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第一話:回復術士はブラニッカにたどりつく
朝になってテントから出るとよく晴れていた。
良かった。さすがに今日もテントにこもって無駄にするわけにはいかない。
最悪、雨の中の旅も覚悟していたが、これなら今日中にブラニッカにたどり着けそうだ。
「ケアルガ様、おはよう」
下着姿のセツナがテントから出てくる。
寝起きのせいか、白い狼耳がぺたんとして可愛らしい。
「おはよう、セツナ。いい天気だ」
「ん。今日は降らない。ずっとお日様出てる」
セツナは鼻をくんくんと鳴らしながら断言する。
それはいい情報だ。
「じゃあ、今日は朝の訓練が終わったら、少し魔物狩りをして。水浴びをしてからブラニッカに向かおう。このあたりの魔物を一通り狩っておきたい」
魔物の肉を【浄化】して喰らうことで素質値を上げるのは、初めて食べる種類の魔物だけ。
最強を目指すのであれば、一種類も無駄にはできない。
フレイアの探索魔法で、付近一帯を探して全種類を狩りたいものだ。
「わかった。……でも、その前に朝のご奉仕。ケアルガ様、昨日あれだけしたのに元気」
「たしかにな。フレイアを起こしたら可哀そうだし、外でやろうか。そこの木に手をついて」
「明るい外は恥ずかしい」
顔を赤くしながらも、セツナは頷いて木に手をあて尻を突き出してくる。
恥ずかしいとは言っているが、セツナは外でするほうが興奮する。今ももふもふの狼尻尾が揺れている。
「恥ずかしいと言いながら、セツナの体は正直だな。口のほうも素直になるぐらい可愛がってあげるよ」
耳元でささやくと、セツナの狼耳がピンとなり、尻尾の揺れが大きくなる。
本当にわかりやすい。さて、今日もセツナのレベル上限を解放していこうか。
◇
朝のご奉仕が終ったあとは、朝食を作りながらフレイアに護身術を教えるのを見ていた。
昨日の夜が味気なかった分、朝はがんばるつもりだ。
それにしても、セツナは教えるのがうまい。
正直、俺はあまり人に教えるのはうまくない。技能と経験をコピーし続けたきたせいで、努力を積み重ねて技術を身につけるということをほとんどしてこなかったからだ。
その点、セツナは努力の鬼だ。天性の戦闘勘を持ちながら、その土台にあるのは絶え間ない修練。
きっちりと、フレイアを導いてやっている。
「セツナちゃん、ちょっと、厳しすぎです」
「そうでもない。フレイアの体力を考えるとこれぐらいはできる。フレイアがへたれなだけ」
「そんな、死んじゃいます」
フレイアが涙目になっていた。
さきほどから、セツナが一方的に木の棒でフレイアに打ちかかっている。
「目をつぶらない。つぶるたびに延長」
「ひいいいい」
セツナ曰く、基礎のさらに前の死を覚えさせるための特訓らしい。
本気で殺気を込めた一撃を急所に叩き込む……寸前で止める。
一呼吸で何度も、次々に致死の一撃が叩き込まれる。
セツナぐらいの達人の一撃は寸止めでも、された側は死を感じる。
実際、フレイアは歯をがたがた言わせていた。だが、死を感じるほどの恐怖は、セツナの美しい剣筋を嫌でも脳裏に刻む。
非常に効率がいい特訓だ。
そして……。
「いたひっ」
フレイアが悲鳴をあげた。
寸止めだけでなく、たまに攻撃が当たる。
それはセツナが寸止めを失敗したわけではない。今のフレイアなら防げる程度に加減した一撃だけは、あえて止めない。
これにより、フレイアはすべての攻撃に対して緊張感を持ちつつ防御をし続けないといけない。
精神力も体力も消耗していく。
十五分ほどたち、セツナが動きを止めた。
「これで、見稽古は終わり。少し休憩したら型の練習。それが終わればランニング。フレイアに一番足りないのは体力と根性」
たんたんとセツナは告げた。
フレイアはへなへなと膝をつき。潤んだ瞳で俺を見てくる。
「助けてください、ケアルガ様、こんなの訓練じゃなくてただのいじめです。殺されちゃいます」
王女フレア時代にある程度の戦闘訓練を受けているだろうが、魔術が本分ということもあり本格的なものをやっては来なかったのだろう。
そんなフレイアにセツナの特訓は少し厳しすぎるかもしれない。
「いや、セツナの言う通り、ちゃんとフレイアの体力で出来る範囲で考えられているよ。フレイア、戦場で一番最初に死ぬのは走れなくなったやつだ。今、がんばればがんばるだけ、死ににくくなる。セツナほどの教師はいない。辛いだろうががんばってほしい」
「ううう、できればもう少しだけ優しく」
「なんなら、俺が変わってもいい。でも、セツナより厳しくなると思う。限界の近くじゃないと上達しないし、俺はセツナほど的確に限界は見つけられない。だから、より厳しめにするしかない」
フレイアが世界の終わりのような顔をした。
仕方ない、鞭だけじゃなくて飴をあげようか。
「セツナが一流だと認めるまでがんばったら、フレイアが驚くようなご褒美をあげるから、もう少しだけがんばってみよう」
俺の言葉を聞いてフレイアが表情を明るくした。
「ずるい。セツナもがんばってるのに」
対照的にセツナがむっとしていた。
無理もない。セツナは全力でフレイアが護身術及び体力と根性を身につけるために頑張ってくれている。
「もちろん、フレイアが卒業したらセツナにもご褒美をあげるから」
「やった!」
セツナは小さく握り拳を作った。
喜んでくれて何よりだ。
「セツナちゃん、二人でがんばりましょう」
「ん。目標は三か月」
「……長すぎませんか? できれば一週間ぐらいに」
「一週間でフレイアが一人前? それを実現するつもりがあるなら、今の千倍ぐらい厳しい特訓が必要。百回やれば九十九回ぐらい死ぬ。それでもいいなら試してみる」
たんたんとセツナは告げる。
たんたんと言っているだけに妙な説得力があった。
もともと、セツナはフレイアのもっとも成長できるように気を使っている。その彼女が三か月と言ったら、本当にそれだけかかるのだろう。
「三か月でいいです。絶対、三か月で卒業をして見せます!」
何はともあれ、やる気になってくれて良かった。
その後も訓練は続き、二人の訓練の間に作ったあたたかな料理を朝食として振る舞った。
◇
森の中、セツナが疾走していた。
フレイアと一緒にランニングをしていたのに体力はまだまだあるようだ。息一つ切らしていない。
高くジャンプしたと思うと大樹の枝に着地、そこから跳躍、枝から枝に跳びうつり立体的な高速移動。
動きの速さと全身のバネもすさまじいが、何よりもすごいのはバランス感覚。
ひと際大きな跳躍。小さな体を宙にまわせる。すさまじい高さだ。
見事なムーンサルト。その勢いのまま地面に向かって頭から落ちる。手には氷の爪。
まっすぐに手を伸ばして急降下。
その姿は、見惚れるほど美しかった。
「グガ?」
セツナの標的はまだら模様の熊の魔物が音に気付いてきょろきょろと首を振る。だがセツナは真上、気づくわけがない。
ファットベア。
分厚い脂肪の鎧と油が染みついて硬い上に攻撃を滑らせる毛皮が厄介だ。
普通に切れば油で滑る上に、毛皮と脂肪の二重の防御でろくに傷つけることはかなわない。
だが……。
「ハッ!」
セツナが気合と共に氷の爪を突き出す。
真上から真下へまっすぐな突きという、もっとも受け流しにくい一撃を脂肪と毛が薄い脳天にまっすぐ放ったのだ。
氷の爪が深々と突き刺さる。
セツナは氷の爪を切り離し、前回り受け身で着地の勢いを殺し、油断なくファットベアをにらみつける。
「ケアルガ様、成功」
セツナがこちらに向かってブイサインを送ってくる。
脳天を貫かれたファットベアが倒れた。
「よくやったぞ、セツナ」
見事な動きだった。さすがの俺も今のは真似できない。技術は真似できても、俺の体にはセツナほどしなやかなバネも、超人的なバランス感覚は存在していない。こんな曲芸じみた動きは彼女にしかできないだろう。
「ケアルガ様、これは適合食材?」
セツナの問いを受けて、【翡翠眼】を発動させる。
精霊により与えられた、すべてを見通す眼。
ファットベアを見つめる。
よし! 適合食材だ。これを食べれば物理攻撃があがる。今日は熊鍋だ。
「そうだ。肉を切り分けてもらっていいか」
「わかった。さばく」
セツナは器用に油まみれの毛皮を凍らせてから砕いて剥がし、首筋を氷の刃で切り裂く。
そして、ファットベアの心臓のある場所を思いっきり踏みつける。心臓がポンプし切り裂かれた首筋から勢いよく血が噴き出た。血抜きだ。
狩ってすぐ血抜きをすることで肉はうまくなる。
「ケアルガ様のお料理楽しみ」
「今日の夕食は街で調味料もいろいろ買えるから美味しくできる。期待していいよ」
セツナは頷き、的確に肉を切り分けていく。狼の亜人だけあって肉は大好物で上機嫌に尻尾を振っている。
一緒にラプトルに乗っている、フレイアが俺の肩を叩く。
「ケアルガ様、西に二百メートルほどいったところに新しい魔物が現れました、形を見る限りイノシシの魔物だと思います」
息も絶え絶えと言った様子でフレイアが声をかけてくる。
朝の訓練で、フレイアはすでに体力を使い果たしていた。
【回復】すれば、すぐにもとに戻るのだが、体力を使い果たした状態に慣れることも重要なので放置中だ。
そのため、魔術を使った探索だけを任せ、狩りはセツナにさせている。
レベルが上がれば上がるほど、セツナの輝きは増す。
普通なら、どこかで急激に上昇をした身体能力を持て余す。いくら早く体を動かせようが、結局それを使いこなせないと意味がない。
身体能力はあがろうと、それを使いこなすための反射神経や動体視力、脳の処理速度はあがらない。
セツナはどれだけ、身体能力をあげても持て余す要素はない。間違いなく天才だ。セツナはいい買い物だった。
「私も、いつもなら戦えるのに」
フレイアは悔しそうだ。
「少しして回復したら、フレイアも戦ってくれ。限界の状況で戦うのもいい経験だ」
「はい、もっと体力をつけます」
そうして、俺たちは付近の魔物の狩りを続けた。
得られた適合素材は三種類。
すぐ食べるファットベアの肉は生のまま木の皮で包み、残りは燻製にした。
狩りを終えたあとは、水浴びをして、少し彼女たちを可愛がりブラニッカに向かった。
◇
「ようやくついたな」
「これが、ブラニッカですか。外から見ると普通の街ですね」
「ん。ラナリッタに比べるとずいぶん小さい」
日が暮れる前にブラニッカにたどりついた。
ブラニッカは、中規模の街だ。
防壁に囲まれているが高さも厚さもラナリッタには随分劣る。
門のほうにも行列はなく、すんなり入れそうだ。
防壁の周りに死体が散乱している……ぐらいは覚悟していたがそれもない。
「じゃあ、入ろうか。世界で唯一、人間と魔族が共存している街。ブラニッカへ」
俺はここで、魔王の情報を集める。
現時点での魔王。
そして、俺が会いたい堕天使の彼女に。
門にたどりつき門番に通行税を払い、いざ中へ踏み入れようとしたとき心臓が嫌な音を立てる。
悲惨な人生を歩み続けた俺が得た能力の一つ。第六感で危機的な状況が起こることを予想できる。
これを感じたときは、間違いなく厄介ごとが訪れるのだ。
「ケアルガ様、笑ってる」
セツナが不思議そうに首を傾げた。
「なんでもない、なんでもないよ」
少し前まで厄介ごとは、ただの厄介ごとに過ぎなかった。
だが、今の俺は違う。
厄介ごととは、俺の楽しい復讐の始まりの合図なのだから。
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