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 ある過激派組織が退いたとしても、テロの思想と国際社会との闘いに終わりはない。

 膨大な流血と破壊がもたらされた「イスラム国」(IS)の場合、なおさらその対策と教訓を考え続けねばならない。

 ISが最大の拠点とした大都市モスルの支配を、イラク政府が取り戻しつつある。ISは隣国シリアでも退潮しており、支配領域はほぼなくなった。

 住民を支配して税金を集め、石油の密売などで資金や武器を調達する。そんな「疑似国家」は消滅に向かっている。

 しかし、これでISが消えてなくなるわけではない。

 支持を寄せる組織は、各地で活発化している。戦闘に参加したあと欧米の出身国に戻った者もいる。ISに感化されかねない若者は今も数知れない。

 世界に広がった過激思想は、今後もテロの脅威を拡散させる恐れが強い。

 そもそもISを育てた土壌には、米国が無理やり始めたイラク戦争の混乱と、その後のシリア内戦の長い放置があったことを忘れてはなるまい。

 イラク戦争後、権力の座から追われたイスラム教スンニ派の不満を追い風にISは生まれ、内戦下のシリアで力を伸ばし、支配領域を広げていった。

 戦乱の荒廃を置き去りにすれば、そこに巣くう過激思想がやがて米欧も襲う。01年の9・11事件の教訓を、米国自身が見失った結果ともいえる。

 さらにISの特徴は、その米欧から若者を吸い寄せた点だ。

 欧州からシリアでISなどに加わった「外国人戦闘員」は、5千人ともいわれる。その多くがイスラム系移民・難民の子孫だった。教育や就労の機会などをめぐる差別と不平等が彼らを駆り立てた。

 ISの活動が飛び火した地域も、苦悩に満ちている。ナイジェリアやインドネシアなどでは、貧富の格差に反発する組織がISの傘下に入った。独立や自治の闘争が続くフィリピンのミンダナオ島では、ISに忠誠を誓う組織による戦闘で戒厳令が敷かれている。

 国際社会はこうした地域問題の解決に注力するどころか、いっそう分断の方向へ漂流している。中東の宗派対立が悪化し、欧米で反イスラム感情をあおる扇動的な言動が続くのは、テロ撲滅に逆行する動きだ。

 先進国であれ途上国であれ、内なる差別や抑圧、格差に向きあうことが、テロの芽を断つ第一歩である。その真剣な行動がない限り、ISの思想は生き続けることを肝に銘じたい。

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