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第十六話:回復術士はひとときの休息を得る
朝が来た。
なかなか楽しい見世物だった。
まさか、剣の勇者があそこまで頑張るとは。
恥も外聞もなく、ひたすら男を誘惑する姿には笑わせてもらった。
まあ結局は、奮闘むなしく食べられてしまったが。
最後のほうは、理性を失った男たちがあんまり乱暴するものだから、女と呼べるものではなくなっていた。
あれでは誘惑も何もあったものじゃない。
ちなみに、大男三人組たちは始末した。
三人がかりで女を襲うクズは殺したほうが、余のため人のためというやつだ。
それに、あの薬の中毒者が嫌う匂いをまとっていたが、極限の飢餓に我を忘れて襲ってきたのもある。
いわゆる正当防衛の奴だ。
「くくく、あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃああ、ああ、これでまた一人復讐が完了したな」
俺が絶対に許さないと決めていた三人の勇者。
【術】の勇者フレアは、記憶を消して俺の下僕として尽くさせている。
【剣】の勇者ブレイドは、そのプライドを捨てさり、男に媚び続けて死んだ。
残っているのは、【砲】の勇者ブレッドただ一人。
ブレッドは黒い肌の筋肉達磨。
ショタ好きのホモだ。あれも生かしておけない。
イヴのために、現魔王を始末するのと並行して、しっかりやつの足取りも追う。絶対に殺してやる。
ああ、今でも悪夢にうなされる。あのホモは最低最悪の手段で殺してやろう。
復讐が終わるまでもうひと踏ん張りだ。これからも頑張っていこう。
さてと。
「【改良】」
しばらくお世話になったケアルラの姿を捨てて、ケアルガの姿になる。
そして、あらかじめ用意しておいた服に着替える。
やっぱり、この姿が一番しっくりくるのだ。
セツナたちのもとに帰るとしよう。
晴れやかでいい気分だ。
戦利品もある。【神装宝具】だ。漠然と契約するより明確なイメージができるまで契約を待ったほうがいいだろう。俺のためだけの武器、最高のものを手に入れるとしようか。
◇
宿に戻るとセツナとフレイアが出迎えてくれた。
「ケアルガ様、お帰り」
「お仕事、うまくいきましたか」
「ああ、ばっちりだね。目的はちゃんと果たしたよ。しっかりと情報も手に入れた」
復讐のためにやったことだが、表向きの目標は情報収集。
【剣】の勇者ブレイドの記憶はしっかりと覗いている。
三日後には、妹姫のノルンがこの街の領主に言いがかりをつけて、大規模な掃討任務が始まることがわかった。
それまでに、なるべく金を稼がないといけない。あとでさっそく、商人のカルマンのところにポーションの売り上げ確認と、追加分の納入に行こう。
「はやければ、三日後にこの街はジオラル王国の軍勢に蹂躙されるようだ。正義の心を持つ俺としては見過ごせない。なんとか、防ぎたいと思う。そうすればお尋ね者だ。逃げる準備もしておこう」
愛着あるこの街を滅ぼされれば、もうそんなの復讐するしかない。
……とくに、信頼でき仲良くなった商人のカルマンが殺された日には、温厚なケアルガ様も冷酷な復讐鬼に早変わりだ。
「ん。準備をしておく」
「ですね、早めに旅に必要なものをたっぷり補充しないといけません」
二人は旅慣れしてきたので、自分でいろいろと考えて行動できる。
「でも、残念です。もう、いつもの姿に戻ってしまったんですね。ケアルガ様の、女の子の姿可愛かったのに」
「セツナも残念……ちょっと、あの姿のケアルガ様に抱かれてみたかった」
フレイアとセツナが俺の顔を残念そうに見る。
わりと失礼なやつらだ。このケアルガの顔も案外気に入っているのだが。
そこまで言うなら、こんどケアルラの姿でたっぷりといじわるなプレイをしてやろう。
ケアルラは性転換しているわけではないので、ちゃんとアレがある。
「そうだ、フレイア。このドレスは必要か?」
ケアルラとして高級バーに入り込むために必要だったドレスを取り出す。
おそらく、もう二度と着ることはない。
セツナやイヴには大きすぎるし、与えるとしたらフレイアだ。
「その、お気持ちは嬉しいのですが……胸が」
その言葉を聞いて、フレイアの胸元を見る。
うん、これは無理だな。
どう頑張ってもサイズが違いすぎる。
「残念だけど、これは売ろう。二束三文にはなるだろう」
フレイアが、名残惜しそうにドレスを見ていた。
だが、仕方ない。入らないものは入らないのだ。
◇
昼食を終えてから、イヴも交えて四人で外に出た。
旅支度のためだ。
その軍資金を得るために、カルマンのところに向かう。
ポーチには補充分のポーションがたっぷりと入っていた。
ポーションが売れていれば、この補充分も買ってもらえる。さて、売り上げはどうだろうか。
「おっ、待ってたよ兄さん。ポーションは全部売れてるぜ。朝から、実際に使った奴が、もっとないのかって何人も駆け込んできて大変だったんだぜ。追加分を心待ちにしてたよ」
「それは何よりだ。ちゃんと持ってきてるよ」
狙い通り、ポーションはバカ売れしているらしい。
バックの中身と金貨を交換する。
これだけあれば、しばらく金には困らない。
カルマンと談笑をする。
「ほほう、このような街に一級品のポーションがあるとは意外ですな」
一人の壮年の紳士が背後から声をかけてくる。
「おっ、そこの人、お目が高い。この街でこの質のポーションを売ってるのはうちだけですぜ」
少し、青ざめる。
こいつは、ジオラル王国の騎士団が街にやってきたときに、俺の監視に気付いた超人。
【鷹眼】。今は私服だが、私服でも赤く洒落た服を纏っていた。
……何よりの問題は、今この瞬間も俺は気を抜いてなどいない。その俺がこいつの接近に気付けなかった。
三英雄。想像以上の化け物のようだ。
「君がこのポーションの製作者ですかな?」
ごまかしても無駄なので頷く。
「その若さでよくぞ。いい腕の錬金術士ですな。是非、当家に招きたい。錬金術だけでなく、のぞき見が得意で、それなりに戦える人材ですからな」
反射的に飛びのき、剣に手を添える。
本能がそうさせた。
やはり、目が合ったのは偶然じゃなかった。あの距離で俺をしっかり捉えてたのか。
「やはりいい反応をしますな。わずかな殺気を感じ取り、一瞬で戦闘態勢に入る。ますます気に入った。吾輩は騎士、トリスト・オルガン。二つは【鷹眼】を与えられている。どうですかな? 給金は弾みますぞ」
「断る。俺は自由気ままな旅が気に入ってるんだ」
【鷹眼】……とりすとは、目を手で覆って大げさに悲しんで見せる。
「それは残念ですな。それはそれとして、仕事をしましょう。なぜ、君は我々を遠くから見ていたのかを答えてもらってもいいですかな」
「……俺は旅の錬金術士だ。ぞろぞろと、あんな大軍が街に現れようものなら警戒もする。情報収集をしたいと考えても不思議じゃないだろう」
「うむ、その通りだ。だが、一つ警告をしておきますかな。あんまり、勘違いされるような行動はよしたほうがいい。こちらも相応の対応が必要になる。若く、才能がある人材は国の宝、摘み取るのは心が痛む」
その一言にはすごみがあった。
この男、そうとうできる。
真正面から戦って勝てるか自信がない。
そして、不意打ちすら難しそうだ。【剣】の勇者のように、明確な弱点が見当たらない。
「気を付けるよ。警告を感謝する」
「素直なのはいいことですな。商人、回復ポーションと疲労ポーションを十個ずつもらおうかな」
「あいよ」
そうして、【鷹眼】はポーションを購入して去っていった。
セツナが俺の裾を引っ張る。
「あの人、すごい達人。見ていて震えた」
ほう、セツナにはわかるのか。
「俺と、あいつどっちが強いと思う」
「純粋に強さなら、ケアルガ様。だけど、底知れない何かがある。たぶん、勝てない」
「俺も同意見だ」
身体能力では圧倒できるだろう。
この身に宿した英雄たちの技量は、やつを上回るだろう。
それでも、なぜか勝てる気がしない。
気が滅入る。
ノルン姫を殺す際の最大の障害があいつだ。
あれの警戒を潜り抜け、ノルン姫を殺すのは骨が折れそうだ。
だが、やらないわけにはいかない。俺の故郷を襲った真の黒幕であるおそれが非常に高く、最近だんだん好きになってきたこの街を焼き尽くそうとする悪の権化だからだ。
この正義感溢れる俺は見過ごせない。あいつを生かしておけば次々に悲劇が生まれてしまうのだ!
奴らが動き出すまで三日ある。その間にいろいろと手を考えよう。
例えば、行方不明になっている【剣】の勇者の姿を借りるのもいいかもしれない。
あの女なら、楽に中枢部に入り込むことができるだろう。
……とりあえず、考えるのはあとにしよう。
「カルマン、ありがとう。これで軍資金ができた」
「兄さん、俺っちのほうこそ、たっぷり儲けられて感謝してる。明日も追加頼むぜ」
「もちろんだ」
商人と別れる。
さて、軍資金も手に入ったことだしたっぷり買い物をしよう。
「ケアルガ様、あの屋台で売ってる串焼き美味しそう」
「下着の替えが少し足りないので買っていただけると助かるのですが……」
「約束してたナイフ、買ってよ。あっちに可愛いのがあったんだ」
セツナたちがそれぞれ、めぼしい商品を見つけたようだ。
せっかく【剣】の勇者の始末という大きな仕事が終わったんだ。
今日ぐらいはゆっくりと楽しもう。
そして、明日から新たな標的を狙う狩人になるのだ。
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