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第十一話:回復術士は標的を見つける
ついに待ちわびた獲物が来た。
妹姫……ノルン・クラタッリサ・ジオラル率いる軍勢が街にやってきたのだ。
俺は【模倣】しストックした技能の中から気配遮断と魔力遮断を【改良】で身に着け、ここから一キロほど離れたところまで移動。高い建物を見つけ。壁を蹴りあがり屋根に上り伏せる。
さらに【翡翠眼】を発動して死力を強化し、気配を消しながら遠くから様子をうかがう。
翡翠眼ならこれだけ離れていても、一人ひとりの表情すら読み取れる。
兵の数は、おおよそ千程度。
なにより驚くべきは。
「なんて強さだ。あのノルン姫は本気ってことか」
千人もの大部隊なのに信じられないほど高レベルのものが多い。
鎧に刻まれているシンボルですべてを納得した。あれは誉れある聖槍騎士団。ジオラル王国の五指に入る精鋭騎士団だ。
街一つ潰すためだけに聖槍騎士団がジオラル王国を留守にするとはなかなか思い切ったことをするものだ。
今までの雑魚どもを相手にしたときのように正面突破は極めて難しい。
さすがの俺でも、聖槍騎士団に策なしで突っ込めば返り討ちにあうのは確実だ。
妹姫を狙うなら絡めてがいる。
「……いっそここから狙撃するか」
妹姫は顔を見せていないが、騎士団に守られるようにして前方を走る馬車に王家の紋章が刻まれている。
高確率で妹姫はあのなかだ。
いくつかの技能を組み合わせえることで、ちょうど捨てようと思っていた旧い剣を砲撃に使って遠距離射撃が可能だ。
その威力なら馬車事吹き飛ばせる。
……いや、やめておこう。そんなことをすれば魔族の仕業とこじつけて、この街を滅ぼすきっかけを作ってしまうだけだ。
それに、まだこの世界のノルン姫は俺に恨まられることはしていない。
この状態で復讐することは俺の美学に反する。
第一、こうして堂々と街の中に入ってきたということは、少なくとも現時点では、客として招かれているし、この街も受けれている。
ノルン姫ならどんな手を使ってでも無理やり攻める口実を作るだろうが、やつの仕事を手伝ってやることもない。
心臓がどくんっと大きく嫌な音を立てた。心臓の音が鳴りやまない。
汗まで噴き出てくる。
騎士の一段の中に、信じられないやつがいた。
まさか、こんなところにいるなんて。探し出して復讐するつもりではあった。
だが、ここに来るのは想定外だ。
目の前が真っ赤になる。どうしようもないほどの殺気が膨れ上がり、漏れてしまう。
その殺気に気付いた一人の騎士がこちらを向いた。騎士の中にいて鎧をまとわず洒落た赤の服を着こなす壮年の男性。
「まじかよ」
一キロ離れているのに、漏れた殺気に気付き、その男の真紅の瞳が俺を捕らえた。
この距離から、漏れ出た殺気に気付くか? 化け物め。
慌てて、屋根から飛び降りる。
「はは、三英傑の【鷹眼】様までいらっしゃるのか」
ジオラル王国では、圧倒的な強者には二つ名が与えられる。
たとえば【剣聖】、たとえば【弓神】。二つ名を与えられた強者の中でも、さらにとびぬけて強いものたちが三人存在する。それこそが三英傑。【鷹眼】はその一人。
三英傑には、【剣聖】クレハ・クライレットすら届いていない。
それだけで、どれだけ規格外の存在かがわかる。
彼女の場合は若すぎること、経験、武勲が足りないことも考えられるが、少なくともクレハと同等、あるいはそれ以上と思って挑まなければならない。
やつの存在で、妹姫の襲撃の難易度が跳ね上がった。
「くそっ、俺は間抜けか」
偵察で殺気を漏らすなんて。
普通は気付かれることはない。【鷹眼】が異常なだけ。
だが、ミスはミスだ。
そのミスのせいで、【鷹眼】は警戒を増すだろう。
「くそっ、感情を抑えきれるわけがないだろう。あいつを目の前にして」
俺が動揺したのは、騎士の中にいたのは【剣】の勇者を見つけたからだ。
一見すると華美な鎧を着こんだ美青年。
だが、その実態は極度の男嫌いの女。
男嫌いでありながら、女を引き寄せるためにああやって男の格好をしている。
一度目の世界で、あの女はフレアに夢中だった。
そのフレアは犬の俺をいじめるのが楽しくて俺に執着していた。そのことが気に食わず、嫉妬され、ひどい虐待を受け続けたのだ。
殴る蹴るはあたりまえ、……男としての尊厳を極限まで踏みにじられた。
あいつを見ると、体が震える。
恐怖だ。今でもやつに刻み付けられた痛みと屈辱が俺の心を縛っているのだ。
俺は生まれ変わったはずなのに。まっすぐで優しく、弱いケアルを捨て、誰よりも強いケアルガに。だというのに、情けなく今も怯えている。こんなことが許せるか。
あいつを殺さないと、俺は前に進めない。
……殺さないと、どんな手を使ってでも。殺すだけでは済まさない。やつの呪いをとくほど強烈な復讐でないと、俺はやつの呪縛から解放されない。
「あのクソレズをどうやって地獄に落としてやろうか」
あのクソレズがもっとも嫌がることをたっぷりしてやろう。殺してくれと懇願するまで。
そのためには、まず復讐の動機を作らないといけない。
それは案外簡単だ。
クソレズは、どんな状況でも街に来ると女を物色する。大事な女をやつに食わせてやればいい。それで復讐の口実はできる。
クソレズが女をものにするのには段階がある、第一段階は美青年に偽装して普通に口説く。それで成功すれば持ち帰って、ベッドの上で初めて女性ということをばらし、その段階で抵抗しようが無理やりものにする。
第二段階、口説いて失敗した場合。その場合はあまり好みでない女であれば見逃すが、万が一やつの好みだった場合は無理やりさらい、部屋に連れ込みレイプする。薬の力まで借りる下種だ。奴は常に危ない薬を持っておりそれで嫌がる相手の意思を捻じ曲げてまで手に入れようとする。
恋人がいようが、子供がいようが関係ない。あいつは自分がほしい、だから手に入れる。それ以外のことに興味はないのだ。
正真正銘のクズだ。そうやって踏みにじられる側の気持ちを一切考えない。自分以外に心があるという当たり前のことを認識できてないから、自分が気持ちいいということ以外のすべてを無視できる。
あそこまで典型的なサイコパスは他に知らない。
「セツナとイヴを囮に使うか」
あのクレイジーサイコレズなら、姿形、性格まで変えてフレイアに生まれ変わったフレアを見抜きかねないので囮に使えない。
本来、こういう危険なことには壊れてもいいフレイアを使うのだが、リスクは負えないのだ。
代えの利かないセツナとイヴを使うしかない。彼女たちは、とびっきりの美少女だ。やつの前にちらつかせれば、間違いなく食いつく。
だが、復讐のためとはいえ、セツナとイヴを危険にさらしていいのか?
セツナとイヴが傷つくのはいやだ。それはどうしようもなく不快だ。それほどまでに、彼女たちに愛着ができていた。
俺はどうすればいい……。
悩んでいるうちに騎士の一団は、この街の中央にある領主の館にたどり着いたようだ。
少なくとも今日は、あのクレイジーサイコレズも街に繰り出せない。今日のうちにどうするか決めよう。
ただ、一つ言えるのは。
こうして、やつを見た以上、このまま生かしておくことはありえない。それだけだ。
今日は、奴らに動きはないはずだ。
これ以上、ここにいる意味はない。
昏い気持ちを押し殺しながら、俺は闇に消えていった。
気持ちを切り替えよう。まずは、昼に出会った商人との商談だ。
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