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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第三章:回復術士は黒の世界で宝石を見つける

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第十二話:回復術士は幸せな夜をすごす

 買い物を終えた俺は、昼に杖を売ってくれた商人と飲む約束があったので移動する。
 やっと震えが止まってくれた。これなら不審に思われることはないだろう。

 飲み会とはいえ気は抜けない。この街で路銀を稼ぐための商談も兼ねている。
 イヴを仲間にして人数が増えている分、旅費もかかる。ここでなんとかまとまった額を稼いでおきたい。

 今回は、フレイア、セツナ、イヴの三人娘も連れている。
 商人がかわいい子ならみんな連れてこいと言ったのでその好意に甘えた。
 ちなみにイヴには軽い変装をしてもらっている。カツラをかぶり、軽い化粧で顔の印象を変えている。
 自慢の翼が隠れるゆったりとした服を着せていた。
 翼は畳んで、羽をぎゅっとすると驚くほど小さくなるので不自然さはない。全身を被うローブだと目立つのでフレイアが見立てた服を買ったのだ。なかなか似合っていて可愛らしい。

「よっ、兄さん。よく来てくれた」
「うまい店には目がなくてね」

 店に入ると個室から商人が顔を出して手招きしてきたので、そちらに向かい席に着く。
 この店は、追加で金を払うことで個室が使える。
 一般席のほうは飲むには早い時間というのにすでに超満員。
 この店の人気のほどがうかがえる。

「兄さん、すみにおけないね。三人もとびっきりの美少女を連れちゃって」
「ああ、俺にはもったいない子たちだよ」
「じゃ、さっそくやろうぜ。まずはいっぱい。この街の地酒だ。こいつを飲まないと始まらないぜ」

 そういって商人は瓶をかかげた。
 俺たちが席に着くとたっぷりと注いでくれる。

「果実の香りがする酒だ」
「こいつは山葡萄で作った酒でな。なかなか行けるぜ。乾杯前に一口味見してみな」
「ではお言葉に甘えて」

 山葡萄の甘酸っぱい香りが胃を刺激する。甘い酒かと思ったら、すっきりしてほのかに甘味がする程度、酸味もほどほどで飲みやすい。

「思ったより甘くないな。料理とも合いそうだ」
「おうよ。肉と一緒に飲めない酒を頼む趣味はないんだ。料理もたっぷり用意してるぜ」

 商人が手を叩くと次々と料理が運び込まれた。
 脂ののったカモを丸一羽使ったクリームシチュー。
 牛の内臓をスパイシーな香辛料で煮込んだモツ煮。
 こってりとした緑の実の野菜をすりつぶして、酢と和えた不思議なサラダ。
 食べたことがないが匂いと見た目だけで美味しいと確信できるメニューが並ぶ。

 食いしん坊のセツナなどは鼻をひくひくしながらよだれを垂らしていたし、イヴのほうもちらちらと俺と料理を交互に見る。
 よほど待ちきれない様子だ。

「兄さんでは、乾杯といこうか。二人の出会いと、これからの商売の成功を祈って」
「おう、仲良くやっていこうぜ」

 俺と商人がグラスをぶつけ合い、一気に酒をあおる。
 それを見て、ずっと我慢していたセツナたちが料理に手を付け始めた。
 うまいかなんて聞く必要はない。顔を見ればわかる。
 俺も食べるとしよう。セツナたちに全部食べられてしまいそうだ。

「いい店だな。酒もうまいし、料理も最高だ」
「大事な取引相手を呼ぶときはここにしているんだ。この店で案内して気を悪くしたやつを俺はまだ知らねえよ」

 たしかにここなら、いろいろな取引もうまくいきそうだ。
 セツナとイブは、さきほどから料理に夢中でほほをリスのように膨らませて大変可愛らしい。
 フレイアは幼いころからの習慣か、器用にフォークとナイフを使って上品に食べている。
 不思議と食事をしているだけで絵になる。これが王女様の品格というものだろう。

「でっ、兄さんの言ってた儲け話ってなんだ」
「その前に、自己紹介だ。これから一緒に商売するんだから名前ぐらい知っておかないと不便だろう。俺はケアルガという。旅の錬金術士をやってる。連れているのは従者と奴隷だ」

 表向きの身分を明かす。
 回復術士は【癒】の勇者を連想させてしまうので、人に名乗るときは必ず錬金術士と並んでいた。

「ケアルガ……覚えた。いい名前だな。俺っちはカルマンって言うんだ。見てのとおり魔族だ。いや、ふらりとたまたまラナリッタにたちよって、ちょっとしたきっかけで商売を学んで面白くてな。すっかりはまっちまったってわけよ」

 肌が黒く入れ墨のような紋様がある以外は人間と変わらない。
 彼なら商売をするうえで他の魔族より有利だったかもしれない。

「そうか、ならこの辺りで大儲けしないとな」
「兄さん、俺っちもそのつもりだよ。まっ、商売が楽しいってことより最近じゃうまいものを食えるってのが大きくて人間の街に住み着いているんだがな。……それでそろそろ儲け話といこうじゃないか」

 商人……カルマンの目に真剣さが宿る。
 さて、こちらも気持ちを切り替えていこう。ここからは商談だ。

「カルマン、この街の市場を見回ったんだけど、錬金術士がほとんどいないのか、ポーションの流通量が少ないし、値段が高い」
「まあな、魔族連中はポーションなんて作らないし、この街に高度な知識を要するポーションを作れるやつなんていない。門の向こうにわたる行商人がたまに持ってくるのを仕入れる程度だな」

 今日一日、街を歩いて気づいたがラナリッタなどでは考えられないほど、ポーションを見ないし、見ても高価だった。
 しかも、需要がないわけじゃない。高い値段を見て不満そうにしながらも人間も魔族も買っている。
 つまり、需要に対して供給がないからこそ、異常に値上がりしている。
 ここで普通の値段のポーションを用意すれば飛ぶように売れるはずだ。

「俺が錬金術士だってことは話したよな。当然、こんなものも作れる」

 昼間購入した空き瓶に特製ポーションを詰めたものがぎっしり入ったバッグを机の上に置く。

「これ、全部ポーションか?」
「そうだ。人気がある治癒力向上と体力回復の二種類。どれも一級品を用意した」

 その気になれば、一級品なんてレベルを軽く超えたものも作れるが、あえて一級品レベルに抑えている。
 やりすぎると、さまざまなところから目をつけられる。あまり悪目立ちはしたくない。
 カルマンは二種類のポーションをそれぞれ、品定めする。

「たしかに一級品だな」
「わかるのか」
「それぐらいわからないで商人はできねえよ。でっ、これを仕入れさせてくれるのか」
「あんたならうまく売ってくれるだろう」

 露天商の真似事をすれば、カルマンに任せるより儲かるだろうが、新参者がいきなり売り始めても、客に品質を信用してもらえない。
 それに、俺には時間がない。露店に張り付くなんてやってられない。
 だが、こカルマンには商人としての信用がある。彼が一流のポーションだと言えば、客も一流だと思ってもらえるし、何より楽ができる。だから、販売を任せることにした。

「……この街で、これほどのポーションを俺が売るなら間違いなく大儲けだ。まいったな。兄さんの儲け話がここまでうまいとは思ってなかったよ。女将さん、酒の追加だ。礼のアレをもってきてくれ。あの秘蔵の酒だ! 酒の格にあう料理も頼む。わりい、まだ俺のもてなしが足りなかったみたいだ! これでかんべんしてくれ」


 商人が声を張り上げる。
 今呑んでいる酒も、そうとううまいがまだ上があるのか。
 それにあう料理も想像しただけでよだれが出てくる。

「十分楽しんでいるから気にしないでくれ。だが、もてなしてくれると言うなら素直に甘えよう」
「おうよ。俺のモットーは、儲けさせてくれるやつほど大事にするだからな。だが、これの上はねえぜ」

 本当にいい人だ。
 商売を抜きに酒を飲んでも、きっと楽しめるだろう。

「それを聞いて安心したよ。商談にもどろうか。ちょうど、街の住民たちは騎士どもが大量にやってきたせいで不安がってる。ポーションはこういうときによく売れるはずだ。それを踏まえて値段をつけてほしい」
「兄さん、商売上手だね。よしっ、わかった。仕入れ値に少し色をつけてやる」

 そのあと、価格交渉と仕入れ数について交渉を始めた。
 その結果、俺から見てもかなり良心的な値段で買い取ってくれることになった。
 おそらく、この絶好の商機を逃さないことを優先してくれたのだろう。

 ポーションの販売だけでなく、いくつか商店を巡っても見つからなかった品物を注文しておいた。商人仲間のネットワークをつかって探し、見つかればキープしてくれるらしい。
 そっちは採算度外視の、カルマンの気遣いだ。ありがたい。
 この人と出会えてよかった。
 だから、一つおせっかいを焼こう。

「この街はたぶん戦場になる。今は商機でもあるが、はやく逃げないと危ない。危険を感じたらすぐに逃げられるように準備をしておいたほうがいい。命あってのもの種だ」
「はっ、俺を誰だと思ってやがる。そんな下手を打ったりねえよ」

 カルマンは、酒を飲んで楽しそうに笑った。
 そのタイミングで新たに運ばれてきた酒を飲んで言葉を失った。なるほど、とっておきというだけはある。
 料理のほうもワンランク上だ。
 セツナたちも、すごく喜んでいる。……ちょっと贅沢を覚えさせてしまったのはまずかったかもしれない。

 そのあとは、ただの雑談で盛り上がった。
 驚いたことに人見知りの激しいセツナとも普通に会話できていた。
 たっぷりとうまい酒と飯を食って、その日は解散。

 カルマンは俺たち全員分の勘定をもってくれた。さすがに俺の分以外を払ってもらうのはきまずいので、今日の分は俺が払うといったが、投資だと言って彼は譲らなかった。
 今日のお礼にたっぷり儲けさせてやろう。
 カルマンと別れた後は、セツナたちと宿に戻る。

「ケアルガ様、すっごく美味しかったですね」
「ん。素敵だった。メニューを見たらまだまだ美味しそうなメニューがたっぷりある」
「うん、私も気になってた。すね肉の特製煮込みとか絶対食べたいよね」

 三人娘が料理の話題で盛り上がっている。
 いつの間にかイヴもすっかり溶け込んでいた。どうやって仲良くなったのだろう? ちょっとあとでセツナに話を聞いてみよう。俺もイヴと仲良くなりたい。

「しばらく夜はあの店に通おうか。金もできたし、俺も食べたいメニューが残っているしね」

 三人とも、無邪気に笑った。
 幸せな夜だ。
 そして、この場で一つどうしても決めないといけないことがある。
【剣】の勇者に復讐するために、イヴとセツナを傷つけられることを前提に餌として差し出すかどうかだ。

「セツナ、イヴ。おまえたちは可愛いな」

 つい本音が出た。美味しいものを食べて幸せそうに笑う二人を見るとそう思ったのだ。

「……急に言われたら照れる」
「そっ、そんなことで騙されないよ! どうせエッチなこと考えているんでしょ」

 二人の反応が面白くて笑ってしまう。
 この子たちは本当に可愛い。傷つけたくない。守りたいと思ってしまった。
 だから、止めだ。
 この子たちを餌にはしない。犠牲になんてできない。
 だが、【剣】の勇者への復讐を諦めたわけではない。それは絶対にやり切る。
 奴への餌は、他に用意する。
 それは俺自身だ。
 俺はやつへの復讐のため、一時だがケアルガを捨て……可憐な一輪の華、ケアルラに生まれ変わるのだ。
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