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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第三章:回復術士は黒の世界で宝石を見つける

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第二十話:回復術士はお姫様を迎えに行く

 フレア王女の演説によって、ジオラル王国の一方的な蹂躙で終わるはずの戦い、その流れが変わった。
 魔族たちを見捨てて自分だけ助かろうとしたブラニッカの人間たちは立ち上がり、魔族と人々が共に手を取り戦う。
 そして、その姿を見てジオラル王国の騎士たちは戸惑う。

 さらにとうとう俺がワインに仕込んだ毒が回り始めた。
 遅効性だが、超強力な腹下しだ。
 騎士たちが苦悶に表情をゆがめて腹を抱え始めた。ひどいものになれば下痢でズボンを汚している。

 剣や槍すらろくに持てないようだ。
 あっけなく、ブラニッカの住民たちに打倒される。
 そんな様子を路地裏から眺めていた。なかなか滑稽で面白い見世物だ。
 さて、頃合いだ。

「まず、フレイアを地下シェルターまで送るよ。それから俺は別行動だ」
「ケアルガ様はどうなされるのですか?」
「この戦争を終わらせる。ブラニッカの人たちの血をこれ以上流れるのは避けたいし、ただ命令に従っているだけのジオラル王国の騎士たちだって死んでほしくない……だから元凶であるノルン姫をさらって”説得”しようと思うんだ」

 これは建前だ。
 平和だとか、流れる血はわりとどうでもいい。
 俺の目的は復讐ただ一つ。あいつらはカルマンを……親友を殺したんだ。絶対に許せない。許すわけにはいかない!!

 だが、一応、フレイアの前では世界を救うために旅をしていることになっている。
 多少の無茶をやっても勝手に脳内変換してくれるとはいえ、ある程度の配慮はしよう。露骨に復讐のためというのは見せない。

「私もお供します!」

 フレイアになった影響か、正義感があるようでやる気になっている。
 だけど……。

「その必要はないよ。フレイアの殲滅力はたしかに貴重だけど、なるべくスマートに行くつもりだ。最小限の犠牲でこっそりノルン姫をさらう。その作戦だと、フレイアは足手まといになる」

 魔術士にこういった隠密行動は向いていない。
 そのことはフレイアもよくわかっているようで、それ以上口答えはしなかった。

「わかりました……力になれずに悔しいです」
「いや、フレイアは十分に仕事を果たしてくれたさ。さて、急ごうか」

 フレイアを送り届けたころには薬の効き目は最高潮に達している。
 聖槍騎士団はぼろぼろになった戦線を立て直すために温存していた護衛たちも吐き出す。
 その混乱の中ならば容易に忍び込めるだろう。

 ◇

 フレイアを地下室にまで送り届けたあとは、適当に騎士を気絶させてから路地裏に連れ込んで鎧をはぎとり、【模倣ヒール】することで記憶とその姿を得た。

「運がいい、大当たりじゃないか」

 気絶した兵士は、伝令役の知り合いらしい。
 そして、その居場所を知っている。

 この男のふりをして伝令役に近づき、成り代わってしまえば楽にノルン姫のところまでたどりつけるというものだ。
 ノルン姫本人が戦場にしゃしゃりでて自ら指示を出してくれているおかげだ。
 あいつがでしゃばりで良かった。

 一発で伝令役につながる兵を捕らえれれたのは、きっと俺の日ごろの行いがいいからだ。神様はちゃんと見てくださってる。
 あるいは天国のカルマンが力を貸してくれたのかもしれない。
改良ヒール】で姿を王国兵のものに変える。
 鎧をカシャカシャと鳴らしながら歩き始めた。

 ◇

 騎士の姿に擬態した俺は、ちょうど伝令のために移動中だった一人の兵士に知り合いのふりをして近づき、あっさりと入れ替わることに成功していた。

 そして、記憶をあさっている。
 さすが伝令役だ。今まで出していた指示がわかるのはありがたい。
 ノルン姫の戦略が見て取れる。
 それにこれからやろうとしていることも。
 思わず笑ってしまった。

「あーあ、あの女も運が悪い。伝令役が伝令を伝える前に倒されるなんてな」

 あの女の評価を一段階上げる。
 あの女はここから立て直す策を考えだして、指示を出していたのだ。

「この指示が伝われば、まずいことになりそうだったな。危ない危ない」

 ノルン姫の策がきちんと伝わっていれば、おそらく成功しただろう。
 だが、残念だ……その指示が伝わることはない。
 なぜなら、伝令役はぐっすりと眠って俺に成り代わったのだから。
 俺はこのまましれっとした顔でノルン姫のところに伝令役の兵士として顔を出す。

 いよいよクライマックスだ。
 俺は必死に、にやけるのを堪えながらノルン姫の馬車に向かう。

 誰も俺をとがめない。
 騎士たちにそんな余裕はない。もし、いつもの平時の戦場であれば怪しむものも現れたかもしれない。

 だが、次々に体調を崩す騎士たち、圧倒的に劣勢な戦場。
 彼らには違和感に気付く余裕すらなかったのだ。

 ◇

 ノルン姫のいる馬車内に入る。馬車の入り口を守る見張りの兵たちも伝令役の顔は覚えているのですんなりと通してくれた。
 中に入ると、ノルン姫が親指の爪を噛んでいた。

「どうなってるの? まさか、フレアがこんな形で介入するなんて。なにが平等よ。亜人なんて虫のようにしか思ってないくせに」
「……聖女様がそんな」

【鷹眼】がフレア王女に対して暴言を吐くノルン姫に意見していた。
 ちっ、やはりそばにひかえているか。戦線を立て直すために離れてくれれば最高だったのに。

「あの女に比べたら私なんて可愛いものよ。私は感情ではなく、王国の利益になるから亜人差別や魔族差別をしているけど、あの女は感情で差別するから始末に負えない。ただ、気になるわね。あの演説、あの女らしくない。あれはあの女の言葉じゃないわね」

 実に不快そうにノルン姫は嘆息する。

「といいますと?」
「まず、第一にあの女が自分で考えた演説なら絶対に無意識に上から目線になるのよ。でも、あれは対等な目線だった。その時点でおかしい。第二にあの女は騎士たちに向かって信じています。そう言った。ありえない。そんなふうに他人の善意に期待するほどあの女は他人なんて信じてない。あの女なら信じなさい、あるいは止めなさいと命令するはず。第三に、あの女が私に逆らうはずがない」

 ずいぶんとひどい言いようだが、的を得ている。
 さすがはノルン姫と言ったところか。

「以上のことから、あの女は誰かに操られてる。さっきのあの女の言葉に自分の意志なんてどこにもないのよ。じゃあ、いったい誰がフレア王女を操ってる? 考えられるのは【癒】の勇者ケアルしかいないわ。面倒ね。ここに来て、行動どころか目的も見えない特級戦力が現れるなんて。あの男がブラニッカを守る合理的な理由が一つもない。理解に苦しむわ」

 ぱちぱちぱちと心のなかで拍手を送る。
 あの演説を聞いただけで裏にいた俺を断定した。

 いいな。この女は使える。頭がいい。
 俺の所有物おもちゃにすれば、その頭脳をたっぷりと利用させてもらおう。

「あなた、何そこで突っ立ってるの? 報告があるのなら早く言いなさい」
「はっ、姫殿下」

 俺は殺意を押し殺して微笑み距離を詰める。
 すぐにでも、さらってしまいたいが邪魔者がいる。

 この場にいる護衛は三人。うち一人は【鷹眼】だ。
【鷹眼】は平気な顔をしているようだが、毒ワインは効いている。

 ステータスの高さのおかげで耐久力があるのと強い精神力の持ち主であるおかげでやせ我慢ができているだけだ。戦闘力はがた落ちになってる。

 残り二人は毒が回っていない。
 酒が苦手で飲んでいないのか?

 まあいい、【翡翠眼】で見た限り残り二人は普通の超一流でしかない。
【鷹眼】さえ葬ってしまえばあとはどうにでもなる。
 やつは油断している。最優先は【鷹眼】の始末。

 ノルン姫の隣にいるやつに近づいて一撃目で確実に……。
 ちっ!

 首を傾ける。すると何かが頬をかすめて飛んでいく。
 おそらく、針のような暗器。それを【鷹眼】が袖から一瞬で打ち出した。

 警告も予備動作もなかった。それは伝令役の入れ替わりを確信していなければできないこと。
 避けられたのは、【鷹眼】が絶不調かつ、俺自身がこの状況でも気付かれるかもしれないと恐れていたからだ。

「やはり、避けますかな。それほどの武。錬金術士というのは何の冗談ですかな?」
「なぜ、気付いた」
「足取りですな。体重移動、呼吸、そういうものがすべて一流の武人のものでした。少なくとも昨日までの彼とは違う」

 会話に応じつつも【鷹眼】の攻撃は止まない。
 ありとあらゆる場所から暗器を放ってくる。戦場では弓の名手だが、室内戦では暗器使いに早変わりするのが【鷹眼】のスタイルだ。

 この会話すらも、注意力を逸らすための手段に過ぎない。
 今度は口から吹き矢のようなものを繰り出してきた。

 指で挟んで止める。その間に距離を詰めらた。蹴りを放ってくる。バックスフェーで躱すと靴の先端から刃が出てきた。左手を突き出して防ぐ。深々と刃が手の平に突き刺さった。

【神装宝具】の【自動回復オートヒール】が発動する。
 ありがたい。早速、神甲ゲオルギウスの有用性が証明できた。

 刃には、たっぷりと麻痺毒が塗られていた。このやり方には親近感を覚える。
 もし、【自動回復オートヒール】がなければ、麻痺毒で身動きができずに【回復ヒール】すらできない状況に追い込まれていただろう。

 もっとも【自動回復オートヒール】があるから喰らってやった。
 刃が突き刺さったままつま先をぎゅっと握りしめる。
【鷹眼】の強さは世界最高の眼。圧倒的な動体視力と反射神経だ。
 こうやって、ありえない選択肢を選ぶことで虚を突かない限り有効打を与えるのは不可能だった。

 触れさえすえばあとは【改悪ヒール】で始末できる。
 そう思い魔力を高めるが、【鷹眼】は足首をひねる。あまりの痛みに手を離してしまう。そして追撃を恐れて後ろに跳んだ。
 刃が抜けたあとは、【回復ヒール】で治療した。
 やれやれ、コンマ数秒硬直してくれれば、殺せていたのに。

「おかしいですな。繰り出す暗器のことごとくが読まれている気がします。それに、最後の毒。大型の魔物ですら動けなくするもの。なぜ、動ける?」
「質問は一つにしてほしいな。一つ目、俺も暗器使いだから。二つ目、毒は効きにくい体質なんだ」

 お互いに隙を探り合う。
 残り二人の護衛がゆっくりと背後に回ってくる。
 囲まれた。
 さすがに、【鷹眼】を相手にしながら超一流の騎士たち二人は相手にできない。
 早急に手を打たないと。

「【癒】の勇者、観念しなさい! 残念だったわね。いくらあなたでも【鷹眼】相手にのこのこと現れるなんて自殺行為よ」

 まあ、確かにそうだ。
 せっかく、毒で弱らせても形勢は不利。やってられない。
 こんな化け物とまともにやり合うなんて正気の沙汰じゃない。
 だから、まともじゃない手を使う。

 せっかくなのでゲオルギウスの攻撃の能力を試させてもらおうじゃないか。
 ノルン姫は、大きく吸った。悲鳴をあげて周りの騎士たちを呼び寄せる気だ。数秒後には悲鳴が響き、敵の兵士たちがなだれ込んでくる。

 一刻の猶予もない。
 早急に勝負をつけるため即死攻撃である【改悪ヒール】に頼るしかない。

 だが、【鷹眼】にコンマ数秒触れ続けることができるか?
 答えはノー。それでもやる。

 なんの小細工もなく突っ込んだ。
 そして、拳が届く距離に入る直前に拳を突き出す。どうぞカウンターを叩き込んでくださいという愚かな攻撃だ。
 そして、放つのは必殺の……。

「【改悪ヒール】」

 触れないと意味がない必殺魔術。しかし、魔力の高まりに【鷹眼】は警戒し身構えて、反撃を繰り出してこない。

 それが致命的な隙となった。
 神甲ゲオルギウスの前方のスリットから黒い光が吐き出され放射状に広がる。

 一撃必殺の【改悪ヒール】には触れないといけないという欠点があったが、この神甲ゲオルギウスならば【改悪ヒール】を飛ばせるのだ。

 飛ばせる距離は一メートル未満。だが、その距離が強敵との戦いではいきる。

「ぐふっ、これは、いったい、かっ、からだが」

【鷹眼】の体が不自然に膨らみ、はじけた。
 繊細な壊し方はしてやれない。
 だから、細胞の強制増殖を選んだ。魔力の消費が激しい一撃だが効果的だ。
 ……ちょっともったいない。【鷹眼】の技能と知識と経験。それらを【模倣ヒール】したかった。

「んな余裕ないしな」

 そうぼやいて、一本の針を投擲、さらにナイフを二本投げる。
 針がノルン姫の首に突き刺さると、その声はか細いものになり彼女の悲鳴はろくに響かなかった。二本のナイフは、ただの超一流程度に収まる護衛の首筋を切り裂き血が噴き出る。
 邪魔者はいなくなった。助けも来ない。さてと、目的を果たすとするか。

「あなた、いったい、なんなの」
「王子様だよ。お姫様をさらいにきた」

 ノルン姫の口元に布を押し当てる。
 特製の睡眠剤をたっぷりと染み込ませたものだ。
 ノルン姫の意識が落ちる。
 さて、あとは連れ帰るだけ。

「カルマン、おまえの仇は討ってやるからな。友の無念を晴らすためとはいえ、幼い少女に手をかけることは許されないかもしれない! この胸に宿る復讐の炎はもはや誰にも消せはしない。友のため俺は人を捨てた獣になろう。カルマン、あの余で見ていてくれ」

 まだ、十三程度に過ぎない幼いノルン姫にひどいことをするのは、良心が痛むが仕方ない。なんたって復讐だから。
 あと、ついでにブラニッカの人が助かる。不利な状況で指揮者がいなければ自動的に撤退となるだろう。
 正義の味方的になかなかいい感じだ。

 さてと、どうやってノルン姫を連れ帰ろう。
 そして、連れ帰ったらどうやって楽しく遊ぼうか。
 フレイアをフレア王女に戻して楽しむのは決定しているが、細かいところを決めていなかった。

「よし、いいことを考えた」

 二人の姉妹愛をたっぷりと見せてもらおう。
 姉妹の仲をたっぷりと深めないと、これからの旅に支障がでる。
 なぜなら、姉妹そろって俺の所有物おもちゃになるのだから。
 俺はなんていい人なんだろう。そんなことを考えながら笑った。これから楽しくなりそうだ。
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