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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第四章:回復術士は魔王を超える

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第九話:回復術士は神鳥の渓谷を訪れる

7/1 角川スニーカーさんから書籍化一巻が発売! セツナも喜んでいます!
挿絵(By みてみん)
※挿絵の一枚です。未来《ち○○》を選んだセツナ。この後の本番まで読めるよ!
 俺の作ったパイでお腹を膨らませたあとは、ラプトルで山道を走っていた。
 ラプトルはいい。どんな荒れた道も踏破できる。

「イヴ、道はこっちでいいのか?」
「そうだよ。たぶん、日が暮れるまでには着きそうだね」
「わかった。にしても暇だな」

 木々が少ない山道だ。
 周囲に魔物の気配がなく、狩りもできない。
 景色もいい加減飽きてきた。刺激がほしい。

「そうだ、エレン。いいことを考えた。つながったまま走るっていうのはどうだ?」

 ラプトルの揺れに身を任せるのもなかなか楽しそうだ。これなら、長時間楽しめるし、いい娯楽になる。

「……恥ずかしいですが、ケアルガ兄様が望むなら、いいです」

 エレンは照れて、桃色の髪の隙間から見える耳が赤くなってる。

「なら、こっちを向いて抱き着いてもらおうか、両足で俺の胴を挟んでもらって……」
「ケアルガは、また変なこと言って。最近、見直したばっかりなのに! ケアルガは私が見直したら、すぐに台無しにしないと気が済まない病気かな!?」

 イヴが大声を出すものだから、ラプトルがびっくりして大きく揺れた。
 ただの冗談なのに、本気になりすぎだ。
 こんな反応をされると、逆にやりたくなってしまう。

「ただのケアルガジョークだ。楽しそうだと思ったのはほんとだけどね」
「……残念です。ケアルガ兄様に、かわいがってもらえると思ったのに」

 恨めしそうな顔でエレンがイヴのほうを見て、イヴが驚いた顔をする。

「エレン、そっちは今日の夜にゆっくりとね。今日はエレンの日だ」
「楽しみです。ずっと、順番が来るのを待ち望んでいました!」

 そういいつつ、エレンは俺の胸にもたれかかってくる。
 この子は小さいのに、ずいぶんとエッチな子だ。いろいろと積極的で、相手をするのが楽しい。

「それはそうとイヴ。一応確認しておくが、おまえの翼に宿った黒翼族の魂を使った召喚魔術、あれは使えないんだな? 神鳥の試練の前に手札はきっちり確認しておきたい」

 一度目の世界で、イヴと戦ったときのことを思い出す。
 黒い翼の天使たちを次々に召喚してくる攻撃は非常に厄介だった。あの力だけで真正面から【剣】の勇者ブレイドを撃退したぐらいだ。できれば、頼りにしたい。

「……できないよ。私にあの力は使えない」

 含みのある声音でイヴが言った。
 直感的にわかる。
 使えないというのは、レベルや技量の問題ではなく感情的なものだ。

「わかった。そっちには頼らないでおく。それと、光の魔術はだいぶ使えるようになってきたから、そろそろ闇の魔術の勉強もしようか。あれはあれで便利だ」
「うん、お願い。私もできることを増やしたいから」

 黒翼族の村に行ってから、イヴは今まで前向きになった気がする。それだけでも黒翼族の村に行った意味があったと言えるだろう。
 ミルじいさんの顔が頭に浮ぶ。あっ、ブーツの紐が切れている。不吉なことが起こらなければいいが。

 ◇

 休憩をはさみながら、走り続けて数時間。
 やっと目的地についた。
 神鳥の住む渓谷。その手前の丘だ。今日はここで野営をする。

「すごいな、渓谷全体が白い霧に覆われてる。……あの霧から強い魔力を感じる」
「あれはただの霧じゃないよ。時空が歪んでる。飛び込んだら、どこに飛ばされるかわからない。あの霧の中で自由に動けるのは神鳥だけ」
「なるほど。もしかして、決まった時期にしか神鳥の試練を受けられないのはあれのせいか」
「うん、星と月の動きで霧の行き先が変わるみたいで。明日から数日間だけ、ちゃんと霧の向こうが、神鳥の渓谷に繋がるんだ。この時期を逃したら、あそこに入るのはただの自殺行為だよ」

 面白い仕組みだ。
 そして、注意しないのは入るときだけじゃない。出るときもだ。

「ちゃんと出られるのか」
「伝承によるとね。神鳥様に認められないうちに霧の外にでると、とんでもないところに飛ばされるみたいだね。一度入ったら、試練が終わるまで逃げることすらできないんだ」
「状況は理解した。今日は英気を養って、明日の早朝、神鳥の試練に挑もう」

 どっちみち、今日は霧の先が神鳥の渓谷に繋がっていないのだ。
 今日の夜、イヴが星の並びを見て最終的に行けるかを判断する。
 セツナたちのラプトルも追いついてきた。
 さて、野営の準備をしようか。

 ◇

 野営の設置をした後、俺とイヴは夕食の調達に出かけていた。
 魔物の気配を感じたのでイヴと二人で飛び出した。

 見つけた魔物は灰色の大型の犬だ。特徴的なのは、前足が異常なまでに筋肉質で、爪が肥大化していること。

「イヴ、ついてこれるか」
「セツナのおかげでだいぶ体力がついたからね」

 犬型の魔物だけあって、素早い。
 それでも追随できるのは、俺たちのレベルが上がり、ステータスが上昇しているからだ。

 俺の【翡翠眼】は、あの魔物に適応因子があることを見抜いている。なんとしてでも仕留めない。
改良ヒール】で、速度特化にすれば軽く追いつけるだろうが、今回はイヴに頑張らせてみよう。
 ちょうど、闇属性魔術の修行をさせたいと思っていた。

「イヴ、闇の魔術を使ってみよう。一番シンプルなやつでいい。あの、犬の周囲一帯を闇で包め。できるか?」

 闇魔術は、文字通り闇を操る魔術だ。
 光や四属性と違い直接な攻撃力を持たせることは難しい。中級以上の魔術でないと破壊力のある魔術にならない。
 だが、応用力があるし、からめ手にも使える。

「わかった。やってみるよ」
「全力で、なるべく広くだ」
「見てて、はああああ、【漆黒】!」

 イヴが翼を広げて両手を突き出す。
 全力で走る犬の魔物を中心……にするつもりが、それなりずれたところに黒い球が出きて、闇が一気に広がる。
 闇に覆われて、前方が見えなくなり、どすんっと鈍い音が聞こえた。
 俺の【翡翠眼】にはすべてが見えている。
 視界を奪われて、犬の魔物が木にぶつかったのだ。
 急激な視界の消失は、かなり有効な手だ。

「イヴ、よくやった。次は光の魔術だ。よく狙え」

 立ち止まり、イヴの背後に立ち、彼女の指をよろめく犬の魔物に向けさせる。
 闇の中でも俺には見えているため、照準がつけられる。

「ケアルガ、ここでいい」
「完璧だ」
「なら、いくよ。【光の矢】!」

 イヴの指先から一筋の光が放たれる。
 光の矢は闇を切り裂き、指差した方向へ一直線に進む。
 ずいぶんと成長した。初歩の光の魔術とはいえ、ちゃんと狙ったところに飛んでいる。
 光の矢は犬の魔物の頭を貫いた。
 イヴの闇が散っていく。イヴにも頭を貫かれた犬の魔物が見えたようだ。

「やった! ケアルガ、やったよ」
「そろそろ基礎は十分だ。次はもう少し難しい魔術をやろうか」
「うん! 楽しみ。最近、魔術の修行が面白いんだ!」

 イヴはもう立派な戦力だ。
 貫通力と直進性が高い【光の矢】を後方から連射してくれるだけでも、非常に有効な援護になる。

「でも、ケアルガって私に光とか闇の魔術を教えられるの? とくに難しいやつとか」
「愚問だな」

 その二つの魔術は非常にレアだ。
 実際、イヴから【模倣ヒール】するまで、使えなかった魔術。

 だが、得てしまえば、発展させるのはお手のもの。
 魔術全般の知識とコツを俺は知っているし、隠れてこそこそ練習していた。

「まあ、見ておけ」

改良ヒール】で、技能に光魔術をセットする。
 そして、手のひらの上に光の玉を作り上に放り投げる。

 光の玉がはじけ、八つの光の矢が四方に放たれ、木々に実っていた果実と枝の間を通り抜け、果実を傷つけずに落とす。
 落ちた果物は優しい風に拾われて、俺の元に運ばれてきた。

「これぐらいの精度はイヴに身に着けてほしいかな」
「できるかっ! というか、どうしてケアルガはできるんだよ!?」
「才能と努力。才能は俺よりイヴのほうが上だから、イヴが努力さえすればいつか身に着けられるよ。さて、戻ろうか。夕食もデザートも手に入れたしね」

 この犬の魔物は煮込みにしよう。
 素早さの適合因子はなかなか貴重だし、重要なステータスだ。
 さらに肉を食えば精も付くだろう。
 明日の試練に向けて、いい景気づけになる。

 ◇

 そして、日が明けた。
 試練に向けて体力を温存するために、セツナ教官の訓練はお休みだ。
 朝食を食べて、白い霧の前まできた。

「さて、みんな行こうか。一度、この中に入ると試練を達成するまで、出ることはできない。そして、試練に失敗すれば死だ。たった一人を除いて、試練に成功したものはいない。怖いと思うのなら、ラプトルと一緒に留守番してもらって構わない」

 そういって、全員の顔を見る。
 その顔には怯えがないどころか、やる気に満ちていた。

「ケアルガ様が、負けるところが想像できません。それに私はケアルガ様の従者ですから」

 フレイアは柔らかく微笑む。

「セツナはケアルガ様の所有物もの。道具が主と共にないのはおかしい」
「試練より、ケアルガ兄様と離れ離れになるほうが、ずっと怖いです!」

 お子様二人組もやる気にあふれている。
 そして……。

「神鳥の試練は、私の試練でもあるんだよ。いつまでもケアルガにおんぶ抱っこじゃいられないもん。それにね。もう、逃げるのはやめたんだ」

 イヴは、にやっと笑った。
 楽しそうですらある。

「わかった。じゃあ、全員で行こう。神鳥の試練とやらを存分に楽しませてもらおうじゃないか」

 そうして、全員でうなづき合い、白い霧の中に入っていく。
 誰一人、背中を向けないことが嬉しかった。
 気分が高揚している。どんなことが起ころうと、負ける気なんてみじんもしなかった。
 
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