管理人はいるのが当たり前――そう思い込んでいる人ほど、彼らが普段、どれほど面倒事を引き受けてくれているかを知らない。いざいなくなったとき、待ち受けているのは絶望的な現実だった。
埼玉県川越市。JR川越駅から徒歩20分ほどのところに、築約40年のAマンションがある。
「正直、身体がしんどいので、ここらで辞めさせてもらいます」
20年以上にわたりこのマンションの管理人を務めていた70代の女性が突然いなくなったのは、この4月のことだった。
Aマンションの管理組合理事長を務める60代の男性住民が言う。
「その管理人さんはもともと管理会社から派遣されていたのですが、長年修理や管理を一手に引き受け、住民からの信頼も篤かった。会社を定年退職されたのを機に、管理組合と直接契約し、引き続き務めてもらっていました。
それが、昨年あたりから『私も歳だし、この仕事はキツい』と何度か相談を受けていた。
しかし、こちらとしてもずっとやってきてもらって、代わりはすぐに見つからない。『せめて、次の人が来るまでお願いします』と慰留していたのですが、3月いっぱいで辞める、という意志は固かった」
長年、このマンションのすべてを一手に引き受けていた女性管理人。いなくなって初めて、住民たちはその存在の大きさを知ることになる。
「まず困ったのは、ゴミの処理。自治体の分別は想像以上に厳しく、管理人さんがいなくなったとたん、収集拒否にあってしまった。それまでは問題のありそうなゴミ袋は彼女が一度開けて、再度仕分けし直してくれていたんです」(男性住民)
回収されないゴミは、うず高く積み上がり、隣家の住人からクレームを受けるほどだった。
さらに、ゴミをめぐり、住民間のトラブルも勃発した。
「ウチのマンションはエレベーターがないから、上のほうの階の足が悪い住民のゴミを、管理人さんが代わりに収集場まで運んでくれていたんです。
彼女がいなくなってからは、その住民がベランダにゴミを溜め込むようになり、生ゴミのニオイが漂って、隣の部屋の住民との間で言い争いになってしまった」(男性住民)
風の強い日にヒビが入ったという窓ガラスも、管理人がいなくなってから急に増えたという外壁のスプレーの落書きも、修繕されず、放置されたままになっている。
「このままではさすがにまずいと思い、仲介業者に相談して、次の管理人の求人を募集してはみたものの、我々が出せる条件じゃまったく応募がありません」(男性住民)
募集条件は週3回の時短勤務で、月収5万円弱。時給換算では950円程度だ。「もっと良い条件で募集をかけたいのは山々」(男性住民)だが、このマンションの管理組合が管理・積立金として徴収しているのは一戸あたり月6000円ほど。管理人に支払える給料には限界がある。4月から募集をかけ、応募はわずかに1名だけだった。
「職を転々としている方で、正直、大丈夫かな?という気はしていましたが、背に腹はかえられず勤めてもらった。でも、結局2週間で音信不通になってしまった。
次も同じような人に来られたらたまらないので、その後は必要なことは余力のある一部の住民が交代でやっています。私もボランティアで週2回清掃をしていますが、いつまで続けられるか……」(男性住民)