経済産業省は7月4日に嶋田隆氏が事務次官に昇格する人事を発表した。財界幹部は、「様々なキャリアが評価されたのだろうが、特に東京電力の問題を取り仕切ったことが評価されたのではないか」と話す。
嶋田氏は東電を実質国有化する救済スキームを作り、2012年から15年まで取締役を務めた。東電再建の道筋を描いた主要人物だ。
東電との競争をあきらめた新電力
嶋田氏は強固なゾンビ企業を作り上げた。
東電は20兆円を超える廃炉費用など原発事故の責任を無限に負っており、本来なら経営破たんしている。
しかし、税金の投入を受けて存続し、今も手元には火力発電所や送電線網など膨大な資産がある。決して破たんしない不死身の企業と言える。
東電は福島の責任を果たすために利益を出さなければならない。ただ競合相手からすると、特別に存続が許された会社は決して倒れないゾンビに映るだろう。
ゾンビというと、筋肉の少ないやせた姿を思い浮かべるかもしれないが、東電は経営改革によって筋肉質なゾンビになろうとしている。
川村隆会長は「東電が生まれ変われば福島への責任も果たせる」と話す。火力発電事業を中部電力と統合しただけでなく、原子力事業も他社との連携を模索している。人工知能など最新技術も積極的に活用していく方針だ。
ただ、東電が経営改革を進めるほど、民業圧迫の懸念が強まっていく。
例えば、電力小売りの全面自由化。スタートから1年間で全国の切り替え率は5%程度と、十分な競争が起きているとは言い難い。首都圏では東電が安い料金プランを提示し、牙城を守っている。
新規参入事業者である新電力は安価な電源を確保できないために、電力小売りの販売量に制約がある。仮に東電が膨大な債務を返済するために火力発電を売りに出せば、さらなる競争が起こったかもしれない。
ある新電力は「東電は強くて当たり前。勝てる訳がない」とあきらめ顔だ。東電の原発事故を批判し、再生可能エネルギーをウリにした電力を販売していたが、今や「東電と組んだ方がいい」と宗旨替えに動いている。
10年以上前から自由化している大口需要家向けの電力小売り市場では、大手電力とのコスト競争に勝てず、多くの新電力が撤退した。家庭向けの電力小売りでも市場から退出する企業が相次ぐ可能性がある。