財務省の佐川宣寿理財局長(昭和57年、旧大蔵省入省)が、7月の人事で国税庁長官へと出世する。佐川氏は国会答弁で、森友学園への国有地払い下げについて「すべての資料を廃棄した」などと繰り返し、野党の追及に一切の言質を与えなかったことで一気に名前が知られた。国税庁長官は、税務署職員など全国約5万6000人の組織を率いる次官級の重要ポストだ。
この人事に、懸念の声があがっている。
「税務調査は、国税局の査察部が令状を示して行う強制調査は一部で、ほとんどが任意調査です。この任意調査が拒まれると、大変なことになる。“疑惑隠し官僚”の佐川氏がトップになって、調査で『資料は廃棄した』と言われるなど、現場が苦労するのでは」(財務省職員)
佐川氏は、福島県出身。東大経済学部を経て、旧大蔵省に入り、故・塩川正十郎財務相の秘書官を務めるなど、出世コースを歩んだ。“仕事熱心”ゆえか、部下にハードワークを求め、省内で「パワハラ上司として有名な存在」(同前)だった。
「野党の質問に『いちいち確認しない』と答弁するなど、強気の姿勢を安倍晋三首相も『さえている』と高く評価していました」(同前)
省内では、昇進は順当と見られている。財務省は事務次官に、佐川氏と同期の福田淳一主計局長が昇格し、主計局長には岡本薫明官房長(58年)が就く。役所の論理に従った予定通りの人事なのだ。
「安倍氏が自身の首相秘書官だった田中一穂氏を事務次官にしたような強引な人事ではない。佐川氏だけというより、よく言うことを聞いてくれた財務省全体への論功行賞人事です」(首相官邸筋)
一方、財務省OBはこう嘆く。
「佐川君に泣いてもらってでも、国税庁長官は避けるべきだった」
先の財務省職員が補足する。
「これで、2019年10月に予定されている消費税の10%への引き上げはさらに厳しくなった。森友問題は国有地の格安払い下げという税金に関わる問題。財務省は『官僚の中の官僚』と言われながらも、国民の意見を聞き、丁寧に説明するという姿勢を見せようとしてきた。それは、増税をお願いする立場だからです。官僚を目指す学生の中でも財務省志望者が減っていると聞きます」
安倍政権同様、森友問題で財務省が失ったものは大きい。