製薬会社が、こうして「売れる薬」「高くて儲かる薬」に力を注ぐのは、それがビジネスである以上、当然の成り行きとも言える。その背景には、製薬業界が近年立たされている「苦境」もかかわっている。
先述したようなARBなどの降圧剤、あるいは糖尿病薬、高コレステロール血症治療薬など、患者数が圧倒的に多い「ドル箱」の生活習慣病薬が、続々と特許切れを迎えているのだ。ものによっては薬価が2割以上も安くなったうえ、ジェネリック(後発薬)の出現で、儲けが目減りしている。
前出と別の外資系製薬会社MRが言う。
「首都圏の大学病院などからは、今『MRの人数を減らせば人件費を削減できるから、薬価も下げられるのではないか』という要求が出始めています。
『医局にMRを出入りさせたくない』という要望を受けて、いわゆる『立ち待ち』(病院の廊下で、MRが診察終わりの医師を待つこと)を禁止する病院もあるほどです。
そういう事情もあって、最近は正社員が減り、派遣のMRが増えている。製薬業界では、人減らしが行われているんです」
近年では、テレビドラマでよく見るように、MRが医師を料亭やゴルフで接待することは、原則として禁じられている。それでも、医師に営業をかけ、使ってもらわないことには、新薬の利用を広げることができない。
「ですから、最近はもっぱら主戦場が製薬会社主催のセミナーや講演会に移っています。都内の高級ホテルの会議室を取って、高血圧なら高血圧が専門の大先生を呼び、『この新薬にはこれだけの効果があった』と、若い医師に対して話してもらう。
1回につき総額250万~500万円ほどの費用がかかりますが、今はドクターに大々的に薬の宣伝ができる機会が、このくらいしかないんです」(前出・外資系MR)