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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第三章:回復術士は黒の世界で宝石を見つける

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第二話:回復術士は魔王と出会う

 ようやく、ブラニッカについたので、通行税を支払い中に入る。平均よりも少し安かった。
 門の見張りは人間だった。
 街の中に入るとセツナが急に身構えた。
 彼女の前に手を置いて制止する。

「この街では魔物は当たり前のように出歩いている。魔族が支配している魔物だ。下手に手を出したら問題になるぞ」

 凶悪な牙と岩の肌を持つ大型犬の魔物がいて、その背後には犬耳が生えた魔族がいた。
 ペットと飼い主だろう。

「ケアルガ様、もしも襲われたら」
「そのときは反撃しろ」
「わかった。……先手を取られるのが少し怖い」

 セツナの懸念も理解できるが、そういうものだから仕方がない。
 こいつは魔物といえど、立派なペットだ。
 噛まれるかもしれない。それだけでこちらから手を出すわけにはいかない。
 フレイアのほうに目を向けると、きょろきょろとあたりを見ていた。

「ケアルガ様、ここは不思議な街ですね」
「だな。聞いていたとおりだ」

 今歩いているのは商店が集まっている区画で、店員たちが声を張り上げて客引きをしている。
 金貨や銀貨もきっちり使える。
 金や銀も、それ自体に価値があるので、含有率が低く信用の低い国が発行しているもの以外はどこでも使えるが……そもそも、金や銀に価値があると信じている相手でない場合、なんの意味もない。
 ここでは通貨が通用している。つまり、人間の価値観で街が管理されていることになる。

 夕食のためと街の調査のために商店を物色していると、いい野菜を置いている店を見つけた。

「おじさん、これとこれをくれないか」

 商店で見かけた野菜を買う。
 野菜を見れば、その土地の状況がだいたい見える。

 瑞々しく、しかもかなり大きく育っているし虫食いは少ない。
 この野菜を見れば、それなりに手間をかけて育てられ、なおかつ高度な農業知識があるということがうかがえる。
 この野菜は生産量をあげるためだけでなく、美味しくするための努力をしている。
 食べるためだけでなく美味しくするために手間をかける余裕があるということは、平和かつ豊かな街だということだ。

「あいよ。べっぴんさん二人も連れてるとはにくいね。おまけしとくよ。兄ちゃんにじゃねえぞ。後ろのべっぴんさんたちにだ」
「ありがとう。二人ともよく食べるから助かるよ」

 そして、今の会話でも一つのことがわかった。
 亜人に対する差別が存在しない。

 フレイアだけでなく、セツナまで褒めた。
 この男の様子を見る限り、お世辞ではなく本心からの言葉だ。
 ……驚いたことに、魔族領域にあり魔族を受け入れながら、この街は平和で豊か。さらには差別心もないという理想の街だということがわかってしまった。

「ケアルガ様、お野菜おまけしてもらって良かったですね」
「おいしそうな野菜。晩御飯が楽しみ」
「二人が美少女で良かったよ。今日の熊鍋にたっぷり使ってみよう」

 これだけいい野菜があれば、熊鍋は飛躍的に美味しくなるだろう。
 その後は、商店でこの街独自の調味料を買ってみた。
 トウモロコシを発酵させて作った味噌で、味見をさせてもらったが、なかなかいい味がしている。
 これを出汁で割れば、いい熊鍋ができるだろう。

「!?」

 男の魔族とすれ違った。
 牛の様な角と紫色の肌をした二メートルほどの人型の魔族だ。おともに牛の魔物を連れている。

 狂牛族。魔族の中でも危険視されている種族だ。
 今、連れているのは小型の魔物だが、戦場では超大型の牛の魔物を操る。

 とてつもない速度と力で突進するタフな牛の魔物の群れを意のままに操るうえ、彼ら自身も人間とは比べ物にならないほどの頑強さと力を持っている。
 どんな強固な城壁もその突撃力の前では無力。守りの騎士を軽く吹き飛ばし城壁を砕き、あとに続く魔物たちの道を作る理不尽な暴力。

 もっとも人間に恐れられている魔族が、人間の店でにこやかに笑って買い物をしている。
 事前情報では知っていたが、この目で見るとやはり驚いた。
 そして、野菜を買った店主におすすめを聞いて選んだ宿屋は魔族が経営する宿屋だった。
 買い物をするのだから商業を魔族が嗜むことも想定内だが、やはりインパクトは大きかった。

 ◇

 俺たちは借りた部屋に荷物を下ろし、そのまま雑談を始めていた。

「本当にこの街は人間と魔族が共存しているんだな」

 俺もうわさでしか、この街を知らなかった。
 共存とは名ばかりで、実際は魔物に支配していると疑っていたぐらいだ。

「ですね、魔族のかたが普通に買い物をしているだけじゃなくて宿屋までやってるなんてびっくりです」
「魔族だけど、いい人だった」

 セツナの頬が膨れている。
 怒っているわけではなく、果物をもらい、口に含んでいるからだ。
 宿屋の店主が形が悪く酒場で出せない果物をセツナにプレゼントしてくれた。

「間違いなくいい人だ。調理場を借りたいと言ったら、持ち込んだ食材で料理してくれるっていってくれたしな」

 なかなかいいサービスだ。
 肉を見ただけでは、ただの熊肉かファットベアかなんてわからず魔物肉だと騒がれないと考え、好意に甘えた。

 すでに肉は【浄化】すみで、あとはどう料理しても問題ない。
 俺たちはしばらく雑談をして、荷物を下ろすとこの宿の中にある酒屋に向かった。

 ◇

 酒屋の中は、人間と魔族が笑いながら酒を飲み合っている。
 魔族はこの店でも、この街でも三種族しか見ない。

 牛の角を持つ魔族、狂牛族。牛型の魔物を使役する魔族。

 犬の耳と尻尾を持つ魔族、夜犬族。犬の魔物を使役する魔族。

 熊のような毛皮と耳を持つ魔族、血熊族。熊の魔物を使役する魔族。

 この街でも、森の中で狩りをしていた間に見た魔物も、牛型、猫型、熊型の魔物しか見ていない。
 これらの魔族がこの街の主要な魔族だろう。

「すみません、空きテーブルがなくて相席でもよろしいでしょうか?」

 店員が申し訳なさそうに問いかけてくる。
 うなずくと、先客に確認をとってやってきた。
 八人掛けのテーブルに二人で飲んでいる人間たちがいた。二人とも中年の男性だ。雰囲気で商人だとわかる。

「どうぞこちらに」

 店員に案内される。

「相席、すみません」
「いいって、気にすんなよ。この店の料理はうめえからな。いつも、こんな感じだ。客が多いから薄利多売が成立して俺たちもうまい飯が安く食える。兄ちゃんみたいな外からの客は大歓迎だぜ」

 商人は、もう酒が入っていて上機嫌だ。
 よくよく見れば、この人は俺が野菜を買った商人だ。

「んだんだユースラの言う通りだ。おっ、兄ちゃんのつれ、すげえ美人じゃねえか。美人と飲めるなら、大歓迎だ」

 また、これか。美少女はいろいろと人生で得をするようだ。

「フレイア、酒を注いでやれ」
「はい、ケアルガ様……どうぞ」
「こいつはありがてえ」

 フレイアに命じて酒を注がせる。
 いろいろと話を聞かせてもらいたい。気分よく飲んでもらおう。

「店員さん、この店で一番おすすめの酒を五つ、二つはこちらの方に」
「おっ、兄ちゃん。おごってくれるのか」
「これも何かの縁ですし。いろいろとお話を聞かせてください。この街に来たばかりで知らないことばかりなんです」

 人好きのいい顔で微笑みかける。
 ケアルガの顔は、人に好かれやすいように作ってある。
 そっちのほうが便利だからだ。
 美少女にするほうが効率がいいかもしれませんが、そこまでは割り切れなかった。
 俺は男だ。挿入する側であって、挿入される側ではない。あんなのはもうごめんだ。

「兄ちゃんはいい男だな。よし、この街の先輩としていろいろと教えてやる」

 俺は運がいい。
 年季の入った商人たちは、最高の情報源だ。自然な流れで彼らから情報をもらえるのはありがたい。

「この街は魔族と共存していると聞いてはいましたが、まさかこうして、同じ酒場で飲んでいるほどとは」
「そりゃ、初めからこんな関係ができてたわけじゃねえんだ。十年前に、この街は見捨てられた。絶望的な戦いになるかと思ったんだが、領主様が魔族と交渉をしてな。たまげたなぁ、あのときは」

 共存は人間が持ちかけたのか。
 その領主はまともな神経ではない。

「それを魔族は受け入れたんですね」
「ああ、最初は大変だったがな、話しているうちにあいつらも人間じゃねえが、人だってわかったんだ。人なら、うまくやっていけるだろ。お互いに助け合って、よりよい生活のために頑張ってるんだ」

 この言葉は、人間というも種族の一つであり、魔族や亜人と区別していないという価値観が根底にある。
 この価値観が根付くまで、どれだけの時間と経験が必要なのか、俺には想像もできない。

「魔族に助けられている……ですか?」
「魔物っていうのはすっげえのよ。人間が一年かかる開拓も魔物を使えば一週間で終わっちまう。魔族はその魔物を自由に使える。農業も随分と楽になった。魔族の魔術も、いろいろと便利でよう。酒の熟成が一晩で済んだり、おかげで生活もすこぶるよくなった」

 なるほど、労働力の提供と魔術の恩恵をもらっているのか。
 この街が豊かなのも納得がいく。

「それをして、魔族側にはなんの利益が?」
「魔族側には文化がなかったのよ。うまい野菜の作り方や、家畜の育て方、酒の作り方に、料理法、心を弾ませる音楽、演劇、他にもいろいろ。俺たち人間の文化を奴らは楽しんでいる」
「素敵な関係ですね」
「それに、人間は魔物の餌を提供しているからな」

 思わず、眉を顰める。
 魔物は魔力がある生き物を好む。だから、魔力を持つ人間や亜人を襲って喰らうのだ。
 まさか、この街の人間を喰わせている? 一部の人間を生贄にして安全を買っているのか?

「あんちゃん、勘違いしてねえか? べつに人間を喰わせてるわけじゃない。これだよ」

 服の袖をまくり上げると、そこには刺し傷がいくつかあった。

「この街じゃ、税金の一部を血で払うんだ。月に一回、酒瓶にいっぱいの血を渡すと、うんと税金が安くなるんだ。血が嫌な奴はふつうの税金を払えば済むから強制じゃねえ。人間は魔物の労働力と魔族の魔術の力を得る。魔族は文化と、魔物の餌になる血をもらう。俺らはうまくやってるよ」

 魔力は血に宿る。
 街に住む人間の血なら定期的に十分な量がとれる、最高の魔物の餌だ。
 人間を襲うよりもよほど効率がいい。
 魔族にとって、人間が牛を飼い乳をしぼるのと同じというわけだ。
 ブラニッカは、魔物の餌を生むための牧場という見方もある。
 共存共栄、ブラニッカは頭がいいやり方をしている。

「面白い話を聞かせてもらった。気になるのは、魔族たちが暴力を振るわないのかだ? ずっと敵だって思っていたから気性が荒いか心配で」
「そら、暴力を振るうこともあるさ。でもな、人間と同じぐらいだ。魔族にも悪い奴らはいるし、喧嘩もする。それも含めて同じ人だ」

 商人は酒をうまそうに飲み干す。
 今聞いた話をまとめると、中から見れば素晴らしい街だが、外から見れば魔族に支配されているともとれる。

 実際に、この街にいる人間たちは血を差し出し続けているのだから。
 あの、妹姫がこの街を滅ぼすには十分な理由だ。

 ……さて、当面の課題だが。妹姫に復讐するためにはこの街で親しい人間を作らないといけない。
 なんとなくこの商人たちは好きになれない。
 気のいい人だとは思うが、本気にはなれない。

 ぶっちゃけた話、俺の村も初恋のあの人以外、どうでもよかったので、あれだけの数がいて、はじめて本気になれた。
 もっと俺が執着できそうな人を探さないといけない。
 やっぱり、可愛い女の子でないと好きになれない。
 俺好みで、殺されると泣き叫びたくなりそうな子はいないものか……。

「すみません、お客様。もう一人、相席をよろしいですか?」

 そんなことを考えているとトウモロコシ味噌と熊肉の香りが胃袋を直撃する。
 店員が熊鍋を持ってきてくれたようだ。それだけでなく、相席の許可を求めてきた。

 商人二人組がうなづいたので、俺もうなづく。
 すると、店員が一人の少女を連れてきた。
 黒い天使の翼をもった赤い瞳の少女だ。
 見覚えがある。ずっと探し続けた少女だ。

 だが……、記憶にあるのと違い髪は黒。そして栄養状態が悪いのかほほがこけていた。
 それに全身を覆う黒いローブで顔と姿を隠していた。
 俺が彼女の容姿と翼に気づいたのは、とんでもない魔力を持ち、それを偽装しているような相手だから、用心のために魔術を使って解析したからだ。

 俺でなければ気づかないほどの精妙な魔力偽装と、この場で全滅させられかねない圧倒的な魔力量。
 こんな存在がただの魔族であるわけがない。

「これで出せる暖かいものをお願い、量がたくさんあると助かるよ」

 しかし、そんな強大な存在である彼女の懐具合は寂しいようだ。
 ポケットから銅貨を何枚か見せる。
 店員は頷き、去っていく。
 あれなら、肉の切れ端が入ったパン粥がせいぜいだ。

「兄ちゃん、知ってるか。魔族っていうのは、いろんな町や村を作って国もあって王もいる。だけどな、どの国の王よりもえらい奴がいるんだぜ。魔王って言ってな。どんな魔族だろうが魔族の国の王だろうが、魔王には絶対服従だ」
「ああ、知っているよ」
「どんな奴だろうな。きっと、すっげえむきむきでデカくて。ツノとか何十本もあるんだろうな。見てるだけでしょんべんちびりそう」

 面白い想像だ。
 だが、すべての魔族を従えるなら、それぐらいめちゃくちゃでもおかしくない。

「いや、案外かわいい女の子だったよ」
「兄ちゃん、会ったことがあるみたいだな。詳しく聞かせてくれよ。かわいい女の子ってどんなのだ」

 まったく信じてはいないが、面白い冗談話だと思って商人が乗ってくる。
 だから俺は……。

「強いていうなら、俺の隣にいるのが魔王だ」

 とびっきりの冗談をかました。
 さて、この俺が知る未来の魔王はどんな反応をするのだろうか。 
 
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