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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第三章:回復術士は黒の世界で宝石を見つける

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第三話:回復術士は魔王の騎士となる

 一度目の世界と、今回の世界では魔王の姿が変わっていた。
 一度目では銀色の髪をした美少女で黒い翼の堕天使。
 だが、二度目の世界では悪魔の角をもつ大男。

 一度目の世界で出会った魔王の情報を集めようと、魔族と人間が共存している街に来たのだが、おどろいたことに酒場で情報収集をしていると探していた本人がやってきた。
 似ているだけで別人の可能性はゼロではない。
 いろいろと相違点がある。年齢が一度目の世界では十代後半だったが、こちらでは十代半ば。銀色の髪は黒くなっていた。
 それを確かめるために、あえて爆弾を放り込んでみた。

「しいて言うなら、俺の隣にいるのが魔王だ」

 さて、この少女はどんな反応をするだろうか。

「おいおい、そんな子が魔王なはずねえだろ。俺だって勝てそうだぜ」

 酒のせいで上機嫌な商人は大笑いする。
 まあ、この人の反応はどうでもいい。俺が気にしているのは少女の反応だ。

「いきなり、人のことを魔王呼ばわりするなんて。お兄さん、そうとう酔ってるね」

 少女はローブで顔を深く隠して明るい声をあげる。
 無難な返事だ。
 思えば口調も記憶と違う。昔よりもずっと子供っぽい。魔王になってから口調を変えたのだろうか。

「酔っているわけじゃないさ。俺の知っている魔王によく似ていたから」
「……魔王にあったことがあるの?」
「遠い昔にね」
「そう。でも人違いだよ。私はただのしがない魔族……今日の食事に困るぐらいのね」

 彼女が自嘲すると、食事が運ばれてきた。
 想像どおり、野菜くずと干し肉のかけらが浮いた粥だ。
 彼女は、それを実に美味しそうに食べる。
 ぐうっとお腹の音がなった。
 セツナのお腹の音だ。あつあつの熊鍋が目の前にあるのに、俺が手を付けないせいでお預け状態だったせいだろう。

「フレイア、セツナ、俺たちも食べようか」
「……ん。お腹空いた」
「こんないい匂いのするお鍋をがまんするなんて拷問でしたよ」

 セツナが照れて赤くなった顔を逸らし、フレイアは熊鍋を取り分けていく。
 いい匂いだ。トウモロコシ味噌の出汁でたっぷりの熊肉と青野菜を煮込んでいる。
 熊肉もおいしそうだが、肉と出汁の旨みをたっぷりすった野菜も楽しみだ。

「これはうまいな」
「今まで食べた中でも、かなり美味しいほう」
「ですね、シンプルな料理なのに、どうしてこんなに美味しいのでしょうか」

 口に入れた瞬間、力強い熊の旨みが広がる。味噌がしっかりと肉の旨みを受け止める。
 よく味わってみると、肉に塩とスパイスを練り込んでいる。これのおかげで獣臭さがないし、柔らかくなり旨みもましている。
 出汁も味噌をただ溶いただけでなく、いくつかのキノコで丁寧にとった出汁だ。

 この酒場の料理人はいい腕をしている。
 市場で買った野菜も鮮度も味も抜群で、肉と交互に食べるといつまでも食べられそうだ。
 うまいだけではなく、魔物の因子が肉体に適合し物理攻撃の素質値があがっていくのを感じる。また一つ強くなれた。
 ただ……。

「いくらなんでも、量が多すぎたな」
「たくさん食べられるのは嬉しい……でも、ちょっと限界」
「さすがに、これ全部食べたら太っちゃいますね」

 調理を頼んだときに熊肉は二キロほど包んだのを渡したが、肉をすべて使い切った鍋を出してくるとは思わなかった。
 セツナもフレイアもわりと食べるほうだが、野菜と合わせると一人あたり一キロを超える。熊鍋以外にも、いろいろとつまみを頼んでいるし、パンと酒まで腹に入れている。さすがに、俺たちだけでは食べきれない。

 また、お腹の音がなった。
 今度は、セツナではなく、魔王(仮)の少女だ。
 少女の頼んだお粥は、量が少なくてお腹を満たしきれなかったのだろう。

「俺たちだけじゃ、食べきれそうにない。残すのはもったいないし、手伝ってくれないか?」
「施しを受ける理由がないよ」
「施しじゃないよ。せっかく作ってもらった料理を捨てるのはもったいないしさ、魔王と勘違いしたお詫びかな」
「……そういうことならもらう」

 フレイアに目配せすると、彼女は取り皿に大盛にした熊鍋を魔王(仮)に渡す。
 それを受け取った瞬間、無邪気に微笑んで深紅の瞳を輝かせる。
 そして、勢いよくかきこんでいった。
 可愛らしい。
 俺たち全員で挑んでも全滅させられかねないほどの魔力をもった危険な魔族なのに、見ているとほっこりとした気持ちになる。

「ぷはっ、美味しかった。ありがとう。あなたいい人間だね。どうして私を魔王と間違うかな」
「さっきもいっただろ。昔、魔王にあったことがあるって。銀色の髪をした少女だ。深紅の色の瞳をしていてね。黒い天使の翼が綺麗だった」

 俺が、そう言った瞬間、少女の目の色が変わる。

「銀色の髪と、黒い翼の魔王? なんであの人を……それに、私とはぜんぜん」
「君のことじゃないよ。ただ、俺の知っている魔王はそうだったってだけで」

 少女の目には敵意すら宿っている。
 ローブで隠してた翼を見破られて怒ったのかな。
 もしかしたら、髪のほうも染めているだけで実は銀色かもしれない

「おいおい、兄ちゃん。滅多なことを言うもんじゃねえぜ。銀の髪と深紅の瞳に黒い翼って言ったら、黒翼こくよく族の特徴だろ」

 商人が笑いながら会話に口出ししてきた。
 知らない種族だ。

「だとしたら、まずいのか?」
「まずいもなにも、今の魔王が根絶やしにすることを決めた一族じゃねえか。一族全体に懸賞金がかけられていてな。しかも生死は不問ときやがる」

 なるほど、だからこうして少女は変装しているのか。
 現魔王が皆殺しにすると決めるほど、警戒されている一族。
 ちょっと興味がわいてきた。

「もし、この場に黒翼こくよく族なんてものが現れたら」
「殺し合いだな。なんせ、孫の代まで遊んで暮らせるぐらいの懸賞金だからな。先に獲物を奪われないように獲物の前に競争相手を殺すかもな」

 すさまじく物騒な話だ。
 少女の顔色を見る。
 表情が消えていた。周囲を警戒している。

「えっと、名前はなんだっけ」
「君に名乗る気はないよ。私はそろそろ行く。ごはんも食べ終わったし……死にたくなかったら余計なことに首を突っ込まないで」
「まあまあそう言わずに、さっそく首を突っ込もうか。窓に向かって全力で防御。やらなきゃ、死ぬ」

 親切な俺は彼女に素敵なアドバイスを贈る。
 俺に全幅の信頼を置いているフレイアとセツナはすでに防御態勢に入っている。

 さて、魔王(仮)はどうするか。
 窓のほうを見て、目を見開く。
 素直でよろしい、彼女の力なら死なずに済む。

 魔王(仮)は手を窓に向けて全力で、防御の魔力結界を展開した。
 すさまじいな。術式は、はっきり言って未熟もいいところ。だが、めちゃくちゃな魔力放出量で防御力は超一級。

 そして、次の瞬間すさまじい轟音がした。
 窓がふきとばされ、炎の魔力が吹き荒れる。
 セツナはフレイアの張った結界に隠れ、俺は魔王(仮)の少女の後ろに隠れていた。
 自力でも防げるが、魔力の無駄遣いは避けたい。

「っ、君のせいで」

 魔王(仮)の少女は魔力結界に力を込めながら苛立しそうな声を上げる。
 襲い掛かる炎の魔術は単発では終わらない、二の矢、三の矢が降り注ぐ。だが、強力な魔力結界は揺らがない。

「俺のせいじゃない。この炎の魔術、魔力がいろいろ混ざってるだろ。複数の術者による連携魔術、地脈の力も使ってるから儀式魔術だな。最低、陣の構築に一時間はかかる。何がいいたいかっていうと、おまえがこの店に来ることはとっくに襲撃者にばれていて、これは計画的な攻撃だってことだ」

 まったく、失礼な。
 俺のせいで正体がばれて襲撃されたなんて言いがかりもいいところだ。おそらく、この少女はしばらくこの店に通っていたのだろう。行動パターンを読まれて襲撃されるなんて間抜けなやつだ。

「ううう、そうかもだけど」

 少女が悔しそうな顔をしている。
 意外に余裕がある。フレイアですら、冷や汗を流しながら必死で防御するぐらいの威力の儀式魔術をあっさりと防ぐとは。魔王ならこれぐらいはできるか。
 少女や俺は無傷だが余波で店内は地獄だ。店員と客は焼け死ぬか逃げている。
 いい店だったのに、ひどいことをする。

「親切ついでにもう一つアドバイス。こういう派手な攻撃を行う場合、たいてい陽動だな。これだけの火力を使う以上、おまえの力を相手はかなり警戒している。となれば、これで終わるなんて楽観視はしていない。想定されるのは一方向に意識を集中させておいて、死角からの不意打ち。感知し辛い魔力を通わない攻撃を使う。俺なら毒矢かな」

 はじめて、少女の顔に焦りがでる。
 少し意外だ。今回襲撃している相手はかなりの手練れだ。これぐらいを想定できない魔王(仮)の少女が今まで生き延びられたとは思わない。

 もしかしたら、今までは手練れの護衛でもいたのかもしれない。
 気になる。簡単にすべてを知るには【回復ヒール】をすればいい。一度目の世界では、【改悪ヒール】で殺すことに夢中で記憶を読み取れなかった。
 傷でも負ってくれれば、自然に【回復ヒール】できるが、無理やり【回復ヒール】するのは危険だ。この少女は間抜けだが強い。

「ご忠告ありがとう。でも、余計な心配だったね。だって」

 彼女の言葉がそこで途切れる。
 クロスボウの矢が彼女の太ももに突き刺さっていた。強力な麻痺毒が塗ってあるようで、その場で崩れ落ちる。
 炎の魔力弾が止む。
 クロスボウを撃った男は、店内に潜んでいた。さすがは俺だ。予想通りの展開だ。

 少女はクロスボウを撃った男を睨む。
 男は魔族だった。狂牛族。目には下卑た光が宿っている。
 さて、どうしたものか。

「俺を雇わないか、報酬は出世払いでいい。雇わなければ、あいつにさらわれるか、殺されるか、どちらにしても愉快なことになると思うぞ」

 俺を雇っても愉快なことになるだろうが、それはそれだ。とりあえず、この窮地は脱出できる。
 麻痺毒でしびれ、意識がもうろうとしていた少女は唇を震わせる。

 もう、声はでないようだ。
 だが、何を言ったかはわかる。「助けて」
 よろしい、少女は運がいい。俺は正義の味方だ。か弱い少女の懇願に応えよう。

「わかった。というわけで、そこの魔族。俺は彼女を守る。俺が守る以上、彼女を連れ去ることはできない。おとなしく帰ってくれないか」
「カヨワキ、ニンゲンガ。ワレラニ、ハムカウトハ、オロカ」

 狂牛族たちは一人ではないらしい、店内だけで三人いた。
 外から、儀式魔術を放った連中もこちらに向かっている。
 それにしても、このいかにも魔族な発音。駄目だ、笑いそうだ。

「ナニガ、オカシイ」
「ごふっ、いや、なんでもないよ。忠告だ。俺は、温厚で紳士的かつ正義感にあふれる素敵な青年だが、どうしても許せないものが一つだけある」

 そう、俺の唯一といってもいい欠点だ。
 その一点においてだけひどく短気になるし、加減ができない。

「俺は、俺から奪うやつを許さない。おまえたちはすでに俺のお気に入りの店をめちゃくちゃにした。死に値する。しかし、慈悲深い俺は、おまえたちの仕事を邪魔をしてしまうことに、若干の罪悪感があるのでそれは許そう。だけど、俺の新しい玩具やといぬしまで奪おうとするなら……殺すしかないな」

 そう、はっきり言って、こいつらはまだ生きていられることを俺に感謝をしないといけない。
 あくまで、俺の慈悲深さによって、まだ呼吸が許されているだけにすぎない。

「ウルサイ、シネ」

 狂牛族の男が剣を抜いた。自殺志願者なら、その望みを叶えよう。

「残念」

 剣聖からコピーした技能、【見切り】と【縮地】の複合技。
 あいての呼吸のリズムに合わせ、呼吸の合間、注意力が薄れる一瞬を見計らい距離を一瞬でゼロにして触れる。

「【改悪ヒール】」

 体を作り変える魔術で、心臓の出口を軽く蓋をしてやる。
 それだけで人体は壊れる。それは魔族であろうと変わらない。

 狂牛族の男が全身を痙攣させて倒れた。
 残り、二人の魔族が動揺する。俺相手に一瞬でも隙を晒せば即死だ。丁重にほふってやろう。
 残り二人も、一人目と同じように倒れる。

「フレイア、セツナ、逃げるぞ。彼女の護衛に雇われた。彼女を守るために全力を尽くす」
「ん。わかった。でも、今回はいろいろといきなりすぎる」
「セツナちゃん、ケアルガ様にはきっと深い考えがあるんですよ! 今は黙ってついて行きましょう」

 フレイアとセツナが駆け寄ってくる。
 魔王(仮)の少女を肩に乗せる。

「うわ、乱暴にしないで」
「もうしゃべれるんだ。麻痺は抜けたのか?」

 俺の診たてではゾウですら半月ぐらい身動きできなくなるタイプの毒に見えたが。

「まだ歩くのは無理だけど、ちょっとぐらいなら。ねえ、なんで君は私を助けたの」

 本当のことは言えない。
 適当にごまかさないと。

「ノリと勢い」

 魔王(仮)の少女だけでなく、フレイアとセツナの視線まで痛い。
 適当な言い訳を考えたが、適当すぎたようだ。

「冗談だよ。大事な話だから、あとでゆっくりと話すさ」

 下手なことを言うわけにもいかない。まだ、この少女の正体すらわかっていないのだから。
 だから、時間稼ぎだ。

「それより、治療しよう。俺は回復術士ヒーラーだ。それぐらいの毒、簡単に抜けるぞ」
「うん、お願い」

 許可をもらったので、【回復ヒール】をする。
回復ヒール】により、記憶を読み取っておこう。
 そうか、やはりこの子は一度目の世界の魔王か。
 面白いことになりそうだ。やはり、魔族の側でしか見えない真実というのもあるんだな。
 顔のにやけが収まらない。
 まずは、安全なところに退避してからこれからの計画を考えよう。



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