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第二十一話:回復術士は変わっていく世界を笑う
国境付近に来た。
そこにあるものを見て、呆れと尊敬が入り混じった気持ちになる。
「ジオラル王国は無駄に金があるよな」
ここを超えればジオラル王国の外にでるのだが、国境付近には巨大な壁とそれを守る兵士たちがいた。
迂回路がないかを探してみるが見渡す限り、壁、壁、壁だ。壁の終わりが見えない。いったいどれだけの金と労力を使えばこんなものができるのか。
記憶を探る。
ああ、思い出した。たしかこれは魔族の侵攻を防ぐためという名目で、世界各国から金を集めて作り出したものだ。
実際は金を巻き上げる口実と、食にあぶれた国民たちへ金をばらまくための方便。
「ケアルガ様、大きな壁ですね。どれぐらいの高さがあるんでしょう」
「だいたい十メートルぐらいか。俺だけなら飛び越えられなくはないけど」
「セツナも余裕、セツナなら垂直な壁でも爪をひっかけて走れる」
セツナが両手両足に氷の爪を纏わせた。
あれなら余裕だろう。氷の形は自由自在で石すら貫くほど鋭利だ。本人の身体能力と相まって、越えられない壁はない。
「俺とセツナが大丈夫でも、フレイアとラプトルがな。縄で引っ張りあげると目立ちすぎるし、正攻法で通るとしよう。通行証はあるしね」
フレイアを手放すのは惜しいし、ラプトルにも愛着が出てきた。置いていきたくない。壁を破壊したり門を強行突破するは下策だ。実現は可能だが、そんなことをすればジオラル王国に対して俺たちはここから国境を破って出ていきましたと声を大にして言っているようなもの。
通行証は奇病の特効薬で商売をした商人からかっぱら……窮地を救ったお礼として受け取ったものだ。
ここに到着したのが夜ということで、もう門が完全に閉まっている。
明日、日が昇って門が開くのを待つしかないだろう。通行証があれば問題なく通れるはず。
「今日は野宿になりそうですね」
フレイアがどんよりした目で言った。
「セツナはそれで構わない。サバイバルは得意」
氷狼族のセツナは得意げな顔だ。
実際、セツナがいれば野宿は安心して行える。
その道のスペシャリストだ。
「心配しなくてもいいよ。国境の門の付近には絶対に宿があるから。客が多いしね」
こうして、俺たちみたいにたどりついたころには夜で一夜を明かすしかないという旅人は多い。人が多ければ商売人が集まる。
少し探すと、宿屋が見つかり、そこに泊まることにした。
酒場が併設されていてにぎわっていた。
旅人が多いからかちゃんと馬も預かってくれる施設があり、ラプトルを預けられた。
安い部屋は埋まっており、金持ち御用達の高い部屋だけが残っていたのでそこに泊まる。
幸い、奇病でだいぶ荒稼ぎしたので手持ちには余裕がある。
一家族が一生遊んで暮らせるぐらいの金額だ。
「うわああ、ケアルガ様、ラナリッタの宿よりもベッドがふかふかです」
「いい匂い、お日様の匂いがする。毎日干してないとこの匂いがでない」
さすがに高い部屋だけはある。部屋も広くて清潔、家具もいいのがそろっている。
「これなら、今晩はいつも以上に楽しめそうだな」
俺がそう言うと、セツナとフレイアが顔を赤く染める。
「そういえば、ケアルガ様。あの人に国を出ることは知らせなくて良かったんですか」
「クレハのことなら大丈夫だよ。手紙は送っておいたから。ちゃんと連絡がつくようにしてある」
フレイアは微妙にクレハを嫌っている。女の意地という奴だろう。
「さすがはケアルガ様です。正直、個人的には気に喰わないですが、あの人は強いですし、便利ですからね」
こういう、妙に打算的で現実主義者なところはフレア王女時代から変わっていないらしい。フレア王女は、相手を疎ましく思っても利用できるなら利用しつくしてた。
「そろそろ、下の酒場にいこう。お腹が空いた」
「賛成です!」
「セツナも、お腹ぺこぺこ」
そうして俺たちは三人で下に降りて行った。
◇
「さすがは、名物っていうだけはあるな」
「ラナリッタは海のお魚ばっかりだったので、川魚っていうのは新鮮味がありますね」
「イノシシのお肉も美味しい。氷狼族の村の周り、魔物たちのせいでイノシシは近寄らなかった」
この付近は自然が豊かなようで、看板メニューは川の幸と海の幸がメインだ。
今、注文しているのは小ぶりな川魚のはらわたを抜いて串に何本もさして特製のたれをかけて焼いた串焼き。骨ごと食べられてなかなかいける。
肉料理は、イノシシ肉のローストを薄切りにして山盛りにしたもの。イノシシの骨でとった出汁で作ったソースで食べるのだがなかなかうまい。
「エールは久しぶりだな」
「はい、ずっとワインでしたからね」
ラナリッタでは酒といえばワインだったが、ここで出されるのは麦で作ったエール。
これはこれでいい。疲れた体にはワインよりもエールだ。
出されるメニューも酒も全体的に野趣で、元気が出るメニューだ。
酒場には客が多い。
俺たちにかなりの視線が集まっている。
フレイアもセツナもとびっきりの美少女だから男なら気になってしまうのだ。
「はい、ケアルガ様。アーン」
フレイアがイノシシのローストを口まで運んでくる。
「なんのつもりだ」
「虫よけです。ほら、私は美少女なので、いちゃついておかないと虫がたくさん寄ってきますよ」
「……それもそうだな」
俺の所有物であることはアピールしたほうがいいだろう。
セツナが近づいてきた。
まさか、セツナも俺の所有物であることをアピールするのだろうか。
何をするか期待してるといきなり口づけをしてきた。
「ケアルガ様、ソースが口元についてた」
恥ずかしいのか、若干照れながら告げてくる。
「ありがとう。とってくれてうれしいよ」
「ん」
目的が済んだセツナがそそくさと席に戻る。
妙にそわそわしている。勢いでやったものの、あとになって恥ずかしくなってきたのだろう。
これだけすれば、二人に声をかけてくるやつはいないだろう。
声をかけられたらかけられたで駆除をすればいい。
害虫駆除は俺の得意分野だ。ラナリッタでやったように手際よくやってみせる。
食事とフレイアたちとの雑談をしながら周囲に耳を澄ませていた。
ここまでラナリッタでやらかした噂……フレア王女の生存と【癒】の勇者の大立ち回りが届いていないかの確認だ。
ラプトルは馬より早い。騒ぎのあとすぐにラナリッタを出てここまで来たのでまだ情報は来ていないだろうが、念のためだ。
噂が届いていれば、絶対に酒場の話題になるが、それらしい噂はない。
だが、一つ気になる噂があった。
「どうやら、王都のほうで大規模な遠征が計画されているらしいぜ」
「へえ、そりゃすごい。でっ、どこに向けてだ」
「ブラニッカだってさ。なんでも、魔族と共存している街っていうのは大嘘で人間が魔族に洗脳されていて、邪悪の先兵になってるらしい」
「そいつは怖いな」
「ああ、だからジオラル王国が支援して滅ぼすって話だ。なんでもあのお姫さんが指揮をするらしい」
「へえ、近づかねえようにしないとな。にしてもブラニッカの連中は運がねえな。よりにもよって、軍神が出張ってくるとはな」
なんてタイミングだ。
この噂話が本当かどうかは関係ない。危機管理意識があれば、とりあえずブラニッカに近づかないという選択をする。
しかし、これは絶好のチャンスでもある。
前回の処刑で村人たちに毒を仕込んだのはおそらく妹姫だがその確証はない。
だが、公に指揮をとると公言しているのであれば、なおかつクレハを使って裏を取れば、確実に妹姫の仕業と断定できる。
万が一……たまたま先行してブラニッカに滞在して、たまたま友人ができて、たまたま妹姫の命令によって死ねば。
それは大儀ある復讐だ。
俺は悲しみと絶望のふちに立ち……妹姫を殺すしかなくなるじゃないか。
素晴らしい。
あの妹姫は早めに始末したかった。あれは危険すぎる。しかも最高なのは、今回はブラニッカに俺とフレイアがいると知らない状況で、こちらが先手を打ってしかけられることだ。
あの妹姫の軍略は神がかっている。もし、俺とフレイアが敵に回っていると気づいていれば、適切な対策をして簡単には殺させてくれないだろう。
今回は他の獲物に夢中だ。動物がもっとも大きな隙をさらすのは獲物を狩る瞬間、それは人間という生き物も例外ではない。
ブラニッカで作った新しい友人に妹姫が牙を突き立てた瞬間、その喉元を書き切る。
最高じゃないか。これで行こう。
はやくクレハ宛に手紙を出さないと。面白くなってきた。
「フレイア、セツナ。ブラニッカはいい街だよ。魔族独自の文化も多くてね。こっちじゃ食べれない美味しい食べ物もあるし、芸能方面でもいろいろと楽しめるから」
「それは楽しみです」
「セツナ、美味しい食べ物に興味がある」
フレイアとセツナもブラニッカを楽しみにしてくれているようだ。
今から、あの街にたどり着くのが楽しみだ。
万が一、このうわさがただのうわさで終わろうと、予定されていた遠征が俺がラナリッタで起こした騒ぎが原因で延期されても、もともとブラニッカにはいくつもりだった。問題ない。
ただ一点だけどうしようもなく気になることがあった。
それは、ブラニッカの襲撃など一周目にはなかったことだ。
歴史の歯車はどうしようもなく崩れ始め、俺のアドバンテージは失われていく。
仕方ないか、俺の目的はこの世界を俺が面白くおかしくするために作り替えることだ。いつまでも前の世界をなぞっても意味がない。
さあ、どんどん面白くしていこう。そのために世界を【回復】したのだから。
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