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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第十九話:回復術士の舞台は燃え上がる

 リングに仕掛けられた二種類の結界が発動する。
 まず、第一の結界が作動した。リングを包むようにドーム状の防御結界が展開する。
 もう誰もここから逃げられない。
 厄介な結界だ。信じられない強度を誇り、俺ですら力業で壊すのは不可能だ。

 そして、もう一種の結界。
 特別な宝石をあしらった首飾りをしていない限り、魔力と体力を吸われ続ける。その吸収した魔力で結界が強化されてどんどん動けなくなっていき、最後には吸いつくされて倒れる。
 もし、何も知らずにこの結界を受けていれば、この場で膝をつきなぶり殺しにされていただろう。

 それほどまでにここの結界は性質たちが悪い。
 だが、残念なことに俺は知っている。
 知っている以上、対策をしていた。

「うがあああああああああああああああああああああああああ」
「あああああああああああああああああああああああああああ」
「やめろおおおおおおおお、やめろおおおおおおおおおお」

 兵士と騎士たちが膝をつき、頭を抱えてのたうち回る。
 鼻や口から血を出す。己の血に沈んでいく。
 次々に動けなくなっていった。

「あははははははは、さあ、赤く染まれ。無様に踊れ、それがおまえたちにふさわしい最期だ!」

 高レベルなものだけは生き残っているようだが、まあ時間の問題だ。
 俺にはもちろん影響がない。
 この結界の中で俺と村人たちだけがまったくの無傷。

「みんなああああああ、首飾りを、首飾りを外せええええええ」

 リーダー格の中年の男が叫ぶ。
 ふむ、意外に早く気付いた。
 かしこい、かしこい。もう少し、時間がかかると思っていた。

 意識がある連中は首飾りを外して放り投げる。
 だが、それをする気力がないものはほとんど。
 結局、兵士たちは全滅。高レベルの騎士である八人だけが残った。

「全滅してくれると思ったのに。思ったよりは頭がいいようだ」

 この王国の騎士は想像していたよりは優秀らしい。

「貴様、いったい何をした」
「俺は何もしていないさ。結界が壊れていたんじゃないか」
「そんなわけがあるか!」

 答えを教えてやるほど親切じゃないので冷笑だけくれてやる。
 やつの言う通り結界を弄っていた。

 まずは対象を首飾りを付けたものを除くではなく、首飾りを付けたものに変更した。
 そして、魔力吸収というのは、前段階で魔力の強制排出を行っている。

 そこをちょっぴり弄って脳に強烈な過負荷をかけるようにしている。
 それにより、毛細結果が破れて穴という穴から血を垂れ流して己の血に沈んでいく。まさに血界へと作り替えた。

 オーパーツとも言える魔術吸収機構そのものは弄れなかったが、対象の変更と魔力を吸い出す強さの調整ぐらいは俺にもできた。
 そして、その結果はごらんのとおり。五十人近い兵士と騎士が八名を残して死んでいる。
 なかなか面白い見世物だった。

「邪悪に堕ちた勇者め! 怪しげな術を使いやがって! だが、どうやら貴様を閉じ込める結界は無事作動したようだな。なぶり殺しにしてやる!」

 にやりと目の前の男は笑う。
 勝利を確信した顔だ。
 こいつのことが理解できないな。さきほど、少し見直したのだが間違いだったようだ。
 まさか、結界で死ななかったから自分が有利とでも思っているのか?

「おまえは何を言ってるんだ? 猛獣と同じ檻に入って喜ぶやつがいるとは驚きだな。たった八人で俺相手に何ができると思っているんだ。逃げられないのはおまえたちも同じだろう? 援軍も入ってこれない。なあ、何が楽しい?」

 騎士たちの顔がこわばる。
 ようやく気付いたようだ。どちらが獲物かを。

「くっ、来るな。村人を殺すぞ、少しでも動けば」
「なら、俺は一人でも犠牲が減るように最善を尽くすしかないな。おまえたちを早く殺せば殺すほど、たくさん助かる。あらかじめ宣言しておこうか。背中を向けた奴から殺す。そのほうが楽だから。さあ、俺に隙を見せてくれ。殺してやるから」

 見せつけるようにしてステップと屈伸をして体をほぐした。
 よし、これで万全の動きができる。

「さあ、動いたぞ。一思いにやってくれ。誰が一番最初に俺に殺される? 村人を殺すために背を向ければ、そのときがお前たちの最期だ。さあ、死にたいやつは誰だ!」

 あれ、動いてくれないな。
 村人を殺すというのは、ただのブラフか。心配して損した。
 いや、待て。

「そうか、おまえたちは最初から全員殺すつもりだったんだな」

 村人たちが死んでいた。
 顔が変色している。
 遅効性の毒だ。

「なっ、何を言っている。まだ、死んで」
「死んでるさ。おまえたちが殺した。これで心置きなくやれるな。一応、俺も俺なりに考えてたんだ。一人でも犠牲を減らす方向で。だが、もう遠慮をすることはない。皆殺しだ」
「うっ、嘘だ。俺たちは何も知らない、なにもやってない。本当だ、信じてくれえええ!」

 初めから全員助けられるなんて甘いことは考えていなかった。
 最初から覚悟していたのだ。最善を尽くしたとしても十人救えれば上出来だと。

 人質を救出するときにもっとも大事なことは、人質に価値はないと相手に思わせること。
 そのために狂ったふりをしていた。そうすれば、結果的に助かる人数が増える。
 事実、奴らは俺が村人の命など、一ミリも考慮していないと思い込んだし、最後には盾にしようとも思えなくなった。
 もう少しで何人かは救うことができたのだ。

 だが、甘かったな。こんな保険をしかけてくるとは。きっと妹姫の差し金だ。これはあの女の手口だ。
 あらかじめ毒を飲ませておき、万が一俺が救出に成功しても村人たちが死んでしまう状況を作り上げた。救えると確信した次の瞬間に俺を絶望へ叩き落とす。そういう意図で仕込んだ最悪の罠。あいつがやりそうなことだ。

 ふう、せっかくいろいろと救った後の手回しまでしたのに無駄になった。

 俺は今、怒っている。
 すぐに目の前の騎士たちを皆殺しにしたいが目的を果たしてからだ。
 そろそろ、フレアたちが動きだすころだ。
 ほら、きた。

『わっ、私は王女フレアの近衛騎士隊、副隊長のバーコです。こっ、告白します。邪教というのは、嘘です。嘘なんです。その村の人たちは無実だった』

 拡声魔法で男の声が広がる。
 フレアたちの準備ができたようだ。

 本来、拡声魔法は専用の宝石をリング上で使わなければ使用できない。
 だが、俺はそちらの術式も弄り、盗み出した予備の宝石でコロシアム内のとある場所で宝石を使用すれば声を届かせるように弄り、そこにフレアたちを待機させ、一人の役者も用意していた。

「バーコか、バーコがなぜ」

 リーダー格の中年の男の取り乱した声が拡声魔法に乗った。
 取り乱すのも無理はない、行方不明で死んだと思っていた副隊長のバーコが裏切ったのだから。
回復ヒール】を使って、さまざまな騎士や兵士の記憶を読み取り、一番まともそうなのを選別して、フレイア……いや、フレア王女に説得してもらい、今、こうして協力してもらっている。

『私たちは王国を守る騎士でありながら【癒】の勇者を捕らえるための人質にするため、罪のない人々の村を襲いました。邪教というのはただの口実です! 嘘なんです。俺たちはとんでもないことをしてしまいました。この村だけじゃない。反抗的だと目をつけていた村も、この機会だからと、何人も、何十人も殺してしまった。私たちはなんてことをしてしまったんだ!』

 観客席がざわつく。
 突如暴露された秘密に。

「黙れ、黙れ、バーコ。血迷ったか。黙れ」
『タレトヤ隊長。黙りません。私はこの人だけは、この人だけには嘘をつけません。騎士の誇りにかけて!』

 拡声魔法越しでも、その気持ちがの強さが伝わってくる。

「誰だ、誰がそこにいる」

 中年の男、改めタレトヤが鬼気迫る声で問いかける。
 うん、いい演出になる。ナイスサポート。

『私です。私はジオラル王国第一王女。【術】の勇者フレア・アールグランデ・ジオラル。わけあって姿は見せれられませんが、この場を借りて声を届けさせていただきます』

 ナイスタイミングだフレイア。
 周囲がざわつく。
 当然だ。死んだと思っていた彼女が生きていたのだから。
 疑うものも多いが、その声は紛れもないフレアのもの。この規模の街になると彼女の声を何度も聞いている住民も多い。

『私は真実を知ってしまいました。それは、ジオラル王国が軍を使って亜人の村を襲い、奴隷として売り払う悪行を繰り返してきたこと。此度の魔族との戦争が営利目的に仕組まれたこと。そして、今回のように王国にとって都合の悪い村があれば、教会と手を組んで邪教のレッテルを張り滅ぼしてきたこと』

 ざわつきが非常に大きくなる。

『内側から正そうとした私は王国の闇に触れ、暗殺者に狙われるようになりました。【癒】の勇者ケアルは私を守るために城から逃がして、死んだように見せかけてくれたのです』
「偽物だ! フレア王女は、この男に殺されたのだ!」

 タレトヤは拡声魔法で叫ぶ。
 観客たちは半信半疑。まあ、こんな突拍子もないこと信じるほうがおかしい。

 だから、二つの仕掛けを用意してある。
 フレアが歌い始めた。
 聖女と呼ばれたフレアの歌は、その腐った中身からは信じられないほど美しく優しい旋律だ。
 心が洗われるようだ。
 たとえ、姿や声を偽れたとしても、この歌は誰にもまねできない。
 観客たちの心を揺さぶる。歌というのは声なんかよりずっと心の奥深くに刻み込まれる。
 ましてや、聖女の歌声だ。聞き間違えるはずもない。
 そして、とどめだ。

『私の歌とどきましたか? もう一つ、贈り物を。空を見てください』

 みんなが空を見上げる。
 太陽と見間違えるような巨大な火球が空に昇り破裂する。とてつもない熱量と音が空で弾ける。
 第六階位爆裂魔法、【恒星】。
 人間に許された極限の魔術である第五階位。その先にある存在する神域の魔術。こんなもの【術】の勇者たるフレアにしか使えない。

『皆さん、聞いてください。私は【癒】の勇者ケアル様に甘えて今まで逃げてきました。ケアル様は私に普通の少女として幸せになってくれと言ってくれたんです。そして、王国の闇から目を逸らし、ただの少女として生きてきました。……そのせいで、今回のような悲劇を生んだ。もう、私は逃げません。王国の闇と戦います』

 さすがはフレア、完璧な演技だ。
 この自分に酔って、人にも酔わせる説得は常人には不可能だろう。
 俺が適当に書いた三文噺も役者が一流なら真実となる。

『私一人では勝てません。だから、皆さんの一人ひとりの正義を信じます。このような悲劇を繰り返してはいけません。この王国は異常です。立ち上がらなければ、次はいつ自分たちが理不尽に滅ばされるかわからないのです。どうか、皆様も立ち上がってください。真の平和を、大事な人を守るために。私は皆様の勇気と正義を信じます。それでは』

 拡声魔法が終わる。
 一瞬の静寂が訪れ、観客たちが怒号と共に立ち上がる。
 これぐらいでいいだろう。
 防御結界が崩れ始めた。
 あらかじめ、ある程度の時間が経てば壊れるように仕掛けていた。
 そして、壊れ際にも細工がしてある。

「なんだ、これは、眩し」

 激しく発光する。
 本来なら、こうして生まれた隙で村人たちを救うはずだったが、もう全員死んでいる。
 逃げに徹っした。観客席に紛れ込むと同時に【改良ヒール】で姿を変える。
 これで俺が見つかることはない。

 光がやむと、俺がいないことに観客たちが気付き、次の瞬間にはリングに向かって観客たちが一斉に石やゴミを騎士たちに投げ始めた。
 これだけの数の観客が、王国を悪だと思い込んだ。その熱気はまだ冷静だった人々に伝わりさらに勢いよく燃え広がる。
 観客席すべてが熱気に飲まれた。

 そして、始まる私刑リンチ
 今回の件で、これだけの人間が王国の闇に気付いたのだ。気付いただけでなく、こうして騎士を私刑にしたことで自らの手を汚した。
 これからはフレア王女が語った正義のために、自発的に多くの人間が動き感染していく。
 それはこの街だけに収まらないだろう。

 そうなれば、無数の隠していた不祥事があふれてくる。
 ジオラル王国は真っ黒なことをやり続けてきた。叩けばほこりなんていくらでもでてくる。
 楽しいことになりそうだ。
 俺は、役者から観客になり今回の顛末を見届けよう。

 ただ、一つ懸念があるのは、フレアたちが逃げ切れたかどうかだ。
 そろそろ約束の場所に向かおう。
 舞台が終わる前に、抜けるのは心苦しいが家に帰るまでが楽しい演劇だ。

「にしてもやってくれたな。痛み分けで終わりだ」

 今回は王国の闇を暴き立て火種を撒いて燃え広がらせること、村人たちを救うことの二つを目的にしていた。
 前者は最高の形で実現できたが、後者は大失敗。まさか、一人も救えないとは。

 いいようにやられてしまったのが不愉快だ。最高の復讐になるはずだったのケチがついてしまった。
 あのリーダー格の中年にそこまで考える頭はない。裏に誰かがいる。俺の楽しい復讐を邪魔してくれた落とし前はいつか必ずつけさせてやろう。九割型、あの妹姫だが確証を得るまでは殺せない。

 まあ、近いうちに妹姫は俺の前に現れるだろう。そのためにリスク覚悟でフレア王女が生きているなんて情報を明かしたのだから。
 あの妹姫は、姉への劣等感の塊であり、それでいて姉を愛している。
 その両方を認められず、ジレンマに押しつぶされそうになっている愚かな女だ。
 姉を見下し利用することでしか、劣等感から目を背けることができない。
 自分が姉を愛してることを否定するために傷つける。

 こうしてフレア王女が生きていることを知らせ、さらにジオラル王国へ喧嘩を売らせれば、妹姫は狂喜しながら殺しにくる。そうなれば、俺の所有物に手をだした愚か者として復讐を完遂できる。
 そんなことを考えながら、この狂気に染まった観客席を後にした。
 観客たちの怒号が聞こえる。この狂った宴はまだまだ終わりそうになかった。
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