ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」内で開催される「Meet-Ups」に登壇した開発者にフォーカスを当てインタビューするこの企画。第四弾では、ジェムドロップ株式会社の代表取締役北尾雄一郎氏にお話をうかがった。
ジェムドロップ株式会社は、長年トライエースに在籍し『スターオーシャン Till the End of Time』のバトルリードプログラマーや『エンド オブ エタニティ』のリードプログラマーとして活躍した北尾雄一郎氏が2013年に設立した会社だ。ジェムドロップは「求められる物は創らない、それ以上の物を創る」をモットーに活動しており、昨年にはPlayStation VR向けタイトル『ヘディング工場』をリリースしている。モバイルやコンシューマー、VRまで幅広くこなすジェムドロップの会社方針、そして来てほしい人材などを北尾氏に語っていただいた。
――自己紹介をお願いします。
北尾 雄一郎氏(以下、北尾氏):
ゲーム業界に飛び込んで21年目になります。学校を出てすぐにゲーム業界に入ったので、普通の会社を知らない、あかんやつですよ(笑)最初に日本一ソフトウェアに3年いて、それから東京に出てトライエースという開発者会社で14~15年、そこから独立したのが4年前ですね。ずっとコンシューマーゲームを作っていたんですが、今はコンシューマーに限らずVRとかスマホとか、それこそなんでも作ってますね。
――昨年お話をうかがった時は、VRに力を入れるとおっしゃっていましたね。
*北尾氏は昨年のGTMF Meet-Upsでも弊誌のインタビューを受けている。その時はVRに力を入れると力強く語っていた。
北尾氏:
ああ!言ってましたね。(笑)もちろん今でも継続して力を入れています。
――PSVRタイトル『ヘディング工場』がリリースされましたし、有言実行と言ってもいいのでは。会社の変化などはありましたか。
北尾氏:
変化ですか――そういえば、スタッフの数が去年の倍になったんです(笑)
――ええっ。
北尾氏:
去年のこの時期は16名で、今では35名に増えました。当時はVR作品を作り始めたばかりだったんですが、開発ラインも増えて、今は新しいのを作ってます。以前から水面下で進めていた事なのですが、、えーでるわいすのインディーゲームの制作のお手伝い とか、公にできるようになりました。そういう意味では裾も広がりつつあるのかなと。
――制作実績のところに「えーでるわいすの開発協力」と記載されていたのは驚きましたね。企業がインディーゲームに開発協力することって珍しいのでは?国内では特に。
北尾氏:
あまり聞かないですね。でも僕らは企業だからとか、サークルだからとかは気にしなくて、「面白そうやん!」と思ったらやろうという精神なんですよ。実は、えーでるわいすのなるさんと一緒に組んでいる、こいちくんという方がいて、彼は元同僚なんです。会社を作った時から「手伝って」とか「うちの新人鍛えて」とかお互いやってるうちに、彼から「稲作のゲーム(天穂のサクナヒメ)をやってる」と聞いて、「絶対面白い!」と思いました。そこから手伝って欲しいという流れから「ぜひぜひ」となりました。そんな流れですね。
――北尾さんからご提案されたんですか。
北尾氏:
はっきりとは覚えてないですね。ただ、彼らもリソースが足りないみたいで。企業なら契約を交わすので安縛りも出来る反面「逃げない」という安心も生まれます。 個人でも全力でやられている方もいますが、副業的にやられている方はどうしてもペースが安定しませんし波があります。でも企業はずっとゲームを作ってますよね。僕らは相手が企業だから、個人だからとかではなくて、質がよいとか面白そうとか、ほかの人と違うことやってるとか、面白さに魅力を感じています。勿論お金にも魅力を感じますが(笑)。
――インディーでやられている方って、才能はあるけどリソースが足りないという課題はあると言いますよね。
北尾氏:
多いですね。
――パブリッシャーが開発サポートするというのはあるんですが、個人開発者と企業が対等に付き合っていくというのは、新しい形だなと思いますね。
北尾氏:
そうですね、あまりないと思いますね。「いいんじゃんそれでも」とも思いますね。
――今回のような取り組みは今後もありそうですか。
北尾氏:
ええ、やっていきたいですね。えーでるわいす以外のサークルとかでも、そういうお話があったらやらせていただきたいですね。僕らは今回『天穂のサクナヒメ』をお手伝いした形ですが、逆に僕らが何かを作る時にサークルの方に、部分的に開発協力を求めたりできたら面白いなと思います。
――ジェムドロップさんは、昨年からフットワークの軽さが印象的ですが、クリエイティブな部分だけでなく、ビジネスの部分でも小回りが効くのかなと思います。そうした方針は北尾さんのマインドが影響していますか。
北尾氏:
そうですね、僕のマインドですね。それに社員が振り回されているのかもしれないですが(笑) でも、もともとうちの会社って99%開発の人間しかないんですよ。営業とか人事とかいないんです。お金を1円でも多く儲けるというのも心がけてはいるんですが、開発者として面白いことやりたいじゃないですか。たとえば、なんらかのIPものをずっと作るのもいいんですが、インディー的なものやオリジナルのような、小さいチームで物を作って世界に発信したいよねとか、そういう面白さを重視しています。「これ面白そうですね!」と言ってくれそうなものを、とってくるようにしています。
――逆に言うならば、ジェムドロップさんとお仕事するには、面白そうと思ってもらえるものを持っていかなければいけないとも考えられますよね。
北尾氏:
あー……そうかもしれないですね。(笑)
――「来る者は拒まず」ではない印象です。
北尾氏:
来る者は拒んでないですよ。ただ、お仕事のご相談をいただいて、そこで選べる立場にあるというのは重要じゃないですか。選ぶ側になって、選ばせていただいているのは確かですね。ごめんなさいと言う時もあります。そういう意味でも、敷居が高い分フィルタリングできている部分はあります。僕らもやりたくないことを仕事にしたくないじゃないですか。独立した理由は、やりたい仕事を選びに行きたいからです。その分逆に自分たちにもプレッシャーがかかっていて、中途半端なものを作ると評判も落ちるし、一緒にやりたいと言ってもらえなくなっちゃうんで、常に結果をいい方向にしていかないと、僕らが営業しなければいけなくなっちゃうんです。
――『ヘディング工場』をリリースできたっていうのは、ある意味究極の営業ですよね。
北尾氏:
そうですね。結局僕らの営業ってそこなんです。よく下請けの会社さんの名前は出せないとかってあるじゃないですか。うちはそういうのが嫌いで、作るからには出させてくださいと言うんです。もちろん版権ものでダメなのはあるんですけど、そうじゃないタイトルは交渉させて頂いて 、ちゃんとやるかわりにできた時は「作ったよー!」と言って実績を出すことによって、営業につながるし、スタッフのモチベーションも上がると思います。責任という点もありますしね。
――『ヘディング工場』は、他社協力はありましたか。
北尾氏:
100%うちですね。
――達成感はありましたか。
北尾氏:
ありましたね。作ったことに対する達成感もありましたし、ユーザーさんからフィードバックしていただけました。いい意味で、循環するという意味で、やりきれなかったこととか、ユーザーさんの感想と僕らの意図のずれを発見できました。そういう点は次やる時の燃料になりますね。達成感もありつつ、達成できなかったことも沢山ありました。
――自分たちですべて開発したなら、その責任もすべて背負わないといけないですよね。他社との連携がある時とは違って。
北尾氏:
そうですね。(他社との連携があると)逃げ場ができちゃうんで、逃げ場がないというのは大きいですね。でもそれがインディーの面白いところだし、やりたかったことだし、醍醐味ですよね。ただ僕らは、会社としての体を守りつつ、「俺達はこの作品にすべてをかけていて、潰れるか潰れないかのスレスレで頑張るんだ!」というところを避けるように保つというのは目標ではあります。(笑)えーでるわいすさんなんかそうで、彼らはバキバキにキマってて通帳残高と戦っているんですよ。本当すごいなあと思うんですよ。僕らは人もいっぱいいて、やっぱり企業の体があるんで。グループで解決できるという強みを生かすために企業の体を守りつつやるのも、面白いですよね。
――ロックなだけではないんですね、いい意味で。
北尾氏:
そうそう(笑)ロックすぎないところもあります。たまにロックになることもあるけど。バンドというより吹奏楽団のような集まりなのかもしれません。
――会社に入られる方も、生活のリスクなど色々考えてられていると思います。そういう点ではロックじゃないところも企業には必要なのかなと思います。そういったバランスはうまくとれていますか。
北尾氏:
とれているとは思います。でも僕らにとってはやっぱり課題で、去年よりも大幅に人が増えてるんです。企業体質になってくるはずなんですけど、うまく企業すぎない感じが緩く続いている感じがします。どうなるのかな、でも「まだまだこのノリでやってみるかな」と思ってやってます。
――そういう意味では、今後はどう進んでいかれるのかなというのが気になりますね。
北尾氏:
ああー、ちょっとリアルな話なんですが、僕らも『ヘディング工場』でマネーマシンガンを撃ちまくったんですよ。(笑)人を突っ込んで、金が入らない状態でジャラジャラって撃ち込んで、「あれ、弾がねえ!」という感じでした。そういうのもあるんで、いい意味でオリジナルをふたたび作るためのノウハウ蓄積や資金繰りもしたいですね。でもそれも、純粋にお金を稼ぐためにやるというより、お金は稼ぐけれど、面白いことをやるというのを仕込んでいます。外の人と面白いものを作って、かつ「そういう組み合わせなんですか?」と驚かれるものをやっていきます。そこらへんはまだ僕ら日本の殻に閉じこもりすぎちゃっている部分もあるので。
――ロックですね(笑)
北尾氏:
とっとと海外で物を売りたいですし、たとえばSteamも含めて海外でのパブリッシュは、まだうまくいってなくて。『ヘディング工場』はまだアジアでしかリリースできてないんです。北米と欧州がまだなんですよ。そういうところもうまくなりたいというのはありますね。外との組み合わせもうまくやりたいですし、オリジナルを作る時も世界に対しても出していきたいです。
――引き出しの多さもジェムドロップの魅力ですよね。Unityメインでありながら、いろんなゲームエンジンを使いたいとおっしゃってましたし。
北尾氏:
僕らは間口の広さを重視していて、ジャンルもそうですし、ゲームデザインもそうです。ゲームエンジンもそうなんです。いろんなゲームエンジンを選べる立場にいる必要もあるので、そういう意味でいろんなゲームエンジンを扱えるようにしたいですよね。
――手段に合わせてゲームエンジンを選ぶのは、理想的ですがなかなかできることもないですよね。
北尾氏:
ひとつのエンジンを極めて、「困ったらうちに連絡ください!」みたいな武器を持つのもいいですけど、僕らはそういうのじゃないんですよね。
――あえて茨の道を選ぶと。
北尾氏:
そうですね。そういうところはあります。(笑)
――Meet-Upsでは求人についても触れられていました。来てほしい人材について教えていただけますか。
北尾氏:
面白いことをやりたい方ですね。あとは、小さいチームで大きいことやりたいというのが目標なんです。小さいチームでスケールが大きかったり、驚きのある仕掛けがあることをやりたいんです。「面白そうなんでやっていいですか」と聞かれたら「いいぞもっとやれという雰囲気があって、個人のフットワークを重視しているんです。そういう組織を希望している方にきてほしいですね。個人開発者と大規模なチームのちょうど中間ぐらいを楽しみたい人向けですね。
――どちらの楽しみも味わいたい、欲張りな人向けということですね。
北尾氏:
そうですね、欲張りな人大歓迎です(笑)
――ありがとうございました。
[聞き手: Minoru Umise]
[写真: Shinji Sawa]
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で15年目。大阪会場は2017年6月30日、東京会場(事前登録受付中)は7月14日に開催。