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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第四章:回復術士は魔王を超える

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第五話:回復術士は綺麗なケアルガ様になる

 黒翼族たちの生き残りが住んでいる、神鳥を祭る村に招かれた。
 ここでしないといけないことがいくつかある。

 一つは体調を整えること。
 神鳥の試練を受けられるのは星のめぐりが関係しているらしく数日後だ。
 それまで、ここを拠点にできるのはありがたい。

 昼は、外でレベル上げと、素質値になる魔物を喰らうことで少しでも強くなる。
 本腰を入れてレべル上げをする機会はなるべく逃したくない。
 そう考えるとブラニッカの戦争は失敗したな。
 フレアとパーティを組んで、広域魔術を適当に打ちまくってもらえば最高のレベル上げになったのに。
 そうすれば、イヴとセツナがより強くなった。
 この二人は素質値はかなり高いが、まだレベルがさほど高くないのだ。

「それにしても……あまり、生活はよくないようだな」

 村の中を見回して、そんな声が漏れてしまう。
 みんな痩せているし、元気がない。

「この辺りの土地は痩せておりまして実りが少ないのです。森で恵みを得ようにも、強い魔物ばかりで満足に狩りも採集もできません。他の魔族のように魔物を使役できればいいのですが、我ら黒翼族に許されているのは、神鳥様だけでいかんとも」

 なるほど、農作はがんばっているが実りは少なく、それ以外に糧を得る手段も少ない。
 おそらく、今までは黒翼族の国から支援を受けていたのだろう。

 それがなくなって生活は苦しくなったが、かといって別の国に逃げることもできないといった状況か。

「状況はわかった。イヴ、おまえは姫様と呼ばれるぐらいだ。さぞ、身分が高いんだろう」
「なんか、いやな言い方だね」
「悪気はないさ、お姫様なら民を助けるべきだと思わないか?」

 俺は割とまめな性格なので、イヴのポイントを稼ごうと決めた。
 ついでに、この村で快適に過ごすために、村人たちの覚えもよくしておこう。

「まさか、それって……」
「狩りに行こうか。熊やでかいイノシシあたりだと、食いでがあるだろう。みたところ、この村の人口は百人を超えるぐらいしかいない。イヴが頑張れば、村人全員を腹いっぱい食わせてやれるさ。その場しのぎかもしれないが、たまのご馳走でもないよりましだろ」

 大型のイノシシともなると二百五十キロにもなる。
 可食部は六割程度で、百五十キロ。
 それだけの肉があれば、村人全員が腹いっぱい肉を食える。三匹も狩れば、しばらくおかずには困らないだろう。

 辛く苦しい耐えるだけの日々に多少の彩は村人たちへの励ましになる。
 ミルじいと言われた老人が目を見開いた。

「それはありがたい! もし肉が手に入るなら久々のご馳走に皆も喜ぶでしょう!」
「ミルじいとやら、期待してくれ。狩りは得意だ。俺たちのパーティはたいてい、野営しているときは飯は現地調達してる」

 イヴや村人相手のポイント稼ぎのほかにも、俺も美味しいものが食べたい。この状況じゃ、俺たちを歓迎する余裕なんてないし、無理をされると気まずい。
 だから、逆に俺たちが食い物を恵んでやるのだ。

「怪しい、ケアルガがそんな普通にいい人っぽいこと言うなんて」
「疑うなんてひどいな。俺は根はいい人だよ。ただ、ちょっとひねくれて素直になれないだけだ」
「ケアルガ、その言葉は、この世すべての根がいい人に失礼だと思う」
「どう考えても、イヴのほうがずっと失礼だろ!?」

 根は善人。
 これ以上に便利な言葉を知らない。
 そのあと、ミルじいに空き家を一つ使っていいと与えてもらった。
 俺たちのパーティは、この村に滞在中はそこを使っていいとのことだ。
 あまりいい家とは言えないが、ちゃんと天井がある。それだけでも十分だろう。

 ◇

 荷物を置いた俺たちは早速山に入った。
 二手に分かれて行動している。

【熱探知】で獲物を見つけることができるフレイアと、狩りの知識・経験があるセツナのいるペア。
 そして、俺、イヴ、エレンのペアだ。こっちは俺がいればあとはなんとでもなる。

 二手に分かれたほうが、レベル上げと狩りの効率がいい。
 どちらのパーティも勇者がいるのでちゃんと経験値は二倍だ。

 俺とフレイアが揃っていれば四倍の経験値だが、狩り効率が二倍になれば元がとれるし、ご馳走をたっぷり持ち帰ると約束した以上、数を稼ぎたい。

 さっそく、鼻歌交じりにナイフを投擲する。矢のようにナイフは飛んでいき、空を飛んでいたキジを一匹仕留めた。
 拾い上げて、ナイフを引き抜き、血抜きをして背中の籠に入れる。
 キジはなかなか美味しい。幸先がいいことだ。

「ケアルガ、いやになるほど手際がいいね」
「狩りには慣れてるからな。言わなかったかな。俺はリンゴ農家の一人息子だったんだ。リンゴの世話をしていない間は、父と一緒に狩りをしてた」

 そのときと比べてステータスが跳ね上がったが、基礎となる動きはそのときに身に付けている。

「ケアルガがリンゴ農家? 似合わないね。盗賊か、山賊か、海賊だと思ってた」
「一度ゆっくりとイヴとは話し合いが必要なようだ。俺が善良でまじめなリンゴ農家だったのは本当だ。今度アップルパイでも作ろうか? わりとお菓子作りは得意だぞ」
「ますます似合わない!」

 ひどいものいいだ。
 こいつは俺を何だと思ってる。

「ケアルガ兄様のアップルパイ、美味しそう」

 逆に、元ノルン姫……エレンは素直に俺の言うことを信じている。
 はは、可愛い奴だ。
 ベッドの上でたっぷりとご褒美をやろう。

「素直なノルンには、イヴの分もアップルパイを食べさせてやる」
「うわぁ! 素敵!」
「あっ、ちゃんと私も食べるからね!」

 微笑ましい光景だ。別にロリコンではないが、少女たちが楽しそうにしていると俺も楽しくなる。
 さて、そんなことも言ってられなくなった。
 獲物を見つけた。

「二人とも静かに。俺の【気配感知】に魔物が引っかかった。ほう、ちょうどいい。イノシシが獲れるといいと思ったが、まさかイノシシの魔物とはな」

【翡翠眼】に力をこめる。
 視力が強化され、三百メートル以上先にいる魔物を眼で捉えた。
 さらに、【翡翠眼】は敵の魔物の力を見破る。

 敵の名は、タイラント・ボア。
 大型のイノシシの魔物。一匹で四百キロほどありそうだ。
 何度も、敵を血祭にあげて高質化した岩より硬い鼻先、凶悪な牙、片目は潰れているが、もう片方の眼は血の色に輝いている。

 魔物は瘴気に侵されており、普通に食えば毒そのものだが、俺の力で【浄化】すればご馳走に早変わり。
 あれはうまそうだ。でかいのがいい。
 イヴが口を開く。

「イノシシの魔物? それって大きい?」
「ああでかいな。普通のイノシシとは比べ物にならないサイズだ。四百キロはあるな」
「やった、じゃあ村のみんなにご馳走してあげれるね」

 仲間たちを喜ばせられるとイヴは嬉しそうだ。
 ……このまま気配を殺して、タイラント・ボアの不意をついて首を掻き切り、一撃で殺すのは容易い。だが、あえてそれは選ばない。
 せっかくだ。イヴを鍛えようと決める

「イヴ、どこでもいいから指をさしてくれ」
「こっ、こうかな」

 イヴはまっすぐに指を伸ばす。
 俺はうしろからイヴに抱き着くようにして、指の先をちょうどタイラント・ボアの側頭部に向ける。
 イヴからは見えない。視界を遮る障害物が無数にある。
【翡翠眼】の透視能力がある俺にしかまだ見えない。

「ちょっ、ケアルガ、何やってるの!?」
「いいか、イヴ。タイラント・ボアはああ見えて気配に敏感で、臆病だ。嗅覚もいい。近づけば俺たちに気付いて逃げる恐れがある。あいつは俊足だ。逃げられれば追いつけないだろう」
「えっ、ケアルガ、まさか」
「ここから狙いたい。イヴの光の魔術を指さしたほうにまっすぐ放てば、脳を打ち抜いて一撃だ。さあ、やってみようか。今奴は立ち止まってくれている。ただ、俺の指させた方向にまっすぐ放てば、倒せるぞ」

 イヴが震え始める。
 怖いのだろう。

「無理、無理だよ。ケアルガがやってよ。だって、失敗したら」

 イヴが怖がっているのは、ただ失敗して恥をかくことじゃない。
 自分の失敗で飢えて、獲物を心待ちにしている黒翼族たちにごちそうを食べさせてやれなくなることだ。

「イヴが外したらびっくりして逃げるだろうな。大変だ。こんな大物、もう見つからないかもな」
「お願い、無理、ケアルガがやってよ。こいつが倒せたら、次は私がやるからさ」

 声が震えてる。
 イヴも飢えを知ってる。
 だから、同族たちがどれだけ苦しんでいるかもわかってしまう。
 百人を超える同族が腹いっぱいご馳走を食べられるかどうかの瀬戸際。
 怖くないはずがない。

「俺には無理だな。気付かれずに近づく自信がない。あいつを仕留められるのはお前だけだ。それより、いいのか? こうしてぼさっとしているうちに逃げられるかもしれないぞ?」

 イヴの震えが大きくなる。
 プレッシャーをかけるために、あえてできないと嘘をついた。

 イヴが成長しない理由。
 それは、覚悟のなさだと思っている。
 魔術を放つ、一発一発に必死さがない。
 外しても大丈夫だと思っている。だから、繰り返しても身に付かないし、失敗から学ばない。
 だから、こうして本気にならざるを得ない状況を作った。
 さて、ここで出来ないとごね続けるか、覚悟を決めるか。どちらかが見ものだ。

「私が、私がやらないと」

 ほう、ちゃんとやる気になったか。
 イヴが光属性の魔術を使うために魔力を指先に集める。
 ただ、指さした方角一点だけに集中する。

 ここまでイヴが本気で集中したのは初めてみた。
 ……魔力収束率がいい。
 いつものイヴなら、このあたりで集中力が足らずに魔力がまとまり切れずに漏れている。

「ケアルガ、ほんとうに、この指の先に撃てばいいんだよね、それだけだよね。見えてないけど、いいんだよね!?」
「ああ、お前の光の魔術なら障害物を全部ぶち抜いて撃ちぬけるさ」

 けして曲がらない。圧倒的な攻撃力をもつ光魔術。
 使用者がちゃんと放てば、かならず目標を捕らえる。

「わかった。信じるよ」
「がんばれ。イヴ」
「うん……【光の矢】!」

 そして、イブの指先から一筋の光が放たれる。
 タイラント・ボアの側頭部、それまでの道筋にある木々や岩、そのすべてを貫き、目標を撃ちぬいた。
【翡翠眼】には全部見えている。障害物とタイラント・ボアに綺麗に空いた穴が。……これは、凄まじいな。
 タイラント・ボアが崩れ落ちた。

「ねえ、ケアルガ、私、ちゃんとやれた、みんなのごちそう、ちゃんと、ちゃんと」

 半泣きになってイヴが俺の胸元に縋り付いて聞いてくる。
 イヴのこういうところは好きだ。

「ちゃんと倒したよ。今から死体を回収しに行こう。血抜きと【浄化】しないとな。あのサイズなら、今日ご馳走を振る舞って、保存食にすれば、村全体の食卓が数日にぎやかになるよ」
「やった! 良かったよぅ、失敗してたら、みんなに合わせる顔がなかった」

 イヴがその場に座り込む。
 俺は微笑んで、頭を撫でてやる。イヴはいつもなら恥ずかしそうにして払いのけるのに、なすがままになっている。

「よくやった。今使った魔術の感覚を覚えておけ。一度狙ったとおりに飛んだんだ。次もうまくやれるさ」
「うん! そんな気がする。ありがとケアルガ」

 イヴは間違いなく大きく成長した。
 タイラント・ボアは、大物だ。ご馳走で、レベル上げにもなった。
 だが、それ以上にイヴの成長のこそが最大の収穫だろう。

 ◇

 日が暮れたら待ち合わせ場所に集合ということで、それまでの間に三体ほど細々した魔物を狩った。

 血を抜いて軽くしたタイラント・ボアを気合で担いで集合場所に行く。
 イヴの成長はなかなかのもので、そのあとの魔物もすべて俺が見つけてイヴが止めを刺した。
 この調子でいけば、あっという間に一線級になれる。
 まあ、未来で魔王をやるぐらいだからもとから、きっかけさえあれば成長できることはわかっていた。

「ふふっ、ケアルガ、これで私はヒーローだね」
「ああ、おまえの手柄だ。胸を張っていい」
「嬉しいな。今まで甘やかされるばっかで、何かをしてあげられたことってなかったんだ。はやく、村に戻りたいなぁ、ふふっ」

 イヴはスキップしかねないほど上機嫌だ。
 微笑ましい。
 待ち合わせ場所についた。
 イヴの顔が硬直する。
 セツナが全力で手を振っている。

「ケアルガ様、セツナ頑張った。大物を狩った。ほめて」

 もうすでに待ち合わせ場所にはセツナとフレイアが居た。
 セツナも獲物を持ってきていた。
 それもイヴの仕留めたイノシシよりも一回り大きい熊の魔物……。

「ケアルガ様」

 セツナが狼尻尾を振りながら目の前までやってきて尻尾を振る。
 俺は引きつった笑いで撫でてやると、セツナが胸に飛び込み抱き着いてくる。

「すごい、大物。運ぶの大変だった。村のみんなも喜ぶ」

 イヴの顔を見る。
 涙目になっていた。

「セツナのばかぁ!!」

 今日のヒーローは、イヴからセツナになってしまった瞬間だった。

 ◇

 巨大な熊と巨大なイノシシの魔物を持ち帰る。
 そんな俺たちを見て村人たちは盛大に喜んだ。

 最初は、魔物の肉ということで警戒されたが、【浄化】の存在とイヴがいつも食べているという言葉。

 それから数人の大人が食べて大丈夫と判断すると、みんなが駆け寄ってきてきた。
 ミルじいが声をかけると、大鍋を各家庭から持ち出し複数の村人が内臓の煮込み料理を作り始め、村の広場で盛大に火を燃やし、冗談のように長い串に塊肉をぶら下げて串焼きにし始めた。
 他にも、女子供が総出で、塩漬けや燻製といった保存食作りが始まる。

 イノシシと、熊は合計で一トン近い。六百キロもの可食部があるのだ。
 大量の保存食にして各家庭に分配される。
 俺たちはそんな様子をぼうっと眺めていると、ミルじいがやってきた。

「日が暮れたら、祭りですぞ! 黒翼族伝統の煮込み料理ミルタッガと、串焼きカルボラ、たっぷりとの楽しんでください!」

 そう言うと、仕事に戻っていった。
 巨大串焼きの準備に戻ったようだ。
 イヴがぽつりとつぶやく。

「懐かしいな。黒翼族はね大物がとれるとこうやって、みんなで獲物を分け合ってぱーってやるんだ。ケアルガは知らずに、狩りに行くって提案したんだけど、昔を思いだしてみんな喜んでる……その、ありがと。ケアルガってたまには、ふつにいいことするんだね」
「たまには余計だ」
「今日のケアルガは綺麗なケアルガだね」
「普段との違いがわからないんだけど」

 麦酒エール樽が運ばれてきた。
 無料で、村中に麦酒エールが振る舞われるらしい。
 串焼きを作っていた黒翼族、内臓煮込みを作っていた黒翼族たちが、それぞれ料理ができたと叫ぶと、人が一斉に集まっていく。

「じゃあ、俺たちもいくか!」
「ん。ケアルガ様、セツナ、限界まで食べる」
「こういうのもいいですね、ケアルガ様」
「セツナ、ちょっとは遠慮してね。……セツナが本気出すと食べつくしかねないから」
「ケアルガ兄様、はやく行きましょう」

 みんな、楽しそうだ。
 はじめは、イヴと黒翼族相手のポイント稼ぎのつもりだったが、なんだかんだ言って、みんな喜んでくれて俺も楽しい。

 昔の人の言葉はなかなか的を得ている。……親切は人のためならず。
 さて、俺たちも行こう。
 今日の麦酒も内臓煮込みも串焼きも、けっして贅沢なものではない、だが、まぎれもなく最高のごちそうなのだ。
 
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