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第七話:回復術士は卵に魔力を注ぐ
ミルじいから神鳥の卵を受け取り、一日が経っていた。
面白いことに生まれてくるのは神鳥ではなく、育ての親の魔力と精神の影響を受けて姿形を変えるらしい。
神鳥の卵は心を映す鏡。悪人からは醜悪な魔物が、善人からは清らかな魔物が生まれてくるとのことだ。
どんな魔物が生まれてくるか楽しみだ。
俺が育てるんだ。それはそれは素晴らしい魔物が生まれるあろう
ただ、手放しに喜べない部分もある。
ミルじいの話では、最初に卵を起こす必要がある。弱い魔力であれば、卵が起きることはない。生半可な魔力ではだめなようだ。
「まさか、俺が全力で魔力をそそいでもピクリともしないとはな」
すでに卵を受け取った日に一度魔力を注ぎ、見事に失敗している。
通常時の俺の魔力では足りないらしい。
だから、今日は入念な準備をしたのだ。
【改良】で、ステータスを極端に魔術士よりにした。それだけでなく技能もすべて魔力を強化するものを選んである。
さらに、MPの上限は上げられても、総量は【改良】では回復しないので魔力回復ポーションをたっぷり飲んで、ぐっすり眠って限界まで魔力を回復している。
それだけでは飽き足らず、無理やり限界以上の魔力を引き出すドーピングまで行っていた。
そして、今からリベンジをする。
借りている家の外で卵と向かい合っていた。
「これでだめならどうしようもないな。俺の全身全霊を受けてもらおう」
さあ、最初で最後のチャレンジだ。
精神集中し、俺の頭より大きな卵をにらみつける。
「ケアルガ様、がんばって」
「ファイトです! ケアルガ兄様」
セツナが狼尻尾を振りながら、エレンがフレイアに似た桃色の髪を風になびかせながら声援を送ってくれた。
ちなみに、フレイアとイヴは買い物に向かっている。
いよいよ、三日後、神鳥の試練に出発する。そのための旅支度で買い物なれしているフレイアと、黒翼族受けがいいイヴを買い物係に任命した。
大量の肉を提供したおかげで、村人たちは非常に強力的で、必要なものを譲ってくれそうな雰囲気だ。
おっと、集中力が乱れてしまった。気合を入れなおそう。
二人にかっこ悪いところは見せられない。
よし、今度こそやろう!
「……これが俺の全部だ。うけとれええええええええええ」
右手に全魔力を集めて、卵に叩きつける。
急激な魔力の消失により、とてつもない倦怠感が体を襲う。
奥歯を噛んで、ぐっとこらえる。負けてたまるか。
絶対に、神格の魔物を生み出し育てるのだ。こんな面白そうなもの諦められるわけがない。
倦怠感に耐えながら、魔力を注いでいくが、魔力残量が心もとなくなっていく。まだか、まだ足りないのか!?
残りの魔力は、四割、三割、二割、一割……。
だめだった……そんな考えがよぎったときだった。
卵が動いた。
どくん、どくんっと鼓動が手のひらに伝わってくる。
「手こずらせてくれる」
なんとか成功した。
ちゃんと、卵は起きてくれて呼吸を開始した。
俺はその場に座り込み、安堵の息を吐いた。
「ケアルガ様、ケアルガ様の卵、ちゃんと起きてくれた?」
セツナとエレンが駆け寄ってくる。
「ああ、ちゃんと起きてくれたよ。触ってみればわかる」
俺がそう言うと、興味津々といった様子で二人が卵をぺたぺたと触る。
「ほんとだ、動いてる。可愛い」
「ケアルガ兄様、この子はいつ生まれるんですか?」
そう言えば、それは聞いていなかった。
いつだろう?
背後から足音が聞こえて、振り向くとミルじいがいた。
「とんでもない魔力を感じたので来てみました。おおう、婿殿はさすがですな。まさか、本当に卵を起こしてしまうとは」
……婿殿とは気が早い。突っ込むのもあれなのでスルーしよう。
なにより、彼が現れたのはちょうど良かった。
卵について聞こう。
「ぎりぎりですね。でも、ちゃんと起きてくれました。ただ、ここからどうするか途方にくれております」
「うむ、こうして呼吸を始めればとくに何もしないでいい。あとはあなたから漏れ出た魔力と心を勝手に吸い取って育ちますゆえ。そうですね。伝承では二週間から、三週間といったところです」
「そうか、気楽に待つよ」
助かった。起こすのに莫大な魔力を要求されるだけで、これからはそこまで負担にはならなさそうだ。
毎日、これだけの魔力を要求されると辛い。
これからは気楽に過ごせそうだ。
「ところで、話は変わりますが、村のものに聞きました。三日後、出発されるそうですね」
「神鳥の試練を受けられる期間は限られている。なるべく余裕をもって挑みたい」
これを逃せば、次は二か月後とイヴが言っていた。
少しでもリスクを減らしておきたのだ。
「では、一つお守りを渡しておきます。……我ら黒翼族は、その魂を残された同胞の翼に宿します。つまるところ、我らの翼には、魂や魔力を閉じ込める力がある」
「そのことは知っている」
……だから、たまにイヴが落とす羽を拾っている。
魔力や魂を宿した羽は抜けなくなるようだが、そうでない羽はごくまれに抜けるので、いい武器の材料になると確保しているのだ。ただ、なかなか加工方法がわからないで難儀している。そのままでは武器にできない。
「この羽がお守りです。我らの性質を利用し、魔力をたっぷりと込めた羽の矢です。魔術を使用する際に、一流の魔術士であれば消費魔力を肩代わりさせることができます。それ以外にも【クルリナ】と叫んで投げれば、爆弾替わりにもなります」
渡されたのは十本ほどの黒い羽根の束だ。
どうやら武器に加工し、さらに魔力が込められている。
使い勝手がいいし、なにより加工法を学べるのが大きい。これを調べればイヴの羽も武器に転用できるようになるだろう。
「なにから、何まで申し訳ない」
「いえ、こちらこそ感謝しております。あなたはイヴ様の笑顔を取り戻してくださった。あの方は、魔王候補になってから笑わなくなっていた。イヴ様は言葉でなんと言おうと、あなたのことを信頼しているのです」
それだけ言うと、ミルじいは去っていった。
……掛け値なしにいい人だな。イヴのことを心の底から愛してくれていて、イヴが信じた人だから、人間である俺のことも信用してくれた。
少し、あの人のことが好きになってきた。
「胸がざわつく」
ただ、俺にはジンクスがある。
俺が気に入った人は殺されてしまう。
初恋のアンナさんも、親友だった商人カルマンもそうだった。
皮肉なものだ。いい奴がから死んでいく。
彼がそうならないように祈っておこう。
もし、神鳥の試練から帰ってきたら、この村が魔王軍に滅ぼされていた……なんてことになれば、イヴの手伝いではなく、この戦いは俺の復讐となる。
そのときは、復讐鬼となり、俺は俺の意思で確実に現魔王に報いを受けさせるだろう。
◇
そしていよいよ出発の日が来た。
この村に来てからは毎日のようにレベル上げをして、みんな強くなっている。
とくにセツナの成長が著しい。
魔族の支配領域だけあって、強い魔物がでる。それは大量の経験値が得られるということだ。
セツナはこまめにレベル上限を増やしており、そこに経験値が注がれたことでついにレベルが41に至っていた。
これは亜人の平均どころか、人間の平均すらも超えた値だ。
もとから、高い素質値と恵まれた技能とスキル、格闘センスもあるセツナがこれだけのレベルに至れば、ほとんどのものに遅れは取らないだろう。
成長と言えば、イヴも大きな変貌を遂げている。
セツナ教官の地獄の特訓のおかげで、ようやく体力がついてきた。それに、魔術の精度の上達も凄まじい。
一度、真剣に魔術を放つ経験をしたことで、その感覚を覚え、きっちりと数を重ねただけ精度が上がるようになった。
今のイヴなら立派に戦力として数えられる。
「ケアルガ兄様! いよいよですね!」
エレンが、握り拳を作って鼻息を荒くする。
さすがに、エレンはまだまだ戦力として数えられない。
それでも、ゆっくりとだが着実に力をつけている。
「エレン、おまえは戦力としては期待していない。だが、頭がいいし観察力がある。油断なく周囲を見て、怪しい、おかしい。そう思ったら報告してくれ」
「はい、任せてください!」
エレンの頭脳には期待できる。なにせ、彼女は俺をたっぷりと苦しめたノルン姫だったのだから。
まあ、今は俺たちについてくるのが精一杯で、周囲を観察する余裕すらないだろうが、長い目でみよう。
「ケアルガ殿! イヴ様、そして皆様方……ご武運を!」
声が聞こえたほうを見ると、黒翼族の一団が早朝だというのに、見送りに来てくれていた。
ここに来たときは、敵意をもって囲まれたというのに、出るときは見送りに来てくれるなんて……なかなか面白いものだ。
「行ってくる。必ず、神鳥を従えてもどる! そして、神鳥を従えれば反撃だ! これからは、魔王の好きなようにさせない!」
俺の声に、黒翼族たちの歓声が上がる。
少し鳥肌がたった。
……珍しく勇者らしいセリフを言ったせいだ。
ラプトル二匹に、俺たちは分かれて乗る。
もちろん、ちゃんと神鳥の卵は背負っている。専用のリュックを作り、肌身は出さず持ち運べるようにした。
鞭を入れてラプトルを走らせる。
神鳥の試練とやらを受けるとしよう。
イヴのご先祖様しか成功しなかった試練だ。腕が鳴る。実に面白そうだ。
可愛いペットを手に入れるため、俺はラプトルを急がせた。
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