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第二十話:回復術士はラナリッタにさよならばいばい
少し疲れた。
観客たちの乱痴気騒ぎから抜け出し、セツナたちとの合流場所に向かっていた。
それにしても民衆はすごいな。
その場の勢いでろくに考えもせず殺人に手を染めるのだから。。
たぶん、彼らは自分たちが人殺しになったという自覚もないままに石やゴミを投げつけている。
少々、気持ち悪い。まあ、仕掛けた俺が言うのもアレだけど。
セツナたちが潜んでいるのは、コロシアムに出店する飲食店ようの倉庫のうち、旧くなって使われなくなった旧倉庫。
そこに、セツナ、フレイア、そして今回協力してくれた近衛騎士隊の副隊長バームがいる。
旧倉庫に入り、梱包された食料で作った死角を覗き込む。
「二人とも無事か?」
「大丈夫。ここには誰も来なかった」
「はい、二人ともぴんぴんしてます」
セツナとフレイアが返事をする。
旧倉庫には滅多に人が来ないとはいえ、万が一はある。心配していた。
拡声魔法の射程の絡みで、どうしてもここ以上に安全そうな場所が見つからなかったのだ。
「ケアルガ様、言われた通り、バームは始末した」
「よくやったぞ。セツナ」
「ん」
誇らしそうにセツナが微笑む。
近衛騎士隊の副隊長であるバームは今回役に立ってくれたが、俺の村を襲った実行犯の一人だということがわかっている。
生かしておくわけがない。
感情的な問題のほかにも、やつはセツナの顔を知った。
万が一バームが捕らえられたときに、セツナのことを話せばセツナが俺たちの一味だということがばれてしまい、動きにくくなるだろう。
そのときはそのときで、セツナの容姿を弄ったり、いっそのことセツナを捨てるという選択肢もあるが、俺は彼女のことを気に入っているし、優秀な部下でもある。
そんなことはしたくない。だから、一番確実な口封じをしていた。
「ケアルガ様、しっかり凍らせた。氷狼族の本気の氷は常温程度じゃ溶けない。しばらくは見つからない」
「いい対応だ」
その状態なら、倉庫の隅に箱詰めして置いておけばいいだろう。
セツナの言う通り、氷狼族の氷は常温程度では溶けない。凍っている以上匂いでばれる必要もない。
セツナの頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める。
「じゃあ、行こうか。このままこの街を出よう」
長居は無用だ。
この街にはすぐにでもさらに大規模な軍が送られてくる。
それほどのことを仕出かした。
「新しい街に向かうんですね。ちょっとだけ楽しみです」
「ここからずっと南に行く。ジオラル王国の外を目指すんだ。国境を抜けた先に面白い街がある。そこで魔族たちの情報を集めたい」
今俺たちがいるラナリッタはこの国の中ではかなり自治権が強いが、それでもジオラル王国の中にいることは変わらない。
この国を出れば、ジオラル王国は手を出しにくくなる。
他国に大規模な軍を派遣するなんて行為は戦争を吹っかけているようなものだ。
軍を派遣するために正式な手回しをする場合、それなりに時間がかかるし、行動の制限がかかる。
ようするに国境を超えるだけでかなり相手の動きが鈍くなるのだ。
「魔族領域の街ですか? 魔族たちのところに行くつもりですか」
「いつかはね。まだ時期は決めていないけど会いたい人がいる」
俺が会いたいのは魔王。
銀色の髪の美しい少女だ。彼女の死に際の言葉が脳にこびりついている。
『そうか、これで私も終わりか。悔しいな。守れなかった』
その言葉の意味を知りたい。彼女は何を守りたかったのか。
妹姫と【剣】の勇者、【砲】の勇者はまだ俺に害をなしていないので、もうしばらく放置だ。やりたいことをできる順番に片づけていこう。
「ケアルガ様って魔族のかたにもお友達がいるんですね。すごいです!」
「雑談はここまでにしておこうか。この街も閉鎖されるだろうし、すぐに出よう」
フレア王女と【癒】の勇者ケアルの二人がこの街にいることが確定した。
今は騒ぎを収めるのに精いっぱいだが、すぐにでもこの街は封鎖されるだろう。
今までみたいに出入りする人間を調べるなんて生ぬるいものではなく、この街から一人たりとも外に出さない。それぐらいの指示が出ると考えるべきだ。
「二人とも忘れ物はないか」
「大丈夫です!」
「ん。セツナも問題ない」
じゃあ、行こうか。
俺たちは倉庫に隠しておいた旅の道具を身に着けて業者たちが使う荷物の搬入口から外に出た。
見張りが二人ほどいたが、手際よく神経毒を塗った針で麻痺させた。
後遺症が残らない非殺傷性の麻痺毒だ。。
俺は無用な殺しは好まない。ちゃんと殺す相手は選ぶ。
◇
思ったよりあっさり外にでることができた。
まだ、封鎖は始まっていないらしく一安心だ。
ラプトルもちゃんと連れ出すことができたのがうれしい。だいぶ、こいつにも愛着がわいてきた。
いつものラプトルの首と俺の間にセツナがちょこんと座り、フレイアが後ろから抱き着いてくるスタイルだ。
「ケアルガ様、国境を越えた先の街に何があるの」
「俺たちが目指しているのはブラニッカ。魔族と人間が共存している唯一の街かな。そこでなら、魔族たちから直接話が聞けるから」
「……危なくない? 魔族は怖い」
セツナは微妙にこわばった声を出す。
「勘違いされやすいけど、魔族そのものはそんなに怖くない。魔物と動物の違いをセツナは言えるか?」
「魔力をもった動物を魔物。普通の動物と違って魔力を持っている餌を好んで食べるから人をよく狙う」
「正解」
魔物とは、魔力を持った動物に過ぎない。
ただ、魔力によって体を変質させている。生存本能により強く逞しくなるように変質している場合が多い。
そして、共通した性質として魔力を食らうことで強くなる。
人は大かれ少なかれ魔力を持っている。つまり魔物たちにとって最高の餌だ。優先して狙われるのだ。
「じゃあ、次の質問。魔族と人の違いはなんだ? 例えばだけどセツナたち氷狼族って人間から見たら魔族と大して変わらないよね? 獣と人が一緒になったような外見。エルフだってドワーフだって、人間は亜人ってひとくくりにしているけど、人間以外の人種を魔族と亜人に色分けしている理由はなんだと思う?」
狼の優れた聴覚と嗅覚を持ち、氷属性の魔術を使いこなし圧倒的な身体能力をもつ氷狼族。
人間からすれば魔族と見てもおかしくない。だが、実際は亜人もしくは獣人というカテゴリーにしている。
「……わからない。セツナは子供のころから、魔族は怖いと聞いてそういうものだと思ったけど、言われてみれば魔族って何かわからない」
「正解はね。魔物を支配する能力を持った人種を魔族と言っているだけに過ぎないんだ。魔族はその種族ごとに特定の系統の魔物たちを従える力を持っている。不思議と魔族が集まる村の周辺には、その魔族たちが従わせることができる魔物が集まってくる。一説には、無意識に垂れ流す魔族の魔力が、魔物たちの餌になる共存共栄の関係って言われているね。ようするに何が言いたいかって言うと、人間たちが怖いと叫び、悪魔だ。殺せって言われている魔族は、特殊な能力をもった人種の一つに過ぎないってこと」
魔族と一括りにしているが、魔族の中にも温厚な魔族も好戦的な魔族も存在し千差万別だ。
獣人族の中に、氷狼族や火狐族、月猫族に夜犬族等があるように、魔族にもありとあらゆる人種がいる。
「ケアルガ様、それって不思議。だって、それだと人間も魔族になる」
「それはどういう意味かな」
「だって、人間は契約魔術で亜人たちを支配できる。人も動物。なら、亜人は魔力を持った動物だから魔物。そして人間は真の名を知れば亜人たちを服従させることができる。つまり、魔物を操る人種。人間は魔族とも言える」
「あははははは、たしかにそうだな。そんなこと考えもしなかったよ。面白い考えだ」
セツナの言う通りだ。
人間たちは、魔族のことを無慈悲で残虐な悪魔と呼んでいるが、それこそまさに人間だ。
俺は人間以上に無慈悲で残虐な生き物を知らない。同族で殺し合い、亜人たちを奴隷にして搾取し、欲望のままにすべてを食らい、弱者を踏みつける。
人間の恐れる魔族そのものだ。いや魔族の中でも一際凶悪で、亜人という強力な魔物の系統を支配できる魔族。
笑いが止まらない。
「ケアルガ様の笑いのつぼがわからない」
セツナが不思議そうに首を傾げた。
「いや、これは反則だろう。人間が魔族なんて言われたら、心当たりが多すぎて誰でも笑うさ」
そういうと、背中に柔らかい感触があった。
フレイアだ。なぜか胸を押し付けている。
「ケアルガ様になら支配されたいです。最近、構ってくれなくて寂しいです。今日は久しぶりに愛してください。今回はすごく頑張ったんですよ。王女フレアのふり、すっごく難しかったんですからね」
「ああ、たくさん愛してやるさ。だけどセツナの後だな。一発目が一番レベル上限があがりやすい」
「ううう、たまには最初に愛してほしいです。でも、セツナちゃんの二倍、注いでくれたら許してあげます」
今度は頬を背中に擦り付けてきた。
まるで甘えん坊の猫だな。大事にしているつもりはないのに、ずいぶんと懐かれたものだ。
「わかった。可愛がってやる。なあ、フレイア。今、おまえは幸せか?」
「はい、幸せです! だって、大好きな人と一緒にいられて、美味しいものをたくさん食べて……それにケアルガ様とのエッチ、すごく激しくて気持ちいいですから」
「それは良かった」
フレイアの言葉は演技ではない。
天性の女優である王女フレア。彼女の演技は付き合いの長い俺なら見破れる。一度目の世界から通算して六年以上ずっと近くにいたのだ。
だが、逆に疑問が出てくる。
いくら記憶を消したからといって、ここまで人は変わるのか?
俺の知る彼女は、平民の血を穢れた血と呼び見下す差別主義者。サディストであり他人の苦痛に歪む顔を楽しむことに情熱を注ぐ。極めつけは彼女は自分以外を愛せない人格破綻者。
その王女フレアがフレイアになったとたん、好きな人と一緒にいられれば幸せなんて、あまりにもギャップが大きすぎる。
「フレイア、おまえは俺の命令で人を殺してきたよな。そのことに思うところがないか?」
記憶がリセットされたなら、他人の命を奪うことに嫌悪感があるはずだ。ストレスが蓄積されているかもしれない。
「何も思いませんよ。だって、どうでもいい人たちがいくら死のうが、だからどうしたって感じです。そんなことより、ケアルガ様が喜んでくれることがうれしいんです!」
フレイアが屈託のない笑顔で笑う。
その言葉を聞いてようやく、フレイアが王女フレアだと思えるようになった。
ずいぶんと彼女らしい考えだ。
なるほど、性格が変わったわけじゃない。ただ、前まで自分だけを愛していた王女フレアが、自分と俺を愛するようになただけ。
それ以外の人間に対する扱いは何も変わっていない。
俺を好きになったのは、真っ白な状態で催眠術と精神操作技術と、強烈な快楽によって刻み付けられ、頼れるのが俺だけという状況での旅が続いたことによる錯覚だ。
「ありがとう。俺も俺のために頑張ってくれるフレイアが大好きだよ」
「私も大好きです!」
まるで童女のような純真で明るい声。
今は、このぬるま湯に浸かっていよう。そのために愛の言葉抱いて囁いてやる。
お気に入りのセツナがいて、あのフレア王女を弄び利用しあざ笑う。
こんなに楽しいことはないのだから。
ラプトルは走る、国境の外を目指して。さて、次の街ではどんな楽しいことが待っているのだろうか。
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