ひとりぼっち女子野球部員、単独出場の夢かなう 勧誘実り入部8人
軽井沢(長野)の野球部に入った1年生8人がグラウンドでノックを受ける。バットを振る監督の遠山竜太(28)の左手に白球を渡す女子マネジャーの小宮山佑茉(ゆま、3年)は、この日が来るのをずっと心待ちにしていた。
「“単独チームで夏の大会出場”“夏一勝”私が1年生の時からの目標です。叶(かな)えたいです」。今年の入学式で、直筆の手紙に思いをつづり、野球経験者に入部勧誘のチラシと一緒に配った。昨夏、軽井沢は部員不足で長野大会への出場を辞退。昨年末までに、唯一の野球部員になっていた。
それでも春になれば新入部員が来ると信じ、3月に監督に就いた遠山と共に、野球経験者らに入部を呼びかけた。
「力をかして下さい」
中学時代は「遊んだり、だらだらしたりするのが好きだった」と振り返る。そんな自分への不安から、次第に「厳しい環境に身を置いて、自分を変えたい」と思うようになった。
2015年に軽井沢へ入学し、野球部を見学して目の当たりにしたのが、ユニホームを泥だらけにして練習に励む部員の姿だった。野球のルールもわからなかったが、入部を決意し、本を買ったり野球好きの祖父に聞いたりしてルールを勉強した。マネジャーの仕事も先輩に学んだ。
入部時、選手は助っ人を含めて8人いた。その夏の長野大会には屋代南と連合チームを組んで出場した。しかし3年生が引退すると、選手は2年生1人だけになり、翌年に1年生1人が入部したが、昨夏の長野大会には出場できなかった。
小宮山自身の野球への思いも揺れた。部員が1年生1人だけで、北部、長野西中条と連合チームを組んだ昨秋の地区予選前には、学校の文化祭に気持ちが移り、「中途半端な気持ちで臨んでしまった」と悔いた。
自分のこれまでの野球への姿勢を振り返り、「日常生活から見直さないと」と反省。当時監督だった漆原伸也(35)は「秋の大会が終わってから小宮山は変わった」と振り返る。
たった1人の野球部員となった小宮山は、新入生勧誘の準備を始めた。今まで教員が作成していた勧誘用のチラシに載せる文面やレイアウトを、小宮山自身が工夫した。野球経験者に宛てた自筆の手紙では「今、選手はいません」と現状を伝えつつ、「3年間続けて良かった。きっとそう思える部活です」と訴えた。グラウンドの雪かきや土入れ、草むしり、道具の管理、部室や器具庫の掃除も続けた。
3月、他校に移り監督を辞める漆原が小宮山に伝えた。「やれることはやったんだから、自信を持て」
思いは通じた。1年生8人が入部。1年生の助っ人1人も加わり、5年ぶりの単独出場が実現した。
小宮山は「1人でグラウンドに土を運んでいて、『本当に部員が入ってくれるかな』と思ったこともあったけど、『絶対にやるぞ』と自分に言い聞かせていました。負けず嫌いなんです」と振り返る。「自分が入れた土の上で、選手たちが練習している姿を見るのがうれしいんです」
今夏、長野大会のベンチで記録係を務める。敗退すれば、引退だ。
1年生選手は口々に言う。「佑茉先輩には感謝している」「試合に勝って、佑茉先輩に恩返ししたい」(敬称略)