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第十話:回復術士は神鳥の試練を受ける
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※綺麗なフレア王女!

全員で白い霧の中に入る。
すると、そこは街だった。
だが、すべてが白い。
白い石造りの街。冷たい空気が頬を撫でる。ひどく寂しい。人の気配どころか、生物の気配がない。
「みんな、ちゃんといるな?」
星の巡りがよくないと、どこに飛ばされるかわからない不思議な霧だ。全員の無事を確認しないといけない。ばらばらになることは避けたい。
「ケアルガ様、セツナはいる」
「私も大丈夫です」
「ケアルガ、ちゃんといるよ」
「心配無用ですよ。ケアルガ兄様」
良かった。全員そろっているようだ。
「俺からはぐれるな。セツナ、周囲の気配を探ってくれ。フレイア、【熱源探知】の術式で周囲に生き物がいないかの確認だ」
二人がうなづき、周囲を調べ始める。
何があるかわからない。最大限の警戒が必要だ。
「ケアルガ様、セツナの耳じゃ何も感じない」
「こっちもですね。少なくても半径五百メートルに私たち以外の熱源はないです」
「そうか、とりあえず街をまっすぐに抜けよう。おそらくだが、神鳥を見つけるのも試練の一つだ」
最悪のケースは、実は星の巡りを読み間違えて、変なところに飛ばされていることだ。それを言うと士気を削ぐので口にはしないが、違和感がないかは確認しながら進もう。
俺たちは、街道をひたすらあるく。
この街道は、街の中央にある、広く歩きやすい一本道だ。
二時間ほど歩いたが、街の果てがまだ見えない。これだけ歩いて、道の終わりが見えないのは異常だ。
セツナの耳での警戒は歩きながらも行っているし、フレイアの熱源探査も定期的に行っている。それでも、なにも引っかからない。
しょうがない。ちょっと荒い手を使うか。
「セツナ、耳を澄ませておいてくれ。着弾と同時に爆発する光弾を放つ。光の速さだ。行きは無視して、音が戻ってくるまでの時間で、どれだけの間、この道が続くかわかるはずだ。セツナ、フレイアの爆発魔術の音は何度か聞いたことがあるだろう? あの音量なら、どれぐらいの距離まで聞こえる?」
「魔力を耳に集中させれば、二百キロ先からでも聞く自信がある」
「よし、ならやってみよう」
セツナが狼耳をぴんとして手をあて魔力を集中させるのを見届けてから、特大の光の弾を作る。
光の属性を持つ爆発魔法。光魔術の中でも上級魔術に分類される。
それを見たイヴが羨ましそうな顔をしている。まだイヴには到底不可能な魔術だ。無理もない。
光の弾を放った。
光の弾は、当然のように光の速さで直進する。
さて、何秒後に音が聞こえるかな?
「冗談だろ?」
どれだけ待っても音が聞こえなかったようだ。
セツナが首を横に振る。
それが意味するところは……
「少なくても、この道は二百キロ以上続いているか……あるいは終わりがないな。さすが、神鳥の試練。理不尽なことをしてくれる」
ただ、まっすぐに進んでも意味がない。
なら、何をすればいい?
そんなことを考えていると、雪が降り始めた。
体感での気温は二十度近い。雪なんて振るわけがない。
違う、これは雪なんかじゃない。
「今すぐ、建物に隠れろ! これは毒だ!」
気づいたころには遅かった。
セツナたちが次々に倒れていく。イヴだけが調子悪そうにしているものの、なんとか立っている。
俺は舌打ちする。
俺自身も毒にやられている。だが、【神装宝具】ゲオルギウスの【自動回復】が発動しているから倒れずに済んでいるだけだ。
やっかいなのは、治すはしから、毒に侵され、【自動回復】が発動するせいで、どんどん魔力が消費されていくこと。
俺の体は、毒にかかるたびに抗体を作るように弄っているが、絶え間なく降り注ぐ毒の性質が変わり、抗体が追いつかない。さすがは神鳥の毒、なかなかにうっとうしい。
なんとか、セツナ、フレイア、エレンを背負う。
「イヴ、おまえも背負ったほうがいいか?」
「私は大丈夫だよ。自分で走れる」
「なら、ついてこい!」
俺たちは、一番近くの建物に向かって走り出した。
◇
建物に入り、白い雪から逃れた俺たちは、全員を【回復】する。
さすがは、神鳥の試練だ。
もし、【回復】が遅れていたら全員、死んでいただろう。
さすがに、これにはみんな、多かれ少なかれ動揺している。
こういうときは、前向きにしないといけない。
「よかった。こんな毒を撒けるのは神鳥しかいない。最悪の想定は、神鳥がいないどこかに飛ばされたことだが、少なくてもそれはなくなったな」
茶化すように言う。
少しはみんなの動揺も収まったようだ。
「ねえ、ケアルガ。これからどうする」
「神鳥はたぶん、この街のどこかにいる。なら、探すだけなんだけどね。総当たりでつぶしていくには、この街は広すぎる。だから、魔力を逆探知しよう。せっかく、病の雨なんて降らしてくれたんだ。そいつを辿らせてもらおう」
【翡翠眼】で、この病の雪の発生源はたどれる。
となれば、建物を出て病の雪を浴びなくてはならない。そのリスクを覚悟で飛び出す。
抗体を作れない病を【自動回復】しながら、走り抜けるなんてことをすれば、あっという間に魔力が切れて詰むだろう。手動の【回復】を限界まで耐えてから使用することで魔力を温存しながら進まないといけない。
これは、神鳥をたどるのが先か、俺が倒れるのが先かの戦いだ。
「みんなは、ここで休んでいてくれ」
セツナたちは、自分もついていくといいかけてやめた。
足手まといにしかならないとわかっているのだ。
だけど、イヴだけが口を開く。
「私も行く」
「許可できない。足手まといを癒して魔力を浪費する余裕がない」
「回復はしなくてもいい。黒翼族は毒の耐性が人間よりずっと上。倒れたら置いて行っていいから」
その目には覚悟があった。
イヴは、この試練は自分の試練だと言っていたのを思い出した。
彼女だけは俺について来ているのではない。自分の意思でここにいる。……なら、何を言っても付いてくるよな。
「わかった。その覚悟があるならついてこい。一応、これを飲んでおけ」
そういって、ポーションを二つ取り出し一つをイヴに渡す。
「これは?」
「栄養剤たっぷりで体力をつける効果と、一時的に体の免疫力をあげる効果があるポーションだ。神鳥の毒に対しては気休めだけど、ないよりマシだ」
自分も接種しておく。
そして、ゲオルギウスの設定を弄り、【自動回復】を切っておく。
毒になるたびに癒していたら、魔力がいくらあっても足りない。
ある程度、耐えてから手動で【回復】しよう。
◇
俺とイヴは走っていた。
【翡翠眼】を発動し、病の雪の根源をたどる。
身体能力を強化し、石の家の天井を走る。
雨対策に持っているレインコートを纏ったことで、少しは毒の雪がマシになった。
「イヴ、大丈夫か」
「全然平気」
イヴが強がりを言う。
俺の眼で、イヴの体調は見抜いている。ほんとうは倒れる寸前のくせに。
だが、もうすぐ呪いの雪の発生地点にたどり着く。
付いた。
それは、白い球体だった。空高く浮かぶ白い球体から病の雪が吹き荒れている。
「イヴ、あれを打ち抜けるか」
「任せて!」
イヴが手のひらを空に向ける。
魔力を高め……。
「【光の槍】」
光の帯を放つ。
指先で放つ【光の矢】に比べて圧倒的な魔力。
光の帯が白い球を貫いた。白い球がえぐれ、そこを中心に罅が伝播していき、砕けた。白い雪が止む。
そして、白い球の中にいたのは翼で全身を包んでいた巨大な鳥だ。鷹のようなすらりとシルエットの白い鳥。あの白い球はやつが眠る卵。
あいつの正体は神鳥カラドリウスだ。あいつを見つけ、殻を割ることが最初の試練。なら、ここから何かがある。
その予感は当たった。
神鳥カラドリウスが翼を広げる。その瞬間、黒い闇に包まれた。
白い石の街も、神鳥も、イヴも、なにもかもが見えなくなる。
まるで、別の世界に連れ込まれたかのようだ。
「神鳥は、病との闘い、そして心を試すと言っていたな」
ミルじいが教えてくれたことを思い出す。
今までのが、病の試練なら、ここからは心を試す試練のはず。
いったい、何をしてくるののだろうか?
「イヴ、無事か!?」
イヴの気配を感じない引き離されてしまった。いそいでこの試練を突破しないといけない理由が増えた。
どんな試練をするにしても、はやくしてほしい。
その願いが通じたのか、試練らしきものが始まった。
周囲から足音が聞こえてきた。
「にくい、にくい、貴様のせいですべてを失った」
かつて、俺が殺した王女フレアの近衛騎士隊長が現れる。彼は血まみれで呪詛をはく。
「おまえさえ、いなければ、僕は可愛い女の子をもっと抱けたのに。おまえのせいで」
俺が復讐を実行し、男の仮面を剥いだせいで、最後の最後に女として死んだ【剣】の勇者が血の涙を流しながらにらんでくる。
ほかにも、今まで俺が殺してきた連中が次々に現れて、恨み言をはく。
なるほど、これは俺の罪か。
どうやら、神鳥の試練とは自分の罪と向き合う試練のようだ。
亡者どもは、次々に俺の罪を糾弾する。
俺を生きていてはいけないらしい。
死ね、死ね、死ねの大コーラス。
まともな人間なら、罪の意識にさいなまれ死を選ぶかもしれない。
「あはははははははっ」
気が付けば笑っていた。
ああ、気持ちいい。
そうか、こいらはこんなに俺を憎んでくれていたのか。
かつての俺のように。
なんて、なんて最高なんだ。俺の復讐は間違っていなかった。
だって、こんなに、こいつらは俺を憎んでいるのだから! その憎しみが俺の快楽だ! 死んで呪ってくれるほど憎んでくれるなんて、苦労した甲斐があったというものだ。
なにより……。
俺は近衛騎士隊長の頭をつかみ地面にたたきつけ、つぶす。
彼の剣を奪い、その剣で【剣】の勇者ブレイドの首をはね、その首を亡者の群れに蹴り飛ばし、死体を辱める。
「ちょうど、復讐したりないと思ったんだ。残尿感って言うのかな? もう少しいたぶっていれば良かったって後悔してた。生き返ってくれてありがとう! また、殺して凌辱できる。なんて、親切なんだ神鳥は!」
憎い奴を二回も殺せるなんて、こんな幸せはない! きっと俺の日頃の行いがいいから、神様が暮れたご褒美だ!
神鳥がどんなつもりで、こんなことをしているかわからない。
だが、こんなチャンスは二度とないだろう。
二度とないはずの復讐の二度目を味わえる。この幸せを味わうために、この亡者たちを、殺して、嬲って、辱めて、すりつぶそう。
さあ、お楽しみはこれからだ!
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