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プロローグ:回復術士は新しいおもちゃをほしがる
国境を抜けた俺たちは、ブラニッカを目指して旅を続けていた。
雨が降るとセツナが言っているので、早めに野営をしないとだめだろう。
「ケアルガ様、一つ相談があります。新しい街についたら杖を買っていただけないでしょうか?」
「いいよ。ブラニッカならいい杖があると思うし、もしかして杖が壊れたのか?」
「私が全力を出すと杖にダメージがあるようで、今の杖が限界なんです」
「それはまずいな。フレイアの魔術が暴発したら大変なことになる」
【術】の勇者の力で普通の杖を使うこと自体に問題があるな。
なんとか、いい杖を手に入れたい。ケチらずに手に入る一番いいものを買って、俺の錬金術士の知識と技能で改良しよう。
一から作るのは時間がかかりすぎるが、改良するだけであればそう手間はかからない。
「今の杖を渡してもらっていいか? 応急処置ぐらいはできるはずだ」
「さすがは、ケアルガ様です!」
フレイアの杖を受け取り、確認する。たしかにこれはまずい状態だ。急いで簡単な修理をしよう。
フレイアが杖の話をするものだからとあることを思い出した。
【神装武具】がほしい。
【神装武具】は勇者にだけが使いこなせる最高の武器たちだ。
神という単語がついているのは伊達ではなく、人の手によって作られたものではない。
世界に勇者が十人しかいないように、【神装武具】も世界に十個しか存在しない。
太古より、受け継がれ大事に保管されている。
見た目は宝玉で、勇者が手にした瞬間に契約がなされ、その勇者にふさわしい形状へと変化する。
一度目の世界では、【剣】【砲】【術】の三人は【神装武具】を与えられていたが、俺には与えられなかった。
これはいやがらせではなく、ジオラル王国及び、ジオラル王国の支配下にある国々が三つしか保持していないというだけの話だ。
宝石をあしらった両手剣、神剣ラグナロク。
魔力を弾丸にして吐き出す。白銀の大筒、神砲タスラム。
世界樹で出来た神杖ヴァナルガンド。
どれも非常に強力な武器だ。もし、俺が【神装武具】の宝玉を手に取ればいったいどんな武器になるのだろうか?
「フレイア、セツナ、俺にはどんな武器が似合うと思う?」
なんとなく、二人に尋ねる。
いまいち、俺にふさわしい武器というのが思いつかなかったので、身近な人物の意見を聞きたかった。
「ケアルガ様は剣だと思う」
「ですね、それも重いのじゃなくて切れ味重視の取り回しのいい片刃の剣が似合うと思います」
返事は面白みのないものだった。
【剣聖】の技能をコピーしているおかげで剣を主武装にしているから、剣の印象が強いのだろう。
だが、それは借り物の技術だ。おれの本質とは程遠い。
回復術士は通常なら杖を持つべきだ。
べつに杖がなくても、魔術は使えるが、杖なしの魔術はどうしても魔力の収束が難しく術式もゆがみやすい。
その結果、展開速度、魔術精度、魔力効率が著しく落ちている。
「ありがとう。参考になったよ」
とりあえず、礼を言う。
他人の技能をコピーして、本業の【回復】すらも規格外の俺が、まともな回復術士らしさを考えても意味がないだろう。
だからこそ、余計に【神装武具】をもったときにどうなるかが気になった。
なんとしても手に入れたくなった。
思いつく限り、入手方法は二つしかない。
一つは、ジオラル王国の城に忍び込んで宝物庫に保管されているものを奪うこと。ジオラル王国に一つだけ【神装武具】の宝玉があることを知っている。この場合、すでに王女フレアが契約していれば意味がない。
そして、二つ目はほかの勇者から奪うこと。
その場合は持ち主を殺す必要がある。
持ち主が生きている限り、【神装武具】は宝玉に戻らないのだ。
王女フレアが契約していれば、意味がないと言ったのは、フレイアを失ってまで新しいおもちゃをほしいわけではないからだ。
【砲】の勇者は、この時期に【神装武具】を持っているかはわからないが、【剣】の勇者のほうは確実に持っている。
もし、復讐の機会が訪れたらさくっと殺して奪おうか。
どうか、今回の世界でもあのクソレズが、人として終わっていることを祈ろう。
「ケアルガ様、なにか悪いことを考えている顔」
「悪いことじゃない、素敵なことだ」
復讐するだけだとつまらない。
【剣】の勇者はなかなかいいやつかもしれない。俺に復讐を果たさせてくれるだけでなく、最高の武器まで提供してくれるなんて。
ブラニッカで情報収集が終わったあとは本気で会いに行こう。
どこかで、あのクソレズは大嫌いな男のふりをして女を漁っているだろう。
◇
森の開けた場所にテントの設置をし終わるのと、雨が降り出すのはほぼ同時だった。
「セツナ、えらいぞ。セツナが教えてくれなかったらまずかった」
「ん。氷狼族の感覚は鋭い。これぐらい朝飯前」
セツナが得意げに鼻を鳴らす。
彼女の頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。
「それにしても、すごい雨ですね。これだとテントから出れません」
「だな、火も使えないのはつらいな」
野営するにしても、美味しいものを食べるように努力するが、テントの中で火をおこすわけにもいかない。
硬く焼いたパンと干し肉をかじる。
「フレイア、水をくれ」
「はい、どうぞ」
フレイアが水魔術で作った水を水筒に流し込んでから、コップに注ぎ渡してくれる。
全属性の魔術を使えるフレイアがいるおかげで旅がだいぶ楽になっている。
清潔な水をいつでも用意できる、火を起すのも楽だ。
清潔な水を魔法なしで手に入れるのは案外厳しい。
「ケアルガ様、一つ気になることがある。ジオラル王国って魔族の領域に面している一番、南の国のはず。なのに、どうしてジオラル王国の南方面に他国の街があるの?」
セツナの疑問はもっともだ。
本来、そんなものはあるはずがない。
「実をいうとブラニッカは、はるか昔に見捨てられた街なんだ」
「見捨てられた?」
「昔は南部もジオラル王国が統一しているわけじゃなかった。小さな国がたくさんあって、亜人たちの村も多かった。そんなときに、魔族の一斉攻勢があってね。人間たちは防衛線を作った。それが今のジオラル王国の国境の前身だ」
「防衛線の外にある街ははじめから守る気がなかったってこと」
「そうだね。まあ、そうやって防衛線を用意して魔族の侵略は退けた。そのあと乱立していた国は、力づくでジオラル王国が全部吸収して、南部はすべてジオラル王国のものになったんだ。だけど、最近になって防衛線の向こうのブラニッカが無事で、しかも魔族と共存しているってわかった。南部統一の前からブラニッカはジオラル王国ではなく、ブランタ帝国の植民地で、その結果飛地のようにブランタ帝国の植民地が存在するわけだ」
いろいろと奇跡が重なっている。
もし、防衛線の中にブラニッカがあれば、ジオラル王国の南部統一に巻き込まれていただろう。
見捨てられて、なおかつ自力で魔族との共存なんて離れ業をやれたことも奇跡としかいいようがない。
「少し、複雑」
「だからこそ、面白いんだけどね。魔族についてわかっていないことが多すぎる。あそこにいけば、いろいろとわかると思う」
特に、魔王がどうやって選ばれるかは知りたい。
銀色の堕天使とまた会うというのは、俺の目標でもある。その足取りも追いたい。望み薄だがあそこ以上に適切な場所はない。
「ちょっと、楽しみ。それに、魔族領域は強い魔物がたくさん出るって聞いてる。たくさん倒してレベルを上げる。セツナは強くなる。ケアルガ様の隣に並べるように」
セツナは拳を作って力をこめた。
そういう前向きな態度は好感が持てる。
「もちろん、私もそのつもりですよ! ケアルガ様の正義の旅のためには、私たちががんばらないといけないですから!」
フレイアもやる気十分といった様子だ。
「二人とも頼りにしている。魔族領域は危険が多いが、圧倒的に強くなれる」
セツナの言う通り、魔物の数も質も国境の中とは大違いだ。
何より、種類が多い。
【浄化】して喰らうことで、素質値を上げられる俺たちにとって、たくさんの種類の魔物に出会えるというのは大きい。
たくさん倒してレベルを上げて、たくさん食べて強くなろう。
とはいえ、この雨だ。魔物狩りは明日からだ。
「ケアルガ様、この雨、外に出れない。だから……可愛がって」
セツナがしなだれかかって来る。
「ああ、セツナちゃん、抜け駆けはずるいです。私も、ほしいです」
フレイアも俺の手を握った。
「しょうがない。今日は一日中可愛がってやる」
可愛い、俺のペットたちだ。
存分に愛してやろう。
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