“アメコミ” 女性の支持広がる その背景は

“アメコミ”  女性の支持広がる その背景は
突然ですが、“アメコミ”ってご存じですか。
「スーパーマン」や「スパイダーマン」といったアメリカのコミックのことなんです。この世界、悪者と戦う強いヒーローに憧れを抱く男性ファンが多いとばかり思っていましたが、今、アメコミに夢中になる女性たち“アメコミ女子”が増えているというんです。何が女性たちを引きつけているのか、その背景を取材しました。
(ネットワーク報道部 中川早織記者)
まず向かったのが東京・六本木ヒルズで先月まで開催されていたアメコミの展覧会「マーベル展」の会場です。マーベルはニューヨークに本社があるアメコミの大手出版社。「スパイダーマン」や「アイアンマン」「XーMEN」など数々の人気キャラクターが登場するコミックを生み出してきました。

会場に入ると、ロボットスーツで世界を救う「アイアンマン」の巨大なオブジェが目に飛び込んできました。周りには熱い視線を送る女性たちの姿が。人気キャラクターのコミックやフィギュアなどが展示されるとあって、雨が降る平日だったにも関わらず大勢の人でにぎわっていました。

確かに多い! “アメコミ女子”

まず向かったのが東京・六本木ヒルズで先月まで開催されていたアメコミの展覧会「マーベル展」の会場です。マーベルはニューヨークに本社があるアメコミの大手出版社。「スパイダーマン」や「アイアンマン」「XーMEN」など数々の人気キャラクターが登場するコミックを生み出してきました。

会場に入ると、ロボットスーツで世界を救う「アイアンマン」の巨大なオブジェが目に飛び込んできました。周りには熱い視線を送る女性たちの姿が。人気キャラクターのコミックやフィギュアなどが展示されるとあって、雨が降る平日だったにも関わらず大勢の人でにぎわっていました。
主催者によると、2か月半の開催期間中、32万人の来場者のうち半数が女性だったということです。会場で女性に話を聞くと「ポップなのでハロウィーンでまねしたくなるコスチュームが多いのも魅力」とか「色味がはっきりしていて絵がかわいい」といった声が返ってきました。1万にも及ぶと言われるキャラクターの多さに加え、誌面を彩る鮮やかな色使いが魅力のようでした。

“アメコミ”そのヒーロー像

“アメコミ”は1930年代からアメリカで出版されているコミックで、スーパーヒーローの活躍を描いたものがほとんどです。

そのヒーロー像にはいくつかの大きな特徴があります。まず、「正体が一般人」である点。ふつうの高校生や社会人が正義や平和のために戦います。作品や設定によって違いはありますが、この「等身大のヒーロー像」がアメコミの人気の1つとされています。
また、「ヒーローの人間臭さ」も特徴です。アメコミのヒーローたちは時に悩みを抱え葛藤します。失恋して落ち込んだり、「風邪がつらくて戦いに行くのが面倒だ」と弱さを見せたりする瞬間があります。この人間味あるリアルなキャラクター設定もファンの心を離さない理由の1つとされています。
完全無敵なイメージがある日本の特撮ヒーローとはどことなく違うアメコミの中のヒーローたち。身近な存在として感情移入しやすいのかもしれません。

著作権の帰属先も特徴

さらに、日本では、作品の著作権は作者に帰属しますが、アメコミの場合、出版社に権利があるので、仮に作者が亡くなっても、長年、描きつながれていくという特徴があります。このため作品に女性の活躍や人種の多様性といった時代背景が反映されやすく、“現代社会を映し出す鏡”となっているのも大人が魅了される理由の1つのようです。

相次ぐ映画化 女性の心つかむ

しかし、なぜ今、女性の間でアメコミの人気が広がっているのでしょうか。取材を進めると、2000年ごろから作品の映画化が相次いだことと関係があることが分かってきました。ちょうどCGの技術が急速に発達した時期で、人気俳優を起用した映画化が相次いだことから、男性ファンが独占していたアメコミの魅力が女性たちの間にも広がっていったと考えられているんです。長年、マニアックな男性ファンが多かったという東京・秋葉原のコミック専門店で話を聞いても、5年ほど前から女性客が急増しているということでした。映画をきっかけにアメコミの世界に入ってきた女性が多く、映画化がファン層を広げたのは間違いないようでした。

女性の社会進出とも関係!?

魅力的なキャラクター設定とハリウッドスターを起用した映画化。しかし、女性を引きつけている理由は本当にそれだけなのか。さらに取材を進めたところ、ある女性が私に1つのヒントを与えてくれました。

東京都内に住む“アメコミ女子”の永田江美さん(36)です。大学卒業後、ある会社に就職しましたが、「自分でなくてもできる仕事ではないか」と将来のキャリアに悩むようになったと言います。そんな永田さんが当時、影響を受けたのが「X-MEN」でした。特殊能力を発揮して平和のために戦うヒーローたちの姿に、「自分も武器になるものを持ちたい」「それが認められる場所で活躍したい」と思うようになったと言います。
アメコミがきっかけで、思い切って仕事をやめてニューヨークに語学留学した永田さん。帰国後は、法律事務所の秘書として、海外の顧客とのやり取りなど、留学で培った英語力を生かした仕事をしています。
永田さんに新しい世界に踏み出すきっかけをくれたアメコミ。今、仕事や人間関係で壁にぶつかりそうになっても、その中に登場する葛藤を抱えた等身大のヒーローの姿がどこか心の支えになっていると言います。永田さんは「かっこいいヒーローにあこがれて『助けて』と言うだけではなくて、私もストーリーの中に入り込んで一緒に戦っている気持ちになれる」と魅力を語ってくれました。

変わる女性のヒーロー像

アメコミ人気の背景には永田さんのような働く女性の社会進出があるのではないか。一連の取材を通してそう感じるようになった私は、最後に、アメコミに詳しいライターの杉山すぴ豊さんに取材実感をぶつけてみました。

杉山さんは今のアメコミブームについて、女性が描くヒーロー像の変化が関係していると分析していました。杉山さんは「女性の中のヒーロー像は、かつては、いわゆる“白馬の王子様”。自分を守り、助けてくれる存在だったと言える。ところが、今は女性も社会に進出するようになった。男女問わず社会に出たらがんばらないといけないし、敵もいるし、いろいろなことが降りかかってくるけど突き進んで行かないといけない。そういう中で、戦うヒーローを見て『この人、私と同じだ』と思える。だから女性の間にも支持が広がったのではないか」と話してくれました。

取材後記

ただ“かっこいい無敵のヒーロー”ではなかったアメコミの世界。それに女性の社会進出も重なり、アメコミならではのヒーロー像が支持を得ている理由を取材を通して垣間見ることができました。今後、女性監督の手による女性ヒーローを描いた作品などの映画化も控えていて、アメコミからしばらく目が離せそうにないと感じました。