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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第三章:回復術士は黒の世界で宝石を見つける

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第四話:回復術士は未来の魔王を手のひらで転がす

 肩に暖かな重みを感じる。
 少女を一人抱えて、セツナ、フレイアと共に疾走していた。

 彼女は一度目の世界で魔王として敵対した少女だ。
 なぜかこの街ではローブで姿を隠していたし、今日の食事にも困っているような懐事情だった。
 彼女の実情に探りを入れている最中に、魔族に襲撃されてしまい、今は逃げている。
 相手は人ごみに紛れて追走していた。

「どこに逃げるつもりなの?」
「スラム街が東にあるって聞いたからな。あそこなら廃屋の一つや二つある」

 担がれている少女が問いかけてくるので答えた。
 街の外に出ることも検討したが、テントや寝具などはすべて宿屋に置いてきている。
 夜の山に装備なしで一晩過ごすのは俺やセツナは大丈夫だが、素人にはきつい。

「ケアルガ様、敵がまだ追って来てる」

 セツナが鼻を鳴らしながら警告してくれている。
 店内の連中は始末したが、複数人がかりで魔術を放ってきた連中は始末できていない。
 セツナは匂いを覚えており振り返らずに追っての存在を確認できる。

「フレイア、対処を任せる」
「ちょっと待ってくださいね。セツナちゃんに確認して特定をします」

 特定と言っているのはセツナが匂いを覚えている魔族と、【熱源探査】はで捉えた魔族が正しいかの確認だ。
 追いかけてきているので間違いにくいが、無関係な人間を巻き込む可能性がある。そういうのは俺の主義に反するのでしっかり特定が必要だ。
 フレイアが指さした魔族をセツナが確認し、頷いた。
 あとは、【熱源探査】の感覚に従って魔術を放つだけ。

【熱源探査】で一度捉えれば、障害物に隠れようがどれだけフェイントを入れようが、数値としてフレイアの頭に直接位置情報がフィードバックされるので逃れられない。

「ケアルガ様、殺していいんですか?」
「頼む、他人は巻き込むなよ」
「かしこまりました。では……」

 角を曲がり、この道には他の通行人がいないことを確認したフレイアはある程度走ってから足をとめる。
 しばらくすると、追走していた三人の魔族たちが角を曲がってくる。

「【氷槍風弾】」

 氷の弾丸を作り出し、圧縮した空気で打ち出す。
 風属性と水属性の複合魔術だ。
【熱源探査】から得られたデータで未来座標を想定しつつ、連射する。
 氷の弾丸の雨が降り注ぎ、回避しようとした敵は捉えられ、防御しようとした敵は貫かれる。
 追跡してきた魔族も手練れだが、【術】の勇者の強力な複合魔術を食らえば一たまりもない。

「騒ぎになる前に、ここを離れるぞ」
「はい」
「ん」

 二人が頷き、スラム街に向かって走り出した。

 ◇

 スラム街に廃屋は多かった。
 おかげで隠れるには好都合だ。
 人の住んでいる気配がない建物を選び、中に入ってから簡単な結界をかける。
 中にはほこりやゴミが散乱しているが、掃除をすれば住めるだろう。

「セツナ、フレイア、掃除を頼む。俺は新しい雇い主と話がある」
「かしこまりました。気持ちよく眠れるようにがんばります!」
「……余計なことをしてセツナの仕事を増やさないで。セツナの言うことだけすること」

 フレイアは、元が王女なので家事全般がかなり苦手だ。
 頭はいいので物覚えはいいのだが、初めてすることはだいたい大惨事を引き起こす。
 それを見越してセツナが釘を刺した。

「悪いな。俺も話が終わったら手伝うから。さて、話を聞かせてもらおうか」

 肩の荷を落とす。
 ずっと抱えていたせいで妙に肩が凝る。
 まあ、話を聞かなくてもすでに【回復ヒール】した際に記憶はもらったので状況はわかっている。
 その際に、記憶だけでなく技能まで得た。
 魔物の技能は【模倣ヒール】できないが魔族はできるのか。はじめての経験だったので少し驚いた。

「一体、何が目的なの」

 警戒心丸出しの目で、魔王(仮)の少女は俺を見ている。
 善意で強力な魔族からかばう人間がいるわけがない。
 疑うのは当然だ。
 むしろ、ここで無警戒で俺たちに感謝するバカならさすがに見捨てる。

「黒い翼に銀の髪、紅い瞳の魔王に会ったことがある。俺はどうしても彼女に会いたかった。会って話をしたかったんだ」
「あれは冗談じゃ」
「冗談で、こんなことができるわけがないだろう」

 あの状況において正しい行動というのは、少女を見捨ててさっさと逃げることだ。
 少女を助けたことにより、彼女を追いかける組織に顔が割れた。
 襲撃者の背景に誰かがいることは間違いない。この街での行動にかなりの制限がかかった。

「……でも、おかしいよ。だって、黒翼族が魔王だったのは三十年以上前までだもん。人間ってすぐにおじいちゃんになっちゃうんだよね。君はどう見ても若いから嘘に決まってる」
「そうだな。俺が会うのは未来だ。五年後、俺は魔王に出会う。そう、おまえとだ」

 あまりにも唐突なものいいに、少女は茫然とした顔をする。

「何を言ってるの?」
「この瞳なら未来を見ることができる」

【翡翠眼】を発動させる。俺の眼が翡翠色の輝く。
【翡翠眼】に未来を見通す能力なんて存在しない。だが、ある程度魔術の素養があるものなら、力のある魔眼ということはわかるのだ。

「俺と出会う未来の魔王だから助けた。これ以上の説明は必要か?」
「……わたしが、未来の魔王、笑えない冗談だね」
「冗談じゃないさ、実際にこの目で見た」

 俺はそう言って笑いかける。
 少女は戸惑っている。
 俺の言葉を信じていなくても、魔王候補であることがばれたと思っているのだ。
 彼女は手袋でおおわれている左手をなぞる。
 そこには刻印がある。

 未来うんぬんは、女の子はだいたい未来とか運命とかに弱いし、彼女の境遇を考えると説得が楽なので考えてみた【設定】だ。

「人間って弱くて、魔術もろくに使えないと思ってたけど変な力を持っている君みたいなのもいるわけだ」
「まあな、ただ弱いというのは訂正してもらおうか。罠かどうかを疑っているようだが。……もし害するつもりなら、今のおまえ程度、罠に嵌めるまでもない。なにせ、俺は勇者でおまえより強い」

 手袋を脱いで、手の甲に刻まれた刻印を見せる。
 勇者のみに刻まれた証。

「あらためて名乗ろう。俺は【癒】の勇者ケアルガだ」
「っ!? 君は勇者だったんだね」

 少女は警戒心を強め、戦闘態勢に入る。
 戦いになるのはめんどうだが、それならそれで構わない。実力でわからせるのも一興だ。
 間違いなく勝てる。俺の【翡翠眼】は、魔王(仮)の少女のすべてを見通していた。

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種族:黒翼族
名前:イヴ・リース
クラス:魔王候補・堕天使
レベル:51
ステータス:
 MP:21/187
 物理攻撃:133
 物理防御:97
 魔力攻撃:123
 魔力抵抗:87
 速度:109

レベル上限:70
素質値:
 MP:89
 物理攻撃:125
 物理防御:90
 魔力攻撃:115
 魔力抵抗:80
 速度:101
 合計素質値:600


技能:
・暗黒魔術Lv2
・神聖魔術Lv2
・黒翼武闘Lv2
・眷属召喚Lv1

スキル:
・混沌の堕天使Lv2:光と闇に愛された存在。暗黒魔術、神聖魔術の精度、威力向上
・黒の揺りかごLv1:黒の闘気を身にまとう。身体能力向上。魔力攻撃上昇補正
・魔王候補:全ステータスに上昇補正(微)。現、魔王時に選別を受ける
・眷属への誘い:使者の魂との契約権。契約をした場合、魂は翼に宿り眷属召喚で呼び出せる
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 合計素質値が600なんて初めて見た。
 俺やフレイアのような勇者ですら五百台。レベルも五十を超えている。
 技能とスキルも優秀だ。
 人間に使用不能な、光と闇を使いこなし希少な召喚魔術まで持っている。
 独自の戦闘術である黒翼武闘も非常に強力。
 技能は一応すべて【模倣ヒール】したが、眷属召喚は、眷属への誘いという前提スキルがないと使い物にならない。暗黒魔術や神聖魔術は今後、必要に応じて使わせてもらおう。

 俺はレベルでも素質値でも、技能、スキルの優秀さでも負けているが、さきほどの襲撃で見ていた限り、少女には絶対的に経験や技術が足りていない。やりようはいくらでもある。
 それに彼女はMPをほとんど使い切っていた。

「戦ってもいいが、その前に話を聞いてくれ。たしかに勇者は人間が使う魔族殺しの道具だが、俺は魔族との共存を望んでいる。俺がおまえを助けたのは、人間と魔族のふざけた争いを終わらすために、おまえが次の魔王になったほうが都合がいいと思ったからだ」
「君がわたしの何を知ってるの」
「未来で会ったと言っただろう。少なくともおまえを追っている奴らの望む通りになるよりは、おまえが魔王になったほうがいい。だから、それまで守ってやる」

 彼女の思考を読んで、魔王候補であることはわかっていた。
 魔王の死が近くなると、二十の種族に一人ずつ手の甲に魔王候補の証が刻まれる者が現れる。

 そして、魔王が死ぬと同時に、そのいずれかに継承が行われる。選ばれる基準は不明だ。
 三十年前、黒翼族の魔王が死に別種族の魔王が選ばれた。

 その魔王は弱い魔王だった。他の候補を卑怯な策略を駆使して殺すことで選ばれ、先代魔王の種族である黒翼族を徹底的に冷遇し、権力を引きはがした。
 名君とうたわれる先代と比較されることが耐えられなかったし、自分以外に権力があることが許せなかった。
 そのコンプレックスから必要以上に黒翼族を痛めつけた。
 そして、死期が近づき黒翼族に魔王候補が現れたとき、どうしようもなく怖くなった。黒翼族から魔王が現れれば、自分が行った黒翼族への仕打ちの報復を受けるのでは? その不安を解消するために魔王の権限で黒翼族を皆殺しにすることに決めた。

「信じられない。やっぱり、君には……勇者には頼れない。助けてもらったことには感謝する。だけど、ここでお別れだよ」

 彼女は背を向けた。
 予想通りの反応。

「それでいいのか? お前みたいな強いだけの子供が一人で何ができる。実際、俺が手助けしないと死んでいたな。これからもそうだ。おまえに足りないものを教えてやろう。逃げるための知恵が足りない、警戒心が足りない、闘争費用が足りない、仲間が足りない、志が足りない、覚悟が足りない」

 強いだけの相手を殺すなんて簡単だ。
 二十四時間張り付いて、無防備になるまで待ち続ければいい。 
 どんな強者もどこかで隙を晒す。組織的な行動をできる相手であれば彼女を殺せる。

「うるさい!」
「そんな様子だと、また背中の翼が重くなるな」

 魔王(仮)の少女が振り向く。
 彼女の翼には、無数の同族の魂が宿っていた。
 現魔王によって殺された黒翼族の魂は、死後すがるように、魔王になって恨みを晴らしてくれと彼女のもとに現れる。
 一度目の世界で彼女が使役していた堕天使たちのほとんどは現魔王に殺された黒翼族だ。

「いったい、君はわたしに何をしろって言うんだよ!」

 駄々をこねるように、少女は叫ぶ。
 今まで感情を貯めに貯めていた。
 一週間前まで、彼女の周りには護衛の黒翼族がいた。だが、殺された。
 一人になり、気持ちを押さえつけ耐えに耐えて、逃げつづけてやってきたのがこの街だ。
 張り詰めた心がついに決壊した。

「俺と一緒にいればいい。守ってやる。足りないもの全部、俺が補ってやれる。望むならもっと前向きな選択肢もあるぞ」
「……前向きな選択肢?」
「今の魔王を殺して、さっさとおまえが魔王になる。今の魔王が死ねば即座に次の魔王が選ばれるんだろう? 候補者は無数にいるが、俺が保証しよう。おまえが選ばれる。そうすれば、故郷で震えている同族も救われるぞ」

 少女の目に昏い炎が宿る。
 耐えがたい魅力だろう。
 逃げるだけの日々から解放されて、同族たちが救われる。
 何より、一族を皆殺しにしようとして、自分を突け狙う魔王が憎くないはずがない。
 復讐において、俺はプロだ。同じ道に落ちてくれれば、操りやすくていい。

「あこがれる。すがりつきたくなる。でも、本当の君の欲望を教えて。じゃないと信じられない。君はどうみても正義のためなんて、そんな理屈で動く人間じゃない。それぐらい、わたしにもわかる。君の本当は、わたしを守りたいって言ったときと、魔王を殺したいって言ったときにしかなかった」

 少し感心した。なかなか鋭い。俺が言った人間と魔族との共存なんて建前だ。
 俺が欲しいのは二つあった。

 一つは、この少女自身。今はまだ雛だが、やがて敵対した俺ですら見ほれるほど綺麗な少女へと成長する。
 彼女の最後に涙を流した姿は美しく感動した。
 もう一つは……

「魔王の心臓がほしい。なに、魔王になったおまえの心臓を抉るわけじゃない。今の魔王をぶっ殺すついでだ。それがおまえに望む報酬だよ」

 こっちは、セツナやフレイアには聞かれたくないので耳元でささやく。
 やっぱり知っていたか、少女が目を見開く。
 魔王の心臓は抉ると紅い宝石になる。

【賢者の石】。かつて、俺はそれを使って世界そのものを【回復ヒール】した。
 この世界で使うつもりはないが、いつでもやり直すための準備をしておきたいのだ。

 とはいえ、残基確保のために、お気に入りの魔王おもちゃを殺すのは忍びなく思っていた。もったいないのだ。
 だけど、魔王おもちゃが恨んでいる現魔王くそやろうであれば趣味と実益を兼ねてぶっ殺してレアアイテムゲットできるというわけだ。

「一晩だけ考えさせて。今日は君と一緒にすごす」
「ああ、よく考えてくれ」

 彼女はきっとこの話を受け入れるだろう。すでに、彼女の目は復讐の魅力にとりつかれたもの特有の目になっている。
 こうなれば、こっちのもの。さて、明日からどうやってこのおもちゃで遊ぶか考えておこう。
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