ネット通販のこん包材。ミカン箱。引っ越し。段ボールといえばやはり「箱」ですよね。ところがこの「箱」を作らずに急成長を遂げた段ボール会社が今、世界的に注目されているのです。(高松放送局 中川治輝記者)
ほんとに段ボール?
男の子が大好きなティラノサウルなど恐竜の骨格模型に、新幹線、飛行機などの乗り物。女の子が遊ぶままごと用のキッチン。それにSF映画に出てくるようなUFOの形をした滑り台。さあ、何でできているでしょう?
そう、すべて段ボールです。
これらの製造、販売を手がけているのは香川県東かがわ市の従業員10人の中小企業「hacomo(ハコモ)」という段ボールの会社です。
半径100キロの地場産業
段ボール会社の本業はもちろん「箱」づくり。段ボール箱を大量生産してもうけるのがビジネスモデルです。
しかし原料のほとんどは古い段ボールのリサイクルです。そもそも原価が低いため輸送にコストを割けません。このため段ボール会社は「半径100キロ以内の地場産業」といわれ、狭いエリアで各社が激しい価格競争を繰り返してきたのです。
段ボール箱はもうやめた!
「本職は箱づくりなんですが僕らはもう『箱はやらない』って決めたんです」
hacomoの社長、岡村剛一郎さん(40)は、大学を卒業していちどは香川県内の中堅段ボールメーカーに入社し、箱の設計を担当していました。しかし人口がどんどん減っている香川県で生き残るには、他社と同じように「箱」を作ってガチンコの勝負を続けていては消耗するだけだと感じていました。
悩んだ末に岡村さんがひらめいたのは競争をやめること。丈夫な段ボールの特徴を生かし、おもちゃや模型を作ることでした。
7年前、岡村さんは、一切「箱」づくりをしない今の会社を立ち上げました。
箱やめて、何つくる?
最初に開発したのは段ボール製の工作キット。夏休みの小学生の工作の宿題にうってつけと思ったからです。しかし夏休みが終わるとなかなか売れず、大量の在庫を抱え込んだこともありました。さて、ここからが岡村さんの挑戦の本番。
1台800万円近くするレーザー加工機を一気に5台も導入したのです。機械は、合成樹脂や木材をミリ単位で裁断する精密機械。これを使って細部にこだわった段ボールの新商品の開発を始めたのです。
そして、生み出された看板商品は、精巧な世界の名所模型シリーズ。東京タワーや、東京スカイツリーなどは鉄骨の1本1本まで造り込まれています。また熊本城や姫路城は、複雑な天守閣の屋根やしゃちほこまで細部にわたり再現されています。
模型は、8センチ四方の手のひらサイズの台座に部品を手で差して組み立てます。段ボールの部品をさすときの音感から「PUSUPUSU」シリーズと名付けました。
海外のお客さんも見据え、パリの凱旋門やロンドンのビッグ・ベン、ピサの斜塔など世界各地の名所もそろえました。いずれも一見しただけでは段ボールに見えないほどの精巧さです。
完成度の高さから子どもはもちろん、大人も魅了し、シリーズはヒット。会社の売り上げは去年、創業当初のおよそ3倍になりました。
半径100キロ飛び越え世界へ
会社では、名所のシリーズを次々に販売。
今では、「半径100キロ」の商売から脱皮し、日本国内はもちろん、海外10か国以上への輸出を手がけるグローバル企業へと成長を始めたのです。
「段ボールといえば箱」という常識を打ち破った地方の小さな会社。社長の岡村さんは「同じ物が同じように売れる時代ではない。あえて箱ではない使い道を考え続けたい」と話しています。
技術は高くてもコスト競争などにさらされ、中国やアジア各国に押され気味の日本の製造業。「発想の転換」とか「新たな市場開拓」「オンリーワンの物作り」。ビジネス成功の秘けつとしていろいろなキーワードが語られます。
本業の「箱」作りから抜け出して全く別の商品作りに乗り出したこの会社のある種の「いさぎよさ」。日本のモノ作り復活の新たなヒントになるかも知れません。
- 高松放送局
- 中川治輝 記者
- 平成26年入局
警察取材をへて
現在、経済分野を担当