「なぜ今なんだ」とヘッジファンド運用者のスティーブ・アイズマン氏は尋ねた。2007年7月10日のことだった。時間は午前10時。同氏はスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のアナリストらとの電話会議の最中だった。S&Pは73億ドル(約8340億円)相当のサブプライム住宅ローン担保証券を格下げ方向で見直すウォッチネガティブに設定したところだった。

  住宅ローンの延滞が増える中でアイズマン氏を含め住宅ローン担保証券(MBS)の暴落に賭けるトレーダーは増えていた。それでもその日まではまだ、世界の大半が米国債並みの安全を示す格付けを信じていた。このおかげで2006年だけでもリスクの高い借り手に4450億ドルが貸し付けられていた。しかしその日以降、楽観的なエコノミストも米金融当局者も、住宅市場崩壊とサブプライム危機を抑え込めないと知るべきだった。

  アイズマン氏は電話会議で、「サブプライムに関するニュースは何カ月も前から出ている。延滞は何カ月にもわたってひどい状態だ。なぜ今になってこの動きをするのか」問い掛けた。

  その後の1年に、S&Pとムーディーズ・インベスターズ・サービス、その他の格付け会社は1兆ドル相当を超える住宅ローン証券を格下げした。アイズマン氏が下落を見込んで空売りしていた指数は暴落し、世界金融危機が始まった。この取引はのちに、マイケル・ルイス氏の小説で「ビッグ・ショート(世紀の空売り)」として知られるようになった。

  10年後の今、債券市場は再び活況を呈している。年間の住宅ローン貸付額は2006年のピークに近づき、自動車ローンやクレジットカード・ローンでリスクの高い借り手への融資が膨らんでいる。ただ、住宅ローンに関しては危機を受けた規制が信用力の低い借り手へ貸し付けを制限し、サブプライム融資は危機前水準に比べほんのわずかにすぎないと、エキファックスのデータが示している。

原題:Crisis Flashback: The Big Downgrade That Fueled a Subprime Crash(抜粋)

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