あなたは、体調不良の時に「ガスター」や「パンシロン」、「パブロン」や「ナロン」を買って飲んだことがあることと思います。あるいは、肩こりを治そうとして「フェイタス」を貼ったり「アリナミンEXゴールド」を飲んだりしているかも知れません。もしそうだとしたら、所得税が大幅に節税できる可能性があります。
実は、今年から、所得税の医療費控除の制度が使いやすくなり、人によっては今までよりも簡単に節税できるようになりました。「セルフメディケーション税制」と言われるものです。
こう言うと、「どれが対象になるか分からない」とか「何となく手続が面倒くさそうだな」とかの声が聞こえてきそうです。しかし、実は、どれが対象になるのか判断するのは簡単だし、手続も面倒ではありません。
そこで今日は、セルフメディケーション税制の中身、適用対象になる医薬品の見分け方、そして、誰でもできる手続の方法等について、分かりやすく説明します。是非最後までお読みになって、少しでも節税にお役立てください。
目次
1.多くの人が対象となるセルフメディケーション税制とは
1.1.自分で医薬品を買うと所得税・住民税が節税できる
セルフメディケーション税制は、所得税・住民税の新しい「医療費控除」の制度です。
その年に総額1万2,000円超の「スイッチOTC医薬品」を購入した人は、所得税・住民税の確定申告をすれば、1万2,000円を超えた部分を所得から差し引いてもらえます。ただし上限があり、8万8,000円までです。つまり、メリットがあるのは代金総額10万円までということです。
たとえば、私が肩こり対策でよく買う「アリナミンEXゴールド」は「スイッチOTC医薬品」ですが、もしもこの「アリナミンEXゴールド」(90錠入り1瓶・メーカー希望価格税込5,400円)を1日3錠飲むと1年に12瓶(360日分)購入することになります。そして代金は総額6万4,800円になります。
これで、もし私の所得の額に所得税・住民税が合計20%かかるとすると、セルフメディケーション税制を利用すれば
(6万4,800円-1万2,000円)×20%=1万560円
で、年間約1万560円の節税になります。
これまでも「医療費控除」の制度はありましたが、お医者さんの診察を受け、処方箋をもらって投薬を受けなければなりませんでした。しかも、年間で10万円を超えた分しか控除を受けられないというものでした(詳しくは『医療費控除まとめ|確定申告で必ず押さえておくべき全知識』をご覧ください)。
それがここへきて、条件がゆるい「セルフメディケーション税制」ができたのは、年々国の医療費の負担が重くなってきているからです。国から国民に対し「できるだけ医者に行かずに自分で健康管理して、病気を予防して、治してほしい」というメッセージが出されたということです。
1.2.健康診断・予防接種を受けるのが必須
セルフメディケーション税制の適用を受けるには、以下のいずれかの健康診断・予防接種を受ける必要があります。
- 勤務先で受ける健康診断・人間ドック等
- 健康保険組合・市町村国保等が実施する健康診断・人間ドック等
- 市町村が生活保護受給者等を対象として行う健康診査
- メタボ検診(特定健康診査)または特定保健指導
- 市町村で受けられるがん検診
なぜかというと、セルフメディケーション税制の趣旨はそもそも、「できるだけ医者に行かずに自分で健康管理して、病気を予防して、治してほしい」ということだからです。
「健康管理・病気の予防の努力をしていること」+「自分で治そうとしていること」
の両方が求められているというわけです。
2.セルフメディケーション税制対象商品の見分け方
セルフメディケーション税制の対象となるのは「スイッチOTC医薬品」のみです。
イメージが湧きにくい名前ですが、「もともと医者の処方箋がなければ買えなかったが、今は気軽に買える医薬品」だとイメージしていただけば間違いありません。
「スイッチOTC医薬品」かどうかは薬効・用途ではなく「有効成分」で決められています。有効成分は83種類で、厚生労働省のHPで公表されています(平成29年7月10日時点)。
胃腸薬、風邪薬、水虫の薬や塗り薬、肩こりの薬、湿布まで、幅広く約1600商品が指定されています。
やっかいなのは、同じジャンルの商品でも、「スイッチOTC医薬品」になっているものとそうでないものがあることです。一例を挙げると「アリナミン」シリーズのうち「スイッチOTC医薬品」は「アリナミンEXゴールド」だけで、他の商品は全部違います。
こう書くといかにもやっかいそうに思えますが、実は見分けるポイントが3つあります。
以下、購入する前にスイッチOTC医薬品かどうかを見分ける3つの方法を、確実性が高い順に説明します。
- 見分け方1:厚生労働省のHPで確認する
- 見分け方2:ドラッグストア等のHPで確認する
- 見分け方3:パッケージのロゴマークで確認する
なお、購入後にレシートを受け取ると、スイッチOTC医薬品である旨の印が付いています。この点については後でお伝えします。
2.1.見分け方1:厚生労働省のHPで確認する
スイッチOTC医薬品は厚生労働省のHPで『セルフメディケーション税制対象医薬品 品目一覧』を確認することができます。お役所自身のデータですし、全ての商品が網羅されていて、あいうえお順に並んでいるので、これが最も確実です。
2.2.見分け方2:ドラッグストア等のHPで確認する
ドラッグストアチェーン「ココカラファイン」「マツモトキヨシ」等のHPでは、対象商品が一目で分かるようになっています。
ただし、全部の商品が掲載されているわけではありません。
2.3.見分け方3:パッケージのロゴマークで確認する
最後に、店で購入する時に確認する方法です。多くの場合、パッケージにセルフメディケーション税制の対象商品であることを示すロゴマークがあります。
以下は「アリナミンEXゴールド」と「フェイタス」のパッケージですが、いずれもロゴマークが付いています。
【アリナミンEXゴールド】
【フェイタス】
ただし、ロゴマークは義務ではありませんので、まれに、付いていない可能性もあります。厚生労働省のHPやドラッグストアのHPで確認するのが確実です。
3.今までの「医療費控除」とどちらか一方が使える
これまでの「医療費控除」は、年間にお医者さんにかかった時にかかる医療費が10万円を超えた場合にその分を所得から差し引ける制度だけでした。たとえば、年間の医療費が8万円かかった場合は医療費控除が受けられませんでした。
しかし、これからは「スイッチOTC医薬品」を年間1万2,000円を超えて購入すれば、「セルフメディケーション税制」を選ぶことができます。
なお、今までの医療費控除と、セルフメディケーション税制の条件の両方をみたす場合は、どちらか一方のみを選ぶことができます。この場合はどちらかおトクな方を選ぶことになります。
3.1.医療費控除とセルフメディケーション税制とどちらが得か計算する
上でお伝えしたように、今までの医療費控除と、セルフメディケーション税制の条件の両方をみたす場合は、どちらがおトクな方を選ぶ必要があります。
たとえば、今までの医療費控除の対象となる医療費(お医者さんにかかった費用)の総額が18万円、スイッチOTC医薬品の購入代金総額が10万円の場合を見てみましょう。所得控除を受けられる額は、
- 今までの医療費控除:18万円-10万円=8万円
- セルフメディケーション税制:10万円-1万2,000円=8万8,000円
となるので、セルフメディケーション税制の方が有利です。
なお、節税できる税金の額については、所得によって違います。なぜなら所得税・住民税は所得が高くなるのに応じて段階的に税率が高くなっていくからです。
上の例でセルフメディケーション税制を選ぶと、所得税・住民税合わせて税率が20%であれば8,800円×20%=17,600円の節税になります。
3.2.扶養家族の分は合算する
注意が必要なのは、扶養家族がいらっしゃる場合です。
原則として、セルフメディケーション税制の利用は納税者ごとです。たとえば、共働きの夫婦でそれぞれ別々に所得税・住民税を納税している場合は、夫婦それぞれがセルフメディケーション税制を利用できます。また、たとえば夫がセルフメディケーション税制、妻が今までの医療費控除を活用するというように、夫婦で別々の制度を活用することも可能です。
しかし、扶養家族の分は自分自身の分と合算して一人分として扱われます。したがって、たとえば、夫婦の一方が扶養控除の枠でパート勤務をしている場合、セルフメディケーション税制を利用したければ、夫婦で合算して8万8,000円までです。
4.セルフメディケーション税制で節税する上での注意点
次に、セルフメディケーション税制で節税するには、次の年度の初めに確定申告をする必要があります。その際、事前に準備しておくべきもの等、注意点についてお伝えします。
4.1.健康診断結果通知書・領収書をとっておく
上でお伝えしましたが、セルフメディケーション税制の適用を受けるには、以下のいずれかの健康診断・予防接種を受ける必要があります。
- 勤務先で受ける健康診断・人間ドック等
- 健康保険組合・市町村国保等が実施する健康診断・人間ドック等
- 市町村が生活保護受給者等を対象として行う健康診査
- メタボ検診(特定健康診査)または特定保健指導
- 市町村で受けられるがん検診
そして、これらを受けたことの証明として、健康診断結果通知書や、予防接種の領収書をとっておく必要があります。
健康診断結果通知書はコピーを出せば大丈夫ですが、その際、コピーは診断結果の部分を黒塗りにして出すことをおすすめします。なぜなら、健康診断を受けたことが分かりさえすれば「日頃から健康管理に気を使っている」という証明になるからです。
4.2.商品を買ったらレシート・領収書をとっておく
対象商品を買ったら、レシート・領収書をとっておきましょう。レシートで大丈夫です。
法令で、販売業者はレシートに、セルフメディケーション税制の対象医薬品であることが分かるように目印を付け、それが「セルフメディケーション対象商品です」などと記載しなければならないことになっています。一応、確認しておきましょう。
以下の画像はドラッグストアチェーン「ダイコクドラッグ」のレシートです。こんな感じです。
このように、どれがセルフメディケーション税制の対象なのか、一目で分かるようになっています。
注意が必要なのは、インターネットで購入した場合です。領収書のデータをプリントアウトしたものは、領収書として認められません。必ず、業者に依頼して領収書を発行してもらう必要があります。また、その領収書には「セルフメディケーション税制対象商品」といった記載が必要です。
まとめ:簡単にできるセルフメディケーション税制による節税
ご覧いただいたように、誰でも簡単にできるのがセルフメディケーション税制による節税です。
薬局で「スイッチOTC医薬品」を年間1万2,000円を超えて購入した場合、今年から、セルフメディケーション税制で節税できる可能性があります。たとえば私のように毎日「アリナミンEXゴールド」を飲んでいる方ならば簡単に条件をみたすことができます。
ただし、職場等の健康診断や予防接種を受けることが条件です。
その商品が「スイッチOTC医薬品」かどうかは、厚生労働省のHPやドラッグストアのHPを見れば確認できますし、多くの商品にはパッケージにロゴマークが記載されています。
確定申告の際には、健康診断や予防接種を受けた証明として健康診断結果通知書のコピーや予防接種の領収書と、対象となるスイッチOTC医薬品のレシート等を揃えておく必要があります。
特に注意していただきたいのは、インターネット通販で購入した場合です。領収書の画面を自分でプリントアウトしたものは領収書として認められません。
また、従来の医療費控除の制度を使う場合にはセルフメディケーション税制を利用することはできませんので、両方の条件をみたすのであれば、計算してどちらか有利な方を選んで活用するようにしてください。