年金を5兆円ふっとばしたとか7.9兆円運用益をあげたとか
収益率とかベンチマークという前提
個人投資家が5兆円の運用損を出すことはまずない。まず5兆円以上運用していないと、全資産が紙切れになったところで5兆円も損はしないからだ。
運用パフォーマンスを比べるときは、運用損益の額ではなく率、すなわち収益率を確認しなければならない。よく分からない政党やよく分からない週刊誌を除けば、さすがに収益の額で議論している人はいないと思う。
そして、運用パフォーマンスは「別の資産に投資していた場合と比べてよかったのか悪かったのか」と議論すべきだ。なぜなら、別の資産と比べないと「収益率2%」と言われても良いのか悪いのかわからない。
増えた減った(収益率がプラスかマイナスか)で議論をしている人は、要するに預金をベンチマークとして運用成績をはかっているということになる。だが、通常は株式に投資しているなら株式の指数、債券に投資しているなら債券の指数をベンチマークにするものだ。
それから、株式投資の成績はもっと長期で評価すべきであって、1年ごとに一喜一憂するようなものではない。何かの本に書いてあったが「たまたま地球が太陽の周りを1周する期間」で株価をはかる理由などどこにもない。
結局、GPIFのポートフォリオの収益率はどうなの?
投資については詳しくないのでわからないが、グラフを作ってみた感じでは結構よさそうだ。
不勉強にも、複数のアセットクラスに投資しているときにどんなベンチマークを使えばいいのかがわからない。とりあえず日経平均とS&P500を並べてみた。
収益率そのものも、ハイリスク・ハイリターンの株式のインデックスと比べてそれほど劣っていない。シャープ・レシオはぶっちぎりだろう。*1 あ 正直、こんなにも好成績な機関投資家だとは知らなかった。もっとも言えば、CIOが年3,000万円しかもらっていないような会社がまともに運用できていると思っていなかった。
よく考えれば、民間で最も成績が良い運用会社の1つであるレオス・キャピタルワークスなどでも、役員陣が極めて高い給与をもらっているという話は聞かない。
思い出せば私は、就職活動の面接で「官僚にはならないの?」と聞かれて「仕事は魅力的ですが、給与が低すぎてどうにもなりません」などと言ってしまうよな、魂のクオリティの低い人間だった。もちろん、金融をとおして社会に良いインパクトを与えたいとは考えているのだが。
年金を運用するような人たちはもっと心がきれいで立派な人なのだろう。給与の問題ではない。
懸念点がないわけではないが、国民が気にすることではなさそう
実はGPIFのウェブサイトに掲載されている収益率には、謎の()書きがある。
収益率(運用手数料控除前)の推移
GPIFのような機関投資家は、みずから生株などを取得しているのではなく、ヘッジファンドなどに委託して運用する。イメージとしては、どのファンドにいくらずつ預けるかを決めるのがGPIFの役割であって、どの株に投資をするのかの意思決定は受託したファンドが行う。このため、委託先のファンドに運用手数料を支払わなければならないのだ。
運用手数料控除前とは、このようなファンドへの手数料を引く前の運用額であるから、実際は上のグラフほど資産を増やしていないはずだ。
そうはいっても、GPIFのウェブサイトによればほとんどがパッシブ運用なので、それほど大きな手数料は支払っていないはずである。
年率0.5%くらいだろうか。もっと安そうな気もする。何にどう投資をしてもそれくらいの手数料は必要になるから、気にすることでもない。
気になったことを調べるのはとても良いことだと感じた
GPIFについてはあまり調べたことがなかった。この記事を書くまでは運用額すら正確に言えなかった。「世界の年金基金の中では一番大きい」と「役員の給与が高くない」くらいしか情報がなかったのだ。
金融にかかわることになる身としては、とても恥ずかしいことだと感じている。
やっぱり、いろんなニュースを読んで、気になったことは自分で調べてみるという習慣は欠かせない。Bloombergですら、GPIFについて入念に分析した記事を書いているように思えないからだ。
これからも毎日 “500 Pages” の知識を仕入れることを意識しながら生活したいと思う。