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「太陽光パネルで熱中症」〝室温52度〟わが家は地獄に変わった!? 再生可能エネルギーは迷惑施設なのか
関西の議論更新「老後をゆっくり過ごそうとこだわって建てたわが家は地獄に変わった」。兵庫県姫路市の建設会社役員の男性(65)はこう訴える。昨年9月、太陽光パネルの反射光で自宅が照らされたため室内が猛烈な暑さになり熱中症にかかったとして、男性は発電施設の開発会社(東京都)を相手取り、損害賠償とパネルの撤去を求めて神戸地裁姫路支部に提訴した。同社は植樹をするなど対応をとってきたとするが、男性側は室温が50度を超える日もあったとして、対応は不十分だったと主張する。東日本大震災以降、再生可能エネルギーとして普及する太陽光発電だが、それに伴いトラブルも相次いでいる。果たして太陽光発電は迷惑施設なのだろうか。
自宅から10メートルの距離に…
姫路市の西部。閑静な住宅街の一角に広がる敷地に、太陽光パネルが南の空を見上げ、整然と並んでいる。男性によると、反射光による〝被害〟は早朝から始まる。
山の間から太陽が顔をのぞかせると、パネルが光りを浴び、反射した光は男性の自宅に入り始める。正午過ぎまで、ゆっくりと光の帯が移動するように室内に光が差し込み、室内の気温が上昇するのだという。
男性は室内外の6カ所に温度計を設置。毎朝、目が覚めるとデジタルカメラを手にし、温度計の数値と窓から室内に入り込んだ反射光を写真に収めるのが日課になった。「反射光ではなく、窓から差す自然の太陽の光を浴びて気持ちよく仕事に向かうのが日々の喜びだった。そんな自宅が今、地獄になってしまった」と話す。
訴状などによると、平成26年6月ごろ、開発会社は男性方の東側に隣接する土地約2万平方メートルに、4896枚の太陽光パネルを有するソーラー施設を整備。最も近いパネルは男性宅から約10メートルの距離に設置され、4896枚のうち1296枚の反射光によって男性方が照らされるようになった。
網戸にし、扇風機や送風機を使っても室温は高温に。男性が測定したところ、昨年8月の1カ月間に2階リビングの室温が40度を超える日が20日間。50度を超える日もあり、同月8日午前9時16分には52・2度を記録した。その2日後、妻が熱中症で倒れ、さらに数日後には自分も熱中症にかかったという。
「角度15度で設計。光は天空に逃げる」
男性側は訴訟で、全パネルのうち自宅を照らす1296枚の撤去と330万円の損害賠償を求めた。これに対し、開発会社側は請求棄却を求めて争う姿勢を示している。
昨年11月に神戸地裁姫路支部であった第1回口頭弁論(川畑公美裁判長)では、開発会社側は「太陽光発電事業の主体は別の会社で、発電所を引き渡すまでの支援業務を受託していたにすぎない」と主張。「太陽光パネルの設置者でも、所有者でも、占有者でもない。すなわち、パネルを撤去する権限を有していない」とした上で、男性側が「対応が不十分」とした点も「真摯(しんし)に対応していた」と反論した。
訴状や答弁書などによると、開発会社側はパネルの設置前の平成25年10月に住民説明会を開催。そこで、反射光や騒音に対する住民の不安の声が噴出したため同年12月にも住民説明会を開くなど、設置工事前後に計13回、近隣住民らと面談したり意見を聞いたりする機会を設けたとする。
配布された説明資料の「反射光・熱反射」という項目には、「パネルは(角度を)15度に設計しており、反射光は天空に逃げるため、近隣におすまいのご家庭にご迷惑をおかけすることはないものと考えております」との記載があった。だが、男性や近所の住人から被害の指摘を受けたため、26年11月、反射光をさえぎるため、パネルの敷地と男性方の間に植栽をし、遮光ネットを設置する措置をとったという。
開発会社側は男性側に対し、反射光が自宅に差し込む角度や、いつ、どの程度の時間継続して入るかなど具体的な状況などを明らかにするよう要求。一方、男性側も、開発会社側が「撤去する権限がない」と主張してきたため、昨年12月、開発会社側が業務を受託していたという太陽光発電事業を行う会社に対しても、同様の訴訟を起こした。
「受忍限度」はどこに
太陽光パネルの反射光をめぐっては過去にも訴訟に発展したケースがある。
隣家の屋根に設置された太陽光パネルの反射光が家の中に差し込み、日常生活に支障が出たとして、横浜市金沢区の住民が隣人男性と設置工事をした大手住宅メーカーにパネル撤去と損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は平成24年4月、パネルの撤去と計22万円の支払いを命じた。しかし、メーカー側が判決を不服として控訴した2審では、東京高裁が25年3月、「被害回避は容易だ」として1審判決を覆し、請求を棄却する原告側逆転敗訴の判決を言い渡した。
建築関係の訴訟に詳しい野口和俊弁護士(東京弁護士会)は「こうした訴訟の場合は、被害を受ける側がどれだけ我慢できるかという『受忍限度』をどう判断するかが非常に難しい」と指摘。「周囲にどういう迷惑がかかるか、その場合はどう対応するのか、を設置側が十分調査しておく必要がある。有益な施設だからといって、どこでも受け入れられるということはなく、周りが住宅街か工業地帯かでも影響は違う」と話す。
「ルール作り必要」の声も
太陽光発電施設をめぐり、開発そのものがやり玉に挙がることもある。
兵庫県赤穂市は昨年12月、一定規模以上の太陽光発電施設や風力発電施設を設置しようとする事業者に対し、住民説明会の開催や工事着工前に市と事前協議することを義務づけ、土砂災害警戒区域などには施設を設置しないよう求める条例を制定した。
同市内で大規模な太陽光発電施設の計画があり、住民らから、山林が切り開かれることによる自然環境保全や治水に与える影響を不安視する声が上がったためだ。
条例では、地裁姫路支部の訴訟を受け、設置事業者に対し、着工前に反射光が周囲に及ぼす影響を予測した図面を提出することも求めた。赤穂市環境課の橋本圭司課長は「(太陽光発電は)有益な施設だが、トラブルを避けるためにも一定のルール作りが必要だ」と強調する。
太陽光発電の普及を目指す一般社団法人「太陽光発電協会」によると、今回の訴訟のように比較的大規模な施設と住民とのトラブルは珍しく、大半は、太陽光パネルを設置した民家の住民同士の問題だという。
同協会の穂岐山(ほきやま)孝司広報部長は「太陽光パネルの設置者は、その設置の方法や角度によって近隣とのトラブルが起こりうることを十分認識していてほしい。反射光については、分かっていれば避けられたトラブルも多い」と指摘。「太陽光は資源が少ない日本にとって、なくてはならないエネルギー。迷惑な施設だと思われないためにも、設置者と周辺住民が互いに理解し合うことも重要ではないか」と求めている。