日欧EPA(経済連携協定)交渉が大枠合意に達し、EU側の工業製品の関税撤廃が2019年から段階的に実現することになった。40年近く続いてきた”不平等条約"状態が、これでようやく解消されることになる。
予備交渉の開始合意(2011年5月)から数えて6年2カ月、大枠合意までにあまりに長い時間がかかった。また、関税撤廃が実現するまでには、まだ長い道程を要する品目もが存在する。そういう意味では、今回の合意を手放しで喜ぶわけにはいかない。
しかしそれでも、安倍政権の経済外交としては、トランプ米大統領による離脱宣言で空中分解の危機に瀕しているTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の基本合意(2015年10月)と並ぶ、最大級の成果であることは間違いない。
とりわけ、日本の自動車メーカーにとっては、大きな福音となるだろう。ここしばらく、日本車は、EU向けの輸出関税の撤廃を先駆けて実現した韓国車の攻勢にさらされてきたからだ。
次の課題は、今回の成果を活かして、まずは米国抜きでTPPを発効させ、それを米国のTPP復帰につなげることである。台頭する保護主義の圧力を抑えて、自由貿易の国際的な枠組みを拡大できるか。待ったなしの懸案に立ち向かう果敢な姿勢を、日本政府に期待したい。
日欧EPA交渉は7月5日、岸田文雄外相とEUのマルムストローム欧州委員(通商担当)との協議で大枠合意に達した。投資家と国家の紛争解決制度など残された分野の協議を詰め、年内に最終合意する見通しだ。
関税がなくなる品目は全体の95%を超え、TPPに匹敵する水準となる。発効すれば、人口で世界の8.6%、GDP(国内総生産)で世界の3割弱を占める巨大自由貿易圏が、新たに誕生することになる。
この大枠合意を受けて、安倍晋三首相とEUのトゥスク大統領、ユンケル欧州委員長は、6日にブリュッセルで開いた日欧定期首脳協議で合意書に署名した。
安倍首相は「保護主義的な動きのなか、日本、EUが自由貿易の旗を高く掲げるとの強い政治的意思を示すことができたことは、誇るべき成果だ」と自画自賛したうえで、「できる限りの総合対策を実施する」と農業関係者向けのバラマキを示唆したという。
長年にわたって、日欧EPAの障害になっていたのは、日本の自動車をはじめとした工業製品の輸入急増などに対するEU側の懸念だ。
かつて沸騰した貿易摩擦への対応策として、日本が諸外国からの工業製品の輸入関税を撤廃(1974年)したことで、EU側だけが関税を温存する形となり、いわば“不平等条約”状態が40年以上も放置されてきた経緯がある。
そんなEUの消極姿勢が一変したのが、2011年3月の東日本大震災だった。
EU側に、日本の窮状を救う手を差し伸べようとの機運が生まれ、同年5月にフランスで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)出席のため訪欧した当時の菅直人首相に、メルケル独首相、キャメロン英首相(当時)、サルコジ仏大統領(同)らが、日欧EPAの予備交渉開始を後押しする考えを相次いで表明。
これを受けて、菅首相はEUのファンロンパイ大統領、パローゾ欧州委員長(いずれも当時)と予備交渉の開始について、正式に合意したのである。