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第六話:回復術士は新しいペットをほしがる
墓穴を掘ったイヴをからかってみた。
からかわれた本人は顔を真っ赤にして俺を睨みつけて、乱れた服を直している。
やれと言われたからやったのに、途中で涙目になってお母さんと叫ばれた。
あれは、すごく萎える。
無理やりするつもりはないので、あっさりと中止した。
「男を誘うときはよく考えることだ」
「ケアルガ様のいう通り。そうやって、途中で拒絶したせいで無駄にケアルガ様に気を使わるなんて失礼」
セツナもうんうんと頷く。セツナはわりとイヴには容赦ないな。
「襲えって言ったからって、まさか本気で襲うなんて思わないよ!」
「自分、不器用なんで」
「意味わかんないよ!?」
おかしい、とある冒険者の記憶には、こう言っておけば女は納得するとあったのに。
そういえば、一つ気になることがあった。
「黒翼族も立派な魔族だよな。なら、当然魔物を使役できるはず。いったい黒翼族はどんな魔物を使えるんだ?」
魔物というのは、魔力を宿すことで突然変異を起こした動物。
そして、魔族というのは魔物を使役できる亜人だ。
この街の狂牛族は牛の魔物を扱えるように、黒翼族にも何かしらの魔物を扱える。
一度目の世界で魔王と対峙したとき、翼から現れた堕天使たちが魔族だと思ったが、【翡翠眼】で彼女を見てわかった。
あれは、死んだ同族の魂を翼に宿し召喚する。眷属召喚という彼女自身の召喚魔術に過ぎない。
なら、堕天使とは別にちゃんとした魔物が使役できるはずだ。
「ちゃんといるよ。でも、あれは、その扱いが難しいというか、試練が必要というか」
妙に歯切れが悪い。
何かわけありの魔物のようだ。
「試練が必要なら協力する。少しでも戦力がほしいから。是非、手に入れたい」
黒翼族はイヴを見る限り非常に強力な種族だ。
魔族と使役する魔物の強さには比例関係がある。
イヴの魔物は間違いなく強い。それを捨ておくわけにはいかない。
「人間は知らないんだけど、魔物が無条件で従うのは、魔族が魔物より格上だからだよ。でもね、たまに魔物が魔族より格上で、高い知性まで持っているケースがあるんだ。そういう場合、魔物は魔族を試す」
「逆に言えば、魔族を認めればいうことを聞くわけだな」
なんだ、簡単なことじゃないか。
何を迷う必要があるのだろう?
試練が必要ならさっさとやればいい。
「わたしは上位って言ったよね。黒翼族の場合、魔物なんてカテゴリーの外にある守り神様なんだよ。死病の神鳥カラドリウス。わたしぐらい丸のみできちゃうようなぐらい大きくて、白い鳥なんだ。足と首回りと尾の根本だけ黒いのがきれいで……でも不気味な鳥の魔物」
カラドリウスその名を聞いて脳内検索をかける。
【回復】して得た記憶の中にもあった。
人間側の伝承にも残っている。イヴの言う通り魔物ではなく神としてあがめられている。
かつて、俺が治療した奇病なんて目じゃない強烈な感染病が国に蔓延したことがある。
その病を根こそぎ喰らいつくし、飛び去っていった救国の神鳥。
逆に滅びの魔鳥という伝承もある。その肉を喰えば不老不死になると言われていることもあり、とある国が千の軍を率いて狩りに出向いた。
その結果は、カラドリウスが羽ばたき巻き起こった風に触れた瞬間、死の病に冒され軍が壊滅、生き残りが国に戻ったせいでその病がもとで国が滅びた。
そのあとに、再びカラドリウスは現れ大量に蔓延した病を美味しそうに喰って回ったらしい。
ようするに、病を食らう能力とまき散らす能力をもっている。
基本的には餌である病を食らうだけで益をもたらす益鳥だが、敵対した瞬間に病をまき散らす害鳥となる。
……もっとも、あとで収穫するために感染力の高い病を街に放ち、それを後になって美味しくいただくなんてことをしていないとは限らないが。
「ほしいな。神鳥とあがめるぐらいなら住処はわかっているだろう? すぐ会いに行こう。新しいペットがほしかった」
ラプトルも可愛いが、神鳥カラドリウスもなかなか楽しみだ。
「しょっ、正気かな!? 死んじゃうよ。あれ、いくつ国を滅ぼしたかわかんないぐらい危険なんだよ。試練なんて、誰も成功したことがないんだからね!」
イヴは俺を必死に止めようとする。
面倒だが、説得するか。
……イブの記憶は得ているので勝手に行くことは可能だが、今後のよりよい関係を築くために、同意を得ておきたい。
「イヴ、そもそも確認していなかったな。おまえは、とりあえず俺の隣にいて、いつか自動的に魔王になるまで生き残ればそれで満足なのか? それとも、仲間を一人でも救うために現魔王を始末したいのかどっちだ?」
もし、前者を選ぶなら無理強いはしない。
別に、それでもかまわないとも思う。
強い意志がないと復讐なんてできるわけがない。その場合は、ちょっとずつ復讐の動機を刷り込んで、いつか自分で現魔王を殺したいというのを気長に待つつもりだ。
「……もちろん、後者だよ。これ以上、あいつの好き勝手にさせたくない。それに、黒翼族をこれだけめちゃくちゃにしたあいつを絶対に許せない。この手で殺してやる」
甘ちゃんだと思ったがいい目をしている。
彼女の翼には、死して未練を抱えた同胞の魂が無数に宿っている。
彼らが、彼女をそそのかしているのだろう。
ある意味、呪いだ。
「なら、見えている最高の戦力があるならリスクを負ってでも手に入れるべきだ。神鳥カラドリウス。いくつもの国を滅ぼしたその力。うまく扱えば、万の軍よりもよほど使える」
便利なペット。
正式にいうと、俺のペットではなくイヴのペットだが、俺の所有物のペットは俺のペットだ。
「だけど、あの試練は乗り越えられないよ。最悪の病と対峙するんだもん? 生き物であり限り絶対に無理」
なら、簡単だ。
病との戦いという時点で俺の得意分野だ。
「忘れたか、俺は【癒】の勇者だ。生きている限り、俺は誰も死なせない」
神鳥の病、それは強力かつ、まともな薬も、まともな魔法も全部無駄だろう。
「神様の作った病だろうが、病であるなら癒して見せる」
ごくりと生唾をイヴは飲んだ。
彼女だってわかっている。
もし、神鳥を仲間にできればどれだけ心強いか。
そして、試練に打ち勝てる存在がここにいる。
「イヴ、わかってるだろ? 危険な賭けだが、俺という勝算があるうちに挑んだほうがいい」
こうは言っているが、神鳥についてはけっして楽観視してはいない。
魔王になったあとすら、イヴは試練を避けたことはわかっている。
あの、【術】の勇者として完成した王女フレアの第七階位の魔術を跳ね返し、【砲】の勇者を殺し、【剣】の勇者を切り払った、強力な魔王がしり込みしたのだ。
俺の【回復】ですら通用しない可能性はある。
切り札である、第六の【回復】を使う必要をあるかもしれない。
「わかったよ。確かに、本気で現魔王を殺したいなら必要だね。試練に挑むのもいいかもしれない。だけど、試練を受けるにはいくつか条件が必要。その一つに星のめぐりがある。出発は二週間後、ここから五日ほど歩いたところに神鳥カラドリウスの住処がある。試練を受けれるのは三週間後だけど、少し余裕を見たほうがいい」
おそらく、特殊な封印が施されているのだろう。
神鳥カラドリウス自身が施したのか、あるいは神鳥の力を恐れた黒翼族かはわからないが、彼女ほど力のある存在がそう言っているのなら、その日をおとなしく待つしかない。
「わかった。なら、現魔王殺しはそれからだな。ここを離れるわけにもいかないし、しばらくはこの街で情報収集だ」
「それには同意するよ。たぶん、そっちのほうが安全だから」
イヴが試練までの間にこの街に滞在することを許してくれてよかった。
もうすぐ、妹姫との楽しいゲームが待っているんだ。
それまではこの街を離れたくない。
神鳥のいる場所が遠く離れており、日帰りが不可能と分かった時点で、街の襲撃があるまでこの街を離れる気はさらさらなくしていた。
「じゃあ、さっそく情報収集に行ってくるよ。街での聞き込みだ。セツナとフレイアは、この隠れ家で待機だ。イヴを守ってやれ。何かあった場合は、いつもの通りに頼む」
「ちょっと待って、君、もう顔が割れているんじゃ」
襲撃犯は皆殺しにしたが、見張り役も配置されており、そいつから俺の顔は出回っていると思ったほうがいい。
だが、それがどうした。
「【改良】」
俺は、顔を変える。
俺は【改良】であるべき姿ではなく、望んだ姿に変えられる。
聞き込みに適した人の好さそうな青年の顔にした。
ケアルガは整った顔にしたが、こちらはあえて人好きのしそうな顔にしている。
「これで大丈夫だろ。安全のためにイヴの顔も変えておくほうがいいのだろうが……その顔は気に入っているから弄るつもりはない。それじゃ、行ってくるよ」
情報収集も大事だが、お友達を作らないと。
友達がいなければ、妹姫が街を襲撃したときに復讐する大義名分ができない。
俺は、大事な友達を殺されて、悲しみに心を引き裂かれた復讐者にならないといけない。
そのためには、この街に大事な友達を作らないといけない。
それを今から頑張って作ろう。
「そんなことまでできるんだ。ねえ、じゃあ今まで私が見てた顔も偽物?」
「ああ、偽物だ。俺の本当の顔は別にある」
ケアル。
あの甘ったるい少女のような顔立ちは付け入られる隙になる。
だから、あまり好きじゃない。
「いつか、本当の顔を見てみたいものだね。きっと、君の心みたいに捻くれて、ねじ曲がった顔だろうけど」
ひどいことを言ってくれる。
というか、俺はそういうふうに思われていたのか、優しく紳士的に振る舞っているのに。
「ケアルガ様の本当の顔は、かっこいい。それに、すごく優しそうで好き」
「私も同意見です。こう、ぎゅっとしたくなります」
セツナとフレイアが、ほんのりほほを赤くしてつぶやく。
二人にはケアルの顔を晒したことがある。
彼女たちには、ケアルガが偽の顔であることはすでに話しており、ベッドの中で本当の顔をせがまれた。
それ以来、ケアルの顔を二人は気に入ってくれている。
なんでも、実に俺らしい顔らしい。
ケアルの甘さも、優柔不断さも、弱さも捨てたのに、まだどこかに捨てた俺の残滓があるのだろう。
「お土産、楽しみにしていてくれ」
話は終わりだ。
さて、情報収集と友達作り、両方がんばってみようか。
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