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浄化施設廃液と鶏ふん灰で液肥 長尾Corp.とクラレグループなどが商品化へ

鶏ふん灰から健康野菜向け液肥ができる仕組み

 不動産建設業・長尾コーポレーション(長尾Corp.瀬戸内市牛窓町鹿忍)は、クラレグループのクラレリビング(大阪市)、堆肥メーカー・荒木産業(岡山市北区大井)と共同で、し尿処理工程で発生する強酸水廃液を使って、焼却後の鶏ふん(糞)残灰から液体肥料(液肥)を抽出する技術を確立した。養鶏農家から出される鶏ふんは一部肥料や堆肥として使われているが、大半は有料で産業廃棄物として焼却処分されている。環境にやさしい新タイプの資源循環型肥料として、堆肥メーカーとタイアップして商品化を進めている。

 岡山県は採卵鶏が981万4千羽で飼育羽数は全国4位、ブロイラー鶏が252万1千羽で同11位にランクし、全国でも有数の養鶏どころ。養鶏農家では鳥インフルエンザの拡大防止などから鶏ふんを焼却処分するケースが多く、焼却後の鶏ふん灰は県内で年間約1600トン(2006年統計)発生している。鶏ふん灰は窒素以外に野菜の生育に欠かせないリン酸、カリウム、カルシウムなど野菜栽培に必要な栄養成分が多いが、pH値が11~13の強アルカリ性となり、液肥としてそのままでは施肥できなかった。このため発生した鶏ふん灰の30%程度は乾燥肥料の補充的な目的に再利用されているが、残りの約70%は産業廃棄物として処分されている。

 かつてブロイラーの養鶏・加工を手掛けていた長尾Corp.は、焼却後の鶏ふん灰の無機質栄養素に着目。クラレリビングなど5団体とともに2015年度きらめき岡山創成ファンド支援事業(県産業振興財団)の助成を受け、「焼却鶏糞灰の中和による肥料化」をテーマに鶏ふん灰のリサイクル活用と、その商品化を研究していた。

 同社などが共同開発した技術は、岡山市・瀬戸内市の神崎衛生施設組合(岡山市東区神崎町)のし尿処理浄化施設で、バチルス菌を使って消臭した後の廃液に着目。廃液は硫酸を主成分とした微生物を含んだバイオ強酸水(pH1前後)で、この強酸水に粉末状にした鶏ふん灰を混ぜ、その濾過(ろか)液を液肥として抽出する方法を確立した。この結果、鶏ふん灰1に対し強酸水60の割合で混ぜることで、鶏ふん灰の約20%が廃液に溶解し、pH値は5.5程度に中和されることが分かった。鶏ふんは焼却される際に窒素が消滅するが、灰の成分中のカリウムはほぼ100%、リン酸は約35%、カルシウムは18%が濾過液の中に溶け出し抽出された。窒素成分は硝酸カルシウムを後で補充することで3大要素が豊富な液肥ができるという。濾過後、底に沈殿した泥状の残渣(ざんさ)も固形肥料として利用できる。

 実用化に向けコストなどの課題はあるが、まずは肥料ではなく「土壌活性剤」として実用化、近く肥料メーカーとタイアップして「健康野菜向け肥料」として商品化を図る方針。野菜は化学肥料の窒素成分を取り込むことで、野菜内で硝酸塩に変化し発がんの原因物質となる場合があるという説もあり、最近は窒素成分を控えた「低硝酸野菜」の栽培が注目されている。今回、鶏ふん灰から抽出する液肥や固形肥料は、硝酸カルシウムの追加で窒素分を調整できるため、農家の要望に応じた商品化が可能になる。クラレリビングの秋葉英治研究開発部長は「最近、健康志向で注目されている低硝酸野菜向け肥料としてニーズは高い」としたうえで、「有機肥料でもなく化学肥料でもなく、鶏ふん灰を有効活用する新しい循環資源型の無機系肥料。環境に優しく健康志向にマッチした肥料として売り出したい」と期待する。

 また、研究成果で副産物として、し尿浄化設備から発生するバイオ強酸水に界面活性剤、天然系の香料を添加した強力消臭剤(抗菌酸性水)も開発。バイオ強酸水は微生物でし尿の臭気を処理した後に残る廃液。本来、微生物由来の成分のため、人体に対する刺激性が少ないのが特長。1cc当たりで4畳半分を消臭する効果があるという。特に不快臭の原因となるトイレなどのアンモニア、魚のトリメチルアミンなどアルカリ系臭気と化学反応し、アルカリ成分を中和させることで消臭効果を促すと言う。「もんげー水(SK)」として荒木産業が生産販売を担当する予定。

 国内の採卵、ブロイラー鶏の飼育羽数は合わせて約3億1千万羽(2017年2月現在)といわれ、鶏ふんは1羽当たり年間約50キロ発生し、年間の鶏ふん処理量は膨大になる。鶏ふん処理は農家が発酵堆肥や、乾燥機を導入して固形肥料として活用するケースもあるが、機械設備の導入でコスト負担や、発酵や乾燥作業の過程で悪臭や水質汚染などの環境問題がネックとなって、自前で焼却処分したり、産業廃棄物として有料で業者に引き取ってもらうケースが多い。また鶏ふんは焼却後も重量の約10%が焼却灰として残り、産業廃棄物として埋め立て処分などで処理している。

 長尾Corp.の長尾栄一社長は「養鶏農家は卵価の低迷や飼料高で経営が年々厳しくなっており、鶏ふん処理の労力と費用の負担も大きい。今回の技術開発が農家にとって少しでも経営改善の後押しになれば」と話している。
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