企画の熱量を引き出せ!「サイボウズ式」3ステップ企画術

企画の熱量を引き出せ!「サイボウズ式」3ステップ企画術

サイボウズ株式会社のオウンドメディア「サイボウズ式」は、コンテンツの企画から制作を社内の編集者が中心となって行います。
ただ、藤村能光編集長以外の編集者は多くが広報の出身で、メディア運営や制作に慣れていないメンバーばかり。編集者の明石悠佳さんも新卒2年目の途中でサイボウズ式編集部へ配属され、サイボウズ式の企画術で経験を積むことで、1年後には多くの読者から支持される企画を立てられるように成長しました。

では、いったいどのように企画を立てているのでしょうか?

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サイボウズ式編集部員の明石さん(左)と藤村編集長(右)

 

連載「愛のないコンテンツマーケティングに未来はない」第13回は、前回のメディア戦略に続き、サイボウズ式の“思いを引き出す”企画術について紹介します。

サイボウズ式思いを引き出す3ステップ企画術

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企画のポイントは、主観と客観の繰り返し

――1年前から編集部に加わった明石さんから見て、企画で1番大事だと思うのはどういう点ですか?

明石:編集部でよく言われるのが、「主観と客観の行き来を繰り返そう」です。編集者は主観的に企画と向きあう一方で、編集部内で別の視点から客観的なフィードバックをもらいます。これを何回も繰り返すことが大事だと思います。

 

藤村:自分だけで企画や制作を進めると、読者にどう届くのかといった客観的な視点が見えにくくなるところがあります。サイボウズ式では、オンライン上で企画に関するフィードバックなどのやり取りをしています。なので、私が別の編集者へコメントしているのを、明石はいつでも見ることができます。編集部内のやり取りを見て、学ぶ回数を増やすことが企画のポイントをつかむことに役立っていると思います。

 


――サイボウズ式で企画を立てる際は、どのような流れになりますか?

藤村:まず、これをやりたいというものを社内のグループウェアにある「アイデア・ブレスト」という情報共有の場にどんどん出してもらいます。
弊社ではkintone(キントーン)という自社サービスを使用してコミュニケーションしています。

この段階では、「ゴリラのチームワークに興味があります!」とか、思いつきの状態でかまわないので投稿します。

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アイデア・ブレストの場は、SlackやChatWork、Skypeなどオンラインのチャットツールでも代用可能


藤村:アイデア・ブレストの場は、社内の人間なら誰でも見られるようになっていて、自由にコメントできます。そして、社内の編集部メンバーが「いいね」とか「気になる」と興味を持ったアイデアには、自然とコメントが集まってきます。もちろん、全然集まらないものもあります。

 

ただ、コメントが集まっているということは、アイデアに対して何かしらのおもしろいポイントがあるのだな、ということがわかります。

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ゴリラとチームワークの関係について盛り上がる「アイデア・ブレスト」

藤村:次に、企画のアイデアを「編集会議」というリアルの場に持って行きます。雑談をする感じで、このアイデアがどうやったらおもしろくなるかな?という話をします。

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編集会議では提案者の思いを掘り下げ、企画の切り口を探る


藤村:編集会議で話をすると、企画の方向性や切り口が見えてきます。そこで、ようやく企画書を作ります。

一般的に企画は、「やりたい企画があります」「じゃあ企画書を作ってね」という始まり方が多いと思うのですが、「サイボウズ式」では企画書を作るまでのコミュニケーションを多くしています。「アイデア・ブレスト」から「編集会議」を終えると、企画の切り口や方向性が見えているので、あとは企画書を作るだけという状態なのが特徴です。

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編集会議では、企画についての切り口をなごやかな雰囲気で探っていく

 

藤村:そして、編集会議のあとはオンライン上にある「サイボウズ式 記事管理アプリ」へ移動します。ここでは、編集長である私と企画担当者で1対1のフィードバックや相談、改善案のやり取りといった、いわゆる「壁打ち」をやります。

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企画書の作成から記事の校正まで、1記事ごとに記事管理アプリ上で行われる


藤村:記事管理アプリでは、想定する読者にどういう感想を持ってもらいたいか、そのためにどうしたらいいかといった、細かい部分を詰めていきます。

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記事管理アプリでは、企画ごとに進捗の経緯が確認できる

 

藤村:具体的には、「サイボウズ式企画のポイント」にしたがって文章化し、企画の内容と原稿を仕上げていきます。

サイボウズ式企画のポイント
・タイトル案 ‥‥ 企画のポイントを、ひとことであらわすと? 
・ターゲット ‥‥ この企画を届けるべきなのは、誰? 
・バリュー ‥‥‥ どんな要素が伝われば、この企画は届く? 想定読者に何と言ってもらいたい?
・コンテクスト ‥ なぜ、サイボウズ式でこの企画をやる必要がある?
・思い ‥‥‥‥‥ この企画に対するあなたの思い、なんでやりたい?(自由に、思いのたけを書く)

 

――オンラインとオフラインを分けているのはなぜですか?

藤村:オンラインだけでコミュニケーションを完結させるのは、かなり難易度が高いです。普通は上手くいかないので、企画者の思いを引き出すためにオフラインで編集会議を行います。

 


――使い分けのポイントはありますか?

藤村:オンラインは、基本的にアイデアをどんどん出してもらいます。
なので、「発散」の場としてオンラインを使っています。逆に、オフラインの編集会議は「収束」の場ですね。

 

編集会議では、オンライン上のテキストだけでは見えない企画者の思いをできるだけ引き出すことを心がけてます。そのため、参加メンバーに意見を求めることが多いです。「明石さん、どう思う?」とか「この切り口だったらどう?」とほかの編集者から客観的な視点を交えることで、思いが企画としてまとまっていきます。

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メディアを続けるためには、独自性のある企画が生命線


――多くの企業で、企画や編集を社内で行う際に苦労されるという話を聞きますが、サイボウズ式ではどうですか?

藤村:苦労はしました。ただ、先にお話した「KPIで編集者を縛らない」ことで、企画に対する精神的なハードルは下がっていると思います。
あと、編集者ごとにやりたい企画があるようにするのが大事だと思っています。ただ、企画を「やりたい!」という気持ちだけでコンテンツにしてしまうと趣味になってしまうので、それを仕事にするためには、サイボウズ式としてなぜこれをやるのかという意味付けが必要です。

 

なので、編集者がどうしても形にしたいことと、サイボウズ式としてすべきことをつなげる…そのつなぐ役目を私はしています。具体的には、「やりたいことはどんなこと?」のような引き出すコミュニケーションを多くしています。


――「引き出す」ことを重視するのは、なぜですか?

藤村:企画を考える明石の気持ちは、明石にしかわからないんですよね。私が「◯◯だ」と思って答えを言っても、それは違うって言われるかもしれなくて。たぶん、彼女の中に答えがあるはずで、編集長はそれを引き出すのが重要だと思います。
ただ、自分だけで企画を作っていると、客観的に見えてないところとか主観的になり過ぎる部分も出てくるので、そこを壁打ちやコミュニケーションを重ねながら引っ張り出して仕上げていくようにしています。

 


――しかし、すごく手間が掛かりませんか?

藤村:たぶん効率とは真逆のことをやってるでしょうね。でも、メディアとして独自性を生み出すためには、あえてコミュニケーションの量を多くすることが重要じゃないかなと思ってます。

 

メディアの差別化要因は、端的に言うと中にいる「人」です。テクニカルな方法論とかは検索すれば簡単に見つかるので、真似してもあまり意味はありません。
メディアを運営している中の人が、「どういうことを読者に伝えたいと思っているか」。ここがメディアの差別化において大切なポイントになる気がします。なので、手間を掛けて企画を作ることは、私たちのメディアが独自性を保つために必要なことです。
効率化とか生産性というのも大事ですが、メディアとして長く続けていくなら独自性を重要視する方が大切かなと思っています。

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3ステップ企画術の発展形は、ゲスト?


――この仕組みは、藤村さんが編集長になってから整えたものですか?

藤村:全部整えました。
企画ができるまでのプロセスを改善するのは、編集長がやるべきタスクだと考えていたので。2016年はそれを意識してやってました。

――そのほかに、編集長として意識的に取り組んだことはありますか?

藤村:あとは、編集部の中だけで完結しないようにしたいと考えています。なので、編集会議に外部からWebメディアや雑誌の編集長、プロデューサー、マーケターといった方々を招いたりするのを5回ほど行ってます。
外部の方は、サイボウズ式の編集部メンバーと個人的なつながりがあって、「興味がある」と言ってくれる方をご招待してます。

 


――なぜ、外部から招くのでしょうか?

藤村:アイデアを出しあうのは、一人よりもみんなでやったほうが楽しいというのが理由ですね。サイボウズの中の人だけだと、やはり自分たちの視点で見てしまいがちです。なので、サイボウズ式の背景を詳しく知らない方から、ポンっと出てくるアイデアが新しい切り口になるんじゃないかと思ってます。正直、一緒にやったら楽しいですしね。

 

 

今後のサイボウズ式は、読者との距離を近づけたい

 

――今後、サイボウズ式はどのような取り組みを行っていきますか?

藤村:今年は、「会社と個人の関係性」をテーマに取り組んでいます。「働く」というのは、個人が主役で、会社や仕事は個人を豊かにするためにあるものだと私は思います。しかし、実際の関係性は会社が個人に対して強すぎますし、この「対等になれていない」という点については問題提起していきたいと思っています。

あと、メディアとして読者の方との距離を近づけるイベントを開催したいです。サイボウズ式の熱心な読者の方と、私たち編集部が交流できるコミュニティのようなイメージです。効率とか生産性は高くないかもしれませんが、そのほうが楽しいんじゃないかと感じてます。

 

――楽しいって大事ですね。

藤村:メディアを運営する人は、楽しむ姿勢がないと続けていけないだろうなと思っています。

私は変化に対して敏感でありたいというか、変化しないことは嫌なんです。ただ、その変化が自分達の独りよがりな変化だと、読者を置いてきぼりにしてしまいます。なので、半歩先ぐらいのことをやり続けて、読者の方と一緒に変化していきたいです。サイボウズ式のテーマも変化していくでしょうし、変わるべきだと思ってます。

明石さんは、サイボウズ式でやりたいこと何かある?

 

明石:議論を起こせる人になりたいです。
世の中が何かを考えたり、議論が生まれたりするきっかけになるコンテンツを発信できるようになりたいなと思っています。

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――それは、何かきっかけがあったんですか?

明石:自分が本当に思いを込めて作ったコンテンツに対して、コメントやリアクションを返してくれる人がいるっていうのが、こんなにうれしいことだっていうのを編集部に入って初めて知りました。この楽しさを、もっと貪欲に追求していきたいです。

 

――今後も楽しみですね。本日はありがとうございました。

Editor's EYE

株式会社はてな会長の近藤淳也さんは、著作で「コミュニティができるためには、“この人について行くと楽しそうだ”と思わせる何かがあるかどうかが大事」と語っています。
藤村編集長が整えた、企画をつくる仕組みや、編集会議にゲストを招く取り組みも、どうやったらサイボウズ式をもっと楽しんで運営できるだろうか、という視点が根本にあるように思います。また、後輩である編集部の明石さんはメディア運営の楽しさに触れ、さらに深く掘り下げようとしています。
あなたは、オウンドメディアを楽しんで運営できてるでしょうか? もし、楽しめていないのなら、その原因を改めて考えてみることも大事かもしれません。

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