔を見た。
 イヴのこの反応も無理はない。
 ……イヴは【黒翼召喚】という技能を持っている。

 翼に宿った黒翼族たちの魂を使い魔として召喚する技能だ。
 そして、それは無念のうちに死に、成仏できない魂たちがイヴの翼に宿ることを意味する。

 イヴの言葉の意味するところは、今、この瞬間何十人もの黒翼たちが殺されて、成仏できずに亡霊となり、イヴに己の無念を晴らしてくれと、縋り付いているということだ。

「理由はわからない。だけど、黒翼族の集落が襲撃を受けているはずだ! 急いで戻ろう。少しでも早く黒翼族の集落へ!」

 黒翼族たちのほとんどは魔王の手によって殺されている。
 かろうじて生き延びたものたちは、各地へ散っている。
 あの集落が襲われているのでもなければ、何十人も一度に死ぬことなんてありえない。

 あの集落の人たちはいい人ばかりだった。
 人間でしかも勇者の俺を受け入れてくれた。イヴのことを頼むと信頼してくれた。
 彼らを見捨てるわけにはいかない。

「そうだね、そうしないと、悲しんでる場合じゃないよね。一人でも助けたい」
「ラプトルじゃ、数日かかる。イヴ、神鳥を呼べるか? あいつなら俺たちを運べるはずだ。無理にとは言わない。できるか、できないかをいえ」
「やる。ここで使わないなら、試練を受けた意味なんてないもん」

 イヴが立ち上がる。
 そして目を閉じて魔力を高めていく。
 イヴのもつ、魔力が渦巻いた。

 魔力を持つものならだれもが畏怖するほどの魔力量。
 イヴが目を見開く。血色の眼が輝いていく。彼女の足元に巨大な魔方陣ができた。

「旧き盟約により命ずる。風と死を運ぶモノ、我が魂の伴侶、カラドリウス。今、ここに顕現せよ!」

 イヴの力ある言葉により、門が開かれる。
 地面の魔方陣が空に投射され、魔方陣の中から翼で体を覆った白い巨鳥が現れた。
 そして、翼を展開する。

『早い再会となったな、小さきものたちよ。我を呼ぶ意味はわかっておるだろうな』
「わかっているよ。必要だから呼んだの! 私たちを運んで、神鳥カラドリウス」
『ほう、そういうわけか。よかろう、我の力で送り届けてみせよう』

 カラドリウスの何か、魔術を使った。
 白い膜に、俺やイヴをはじめとした全員、それに少し離れた場所にいたラプトルまでもが包まれて、神鳥に引き寄せられる羽毛に埋まる。
 ……ラプトルまでとは、本当にこの神鳥は気が利く。

『とばすぞ。気を失うな』

 その言葉と共に、カラドリウスが全力で飛行する。
 音の何倍もの速さまで急激に加速。おそらく、この白い膜が俺たちを守ってくれているのだろう。でなければ、加速だけで全員死にかねない。
 神鳥、これほどの力を持っているのか。

 ◇

 三十二秒。
 たった、それだけでラプトルで数日かけた距離をゼロにした。

 空から集落の様子を眺める。
 それは地獄だった。
 黒翼族の集落は火に包まれていた。

 何百もの魔族と魔物が集落を襲撃している。
 一方的な戦いだ。いや、ここまでくれば虐殺だ。
 それも……もう、終わっている。

 今ここでやっているのは、死体の処理と生き残りがいないかの家探し。
 間に合わなかったのだ。
 なんて、不運。もし、あと一日、いや、あと数時間試練を超えるのが早ければ。
 もしかしたら間に合ったかもしれない。

『小さきものたちよ。もう、ここに助けを求めるものはいない。いるのは醜い獣だけだ。そして、ここにいるものたちを、お主たちだけで倒すことはできぬ。ここから離れることを進言する』

 敵を討ちたい気持ちはある。
 だが、それはただの自殺行為だ。

 俺はさきほどから、【翡翠眼】を使っている。
 襲撃者である魔族と魔物をこの眼で見た。

 こいつらは強い。挑めば、どう戦おうと死の運命しか見えない。現魔王が本腰を入れたことがある。間違いなく魔王軍の中でも精鋭部隊だ。
 もし生き残りがいるのなら無理をする意味はある。
 ……だが、それは絶望的だ。
 無理をする必要はない。ここは逃げるべきだ。

「神鳥カラドリウス」

 イヴが冷たい声を出す。
 それは、怒りが臨界点を超えたゆえの冷たい声。俺も知っている。怒りの炎はある一点を超えると氷になるのだ。

『なんだ、小さきものよ』
「あなたの力を使って」
『その意味はわかってるいるのか? 今、あの者たちを倒したことろで、誰ひとり救えないのだぞ。我を呼んだだけでも、負担が大きいのに、力を使おうものなら』
「いいから、使ってカラドリウス! 命令! はやく!」

 イヴが叫ぶ。
 きっと、今からすることに意味はない。
 誰も救えない。それどころか、イヴは力を使った対価を求められるだけ。

 損得で考えれば、損しかない。
 だけど、俺にはイヴの気持ちがわかってしまう。

 許せないのだ。意味なんてなくても、そうしないといけない。じゃないと壊れてしまう。

 だから、好きにやらせることにした。
 ここで、イヴが何を失っても支えてやろう。それこそが俺の役割だと信じて。
 神鳥が集落の真上に移動し、翼を広げた。
 そして、神鳥はその力を行使する。死病の神鳥、伝説となり恐れられた、その力を。
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